2024.7.9

労働基準法とは?基本的な内容や押さえるべきポイントを解説

読了まで約 9

法律に則った企業運営ができるように、事業者は労働基準法を正しく理解しなければならない。今回は、労働基準法とはどのような法律か、主な内容や押さえるべきポイントなどをわかりやすく解説する。さらに、改正に関することや違反になるケースも解説するため、併せてチェックしよう。

労働基準法とは

労働基準法とは、厚生労働省が労働者として働く人の労働条件の基準を定めた法律である。労働時間の原則や時間外労働に関するものなど、雇用者側が守らなくてはいけない労働条件に関する最低限のルールが定められている。

もしも現状で労働基準法の規定以上となる勤務条件を設けていた場合、原則としては現状よりも低下させないことが求められている。

事業者と労働者との間で締結する雇用契約よりも、労働基準法が優先されることもポイントだ。もしも労働基準法による最低限の基準に違反する内容であれば、その契約は無効となる。また、違反した場合、事業者に対して罰金または懲役が科せられる可能性がある。

それでは、労働基準法の対象者や法律として定められている目的について、詳しくチェックしていこう。

参考:労働基準法 | e-Gov法令検索

労働基準法の対象者

原則として、労働基準法の対象者は、日本国内で労働者として働く全ての人である。対象となるかどうかに、雇用契約の形態は関係ない。正社員だけではなく、パートやアルバイト、有期労働契約を結んでいる人なども、労働基準法の対象者に当てはまる。

ただし、近年増加しているフリーランスなどは、労働基準法における保護の対象から除外される。なぜならば、「請負」や「業務委託」として仕事する場合には、労働基準法上の「労働者」には当たらないためだ。

とはいえ、事業者との従属関係が認められるような実態があれば、労働者であると見なされて労働基準法の保護を受けられる可能性がある。

また、農業や畜産業、養蚕業、水産業に従事する労働者や、事業の経営者と同じような立場にある人などは、一部の内容の適用から除外される。

これらの労働者が労働基準法の適用から除外される内容は、「労働時間」「休憩、休日」「割増賃金」「年少者の深夜労働」の項目だ。

労働基準法の目的

労働基準法が制定された目的をわかりやすく言うと、労働条件に最低限の基準を設けて、労働者を保護することである。

基本的に、民法では「契約自由の原則」が定められていて、公序良俗に反するものなどでなければ、双方の合意による自由な内容での契約が認められている。また、事業者と労働者は、本来であれば対等な立場にある。

とはいえ、生活に必要なお金を得るために働き先が必要な労働者が多いことから、実質的に労使間において事業者側が優越的な地位にある状態になりやすい。

そのため、事業者側が優位な立場を利用して、不合理な労働条件を一方的に定めることを防止する必要があった。労働者が人としての生活を営むために必要な内容を守れるよう、労働基準法で一定の規制をしているのだ。

なお、民法は一般法であり、労働基準法は特別法である。民法の原則よりも、労働基準法による定めのほうが優先される関係だ。

労働基準法の主な内容

労働基準法の主な内容は、以下の通りである。

● 労働契約(労働基準法第15条)
● 解雇の予告(労働基準法第20条)
● 賃金の支払い(労働基準法第24条)
● 労働時間や休憩、休日(労働基準法第34条、労働基準法第35条)
● 時間外および休日の労働(労働基準法第36条)
● 時間外、休日および深夜の割増賃金(労働基準法第37条)
● 年次有給休暇(労働基準法第39条)
● 女性の労働環境(労働基準法第67条、労働基準法第68条)
● 就業規則(労働基準法第89条)

労働契約(労働基準法第15条)

労働契約を結ぶ際は、当該労働者に対して様々な労働条件を明示する必要がある。明示しなければならない内容は、契約期間・就業場所・賃金などだ。

有期雇用の期間上限は、一部例外を除いて3年になることなども定められている。また、もしも実態が労働条件と異なっていた場合には、労働者は即時に労働契約を解除できる。

解雇の予告(労働基準法第20条)

労働者を解雇するならば、少なくとも30日前には解雇の予告が必要だ。もしも30日前に解雇を予告していない場合、30日分以上の平均賃金となる解雇予告手当を支払う。

賃金の支払い(労働基準法第24条)

賃金の支払いには、「賃金を通貨で支払うこと」「直接労働者に支払うこと」「全額を支払うこと」「毎月1回以上、一定の期日に支払うこと」という4つの原則がある。ただし、一定の条件が整えば、通貨以外のものでの支払いなども認められる。

労働時間や休憩、休日(労働基準法第34条、労働基準法第35条)

労働時間は1週間につき40時間まで、1日につき8時間までであること、8時間を超えるならば少なくとも1時間は休憩が必要であることなどが定められている。また、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならず、この休日を「法定休日」と呼ぶ。

また、労働基準法第35条の2に基づき、特定の業務には「4週間を通じて4日以上の休日を与える」ことも可能となる。これにより、4週間で4日以上の休日を確保することで、連続して働く日数が調整される。
これらの規定には例外もあり、特定の業務や特別な事情により、労使協定を結んで労働基準監督署に届け出ることで、特例措置が適用されることがある。労働者は週に1回の休息日を確保するか、4週間に4日以上の休息日を確保することが義務付けられています。これにより、労働者が連続して働く日数は最大で6日間(週休制の場合)または最長で24日間(4週4休制の場合)となる。

時間外および休日の労働(労働基準法第36条)

原則として、時間外労働は月45時間、年360時間までである。また、時間外労働や休日労働をさせるならば、36協定を締結して労働基準監督署に届け出ておかなければならない。

時間外、休日および深夜の割増賃金(労働基準法第37条)

法定時間外労働・休日労働・深夜労働を労働者に命じた場合には、割増賃金を支払う必要がある。

年次有給休暇(労働基準法第39条)

雇入れの日から6カ月間の継続勤務があり、全労働日の8割以上の出勤がある場合には、10労働日の有給休暇を与える必要がある。

女性の労働環境(労働基準法第67条、労働基準法第68条)

産前・産後や育児に関するもの、生理休暇に関するものなどが定められている。

就業規則(労働基準法第89条)

雇用形態や勤務時間などにかかわらず、常時10人以上の労働者がいる場合には、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出る必要がある。

関連記事:有給休暇の5日間取得義務化とは?目的や対象、罰則を説明

労働基準法で押さえるべきポイント

先述の通り、労働基準法には様々な取り決めがあるため、チェックしておくことが重要だ。わかりやすくなるよう、労働基準法で特に押さえるべきポイントを以下に挙げる。

● 36協定の必要性
● 減給の制裁を定める場合
● 罰則の規定
● 労働契約法

36協定の必要性

36協定の締結・届出をしないままで時間外労働や休日労働をさせると、労働基準法違反になってしまう。36協定の限度時間や、特別条項付きの36協定の締結に関する知識も必要だ。

なお、災害に見舞われた場合などは、例外的に36協定におけるルールを超えられるケースがある。36協定の詳細については下記の記事を参考にしてほしい。

関連記事:36協定をわかりやすく解説!人事担当が理解するべき基礎知識を説明

減給の制裁を定める場合

減給の制裁は、1回の賃金支払いにおける10分の1の金額を超えられない。もしも莫大な損害を生じさせた場合であっても、大幅な減給処分はできないため注意が必要だ。

罰則の規定

労働基準法違反となった場合、罰金や懲役などが科せられる可能性がある。また、労働基準法違反の事実が報道されることにより事業者が受ける社会的・経済的なダメージも大きい。

労働契約法

労働者と事業者に関する法律として、労働契約法も併せてチェックが必要だ。特に、雇止めや不当な解雇、一方的な不利益変更などに関する内容に気をつけよう。

関連記事:残業の上限規制について時間数や罰則、36協定を取り上げて解説

労働基準法の改正

労働基準法は、時代や労働環境に合わせて度々改正が行われている。1985年には男女雇用機会均等法の制定の影響で、企業に差別禁止要綱に関する改善努力義務ができた。

1987年にはフレックスタイム制や裁量労働制の導入が、1993年には週40時間労働制の原則が定められた。1997年には、男女雇用機会均等法の改正によって、差別禁止要綱は努力目標ではなく明確な禁止規定となる。

2008年には、時間外労働の法定割増賃金や、時間単位での年次有給休暇の取得に関する改正がなされた。2019年には「働き方改革関連法」の施行により、大幅な改正が行われている。2020年や2021年にも改正されており、さらには2023年以降に改正されることが定められた内容もある。

2023年以降に改正予定の内容は、月60時間を超える時間外労働に関する中小企業への猶予措置の終了と、建築業の時間外労働の上限規制における猶予期間の終了だ。2019年4月から順次施行された改正において、特に重要なポイントは以下の通りだ。

● 時間外労働の上限規制
● 有給休暇の取得義務化

時間外労働の上限規制

長時間労働の是正を目的として改正された。時間外労働の上限が月45時間、年360時間以下と定められ、臨時的な特別の事情がない場合には、この時間を超える残業時間が禁止される。

労使の合意によってさらに増やせるものの、その場合でも残業時間は月100時間未満、年720時間以内と定められていて、どこまでも残業させることはできない。

有給休暇の取得義務化

年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日間は年次有給休暇を取得させることが義務化された。この義務を怠った場合、対象の労働者一人につき30万円以下の罰金が科せられる可能性がある。

関連記事:男性育休制度の現状と企業の取り組み、最新の改正育児介護休業法を解説

2023年の改正:中小企業でも時間外労働の割増賃金率は50%に

2023年4月1日より改正労働基準法が施行された。これにより、時間外労働による割増賃金率が変更となった。この施行日以降、中小企業において月に60時間を超えた場合の割増賃金率は50%へ引き上げられる。

しかしながら、「1日8時間、週にして40時間を超える場合、時間外労働及び深夜労働割増賃金率は25%」という週単位での規制はそのままとなる。

改正労働基準法施行前と施行後では給与にどのくらい差が出るのか

労働基準法改正前の2023年3月31日までは、月に60時間を超えた残業時間の場合、割増賃金率は、中小企業において週40時間を超える場合と同じく25%となっていた。この場合、例えば時給1,000円、月に70時間の残業をするとした場合、以下の計算式が成り立つ。

・労働基準法改正前の場合
70時間×1,000円×1.25(割増賃金率25%)=87,500円

次に、法改正後の月60時間超過分に50%を適用した場合の計算式は以下が成り立つ。

・労働基準法改正後の場合
60時間×1,000円×1.25(割増賃金率25%)+10時間×1,000円×1.5(割増賃金率50%)=90,000円

この例えでは一人あたりの差額が2,500円となり、従業員からしてみれば大した金額ではないと感じるだろう。しかし、多くの従業員を抱える企業側からするとかなり手痛い人件費増加となるのだ。

ちなみに、月60時間を超えない範囲での法定休日における休日労働に関しては、現行35%以上の割増賃金率となっている。この場合、従業員が代休を取得した場合でも支払う必要がある。

法定休日の休日労働に関しては代休取得でも支払う必要がある
法定休日の休日労働の場合、従業員が代休を取得した場合でも、35%の割増賃金率を上乗せして支払う必要がある。代休とは、従業員が法定休日に休日労働を行った場合に、その代償として与えられる休日のことだ。

代休を取ったにも関わらず割増賃金支払いの対象となっている理由は、本来休むべき法定休日に働いているからに他ならない。代休を取らせたからといって割増賃金を支払わない場合、労働基準法に抵触する可能性があるのだ。

今回の改正労働基準法における大企業への影響はどうなのか

今回の2023年4月1日より施行された改正労働基準法に関して、大企業の場合は改正前と何ら変わりはなく、改正前も改正後も割増賃金率は週40時間を超えれば25%、月60時間を超えれば50%と据え置きだ。

つまり、今回の改正は中小企業にとって不利な条件を言い渡された形となっている。労働者の目線から、大企業も中小企業も関係なく同じ一企業の従業員として、平等な割増賃金率を保証するよう求めた法案が可決されたのである。

大企業と中小企業の線引きはどこにあるのか
では、大企業と中小企業の線引きはどこにあるのだろうか。いったい何をもってして、この企業は大企業、あちらの企業は中小企業と言っているのだろう。これは、中小企業基本法で明確に区別されている。

ざっくり言うと、中小企業基本法で定義された範囲内に収まっている企業を中小企業、範囲外の企業を大企業と呼んでいる。それらは主に資本金や出資額、社員数によって決定される。主な事例としては以下のようになっている。

表:大企業と中小企業の線引き

出典:厚生労働省 中小企業庁

上記の例では、例えば小売業であれば資本金または出資総額が5,000万円以下、または社員数が50人以下で中小企業となる。サービス業なども同様に、資本金または出資総額が5,000万円以下、または社員数が100人以下で中小企業となる。

2023年の改正:デジタルマネーで賃金支払いも可能に

2023年4月1日より施行された改正労働基準法では、割増賃金率の変更に加え、デジタルマネーでの給与支払いも可能となった。

これは、近年におけるキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化に伴い、資金移動業者の口座への資金移動を賃金の受け取りに活用するニーズも一定数見受けられると政府が判断したからだ。

労働者の同意が得られた場合に限り、資金移動業者の口座への資金移動による「給与のデジタル支払い」ができることになった。

● 資金移動業者とは
● デジタルマネーとは

資金移動業者とは

資金移動業者とは、資金決済法に基づき、内閣総理大臣による資金移動業者登録簿への登録が受理された業者のことだ。

銀行等以外の業者が、為替取引などの資金を移動する業務を主任務とするとき、資金決済法に基づき内閣総理大臣に登録を申請し、これが受理されなければ資金移動業者になることはできない。

2023年9月30日時点において、日本国内で登録されている資金移動業者は「楽天Edy株式会社」や「PayPay株式会社」など他82社にのぼる。

参考:金融庁 資金移動業者登録一覧

デジタルマネーとは

デジタルマネーとは、マネーである「円」をデジタルで記録し、現金の代わりとして使用できるデジタル通貨のことだ。いわゆる楽天EdyやPayPay、d払いなどの電子マネーのことを指す。

一方、似たような電子マネーに「デジタル円」がある。どちらもデジタルマネーで、同じものと勘違いしやすいのだが明確な違いがある。

一般的に利用されるEdyやPayPay、d払いなどの電子マネーは、民間企業によって発行されるが、デジタル円は「CBDC=中央銀行デジタル通貨」と呼ばれ、国の機関である中央銀行が発行するものに限られる。

民間企業が発行する電子マネーは、発行する企業によって利用できる店舗やサービスが限られるが、CBDCは現金と同じ強制通用力を持つ法定通貨扱いとなるため、店舗やサービスによる使用制限はないのが特徴だ。

2024年3月で終了する建設業での時間外労働の上限規制

近年の建設業界では、従業員の高齢化や人手不足に伴う慢性的な長時間労働が問題となっている。

この状況を改善すべく政府は、36協定における時間外労働の上限を規制し、大企業には2019年4月より、中小企業においては2020年4月より適用している。

その内容は、月に45時間、年間360時間を超えてはならないというものだ。これは他業種と同じ時間外労働の上限規制となる。

しかしながら、建設業における近年の現状において、短期間で人手不足を解消し労働環境を是正することは困難であるとの判断から、この上限規制を正式に施行するまでに5年の猶予期間を設けたのである。

だがこの猶予期間も2024年3月で満了となるため、2024年4月からは建設業も他業種同様の時間外労働上限規制が施行されることになるのだ。

労働基準法違反になるケース

先述の通り、労働基準法違反になると様々なリスクがあるため注意が必要だ。また、労働者が安心して働ける環境整備がされていないことで、生産性や帰属意識の低下につながる恐れもある。労働基準法に違反する恐れがある事例は、以下の通りだ。

● 昼休みに電話が鳴った場合の対応の要請
● 36協定を締結せずに時間外労働をさせる
● みなし残業代の誤った取り扱い

昼休みに電話が鳴った場合の対応の要請

労働時間ではないときに仕事の対応を要請することは、労働基準法違反になる恐れがある行為だ。「手待ち時間」と呼ばれる労働時間にあたって別途休憩時間が必要になる可能性がある。

36協定を締結せずに時間外労働をさせる

36協定を締結せずに時間外労働をさせる、36協定の基準を超過した労働をさせる場合も、労働基準法違反になる恐れがある。このような限度を超えた長時間労働は、違反事例として多いため特に注意しよう。

みなし残業代の誤った取り扱い

「みなし残業代を支払うという取り決めがあるため、残業代は支払わなくていいだろう」と考えている場合がある。

しかし、みなし残業代とは一定時間の残業代を給与に含ませているだけであるため、その一定時間を超過した場合には残業代を支払わなければならない。

一定時間に届かなかった月の分を、超過した月の分として割り当てることもできないため注意しよう。

まとめ

労働基準法をわかりやすく言うと、雇用者が守らなくてはいけない最低限のルールが定められた法律だ。

労働時間の原則や時間外労働に関するものなど、労働条件に関するものが定められている。事業者と労働者との間で締結する雇用契約よりも労働基準法が優先され、違反した場合には罰則も設けられている。

労働基準法が制定された目的は、労働条件に最低限の基準を設けて、労働者を保護することである。知らず知らずのうちに労働基準法違反になるケースもあるため、気をつけなければならない。

今回ご紹介した内容をしっかりと理解し、実際の企業活動で活用していこう。

関連記事:業務命令はどこまで認められるか?業務命令を拒否できる事例も紹介

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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