玉突き人事とは、欠員が発生したことで必要となる突発的な人事異動のことである。この記事では、玉突き人事とは何か、配置転換やジョブローテーションとの相違点、起こる原因を分かりやすく紹介する。メリットやデメリット、防止するためのポイントも併せてチェックしよう。
目次
玉突き人事とは
そもそも玉突き人事とは、社内の空きポジションに他の社員を突発的に異動させることを指す。他の社員を異動させたことでまた異なるポジションが空くため、その人材の不足を補うようにとまた別の社員を異動させることになり、社内での異動が連鎖していく。この様子がまるでビリヤードで突かれた玉のようであるとして、玉突き人事と言われている。
急な離職で欠員が出たものの、採用活動が難しいときなどに玉突き人事が行われる。欠員補充のために必要となる人事施策ではあるものの、計画性に欠けていて、会社にも従業員にも負荷が大きいとも言われている。
配置転換との違い
一方で、配置転換とは年次ごとに実施する人事異動のことを指す。玉突き人事と配置転換の違いは、以下の通りである。
<配置転換>
適切な配置になるように、事前に計画していた人事異動のこと。勤務地や職種、業務内容など、様々な面を含めて変更するものであり、企業側に明確な意図がある。
<玉突き人事>
人手不足による急な欠員を補うために行われる、応急処置的な人事異動のこと。やむを得ずに実施することが多く、戦略性や計画性が欠如した人事異動になりやすい。
このように、配置転換と玉突き人事はどちらも人事異動を指す言葉ではあるものの、戦略性や計画性などに大きな違いがあるものだ。配置転換とはもともと計画済みのものであり、事前に十分な検証をしているが、玉突き人事は十分に有効性を検証できないままに進められていく。
ジョブローテーションとの違い
ジョブローテーションとは、定期的に社員を様々な部署に異動させたり、職務を変えたりしていく人事異動の方法のことである。あえて関連性のない部署などに配置して、多角的な視点やスキルを持ち、会社全体を俯瞰できるような人材に育てていくことを目的として実施する人事異動だ。
玉突き人事とジョブローテーションの違いは、以下の通りである。
<ジョブローテーション>
社員の能力を開発し、キャリアを広げるために行われる人事制度。数か月や半期、数年に1度など、定期的なサイクルがある。本来の業務と異なることを体験でき、ジェネラリストとしての視点を持てることが特徴である。
<玉突き人事>
一時的な欠員を補うことを目的とした、計画性のない人事異動のこと。
このように、玉突き人事とジョブローテーションは、どちらも異動すること自体は同じではあるものの、実施する目的に大きな違いがある。ジョブローテーションは人材を育てていくことを目的として戦略的に実施しているが、玉突き人事はポジションの穴埋めとしての目的が大きいものだ。
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玉突き人事が起こる原因
メリットやデメリットの詳細は後述するが、玉突き人事は戦略や計画性を考慮できないまま突発的に実施するため、企業にとってもリスクが高く、できれば避けたいものである。玉突き人事が起こる原因は、大きく分けると以下の通りだ。
<欠員などによる急な人材調整の必要が出たため>
ある部署の社員が突然退職してしまったときなど、想定していなかった欠員が出ると、玉突き人事が起こる原因となり得る。そのままにすると同じ部署の人の負担が大きくなってしまい、業務が回らなくなる可能性もあるため、突発的な人事異動によって人手不足を補う必要があるのだ。
<社員間の不正防止のため>
玉突き人事には、社員間の不正防止を目的としたものもある。人事異動が長期間ないままで、業務内容も変わらない部署では、マンネリ化しがちで馴れ合いになってしまいやすくなるものだ。生産性の低下や取引先との癒着につながる可能性があるため、あえて玉突き人事をすることで部署の雰囲気を変えることがある。
<問題のある部署の廃止や改善、見直しのため>
問題のある部署の改善なども、玉突き人事が起こる原因の一つだ。人間関係などの問題を抱える部署では、迅速な対応をするためにあえて玉突き人事を行うケースがある。
人間関係は大きな問題となり得るものだ。話し合いではなかなか解決できないのであれば、玉突き人事によって早期解決を図ることがある。
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玉突き人事のメリット
玉突き人事を実施することによるメリットは、大きく分けると以下の通りだ。
<人員不足の解消>
退職などによる突発的な人員不足をすぐに解消できることが、玉突き人事のメリットである。一般的な人事異動は、社員の長期的な育成計画などを考慮して行うため、長期的な人材開発や組織の安定化といったメリットがあるものの、柔軟な対応は難しい。玉突き人事であれば、場当たり的な対応にはなるものの、人員不足による課題を早期に解決できる。
<業務内容の是正>
玉突き人事では、意外性のある人材配置が起こり得る。長く人事異動がない状態は、マンネリ化や社員同士の癒着や馴れ合いなどにつながりやすく、通常の人事異動だけでは暗黙のルールがそのままになってしまうことがある。玉突き人事によって異なる価値観や方法論を持つ人材を配置することで、業務改善や組織風土の是正、既存社員の意識向上につなげられる。
<人員配置バランスの適正化>
人事異動の方針がきっちりと決められていると組織は安定するものの、柔軟な異動ができずに人員がアンバランスになるケースがある。玉突き人事によって柔軟に対応することで、人員配置バランスの適正化が可能だ。
<部門や組織の再生、活性化>
玉突き人事は、部門や組織の再生、活性化も期待できる。先述の通り、人間関係に問題がある部門などでは、玉突き人事を実施することで問題解決を狙える。
また、社内でのキャリアパスが決まっていると、通常の人事異動だけでは似たような経験や価値観を持つ人材に偏ってしまいかねない。玉突き人事によって異なる価値観のある人材が入ることで、組織内のコミュニケーションの活性化などが期待できる。
玉突き人事のデメリット
一方で、玉突き人事を実施することによるデメリットは、以下の通りだ。
<社員のモチベーションの低下>
玉突き人事によって突発的に人事異動があると、社員のモチベーションの低下につながりやすい。特に、希望と異なる部署への異動や、本来の部署でしたかった仕事があった場合に顕著だ。この企業のままではキャリア形成が難しいと感じられてしまうと、人材の流出につながる恐れもある。
<キャリア育成が難しい>
通常の人事異動とは違って、場当たり的に異動させることとなる玉突き人事では、キャリアの形成が難しい。空いたポストを埋めることを優先するあまり、計画的な人材育成が困難になり、スキル習得の機会が失われる可能性がある。玉突き人事の後に、再度キャリア形成をフォローする必要があるだろう。
<異動先における負担の増加>
本人も管理者側も予想外のところへ急に異動することとなるため、どちらにとっても負担の増加につながる恐れがある。異動に伴う混乱を避けにくく、研修コストや教育係のアサインなどの負担がかかる。また、人間関係の再構築が必要となることも負担となり、生産性や士気の低下につながる可能性があるだろう。
<適材適所の人材配置が困難>
通常の人事異動とは異なり、連鎖的に異動させる玉突き人事では、一人ひとりに合った適材適所の人材配置ができない恐れがある。適性の高い部署から低い部署へ異動させたことで、その後の人員配置も複雑化する可能性があるのだ。
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玉突き人事を防ぐためのポイント
玉突き人事にはメリットがあるものの、その場しのぎの場当たり的な対応となってしまいがちで、デメリットの大きなものである。玉突き人事をできる限り防ぐためのポイントは、大きく分けると以下の通りだ。
<長期的な組織計画を作成する>
長期的な組織計画を事前に作成することで、玉突き人事を防ぎやすくなる。生産性の向上や社員のキャリア形成に適した組織体制、社員ごとの意向や能力、適性などを把握して、育成計画の範囲で人事異動できるようにすると良いだろう。
<事前に異動の範囲を明らかにしておく>
事前に誓約書や就業規則などで、ある程度の人事異動があることを伝えておくこともポイントだ。事前に理解を得ることで、急な人事異動への戸惑いを減らせるだろう。また、社員ごとの育成基本計画を作成しておくと、人材が定着しやすくなって玉突き人事の必要性を低下させられる。
<社員のキャリアプランを把握する>
急な人事異動によって社員のキャリア形成を阻害しないように、事前にキャリアプランを把握しておくこともポイントの一つだ。人事異動によるミスマッチを軽減でき、納得感のある説明を行えるだろう。
<人事異動の戦略化を意識する>
異動における目的や理由を明確にして、長期的な組織計画と経営戦略を基にした人事異動を行えば、生産性の向上が見込める上、社員が希望するキャリア形成をサポートできる。適材適所の人事配置ができ、人材が定着しやすくなるため、玉突き人事の原因とされる退職する社員を減らせるだろう。
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まとめ
玉突き人事とは、社内の空きポジションに他の社員を突発的に異動させることである。異動させたことでまた異なるポジションが空くため、社内での異動が連鎖していくのが特徴で、まるでビリヤードで突かれた玉のようであることが名前の由来だ。
玉突き人事を実施することによるメリットは、人員不足の解消や業務内容の是正、人員配置バランスの適正化などがある。しかし、その場しのぎの場当たり的な対応となってしまいがちであるため、デメリットの大きなものだと言われている。
今回ご紹介した玉突き人事が起こる原因や防止するためのポイントなどをしっかりと理解した上で、実際の企業活動で活用していこう。