2023.10.31

プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムとは?健康経営との関連性を解説

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従業員が健康問題を抱えているにもかかわらず仕事をしている状態を「プレゼンティーイズム」といい、仕事を休業している状態を「アブセンティーイズム」という。この状態を軽視し、企業として対策を講じずにいると、大きな損失を招くとされている。今回はプレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの解説と改善方法、そして企業の具体的な改善事例を紹介する。

プレゼンティーイズム(プレゼンティズム)とは

プレゼンティーイズム(presenteeism)とは、従業員の心身の不調によって生産性が低下している状態のことで、プレゼンティズムともいう。出社して業務をおこなっているものの、従業員が心や身体の疾患や不調を抱えていて、本来のパフォーマンスが発揮できない状態だ。

本人が我慢をすれば出社できるレベルの、軽度のうつ病や頭痛、アレルギー等の疾患等が、プレゼンティーイズムが起きることによる生産性低下につながる。従業員自身は心身の不調を感じているものの、仕事ができている状態であるため、周りからはプレゼンティーズムが起きているかどうかがわかりにくい。

プレゼンティーイズムの影響は、生産性が低下するだけではない。ケアレスミスや大きなトラブルを招く可能性もある等、企業運営に対するさまざまな影響がある。

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アブセンティーイズム(アブセンティズム)とは

関連する言葉に、アブセンティーイズム(absenteeism)もある。アブセンティーイズムとは、体調不良等で業務がおこなえない状態のことで、アブセンティズムともいう。従業員の心身の疾患や不調によって、遅刻や早退、仕事の欠勤等の影響があり、十分に仕事ができない状態だ。

アブセンティーイズムの場合は、遅刻や欠勤といった形で、従業員が働けない状態であると可視化されている。周りの従業員の業務負担が増え、さらに組織全体のパフォーマンス低下にもつながる。

プレゼンティーイズムの場合は、その影響が可視化されていない。影響がわかりやすいアブセンティーイズムは、長年問題視され、重点的に対策が取られてきた。しかし近年では、組織全体としての損失は、プレゼンティーイズムによる影響も大きいと理解されるようになってきたのだ。

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プレゼンティーイズムの5つの要因

プレゼンティーイズムの5つの要因は、以下のとおりである。

● 運動器・感覚器障害
● メンタルヘルスの不調
● 心身症(ストレス性内科疾患)
● 生活習慣病
● 感染症・アレルギー

日本では、有給休暇の取得が義務化されてからも、年次有給休暇の取得率はさほど高くない状態だ。風邪を引いたとしても、人手不足等の理由でなかなか休暇を取らずに働き続ける人が多い。そのため、プレゼンティーイズムが発生してパフォーマンスが低下している状態に陥りやすいのだ。

それでは、プレゼンティーイズムの5つの要因とそれぞれの解消法を確認していこう。

運動器・感覚器障害

運動器・感覚器の不調は、プレゼンティーイズムの要因になりえる。運動器・感覚器の不調とは、腰痛や肩こり、頭痛、眼精疲労等だ。たとえば、偏頭痛や慢性頭痛があると、集中力の低下につながっていく。

運動器・感覚器障害によるプレゼンティーズムの解消には、以下の働き方・行動の変化を試すと良いだろう。

● 姿勢・視覚・聴覚・嗅覚・触感・パーソナルスペース等の快適性の向上
● 歩行・階段・ストレッチ等で体を動かす
● 健康情報や自身の健康状態の確認等で健康意識を高める

メンタルヘルスの不調

メンタルヘルスの不調も、プレゼンティーイズムの要因のひとつだ。不安感や不眠、イライラ、人間関係に起因するストレス、うつ病等がメンタルヘルスの不調にあてはまる。

メンタルヘルスの不調は、仕事の生産性にとくにネガティブな影響を与えるといわれている。

この場合の予防や改善には、以下の働き方・行動の変化を試すと良いだろう。

● 姿勢・視覚・聴覚等の快適性の向上
● 挨拶や共同作業等によるコミュニケーションの促進
● 健康意識の向上

心身症(ストレス性内科疾患)

プレゼンティーイズムの要因には、心身症(ストレス性内科疾患)もある。心身症(ストレス性内科疾患)には、ストレスが関係する動悸や息切れ、胃腸の不調、食欲不振、便秘・下痢等があてはまる。

この場合の予防や改善には、以下の働き方・行動の変化を試すと良いだろう。

● 姿勢・視覚・聴覚等の快適性の向上
● 挨拶や共同作業等によるコミュニケーションの促進
● 飲食や音楽、雑談等による休憩や気分転換
● 健康意識の向上

生活習慣病

糖尿病や高血圧・高脂血症、脳卒中、心臓病等、生活習慣病もプレゼンティーイズムの要因になりえる。

この場合の予防や改善には、以下の働き方・行動の変化を試すと良いだろう。

● 歩行・階段・ストレッチ等で体を動かす
● 間食や昼食等で適切な食行動を取る
● 健康意識を高める

これらの対策は、プレゼンティーイズムだけではなくアブセンティーイズムの予防や改善にも効果的だ。

感染症・アレルギー

感染症やアレルギー疾患も、プレゼンティーイズムの要因になりえる。感染症は、とくに風邪を引きやすく、なかなか治らないのが特徴だ。

アレルギー疾患には、花粉症によるアレルギー性鼻炎等がある。また、アレルギー性鼻炎には季節性のものと通年性のものがある。

感染症・アレルギーによるプレゼンティーイズムの予防や改善には、以下の働き方・行動の変化を試すと良いだろう。

● 手洗いやうがい等で清潔にする
● 身の回りの清潔度・分煙度を高める
● 健康意識を高める

これらの対策も、プレゼンティーイズムだけではなくアブセンティーイズムの予防や改善に効果的である。

関連記事:生活残業とは?意味や発生する原因、企業側の対策を解説

プレゼンティーイズムによる企業の損失額は年間1人あたり約45万円(2023年9月現在)

産業医科大学の永田智久准教授らが実施した研究によると、プレゼンティーイズムに関連して企業が被った経済的な損失額は、年間で1人あたり$3055(USD)になったとされている。2023年9月19日現在のレートで日本円に換算すると、年間で1人あたり約45万円だ。

なお、企業が被った経済的な損失額は、2018年時点のレートで換算すると約34万円であった。さらに、アブセンティーイズムで企業が被った経済的な損失額は年間で1人あたり$520(USD)、2018年時点のレートでは約6万円だった。

参考:働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性|株式会社日本総合研究所

プレゼンティーイズムの具体的な改善方法

プレゼンティーイズムの改善には、以下の方法がおすすめだ。

● 健康診断・ストレスチェック・従業員サーベイ等の実施と課題抽出
● 職場・社内環境の整備
● 衛生委員会の活用
● コミュニケーション向上の取り組み

プレゼンティーイズムの対策は、企業がしっかりと取り組むべき課題である。たとえば、メンタルヘルスの重要性を周知させて対策を徹底していくために、ストレスチェックが義務化されるようになった。この社会背景には、プレゼンティーイズムの改善だけではなく、精神障害等による労災補償件数や働き盛り世代における自殺件数の増加がある。

それでは、プレゼンティーイズムの具体的な改善方法を詳しく確認していこう。

健康診断・ストレスチェック・従業員サーベイ等の実施と課題抽出

定期的に健康診断やストレスチェック等をおこなう環境を整備すると、従業員の心身の健康を企業が把握できるようになる。健康診断とストレスチェックは、まとめて実施しても良い。まとめて実施する場合には、それぞれの結果を記録する問診票を分けておこう。

サーベイとは、物事の全体像や現状の把握のために、従業員全体等の広い範囲で調査することである。従業員サーベイは、主に組織改善を目的として、職場の環境や人間関係、企業への満足度等を調査する。

健康診断・ストレスチェック・従業員サーベイ等の実施によって、従業員の心身の健康や組織課題を発見しやすくなり、早期解決につなげられる。

参考:ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等|厚生労働省

関連記事:ストレスチェックの義務化とは?従業員数50人を超えそうな中小企業は必見!

職場・社内環境の整備

職場・社内環境の整備も重要だ。とくに労働環境や人間関係、雇用関係は、環境が整備されていないと仕事のストレスがたまりやすい。これらの整備をする際は、以下のポイントを理解しておくと良いだろう。

<労働環境>
● 業務体制が整っているか
● 労働時間が適切か
● 仕事に集中できるオフィス環境か
● モノを整理整頓できているか

<人間関係>
● コミュニケーションが取りやすいか
● ハラスメント等の問題がないか
● 安心して発言できる状態であるか

<雇用関係>
● 有給休暇等の制度が利用しやすいか
● 給料や待遇面の満足度が高いか

衛生委員会の活用

プレゼンティーイズムの改善には、衛生委員会の活用もポイントだ。衛生委員会とは、従業員の健康を守るために設置される組織である。常時50人以上の従業員を雇用する事業場では、労働安全衛生法に基づいて設置が義務付けられている。

衛生委員会を設置する目的は、従業員の健康の保持増進や健康障害・労働災害の防止、健康教育などである。高度成長期(1955〜1973年)以降、従業員の健康障害や労働災害が問題となった。これらを効果的に改善するために、企業による一方的な措置ではなく、衛生委員会を設置し、労使双方が参加して対策を講じるようになったのだ。

プレゼンティーイズムの改善のためには、従業員へ健康情報を共有して、健康意識の向上を働きかけることが重要である。熱中症や花粉症の予防と対策、運動不足や寝不足の解消、就業中にできるリラクゼーションの方法などをテーマに話し合い、その情報を周知すると良いだろう。

コミュニケーション向上の取り組み

社内コミュニケーションの活性化も、プレゼンティーイズムの改善に効果的である。社内コミュニケーション向上のためには、以下のような取り組みがおすすめだ。

● 懇親会や忘年会、研修会などの社内イベントの実施
● 冊子や社内SNSなどでの社内報の発行
● 社員食堂やリフレッシュスペースの設置
● 1on1ミーティングの実施
● グループウェアなどのコミュニケーションツールの活用

社内コミュニケーションを活性化するメリットは、プレゼンティーイズムの改善のほかにも、以下のようなものがある。

● 社員エンゲージメントの向上
● 情報共有の活性化
● 生産性の向上
● 全員が発信者になり、新たなアイデアが出やすくなる

国内企業の改善事例

プレゼンティーイズムの改善は、国内でもさまざまな企業が取り組んでいる。事例が知られているのは、たとえば以下のような企業だ。

● エムティーアイ(情報・通信業)
● SOMPOヘルスサポート(サービス業)
● ファンケル(化学)
● ローソン(小売業)

それでは、2022年3月に健康長寿産業連合会が発表した資料を基に、実際に国内企業でプレゼンティーイズムの改善に取り組んだ事例を解説する。

参考:2022 健康経営 先進企業事例集

エムティーアイ(情報・通信業):自社サービス・ルナルナ等を活用してパフォーマンス向上につなげる

情報・通信業のエムティーアイは、自社サービスであるルナルナ等を活用して、従業員のパフォーマンスの向上につなげた。オンラインでの診療や薬の処方、セミナーでの知識の啓発など、ルナルナ オンライン診療を活用した女性特有の健康課題に対する改善プログラムをおこなっている。

また、自社サービスであるCARADAを活用して、従業員のコンディションに対するラインケア機能を提供している。

SOMPOヘルスサポート(サービス業):自社サービス・LLax forest等を活用して健康リテラシー向上を図る

サービス業のSOMPOヘルスサポートでは、自社サービス・LLax forest等を活用して健康リテラシーの向上を図っている。SOMPOヘルスサポートでは、中長期的な企業価値の向上のために、疾病リスクを持つ従業員への重症化予防や、メンタルヘルス不調等のストレス関連疾患の発生予防・早期発見・対応を課題としていた。

そこで、自社サービス・LLax forestで動画による健康情報の提供を実施したり、外部サービスのヘルスサポートシステム(HSS)で健康データを一括管理したりして、課題の改善に努めている。

ファンケル(化学):サプリメント配布や健康動画配信等で従業員の不調改善を目指す

ファンケルでは、健康食品業界のパイオニアとして、健康経営に取り組んでいる。ビタミンD等の自社のサプリメントを配布したり、健康問題の予防・改善のための情報を動画で配信したりして、従業員の不調改善を目指しているのが特徴だ。また、講師によるオンラインセミナーや子宮頸がん検診、乳がん検診の費用の補助等も実施している。

ローソン(小売業):オンラインを活用した運動・コミュニケーションを促進

小売業のローソンでは、オンラインを活用して運動やコミュニケーションを促進している。また、歩数・睡眠・食事管理ができる外部サービスを活用したり、メンタルヘルス研修を実施したりしているのも特徴だ。食事・運動・睡眠に関する問診回答が年々改善したこと、メンタルヘルス研修参加率の高さなど、健康経営の取り組みによる効果が現れている。

キリンホールディングス(食料品):ストレスチェックと飲酒習慣スクーリングテストを実施

キリンホールディングスでは、酒類メーカーとして社会の手本となるように、従業員の適正飲酒を推進している。飲酒習慣スクーリングテストを実施し、飲酒量が適正なものなのか、問題があるかどうか、飲酒習慣を確認しているのが特徴だ。その結果、飲酒習慣スクリーニングテストの結果が大きく改善した。

また、ストレスチェックも実施している。

関連記事:セカンドハラスメントとは?原因や二次被害を防ぐ対策について解説

まとめ

プレゼンティーイズムとは、従業員の心身の不調によって生産性が低下している状態のことだ。業務はできているものの、本来の業務パフォーマンスが発揮できない状態である。

また、体調不良等で業務がおこなえない状態のことをアブセンティーイズムという。アブセンティーイズムの場合は、遅刻や欠勤といった形で、従業員が働けない状態であると可視化されている。

プレゼンティーイズムの場合は、その影響が可視化されていない。しかし、組織全体としての損失は、プレゼンティーイズムによる影響も大きいと理解されるようになってきた。

今回ご紹介したプレゼンティーイズムの具体的な改善方法などの内容をしっかりと理解したうえで、実際の企業活動に役立てていこう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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