なでしこ銘柄とは、女性が積極的に活躍できるように促進することを目指す上場企業のことである。この記事では、なでしこ銘柄の概要と、2023年度のなでしこ銘柄とその取り組み、選定基準、企業や投資家にとってのメリットとデメリット、銘柄が取り消しになった企業について解説する。同時に、これまでになでしこ銘柄に選定された代表的な企業の事例もチェックしよう。
目次
なでしこ銘柄とは
なでしこ銘柄とは、女性が活躍できるように推進する活動が優れている上場企業のことだ。女性の人材活用を積極的に進めて持続的な活躍ができるように、環境の整備を実施する企業が該当する。
なでしこ銘柄の選定は、2012年度から始まった取り組みだ。東京証券取引所と経済産業省が共同でなでしこ銘柄を選定している。なでしこ銘柄の「なでしこ」は、女子サッカー日本代表の「なでしこジャパン」が由来となっているようだ。
なでしこ銘柄の目的は、大きく2つある。
● 中長期における企業価値向上が期待できる銘柄として投資家に紹介し、投資を促進する
● 女性の活躍に向けた各社の取り組みを促進する
なでしこ銘柄に選ばれた企業は、株価指数のパフォーマンスが良好で、市場からの評価も上がるなど、実際に良い影響を受けているようだ。働きやすい環境の整備や新しい制度の導入も進むため、その企業で働く女性だけではなく、男性にとってもメリットがあると考えられる。
参考サイト:女性活躍に優れた上場企業を選定「なでしこ銘柄」 (METI/経済産業省)
「準なでしこ」「えるぼし」との違いは?
なでしこ銘柄は、1業種につき1社が基本として選ばれる。以前はなでしこ銘柄の選定から漏れてしまっても、女性活躍推進に積極的な「準なでしこ企業」として経済産業省のホームページで紹介してもらえるケースもあったが、2022(令和4)年度から準なでしこの選定は廃止されている。
なお、女性の活躍推進に関する状況が優良な企業を厚生労働大臣が認定する「えるぼし」という制度もある。えるぼしについては下記の記事で解説しているので参考にしてほしい。
関連記事:えるぼし認定で得られる企業のメリットとは?基準やマーク、プラチナ、くるみんとの違いも解説
なでしこ銘柄の選定基準
なでしこ銘柄に選ばれるための具体的な基準と、その選定プロセスも確認していこう。
なでしこ銘柄に選定されるには「女性活躍推進法に基づく行動計画の策定」「女性管理職比率の開示」「女性取締役の存在」「直近3年間の平均ROEの値」などのスクリーニング要件を満たす必要がある。さらに12のスコアリング項目や、定性情報資産の4つの評価項目も選定の基準とされている。
選定の際は、全上場企業を対象とした調査を実施し、上記のスクリーニング要件を満たす企業を探す。そのうえで、定量調査票と定性調査票で女性が活躍しやすい企業を評価する。さらに、各業種1~2社の上位企業をなでしこ銘柄として認定して公表するという流れだ。
なでしこ銘柄に応募する企業は、経済産業省のホームページから定量調査票と定性調査票をダウンロードし、それぞれに回答したうえで事務局宛てにメールで提出する。応募する際は、それぞれの基準を確認してから対応しよう。
なお、過去になでしこ銘柄だったことがあるKDDIでは、なでしこ銘柄ができたあとに初めて女性役員理事が選出され、その後も女性管理職が増えたそうだ。このように、なでしこ銘柄の選定基準によって、実際の企業運営に影響が出ているケースもある。
関連記事:女性管理職を増やすには?現在の比率・割合、少ない理由、取り組み事例を解説
【最新】2023年度のなでしこ銘柄事例
2023年度に選ばれたなでしこ銘柄の企業は、味の素株式会社(食品)や株式会社丸井グループ(小売)、双日株式会社(商社・卸売)、出光興産株式会社(エネルギー資源)などの15社である。その中から一部の企業の取り組み事例を紹介しよう。
味の素株式会社
味の素株式会社がなでしこ銘柄として選定されたのは4度目となる。女性人財の育成委員会の設置や、女性従業員に対するキャリアワークショップ、カレッジ、メンタープログラムの実施など、女性にとって働きやすい環境が整備されている。
また、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進を経営戦略の一つと位置づけ、「アンコンシャス・バイアス研修」を経営陣だけでなく全社員にも展開している。性別、年齢、国籍、障がいの有無などの属性にかかわらず、多様な経験や専門性を尊重し、多様な意見を受け入れて個人の尊重を重視している企業だ。
株式会社丸井グループ
株式会社丸井グループは、6年連続でなでしこ銘柄に選定された。経営の基盤となる企業文化を変革し、イノベーションを起こしやすい組織風土づくりなどに取り組んでいる。
また、男女・年代・個人といった3つの多様性を掲げていて、女性の活躍を推進する「女性イキイキ指数」を設定し、ジェンダー平等の意識改革や制度づくりを実施している。
双日株式会社
双日株式会社は、2016年度から7年連続でなでしこ銘柄に選定されている。同社では、女性活躍が成長の鍵であるとして繰り返し伝え、人材戦略の重要テーマの一つに女性の活躍推進を位置付けた。男女間の経験値のギャップを解消し、各世代層のパイプラインを形成して、女性特有のライフイベントにおけるキャリアを止めない施策に取り組むなど、個々が活躍できる仕組みづくりをしている。
なお、当社ProFuture株式会社や経済産業省が後援する「第8回 HRテクノロジー大賞」(2023年度選出)の大賞にも選ばれており、「データ×対話」を重視した人的資本経営の実践企業としても注目されている企業だ。
参考リンク:第8回 HRテクノロジー大賞 – HR総研
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2023年度のなでしこ銘柄選定の変更点
なでしこ銘柄の選定基準は、年度によって異なる。2023年度は、以下のような点が変更されている。
● 準なでしこの廃止
● 女性活躍度調査を、単一のものから定量情報にかかわる調査と定性情報にかかわる調査の2つにリニューアル
● 経営戦略と女性の活躍推進の連動を重視
● 女性活躍推進に関する情報開示の促進
なでしこ銘柄のメリットとデメリット
なでしこ銘柄に選定されることのメリットとデメリットは、以下のとおりだ。
<企業にとってのメリット>
● 企業イメージが向上する
● 従業員のモチベーションが向上する
● なでしこ銘柄企業として就活生向け大型イベントなどに出展できる
● 企業の収益性などのパフォーマンスが高い傾向にある
● 市場からの評価が上がる
<企業にとってのデメリット>
● 選定基準を満たすためのコストや労力がかかる
● 選定後に取り消されることもある
● 東証の上場企業に限られる
なでしこ銘柄になるためには、制度づくりなどのコストや労力がかかるものの、選定してもらえた場合のメリットは大きい。
また、投資家にとってのなでしこ銘柄のメリットは、以下のとおりである。
<投資家にとってのメリット>
● 株価のパフォーマンスのよい企業が多い
● なでしこ銘柄の売上高営業利益率の平均が、東証一部上場企業の平均よりも高い
● 配当利回りの平均が東証一部上場企業の平均よりも高い
● ROE(株式資本利益率)が高い
● 女性躍進に積極的で、成長性に期待できる
なでしこ銘柄によって、女性の多様な働き方への理解が深く、従業員が働きやすい環境を整備している企業が明確となるため、投資家が投資先を選定する際の目安になる。また、一般の人にとっても就職や転職先を選定する際の指針にもなるだろう。
なお、投資家に注目されている基準の一つとして「ホワイト500」や「ブライト500」といったものもある。ホワイト500については下記の記事で解説しているので参考にしてほしい。
関連記事:ホワイト500とは?健康経営優良法人のメリットや認定基準、ブライト500との違いについて解説
なでしこ銘柄を取り消されるケース
せっかくなでしこ銘柄に選定されても、あとから取り消しになってしまうケースがある。なでしこ銘柄の資格を失う可能性があるのは、以下のとおりだ。
● 女性活躍や法令遵守状況に関する情報が、選定後に虚偽だったと判明した場合
● 法令遵守状況やその他の社会通念から、ふさわしくないと判断された場合
たとえば、2014年度にある大手電機メーカーがなでしこ銘柄に選定されたものの、2015年に不正会計処理の問題が明るみに出たことで取り消しとなった。なでしこ銘柄の選定により投資家に注目され、企業価値の向上にもつながっている分、取り消しとなった場合は一転して価値が下がる可能性もあるのだ。
これまでになでしこ銘柄となった主要な企業
これまでなでしこ銘柄に何度も選定されてきた主要な企業を見てみよう。
● 東急株式会社
● ダイキン工業株式会社
● カルビー株式会社
● アサヒグループホールディングス株式会社
● SCSK株式会社
● 双日株式会社
● 株式会社大和証券グループ本社
双日株式会社の取り組み内容については、2023年度の選定企業の項目を参考にしてほしい。
まとめ:なでしこ銘柄には企業・投資家・働く人それぞれにメリットがある
なでしこ銘柄とは、女性人材の活用を積極的に進め、活躍し続けられるように優れた環境整備を実施する上場企業のことだ。なでしこ銘柄を理解していると、企業や投資家だけでなく一般の人にとってもそれぞれのメリットがある。
企業にとって、なでしこ銘柄に認定されれば自社のイメージや従業員のモチベーションが向上し、市場からの評価も高まることがメリットだ。投資家は、株価のパフォーマンスや売上高営業利益率、配当利回りなどの平均値がよく、成長性に期待できる企業を知ることができる。一般の人にとっても女性の活躍を促進し、従業員が働きやすい環境を整備している企業が明確になる取り組みだ。
今回紹介した内容をしっかりと理解したうえで、実際の企業活動や投資、就職・転職活動などに役立てていこう。