2024.1.15

エルダー制度とは?メンター制度との違いや導入するメリット・デメリット、効果について解説

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昨今、新入社員が業務や職場の雰囲気に慣れず、早期離職するケースが問題視されている。その中で、「エルダー制度」という企業における教育制度が注目されるようになった。「言葉を耳にしたことはあるが、具体的にどのような制度か分からない」といった方もいるだろう。この記事では、エルダー制度の意味や背景のほか、「メンター制度」との違いや制度の導入方法、注意点を中心に解説する。

エルダー制度とは

エルダー制度とは、新入社員に対して先輩社員が仕事の教育・サポートを行う教育制度だ。なお、教育を担当する先輩社員は「エルダー」と呼ばれる。各部署の上司ではなく、実際に共に働く年齢の近い社員が指導役となるため、人材育成を効率化できる。エルダー制度では、一般的に仕事面のサポートだけでなく、心理的なケアにも働きかける。エルダー社員が新入社員に寄り添うことで、業務や職場への適応を促進するのが主な狙いとなる。

エルダー制度が注目されている背景

エルダー制度が注目されている背景には、若手社員の早期離職率に関する問題がある。早期離職率とは、学校卒業後に就職し、3年以内に退職する割合を指す言葉だ。

厚生労働省は、平成31年3月における新規学卒就職者(大学卒)の早期離職率が31.5%であると発表した。また、大学卒の求人倍率は、2023年卒は1.58倍、2024年卒は1.71倍と上昇している。若手社員に早期離職をされてしまうと、企業にとって採用や人材育成に要した時間やコストは大きな損失となる。さらに、企業によっては早期離職による欠員をすぐに補充できるとは限らない。

このような背景から、採用した新入社員に寄り添う形でサポートを行う「エルダー制度」が、早期離職防止に有効な手段として注目されるようになった。

参考:新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します|厚生労働省
大卒求人倍率調査(2024年卒)|Works Report

介護業界などでも導入が進んでいる

様々な業界でエルダー制度の導入が進んでいるが、人材不足が課題である介護業界の例を紹介する。

厚生労働省は介護職員の人数が2025年度は約32万人、2040年度は約69万人不足すると発表した。しかし、人材不足であるにもかかわらず、令和4年の介護職の離職率が14.4%と離職者が多数存在する状況だ。

介護労働安定センターの令和4年度介護労働実態調査結果によると、介護職の離職理由に「職場の人間関係に問題があった」「収入が少なかった」などが挙げられ、介護人材の定着化が主な課題となっている。そこで、厚生労働省は賃金の改正や資格取得の支援などに取り組み、支援の一環としてエルダー制度を介護業界にも導入した。

エルダー制度により、新入社員の早期離職防止だけでなく、メンター社員のマネジメント力向上や組織風土の醸成も期待されている。

参考:別紙1 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について

エルダー制度とメンター制度との違い

エルダー制度と似ている制度に「メンター制度」があるが、「指導係に任命される人」「サポート内容」に違いがある。メンター制度は他部署の先輩から「メンター(指導者)」を選び、人間関係や業務などの相談を受け、精神的なサポートを行う制度だ。

一方でエルダー制度は、仕事で直接関わる先輩が「エルダー」に選ばれ、精神的なサポートを行いながら業務上のサポートを重視して行う制度となる。

関連記事:メンター制度とは?目的やメリット・デメリット、成功事例などについて解説

エルダー制度の目的

エルダー制度の目的は、新入社員と年齢の近い先輩社員が業務の実務的な指導と精神的な相談役を担うことで、新入社員が業務や職場に適応できるようにしたり、業務修得を促進したりすることである。小規模な企業では育成環境の確立も容易ではないが、組織レベルでの研修体制が確立され、風通しの良い職場環境も実現できるだろう。

関連記事:自社の離職率は高い?低い?日本の業界別離職率と下げる取り組みを解説

エルダー制度の導入によって期待できる効果

実際にエルダー制度を導入した事例を紹介する。

社会福祉法人壽光会「特別養護老人ホーム湖水苑」では、平成28年度から法人全体でエルダー制度を導入した。エルダー制度を導入した年から、離職者が0になった。エルダーを経験した社員によると、職場の皆が新人に話しかけようとしている姿勢につながったそうだ。また、新入社員は「相談できる先輩がいるので、落ち着いて業務ができる」と話している。

このように、エルダー制度の導入によって離職者発生リスクの低減が期待される。加えて、エルダーとの活発なコミュニケーションが日常的となるため、新入社員の不安も軽減しやすい。職場にも「職員全員で新入社員を支える」といった姿勢が定着し、社員皆が働きやすい環境が実現した事例だ。

参考:介護版 エルダー制度 導入モデル事業 実践事例集

エルダー制度のメリット

ここでは、エルダー制度のメリットを見ていこう。

教育不足による離職率を下げる

教育体制が確立していない職場では、新入社員が業務を円滑に進められず、働くモチベーションを失いやすい環境になりかねない。エルダー制度によって離職者が減らせれば、教育担当の人材を確保しながら周りの社員の残業時間も削減できるだろう。人材不足により過酷な労働環境となっている場合にも、離職者を減らすことで環境改善にも寄与するのだ。

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コミュニケーションが活発になる

働きやすい職場を実現するには、良好な人間関係やコミュニケーションを取りやすい雰囲気が重要だ。エルダーが社員同士の間に立ち、会話の機会を増やせると、新入社員は「報告・連絡・相談」に取り組みやすくなるだろう。エルダー制度では新入社員が心理的安全性を確保しやすく、活発なコミュニケーションが生まれるきっかけになるのだ。

指導側の教育スキルを高める

エルダー制度の導入により、指導者側のエルダー自身の教育スキルを高められる。後輩となる新入社員に自身が経験した仕事の進め方や知識を教えることで、業務の進め方に対する改善点を発見できたり、効果的な指導方法が身につけられたりするだろう。エルダーという役割を通じて自身の教える力が培われ、絶好の成長機会となるのだ。

関連記事:新入社員の心理的安全性を作る方法は?環境整備のポイントを解説

エルダー制度のデメリット

続いて、エルダー制度のデメリットを見てみよう。

エルダーを担当する社員の負担増加

エルダーを担当する先輩社員は、新入社員の教育だけが仕事ではなく、当然ながら自身が担当する通常業務も並行する。そのため、制度の導入はエルダーに大きな負担をかけることになる。業務過多に陥ると、エルダー制度の効果が薄れるだけでなく、担当社員の離職にもつながる恐れがある。

相性が悪いと制度の効果が得られない

エルダー制度では、エルダーと新入社員の良好な関係が重要となる。良好な関係を築けていない、相性が悪い場合はお互いにストレスがかかり、業務のモチベーションも低下するだろう。効果が得にくいだけでなく、業務効率の低下や離職につながりかねない。

関連記事:フォローアップの意味は?離職率との関連性や方法

企業がエルダー制度を導入する方法

ここでは、企業がエルダー制度を導入する方法を4つの手順で解説する。エルダーと新入社員の両者が働きやすいよう、十分に配慮しながら運用を進めていこう。

1.エルダー制度をアナウンスする

まずは、社内に「エルダー制度を導入すること」をアナウンスする。その際制度の概要や目的、期待できる効果なども明確に周知する。職員全員でエルダー制度の重要性について理解することで、制度の導入がスムーズになりやすい。加えて、継続的かつ効果的な制度運用にも寄与するだろう。

2.エルダーと新入社員をマッチングさせる

次に、エルダーとなる社員と新入社員をマッチングさせる。マッチングの際は、両者の相性を特に重視する。まずは、採用面接でのデータを参考にしたり面接や採用担当者にヒアリングを行い、新入社員の人物像・性格を把握したりするのだ。そして、エルダー候補の性格も考慮し、信頼関係を築いていけそうな人物像の社員をマッチングさせよう。

3.エルダー制度を運用する

エルダーと新入社員のマッチングが完了したら、いよいよエルダー制度を運用する。運用開始にあたり、エルダーが新入社員に対してスムーズに指導できる環境を整え、周りも状況を把握できる環境が大切だ。例えば、「両者の席を近くに配置する」「予めミーティングの時間を決めておく」などが効果的となる。

4.振り返りと課題改善

運用を開始したら、振り返りを行うとより効果的な運用につながる。エルダー・新入社員と面談やアンケートを実施し、良かった点や改善点を見つける。両者の信頼関係の状況や、職場全体での取り組み方の状況など、課題を見つけて整理し常にブラッシュアップを図ろう。

エルダー制度を導入する際のポイントと注意点

ここでは、エルダー制度を導入する際のポイント、そして注意点について紹介する。

エルダー制度を導入する際のポイント

まず、以下に導入する際のポイントを3点挙げる。

エルダーと新入社員の相性を考慮する

繰り返しになるが、人間関係における相性があるため、エルダーと新入社員両者の性格を考慮してマッチングさせることが重要だ。相性が悪ければ制度の導入に意味を持たないどころか、業務に影響を与えかねない。採用時の情報や性格診断ツールなどを活用し、相性を十分考慮してマッチングを行う必要がある。もしも、お互いの相性が合わない状況が発生した場合、適宜エルダーの変更も検討しよう。

エルダーと新入社員の仲介役を決める

エルダー制度を効果的に継続させるには、エルダーと新入社員の仲介に入って両者の意見を聞く立場の人物も必要だ。例えば、同じ部署の上司が両者それぞれと定期的に面談する機会を設け、指導が順調で関係性に問題がないか確認する。定期的な意見交換の機会を設け、状況に応じて指導方針を調整する姿勢が大切である。

エルダーへの教育も実施する

エルダー制度では、エルダー自身の指導スキルも重要となる。エルダー役となれば、社員自身の負担が増える懸念もある。しかし、指導スキルの習得はマネジメント力を鍛える絶好の機会にもなるのだ。そのため、エルダーの役割は本人にもメリットがあることをきちんと伝えることも忘れてはならない。定期的にエルダーに対してマネジメント研修を実施したり、エルダー同士で疑問点や悩みを相談できる場を設けたりして、指導方法に差が出ないように工夫しよう。

エルダー制度を導入する際の注意点

続いて、導入する際の注意点を2点挙げる。

エルダーに任せきりにしない

エルダーを担う社員には、過度な負担がかかるだろう。本人の性格も関係するが、責任感が強ければエルダーとしての不安や悩みを一人で抱え込むといった恐れがある。そのため、このような懸念に対してエルダーに任せきりにするのは避け、「社員全員で協力して新入社員を育成する」という共通意識を持つことを重視したい。エルダーにも積極的に声をかけ、エルダーばかりに負担が偏らないよう配慮しよう。

会社全体で制度を理解する必要がある

エルダー制度の目的や意味を社員が理解していない状態で進めても、社内に理解が広がらず、上手く制度が機能しない状況に陥りかねない。また、エルダーばかりに負担が集中し、通常業務の進捗や効率も悪くなる可能性もあり得る。このような弊害を防ぐには、社内全体に向けて制度の趣旨や意味を伝えると、周りの社員からの理解や協力を得やすくなり、エルダー制度の効果もより高まるだろう。

関連記事:離職率が下がる?スキルよりもカルチャー重視の採用で気をつけることとは

まとめ

エルダー制度とは、年齢の近い先輩社員が新入社員の教育・サポートを行う制度であり、教育担当者の社員はエルダーと呼ばれる。エルダーは新入社員に対して業務上の指導を中心に行いつつ、精神面のサポートも配慮していく。

エルダー制度導入により、当事者2人だけでなく組織全体で様々なメリットを得られる可能性がある。実際にエルダー制度を導入した企業の成功例なども参考に、前向きに導入を検討していこう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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