2023.5.31

健康経営アドバイザーとは?従業員の資格取得で企業が得られるメリットも解説

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近年、働き方改革の推進にともなって「健康経営」に取り組む企業が増えてきた。健康経営とは、従業員の健康管理を考えた施策を実施することだ。

そんななか、「健康経営アドバイザー」という資格が注目されている。
健康経営アドバイザーの有資格者が企業の中にいれば、企業にとってさまざまなメリットがもたらされるのだ。

この記事では、健康経営の意味を解説するとともに、健康経営アドバイザーの概要や、資格取得により企業側が得られるメリットについても紹介する。

健康経営とは

健康経営とは、経営的な視点で従業員の健康管理を考え、戦略的に健康と関連した施策を実施することだ。健康経営は、2013年に日本の成長戦略として閣議決定された「日本再興戦略」と、2017年に閣議決定された「未来投資戦略」に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」への取り組みのひとつとなっている。

健康経営は、元々アメリカで提唱された経営手法で、2009年頃から日本でも取り入れる企業が増えてきた。主な取り組みとして挙げられるのは、ストレスチェックの実施や、労働時間の削減、有給取得率の向上などだが企業によって取り組みはさまざまである。

経済産業省では、2014年度から「健康経営銘柄」の選定を実施し、2016年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設した。健康経営に取り組む企業を「見える化」することにより、認定された企業は社会的な評価を受けられるようになっている。企業ブランディングの視点からも、高い効果のある「健康経営銘柄」を取得すべく、積極的にアクションを起こす企業も多い。

健康経営と近い概念として「ウェルビーイング」が存在する。ここでは、健康経営とウェルビーイングの関連性や、健康経営が重視されている理由、健康優良法人について解説する。

参考資料:健康経営優良法人認定制度(METI/経済産業省)

健康経営とウェルビーイング

ウェルビーイング(well-being)とは、幸福や健康を意味する言葉だ。世界保健機関(WHO)憲章によると、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいう」という定義がされている。

ウェルビーイングは、社会福祉分野や医療関連分野などで使われる専門用語であったが、近年では、ビジネスシーンでも使われるようになってきている。その背景と考えられるのは、働き方改革の推進によって、従業員の働き方を重視する経営者が増加したことだ。

ウェルビーイングは、従業員の健康状態やワークライフバランスの整備に必要な要素といえる。一方の健康経営は、健康を重視した経営戦略であるが、ウェルビーイングとはニュアンスが異なる。

健康経営は具体的な施策がベースとなるのに対し、ウェルビーイングはあくまでも概念だ。そのため、健康経営を進めるうえで必要な考え方が、ウェルビーイングなのだ。

関連記事:ウェルビーイングとは?企業経営において関心が高まっている理由

なぜ健康経営が重視されているのか

健康経営を推進する企業では、業績や株価の向上、採用活動で優位になること、などが期待されている。また、健康経営が重視されるようになった背景には、少子高齢化にともなう労働人口の減少と社会保障制度の変化も挙げられる。

現行の社会保障制度は、1970年代から1980年代頃の社会背景を前提として作られたものである。当時の日本経済は右肩上がりで成長しており、終身雇用も当たり前となっていた。

しかし、現代の経済成長は鈍化してきており、働き方自体も終身雇用が当たり前ではなくなっている。しかも日本は2060年を目途に、全人口のうち65歳以上の高齢者の割合が38.1%にも及ぶことが推測されているため、現行の社会保障制度では人々の生活を保障できなくなることが想定できるのだ。

また、少子高齢化による労働人口の減少も予想されるため、定年後も活躍できる仕組みを作る必要がある。そのためには、健康寿命を延ばすことが重要だ。健康経営により、労働力を確保できるとともに、社会保障費を抑制することにもつながるのだ。

少子高齢化の関連記事:シニアマーケティングとは?拡大し続けるシニア市場でビジネスを拡大させよう

健康経営優良法人とは

健康経営優良法人とは、健康経営を実践している企業の中でも、特に優良であると判断された企業を指す。地域の健康課題に即した取り組みや、日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに優良な企業を認定するのが「健康経営優良法人認定制度」である。認定の申請先は日本健康会議で、認定審査も行なっている。

健康経営優良法人に認定されると、企業のPR活動やハローワークの求人票などにロゴマークを使用できる。さらに、公共調達や公共工事の入札時に加点される、金融機関・保険会社による優遇制度を受けられる、などのメリットがある。

健康経営優良法人認定制度とともに注目されている制度として、えるぼし認定制度が挙げられる。えるぼし認定制度とは、女性の活躍を推進している企業に対し「えるぼし認定」を行うもので、こちらも公共調達に有利などのメリットがある。

えるぼし認定制度については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてほしい。

関連記事:えるぼし認定で得られる企業のメリットとは?基準やマーク、プラチナ、くるみんとの違いも解説

健康経営アドバイザーとは

健康経営アドバイザーとは、企業の健康経営に対する知識があることを証明する資格だ。中小企業において「健康経営の普及が遅れている」「具体的な方法が正しく理解されていない」といった課題があることを背景に設けられた。

ここでは、健康経営アドバイザー資格の概要について解説する。

参考資料:健康経営アドバイザーとは |東京商工会議所

試験の難易度は決して高くない

健康経営アドバイザー試験の難易度はあまり高くない。研修後に効果測定として出題される10問の中から、7問以上の正解が出れば合格できるからだ。

試験結果は即時に判定され、不合格になった場合でも、期間中であれば合格するまで無料で再受験できるのもポイントだろう。

回答も4択となっているため、研修をしっかり受けていれば難しくはないだろう。

東京商工会議所が経済産業省から委託を受けた公的資格である

健康経営アドバイザーは、東京商工会議所が運営する公的資格だ。経済産業省から委託され、2016年5月から運営が開始された。

そのため、健康経営アドバイザー資格を取得するには、東京商工会議所が開催する研修を受ける必要がある。研修はオンラインでも開催されているため、場所を問わず、通信環境さえ整っていればどこでも受講できることが特徴だ。

認定期間は2年間で2年ごとの更新が必要

健康経営に関する内容は常にアップデートされている。そのため、健康経営アドバイザーの認定期間は2年間となっており、2年ごとの更新が必要だ。

更新の際の試験は資格取得時と同様に、効果測定で7問以上に正解する必要がある。研修内容が変更される場合もあるため、新たな知識を学ぶ姿勢で研修に臨むことが大切だ。

健康経営アドバイザー試験の内容

健康経営アドバイザー試験の受験は、オンラインで行うeラーニング形式となっている。テキストと動画を使った研修を受け、研修後に4択式の出題による効果測定が行われる。

研修と出題はオンラインで実施される。自宅でも受講できるが、通信環境を整えておく必要があるだろう。動画の再生時間が約2時間20分あるため、効果測定の時間も考慮すると、約3時間は確保しておいたほうが良いだろう。

なお、効果測定の合否は試験終了後、すぐにWeb上で確認できる。

健康経営エキスパートアドバイザーとは

健康経営エキスパートアドバイザーとは、健康経営アドバイザーの上位に該当する資格だ。健康経営アドバイザーよりも具体的なサポートができる能力を求められる。認定期間は健康経営アドバイザーと同様に2年間である。

ここでは、健康経営エキスパートアドバイザー資格の概要について解説する。

健康経営エキスパートアドバイザーの受験には一定の要件を満たす必要がある

健康経営エキスパートアドバイザーを受験するには、一定の要件を満たさなければならない。健康経営アドバイザーの資格を持っており、ワークショップへの参加が可能であることと、さらに以下の資格と実務経験が必要になる。

受験に必要な資格 受験に必要な実務経験

健康経営アドバイザー認定者であり、下記のいずれかの資格を持っている

・中小企業診断士
・社会保険労務士
・労働衛生コンサルタント
・医師
・保健師、看護師
・管理栄養士
・健康運動指導士

下記のいずれかの実務経験がある

・健康、医療、保健
 (医療保険者や医療機関、健診機関での勤務経験)
・経営
 (企業経営に携わった経験)
・人事労務
 (人事担当者や労務管理担当者など)
・健康経営
 (健康経営の普及・支援・実践に携わった経験)

東京商工会議所のHPに氏名が掲載される

健康経営エキスパートアドバイザーの資格を取得した場合、名刺に有資格者であることを明記できるほか、希望者は東京商工会議所のHPに氏名が掲載される。

HPには、所属している企業やURLの記載も可能だ。該当ページを見た企業などがアドバイザーに直接アプローチをしてくることも考えられるため、企業の宣伝としても有効活用できるだろう。

健康経営エキスパートアドバイザー試験の内容

健康経営エキスパートアドバイザーの試験は、健康経営アドバイザーの試験よりも難易度が高い。健康経営アドバイザーの試験問題数は10問だが、エキスパートになると50問に増える。さらに合格基準も8割以上に設定されているため、40問以上に正解しなければならない。

健康経営アドバイザー試験が4択形式なのに対し、健康経営エキスパートアドバイザー試験は多肢選択式だ。多肢選択式とは、複数の選択肢の中から該当する回答を選ぶことで、回答はひとつとは限らない。

問題数の増加と、合格基準の上昇、そして回答方式の変更が試験の難易度を上げる要因となっているのだ。

健康経営アドバイザーと健康経営エキスパートアドバイザーの違い

健康経営アドバイザーと健康経営エキスパートアドバイザーでは、健康経営に関して行える支援の範囲や深さが異なる。それぞれの役割は以下のとおりだ。

・健康経営アドバイザーの役割
健康経営の普及や取り組みの推進

・健康経営エキスパートアドバイザーの役割
企業の課題抽出、改善案や計画の提示、PDCAサイクルの支援

健康経営アドバイザーは、健康経営に関する基礎知識を保有していることを示す資格だ。具体的に施策を進めるのではなく、自社内での取り組みの推進が主な役割となる。

一方、健康経営エキスパートアドバイザーには、健康経営アドバイザーとしての知識に加え、健康や経営に関する実務経験や専門知識が求められている。そのため、具体的に施策を進める際の支援が主な役割となるのだ。

ただし、産業医などとは異なり、有資格者の設置義務があるわけではない。自社の健康経営の普及度が低いのであれば、普及や取り組みの推進が主な活動となるため、少なくとも健康経営アドバイザーの有資格者がいれば良いだろう。具体的に施策を進めるのであれば、健康経営エキスパートアドバイザーの設置が必要になる。

自社の状況によってどちらかを選択することがポイントだ。

関連記事:労働安全衛生法とは?違反しないために企業が守るべき重要事項をわかりやすく解説

健康経営アドバイザーの設置で企業側が得られるメリット

健康経営アドバイザーの資格を従業員が取得することによって企業側が得られるメリットとしては、以下の4つが挙げられる。

● 健康経営の取り組みが社内に浸透・促進しやすくなる
● 企業が負担する医療費を減らせる
● 企業イメージの向上に寄与する
● 採用活動にも有利に働く

それぞれのメリットについて解説する。

健康経営の取り組みが社内に浸透・促進しやすくなる

1つ目のメリットは、健康経営の考え方や取り組みが社内に浸透しやすいことだ。資格を持たない人が健康経営を推進しようとした場合、説得力が乏しいため、従業員を納得させることが難しいだろう。

しかし、健康経営アドバイザーの有資格者が健康経営を推進すれば、従業員も受け入れやすくなる。健康経営に関する理解を従業員に深めてもらい、取り組みを促進するためにも、健康経営アドバイザーの資格取得は有効なのだ。

企業が負担する医療費を減らせる

2つ目のメリットは、企業が負担する医療費を減らせることだ。病気や怪我を理由に従業員が通院した場合、医療費が発生する。医療費は「見えない人件費」ともいわれ、不健康な従業員が多ければ、コストがかかる。

しかし、健康な従業員が増えれば、医療費は削減できる。医療費が減ればコスト抑制につながるだろう。

関連記事:団体保険の「GLTD」とは?制度やメリット・デメリットの解説と導入企業事例も紹介

企業イメージの向上に寄与する

3つ目のメリットは、企業イメージの向上だ。自社に健康経営アドバイザーがいれば、健康経営を推進していることがアピールできる。「従業員を大切にする企業」と認知してもらえることにより、社会的なイメージが向上するのだ。

また、健康経営アドバイザーの有資格者は、名刺にもその肩書きを記載できる。取引先と直接話す機会があれば、担当者間でもアピールでき、良い印象を持ってもらえるかもしれない。

関連記事:採用ブランディングとは?取り組む目的、ポイントを解説!

採用活動にも有利に働く

4つ目のメリットは、採用活動にも有利に働くことだ。従業員が健康であれば、健康を理由とした退職は減るため、離職率の低下につながる。離職率が低ければ、人員補充を理由とした中途採用を頻繁に行う必要がないため、採用業務自体の負担が軽減できるのだ。

また、離職率の低さは求職者へのアピールにもなる。前述した「従業員を大切にする企業」だけでなく「働きやすい企業」といった印象を求職者に与えられるため、応募者数の増加にもつながる。応募者数が増加すれば、優秀な人材が獲得できる可能性も高まるだろう。

関連記事:エンゲージメントとは?従業員の定着率をあげるためにできるエンゲージメント向上の施策

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まとめ

健康経営とは、経営的な視点で従業員の心身の健康管理を考え、戦略的に施策を実施することだ。企業の健康経営に対する知識があることを証明する資格として「健康経営アドバイザー」がある。

健康経営アドバイザーは、中小企業において「健康経営の普及が遅れている」「具体的な方法が正しく理解されていない」といった課題を背景に設けられた。上位資格には「健康経営エキスパートアドバイザー」があり、健康経営アドバイザーよりも具体的なサポートができる能力が求められる。

健康経営アドバイザーの役割は、自社内での取り組みの推進だ。一方、健康経営エキスパートアドバイザーの役割は、具体的に施策を進める際の課題抽出や計画立案などを行う。

従業員が健康経営アドバイザーの資格を取得することにより、健康経営の浸透と促進ができ、医療費の削減も可能になるだろう。また、企業イメージの向上や、採用活動にも有利に働くなど、間接的なメリットも存在する。

企業において健康経営を進めるうえで、健康経営アドバイザーは価値のある資格といえるだろう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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