2023.7.31

希望退職とは?依願退職との違い、残った人のその後、退職金などについて解説

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企業が業績不振で人員整理の必要がある場合に、希望退職者を募ることがある。この記事では、希望退職制度の概要や従業員側と企業側のメリット・デメリット、各種の退職制度や整理解雇との違いなどをわかりやすく解説する。さらに希望退職をおこなった場合の対応や実例もあわせてチェックしよう。

希望退職制度とは

希望退職制度とは、自ら退職を希望する従業員を募集する制度のことである。企業側は、経営悪化によるリストラを考えている場合の前段階など、経営方針の見直しを目的として実施することが多い。

労働者保護の観点から、企業が一方的に従業員を解雇することには厳重な制限がある。そのため、希望退職制度によって、従業員の意志を尊重したうえで企業側と従業員の合意のもとで退職者を集めることがあるのだ。

希望退職制度を利用して退職した場合、失業保険は会社都合として適用される。自己都合の場合よりも受給開始が早くなり、受給期間も長い。また、退職金が割増となる優遇制度が取られることが多い。

ただし希望退職を募る場合であっても、人によっては引き留められる可能性もある。また、転職活動が長引く恐れや、厚生年金加入期間が短くなることで将来の年金受給額が少なくなる恐れもあるだろう。

希望退職に応じた従業員のメリット・デメリット

希望退職に応じた従業員のメリットとデメリットは、それぞれ以下のとおりである。

<希望退職に応じた従業員のメリット>
● 退職金の割増
● 失業保険の支給が自己都合よりも早い
● 会社都合のため転職活動で不利になりにくい

<希望退職に応じた従業員のデメリット>
● 退職日の変更ができない
● 無職の期間が長引く場合もある
● 再就職先で給与が下がる可能性もある

どのようなメリットとデメリットがあるのか、詳しく確認していこう。

メリット1:退職金の割増

一般的に、希望退職者を募集する場合には、通常よりも退職金を多く支払う優遇措置が取られることが多い。実際にどのような優遇措置が取られるのかは企業によって異なるため、希望退職に応じるか検討している場合には、募集要項などをしっかりと確認しよう。

例えば、勤続年数が短い場合でも退職金をもらえるケースや、通常とは異なる割増率で計算してもらえるケースなどがある。通常の退職よりもお金にゆとりができて、次のキャリアをじっくり考えられるようになるだろう。

メリット2:失業保険の支給が自己都合よりも早い

希望退職制度で退職した場合には、自己都合の場合よりも失業保険の受給開始が早くなるメリットもある。自己都合による退職の場合、失業保険の受給までに7日間の待期期間と、原則2か月の給付制限期間があり、早く受け取りたくても失業保険の受給開始までは時間がかかる。しかし、希望退職制度での退職は会社都合扱いとなるため、7日間の待期期間のみですぐに失業保険の受け取りが可能なのだ。

また、受給する日数や最大支給額も、自己都合による退職の場合よりも好条件で適用される。

メリット3:会社都合のため転職活動で不利になりにくい

希望退職制度による退職の場合には、転職理由を会社の都合によるものだと伝えられるため、転職活動で不利になりにくいこともメリットだ。転職の際の面接で「なぜ退職したのか」と質問されたときに、希望退職制度を利用した場合は転職理由として伝えやすい。制度を前向きに活用して退職したと伝えれば、深く追及されたりその理由によって不利になったりしにくいだろう。

企業によっては、転職活動のサポートなど、希望退職者に対して転職活動に有利な措置を用意しているケースもある。

デメリット1:退職日の変更ができない

一方で、希望退職制度の利用にはデメリットもある。希望退職制度を利用する場合には、企業が決めた時期に退職しなければならない。

そのため、早く辞めたい場合やしばらくは働き続けたい場合であっても、退職日の変更ができないのだ。転職活動をしながら退職のタイミングを見極めたいと思っても、自分の都合どおりにはいかないことに注意が必要である。

デメリット2:無職の期間が長引く場合もある

無職の期間が長引いてしまう可能性があることも、気をつけるべきポイントだ。先述のとおり、希望退職制度では自分の都合で退職のタイミングを見極められない。スムーズに転職先を見つけられず、思うように転職できない可能性があるだろう。

また、勤めている企業が希望退職者を募るタイミングは、世の中全体でも不景気になっているかもしれない。社会全体や業界全体の流れとして不景気であれば、転職しにくく無職の期間が長引く可能性があるだろう。

デメリット3:再就職先で給与が下がる可能性もある

転職する場合には、再就職先で給与が下がる可能性があることにも注意が必要である。希望退職をした場合、一旦無職となり、今まで受け取っていた収入が途絶えてしまうことになる。失業保険の利用ができるものの、これは一時的な生活保障にすぎないものだ。

支出の見直しや新たな住宅ローンが組みにくくなるなど、生活への影響も起こり得る。生活費が心配となったあまり、納得できない転職先を選んでしまい、再就職先で給与が下がるような状態に陥る可能性があるだろう。

希望退職を実行する企業のメリット・デメリット

希望退職制度は、実行する企業側にとっても以下のようなメリットやデメリットがある。

<メリット>
● トラブルを抑えて人員整理ができる
● 人件費の削減になる

<デメリット>
● 有能な人材が流出する恐れがある
● 一時的なコストが必要となる

それでは、企業にとっての希望退職を実行するメリットとデメリットをそれぞれ確認していこう。

メリット:トラブルを抑えて人員整理ができる

希望退職制度による企業側の大きなメリットは、トラブルを抑えて人員整理ができることや人件費の削減ができることである。必要以上に従業員がいる状態では、人件費が多くかかってしまう。企業の業績が振るわない場合でも、雇っている以上は人件費を支出しなければならないため、希望退職によって人件費を削減する方法が取られるケースがある。

その際、企業が一方的に退職を促す方法とは違い、希望退職制度を使えば従業員の合意のもとで実施するため、トラブルになりにくいのだ。

デメリット:有能な人材が流出する恐れがある

一方で、有能な人材が流出する恐れがあることには注意が必要である。希望退職制度では個人を特定しての退職者の募集ができないため、有能な従業員が制度を利用して辞めてしまう可能性があるだろう。

先述のとおり、従業員にとっては希望退職制度を使うと転職活動で不利になりにくく、スムーズに転職しやすいメリットがある。転職したいと考えている人にとっては退職する良いタイミングになり、有能な人材が流出して組織が弱体化する恐れがあるだろう。

また、一般的に希望退職の際は退職金を割増するため、一時的に退職金のコストが大きくなることもデメリットだ。

各種の退職制度や整理解雇との違い

希望退職制度以外にも、さまざまな退職制度がある。希望退職制度以外の主な退職制度は、以下のとおりだ。

● 依願退職
● リストラ
● レイオフ
● 早期退職制度

なお、リストラは「整理解雇」とも呼ばれることがある。業績不振などで人員削減を目的に解雇する場合に、日本の企業がとることが多い手段が整理解雇だ。

それでは、それぞれの退職制度の特徴や希望退職制度との違いを確認していこう。

依願退職との違い

依願退職とは、従業員から退職を願い出て、双方の合意のもとで退職することである。転職をしたいなど、従業員から辞めたいと伝える一般的な退職のことだ。自身の都合によって勤めていた企業を退職することになるため、希望退職制度とは違って会社都合ではなく自己都合退職にあたる。

先述のとおり、従業員から退職を願い出る自己都合退職の場合には、会社都合よりも失業保険の給付が遅く、給付期間が短くなる。そのため、退職を願い出た従業員から「会社都合ということにしてほしい」といわれるケースがあるようだが、失業給付の不正受給に手を貸してしまわないように注意が必要だ。

リストラとの違い

リストラとは、人員削減のために会社都合で実施される整理解雇である。正式な名称は「リストラクチャリング」という。経営不振や事業の再構築など、企業側の都合を理由に、人員整理の一環として実施される。

会社の都合を理由に解雇するリストラは、退職希望者を募る希望退職制度よりも従業員に対する強制力がある点が、希望退職制度との大きな違いだ。

レイオフとの違い

レイオフとは、再雇用を前提として実施する一時解雇のことである。業績の悪化など、企業側の都合を理由に、人件費調整のための応急処置としてレイオフが実施されている。

再雇用の可能性があるとはいえ、正式な制度ではなく、レイオフを実施した場合には雇用関係がなくなる。業績回復しないと再雇用されず、恒久的な解雇となるケースがある。

解雇に関する規制が厳しい日本では実施されていないが、アメリカなどの海外のビジネスニュースで見聞きする言葉だ。

希望退職との違いは、再雇用があるかどうかである。レイオフは再雇用を前提としているが、希望退職には再雇用がない。

早期退職制度との違い

早期退職制度とは、従業員が定年を前に退職できる制度のことである。従業員が恒常的に利用可能な制度で、退職金の割増や有給休暇の買い上げ、再就職支援などの優遇措置が実施されるケースが多い。

人員削減を意図した希望退職とは異なり、早期退職制度は組織の新陳代謝を意図したもので、福利厚生としての意味合いが強い。また、希望退職は期間が限定されるのに対し、早期退職制度は恒常的に実施されることも大きな違いだ。

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従業員は希望退職を拒否できるのか?

希望退職では、企業側ではなく従業員の意思が優先される。各種の整理解雇などとは異なり、企業側から退職するように強制されることはなく、退職を希望しない場合には拒否できる制度だ。

しかし、反対に退職を希望した場合であっても引き止めにあう可能性もある。希望退職制度では、企業側と従業員双方の合意が必要だ。そのため、引き止められたにもかかわらず強引に退職したときは、自己都合による退職となる可能性がある。

従業員側が希望退職制度を使うかどうかは、優遇措置などを考慮に入れて、慎重に決断を行うと良いだろう。

退職希望者が集まらなかった場合

もしも、希望退職制度を実施しても退職希望者が募集人数まで集まらなかった場合には、二次募集などが実施される。それでもなお募集定員に達しなかった場合は、退職勧奨や整理解雇を実施する可能性がある。

ただし、退職勧奨や整理解雇を行った場合には、希望退職制度の実施よりもトラブルになりやすい。人員削減を検討している企業は、慎重に対応し、適切な手順を踏むように注意しよう。

希望退職をせずに残った人の処遇はどうなるのか

企業が希望退職者を募った場合、退職を希望せずに勤め続けるとどうなるのか、そのタイミングで退職したほうが良いのか、疑問に思うこともあるだろう。

「企業の将来が危ないときは、有能な人材から退職していく」といわれている。希望退職をせずにそのまま企業に残った場合、空いた高いポジションにスライドできる可能性があるものの、実力が試され、仕事内容が前よりもきつくなることもあるだろう。企業業績の立て直しに一役買った場合には、自分のキャリアに良い影響を与えるかもしれない。

しかし、業績が上向かない場合は、整理解雇などへ進む可能性もある。さらに業績が悪化してから転職活動を始めた場合、転職市場に多くの人材が流出したあとになり、次の就職先探しがより厳しくなる可能性があるだろう。

希望退職者の退職金の相場

退職金制度がある企業の退職金の金額は、給与の4.1か月〜20.2か月分ほどと幅広い。企業によって制度がまちまちであるため、相場を明言するのは難しいといえるだろう。企業と労働者の契約内容によっては、退職金の支払いがない場合もありえる。

希望退職者に対する退職金は割増されることが多いが、急激な業績低下が理由の希望退職は、割増率が低いこともある。また、希望退職募集の回数が多くなるほど、割増率が下がる傾向があるようだ。

なお、業績低下が理由ではない早期退職制度の利用であれば、業績に応じて退職金の割増がされる可能性もある。

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希望退職を実施した企業の実例

最後に、実際に希望退職を実施した企業の例を確認していこう。希望退職を実施した企業には、クックパッドやシャープなどがある。

近年では、コロナ禍などの影響で業績に大きな打撃を受けた航空や観光、アパレルなどの業界を中心に、希望退職を募る企業が増えている。ただし、2023年1〜5月にはコロナ禍でとくに打撃を受けた業界での募集が減り、アフター・コロナのフェーズに入ったようである。

それでは、実際に実施した企業の例をご紹介する。

クックパッドの場合

料理レシピのコミュニティサイトを運営するクックパッド株式会社では、2023年になってから3度目の人員削減を実施している。2023年2月に複数の新規事業部門で40人を、3月には海外子会社で80人の希望退職者を募集していた。

3度目の6月末から8月末にかけての人員削減では、対象者に退職を推奨している。海外子会社では、解雇を実施するそうだ。グループ全体での予定では、110人ほどの人員削減となる見込みである。

なおTwitterなどでは、クックパッド従業員による「レイオフになった」というツイートが散見されたが、実際には一時解雇ではなく希望退職の募集である。

シャープの場合

シャープでは、2012年12月と2015年7月27日~8月4日に希望退職者を募集していた。また、2023年5月には、早期退職制度を設けたと報道されている。

2012年12月に実施した希望退職者の募集では、定員2000人に対して2960人が退職した。このときは想定していた定員よりも大幅に多い従業員が、退職を希望したのである。2015年に実施した希望退職では、定員は3500人だったが、実際の希望退職者は3234人であった。

一方で、2023年5月に設けた早期退職制度は、人員削減が目的ではない。55歳以上の管理職約700人を対象としたもので、初回は5月上旬~6月半ばの期間で希望者を募集していた。早期退職制度を利用する場合、退職金に最大6か月分の給与が割増分として加算される。

2023年1〜5月に早期・希望退職を実施した上場企業20社中5社が情報通信業界

2023年1〜5月に早期・希望退職を実施した上場企業は20社であった。前年同期は19社で、2023年は1社多い。早期・希望退職を実施した上場企業20社のうち、5社が情報通信業界で、統計開始以来、初めて同業界が最多となった。

一方で、コロナ禍での影響が大きかった観光や運送、外食関連では、早期・希望退職の募集がなかった。募集人数が判明した15社では、前年度とは異なり大規模な募集が少なくなって、早期・希望退職の対象人数が大幅に減少している。上場企業の流れを見ると、アフター・コロナのフェーズになったといえそうだ。

まとめ

労働者保護の観点から、日本では企業が一方的に従業員を解雇しにくくなっている。経営方針の見直しなどを目的として人員削減を検討する場合、希望退職者を募ることでトラブルを抑えて人員整理がしやすいメリットがある。

また従業員にとっても、退職金の割増や自己都合の場合よりも失業保険の支給の条件が良いことなど、制度の利用にはメリットがあるといえる。ただし、企業と従業員どちらにとってもメリットだけではなくデメリットもあるため、制度の利用には十分な検討が必要だ。

希望退職の条件の対象となった場合でも、企業側から退職するように強制されることはない。退職を希望しない場合には拒否が可能だ。

企業側は、想定よりも退職希望者が集まらなかった場合には、二次募集や退職勧奨、整理解雇の実施を検討する。ただし、退職勧奨や整理解雇は、希望退職者を募るよりもトラブルになりやすいことに注意が必要だ。

今回ご紹介した内容をしっかりと理解したうえで、実際の活動に役立てていこう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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