リストラは、日本で使われている意味と、もともとの意味が異なる言葉だ。この記事では、リストラとは何か、解雇の種類、検討されるケースなどをわかりやすく紹介する。さらに、実施する際の要件や実施する際の検討事項と主な手順も解説するため、併せてチェックしてほしい。
目次
リストラとは
リストラとは、「restructuring(リストラクチャリング)」を省略した言葉のことだ。日本では、時代と共に本来の意味ではなく人員削減としてネガティブな印象が強くなり、整理解雇と似た表現として使われるようになった。バブル崩壊後の1990年代から、様々なメディアでは「リストラによる大規模な人員削減があった」として報じられるようになり、人件費削減を目的とした解雇とのイメージが一般的になったのである。
リストラの意味
「restructuring(リストラクチャリング)」という言葉の本来の意味は、日本でイメージされるリストラとは違ってネガティブなものではない。もともとは「再構築」や「構造改革」を指す言葉であり、欧米の企業では今でもこれらの意味で使われている。経営に関わる革新をする際の一つの手法が、本来の意味なのである。
例えば、企業再編や吸収合併、事業の縮小、売却、分社化などが「restructuring(リストラクチャリング)」に含まれる。さらに、経営立て直しのための整理だけではなく、成長事業への資金の再配分や新規事業への投資、人材育成、組織改革、業務効率化も本来の意味に含まれているのだ。
ただし、現在の日本ではリストラというと、企業の経営悪化による人員削減を目的とした解雇として広く定着している。
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解雇の種類
解雇の種類には、大きく分けると「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つがある。先述の通り、現在の日本でリストラといった場合には、これらの内の整理解雇を指す。
なお、解雇とは労働者との労働契約を使用者側の一方的な意思表示によって解約することだ。それぞれの解雇の種類とその意味を確認していこう。
普通解雇
普通解雇とは、労働契約で定められた債務を労働者側が履行しなかった場合などに行われる解雇のことだ。解雇事由が労働者側に起因する場合に、使用者が一方的に労働契約を解除する。一般的に、「解雇」とのみ表現する場合には普通解雇を指す。
無断欠勤や遅刻が改善されない場合や繰り返し重大なミスをしてしまう場合など、著しく職務遂行能力が低いと認められるケースが該当する。企業と労働者との間の信頼関係が崩れた場合に行うことが多く、解雇するためには客観的に合理的な理由が必要となる。
整理解雇
整理解雇とは、いわゆるリストラのことだ。企業の経営悪化や事業縮小など、雇用者側の事情によってやむを得ず人員削減のために行う解雇を指す。労働者側に起因する事由ではなく経営事情による解雇であることから、他の解雇の種類よりも法的な制約が厳しいことが特徴である。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、明らかな就業規則違反を繰り返した場合や刑事犯罪に当たる行為が発覚した際などに実施する、懲戒処分の中でも特に重い処分のことだ。使用者が労働契約を一方的に解除するものであり、ハラスメント行為や会計上の不正行為、金品の横領、機密の漏えいなどが該当する。
一般的には退職金の支払いがないケースが多く、再就職も困難になる。懲戒解雇をするためには就業規則に記載する必要があり、多くの企業は服務規程として定めている。
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リストラが検討されるケース
リストラが検討されるケースは、大きく分けると以下の通りだ。
● 業績悪化
● 吸収合併
● 黒字リストラ
このように、リストラが検討されるのは、企業の経営悪化だけが理由ではない。それでは、リストラが検討される3つのケースを確認していこう。
業績悪化
業績が悪化して赤字になってしまったケースは、リストラが検討される典型的な例である。人員削減や整理によって人件費を削減し、企業の収支を改善する目的で実施されるものだ。人件費の高い中高年を対象とするケースや、不採算事業の人員整理を対象とするケースなどがある。
吸収合併
吸収合併の際も、リストラが検討される。そもそも吸収合併とは、2つの企業が統合する際に一方の企業のみを残し、合併後に残った会社に全ての権利義務を承継させる手法のことだ。
吸収合併では、基本的に従業員との雇用契約もそのまま承継することになる。吸収合併をすることを理由に、従業員を解雇できるわけではない。
ただし、吸収合併は組織再編を伴うケースがあり、希望退職などを募集する可能性はあるだろう。合併によって重複が生じている組織の人員や、合併により求められるようになった能力が備わっていない従業員などがリストラの対象となる可能性もある。
また、給料や福利厚生、退職金などの労働条件が変更となるケースや、個人の勤務形態が変更されるケース、管理職の身分が降格となるケースなどはあり得る。
黒字リストラ
業績が好調な企業においても、将来を見据えて企業構造を再構築するために従業員の一部を削減する場合がある。これを黒字リストラと呼ぶ。年功序列や昔ながらの賃金形態を見直し、健全な組織風土を醸成させて若手社員も活躍できる実力主義の文化に変化させていくことなどが狙いだ。
黒字リストラには、将来の収益の悪化を予想して先手を打つケースや、縮小する部署の人員削減と注力する分野の新規採用をそれぞれ実施するケースなどがある。
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リストラを行う場合の4要件
リストラを実施することは、「企業側がやりたいから」という理由だけでは認められない。日本でリストラという場合に指す整理解雇は、企業側の事情による人員削減であって労働者側に非はないものだ。そのため、他の解雇と比較してもより確かな妥当性が求められる。
リストラを実施する際の4つの要件は、大きく分けると以下の通りだ。
● 人員整理の必要性
● 解雇回避の努力義務
● 人員選定の合理性
● 手続きの相当性
とはいえ、特に中小企業などではこれら4つの要件全てを満たせないケースがある。現在では、4つの要件全てを満たせないケースでも、解雇が不当ではないと判断される場合が増えているようだ。
それでは、これらの要件を確認していこう。
人員整理の必要性
そもそも人員整理の必要性があるのかどうかが、リストラを実施する際の客観的合理性の有無に関する判断材料の一つである。必要性の程度の判断基準はないものの、客観的に見ても経営上の理由が認められる場合などが該当する。
解雇回避の努力義務
企業の存続が厳しい場合でも、経営を改善して解雇を回避する努力を実施することが求められる。すぐに解雇を実施してしまうのではなく、残業の削減や新規・中途採用の削減、社員の配置転換、役員報酬の削減、希望退職者の募集などで経営改善を図る必要があるのだ。解雇回避努力が足りないと判断された場合には、整理解雇が無効であるとして認められないケースがある。
人員選定の合理性
整理解雇の対象とする人員を選定する際も、主観によるものではない、客観的で合理的な基準による公正な判断が必要だ。勤続年数による選定や成績の低さ、欠勤・遅刻などの勤務態度などを基準とすると、主観に寄らない判断基準だとして比較的認められやすい。客観的で合理的な基準を決めていないと、解雇権の濫用だと判断される恐れがあるため注意が必要だ。
手続きの相当性
リストラを実施する際の手続きの相当性も判断基準の一つである。解雇の対象者や組合に対して、しっかりと人選の基準や整理解雇の必要性などを説明し、協議することが求められる。
もしも労働協約で人員削減に関する条項があるならば、これに基づく協議がなされていないと解雇が無効となる。条項がなくとも、十分な説明や協議がないと手続きの妥当性が否定されてしまうため、適切な手続きを取る必要があることに注意しよう。
リストラを行う際の検討事項と主な手順
リストラを行う際の検討事項は、以下の通りである。
● 退職金などの条件の設定
● リストラによる退職を拒否された場合の対応
希望退職者の募集や退職勧奨の場合は、本人の意思による退職となる。そのため、繰り返し説得することはできても、退職の強制はできないことに注意しよう。また、退職させるために転勤を命じたり不合理な職に配置転換したりすると、違法となる可能性があることなども気をつけるべきである。
リストラを行う際の主な手順は、以下の通りだ。
● 経営計画を基にした人事計画の策定
● 解雇以外の方法での人件費の見直し
● 人件費の変動費化による組織改革の推進
● 退職の勧奨や希望退職者の募集
● 整理解雇の検討や実施
まずは、解雇とは異なる方法での人件費の見直しや組織改革の推進を実施して、解雇をできるだけ避けるための努力をしていく。それでもなお解雇が避けられない場合には、労働者の合意の上で自主的に退職届を提出してもらえるように、退職の勧奨や希望退職者の募集を実施する。
退職の勧奨や希望退職者の募集をしても人員整理の目標に届かない場合には、整理解雇の手続きに進むという流れを取る。
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まとめ
リストラとは、「restructuring(リストラクチャリング)」を省略した言葉のことだ。本来の意味は「再構築」や「構造改革」であるが、日本では人員削減としての意味合いが強く、整理解雇と似た表現として使われている。
リストラが検討されるケースは、業績悪化や吸収合併、黒字リストラなどだ。日本でリストラを指すことの多い整理解雇は、企業側の事情による人員削減であって労働者側に非はない。そのため、他の解雇と比較してもより確かな妥当性が求められる。例えば、客観的で合理的な基準を決めていないと、解雇権の濫用だと判断される恐れがあることなどに注意が必要だ。
今回ご紹介したリストラを実施する際の4つの要件や、実施する際の検討事項と主な手順などをしっかりと理解した上で、実際の企業活動で活用していこう。