企業の経営危機を回避するために、人員削減を目的とした整理解雇がなされることがある。今回は、整理解雇の概要や、整理解雇が認められるための要件、普通解雇や懲戒解雇との違いを紹介する。さらに実施する際のステップや注意点も解説するため、あわせてチェックしよう。
目次
整理解雇とは?
整理解雇とは、経営危機を回避するために人員削減を目的として実行される、会社都合による労働契約の終了のことだ。業績悪化に伴う措置であり、従業員の同意がなく、使用者の経営上の判断によって行われるものである。
そもそも解雇とは、使用者からの申し出によって一方的に労働契約が終了することを指す。解雇はいつでも自由にできるわけではなく、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合にのみ可能だ。
近年では、新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言による外出自粛といった社会情勢により、多くの企業の業績が急激に悪化した。この影響により、多くの企業で過剰人員の削減などが検討され、実際に解雇や雇い止めが実行された。
整理解雇は、雇用契約違反などによる解雇とは違い、人員や人件費の削減を目的とした経営上の判断であることが大きな特徴である。役員報酬の削減や経費の削減、残業の禁止などによってさまざまな経営努力を行っていても業績が傾いている場合に、最終的な手段として実施されるのが整理解雇だ。
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経営危機におちいった場合、整理解雇として人員削減を目的とする解雇ができるとはいっても、使用者側が好きなように従業員を辞めさせられるわけではない。労働者は、労働基準法や労働契約法といった労働法規を定めることで手厚く保護されているため、解雇には厳格な制限があるものだ。
企業は正しい整理解雇の手続きを行い、不当であると判断されないようにしなければならない。整理解雇などの解雇の判断を行う場合、正しい手続きがなされないと、整理解雇が無効となったり、従業員に慰謝料や損害賠償を請求されたりなど、重大な裁判トラブルに発展する可能性があるため、慎重に検討すべきである。
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整理解雇を行うための要件
それでは、どのような要件を満たせば整理解雇が不当だと判断されないのか、詳しくチェックしていこう。
まず、裁判所で整理解雇が適法かどうかを判断する際は、以下の4つの要件を基準にする。
1.人員整理の必要性
整理解雇を行うことが、企業の運営にとって合理的かつやむを得ないといえるような必要性があるかどうかが重要だ。企業の経営状況の悪化を、客観的に提示できることがポイントとなる。
例えば、新規求人の停止や派遣契約の打ち切りをして、それ以外の支出も見直されている場合、企業努力をしていると認められやすい。新規の採用を募集していると、人員整理の必要性と矛盾すると判断されやすいため、整理解雇を行う際には採用活動にも気をつけよう。
2.解雇回避努力
企業が経営危機にあったとしても、ただちに整理解雇が認められるわけではない。「解雇を回避する努力がされているかどうか」も重要な判断の要件となる。
整理解雇以外の経営改善施策を実施済みであり、整理解雇以外に方策がないことがポイントだ。解雇回避努力と認められる整理解雇以外の経営改善施策としては、残業時間の見直しや、希望退職者の募集、派遣社員やパート労働者の削減、役員報酬の削減などがある。
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3.被解雇者選定の合理性
やむをえず整理解雇の対象者を選んだ場合、被解雇者の選定が合理的かつ客観的な基準に基づいて行われたかどうかも、整理解雇の正当性を考える際の判断ポイントとなる。
解雇される者の選定をする際は、勤務成績や貢献度、過去の勤怠状況、整理解雇による経済的打撃の程度、雇用形態、勤務地などを基準とするケースがある。
4.従業員への説明義務の履行
「整理解雇対象の従業員や労働組合に対して、十分な説明と協議を行い、説明がつくされたかどうか」や、「労働者側の意見を聞き、十分に検討したかどうか」も裁判所の判断ポイントとなる。企業の状況から見た人員削減の必要性や、解雇を回避するために行った努力、解雇の時期や規模などについて事前に説明や協議を行い、説明義務を履行することも重要だ。
また、労働者の要望や、解雇された場合に困る事情などを聞き取ることも必要だろう。
整理解雇と普通解雇・懲戒解雇との違い
解雇には、整理解雇のほかに普通解雇や懲戒解雇もある。整理解雇と普通解雇、懲戒解雇との違いは、以下のとおりだ。
整理解雇……不況や経営不振、経営合理化を進めるためなど、人員整理を目的として行う解雇
普通解雇……労働者による債務不履行を主たる理由とする解雇
懲戒解雇……労働者の重大な規律違反に対する懲戒処分としての性質を持つ解雇
続いては、普通解雇と懲戒解雇をそれぞれ詳しくチェックしていこう。
普通解雇とは
普通解雇とは、労働者の勤務態度不良や職務上の規律違反など、労働者による債務不履行を主な理由とする解雇であり、解雇理由は労働者側に起因する。普通解雇を実行するためには、就業規則に明記された解雇事由に該当する必要がある。労働者側に深刻な問題があり、雇用契約関係の維持や継続が難しいと認められるかによって、解雇が無効となるかどうかが判断される。
整理解雇は普通解雇のひとつとして分類されるものの、実際には異なる使い方がされているようだ。整理解雇が人員整理を目的とした企業側に起因する解雇であるのに対し、普通解雇が職務上の規律違反などの労働者側に起因する解雇であるといった違いから、両者は区別して使うことが多い。
懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、労働者側による非違行為に対する懲戒処分のうち、とくに重い懲罰として行われるものだ。たとえば、業務上横領や深刻な業務命令違反、長期間の無断欠勤などがあてはまる。
整理解雇は従業員の非違行為がなく解雇が行われるため、懲戒解雇とは大きく異なる。また、普通解雇と懲戒解雇を比べると、労働者に起因する点では共通するものの、懲戒解雇は犯罪行為などの悪質性が高いため、取り扱いを明確に分ける必要があるだろう。
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整理解雇を実施する場合の5つのステップ
整理解雇を行う場合は、以下の5つのステップが必要である。
1.解雇基準の策定
まずは人員削減の必要性を確認したうえで、整理解雇の対象者を選ぶ基準を策定する。解雇人数や対象者の範囲、除外事項、解雇日、退職金の取り扱いなどもあわせて決めておく。
2.従業員に対して解雇基準を告知する
全従業員に向けて、文書などで整理解雇の実施理由や解雇人数、対象者、解雇日、退職金の取り扱いなどを告知する。
希望退職者を募集し、退職を勧奨(かんしょう)してから整理解雇を考えている場合は、希望退職者を募集する段階で、説明や協議を実施する必要がある。
3.解雇対象者の選定の実施
解雇基準の告知後に、対象者を具体的に選定していく。解雇対象者の選定をする際の具体的な基準の例は、欠勤や遅刻回数、協調性といった勤務態度、勤続年数、過去の実績や資格の有無といった労務の貢献度合い、年齢、家族構成などがある。
整理解雇の対象者を選ぶ基準を決めておくと、一貫した対応ができるようになり、人員整理策の合理性を高められ、整理解雇が有効だと認められやすくなる。
4.解雇の告知
解雇実施日の30日前までに、対象者に対して解雇を告知しておく。告知は口頭で行っても問題はないものの、正確性を期するために書面で行うと良いだろう。
5.退職手続きの実施
解雇実施日に、解雇者に対して「解雇辞令」を交付する。もしも解雇実施日に解雇辞令を直接手渡せない場合には、書留郵便などで送付しよう。
そのほかに、退職金の支払いや退職手続きも実施する。
整理解雇を行う場合の3つの注意点
整理解雇を行う場合に注意すべきポイントは、以下の3つである。
1. 解雇実施日の30日前までの解雇予告の履行
2. 退職金の割増支給
3. 有給休暇の消化
整理解雇後にトラブルになる可能性があるため、これらのポイントには気をつけなければならない。また、一方的な方法ではなく、労働者に会社都合の解雇を認めてもらうことや、アルバイトやパートに対しても適切な手順で対応することも必要だ。
それでは、整理解雇を行う場合の注意点について、詳しくチェックしていこう。
1.解雇予告の履行
整理解雇を実施する場合には、解雇の30日前までに当該労働者に対して予告することが必要である。もしも解雇実施日の30日前までに告知できない場合は、「解雇予告手当」を支払わなければならないため、注意しよう。解雇予告手当の支払いがなかった場合、賃金未払いとして労働基準法違反に抵触する恐れがあるからだ。
解雇予告手当の支払いは、破産寸前の状態で企業側に支払い能力がない場合でも必要となることに気をつけよう。
2.退職金の割増支給
整理解雇を行う場合は、通常の退職金よりも上乗せして支給するケースが多い。希望退職者の募集の際にも、退職金の上乗せをすること、整理解雇が企業側の経営上の理由で行われる解雇であることなどが理由だと考えられる。
ただし、法的に退職金の上乗せが規定されているわけではなく、必ずしも退職金が支給されるわけではない。
3.有給休暇の消化
整理解雇を実施した際には、有給休暇の未消化分の取り扱いが問題になりやすい。法律上、一定の要件を満たせば、有給休暇は当然付与されるものであり、取得する時期も自由であると定められている。
整理解雇によって退職する場合であっても、有給休暇は消化されるべきであり、企業側が取得自体を拒むことはできない。
年次有給休暇の残日数のほうが整理解雇日までの日数よりも多い場合は、すべての有給休暇を取得できないままになってしまう。無用なトラブルを避けるためには、状況や事情に応じて、恩恵的に買い取ることなどを検討しても良いだろう。
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まとめ
整理解雇とは、人員削減を目的として会社都合による労働契約の終了がなされることだ。経営危機におちいった場合などに、人員削減を目的とする解雇ができるのだ。とはいえ、使用者側が好きなように従業員を辞めさせられるわけではないため注意が必要である。
整理解雇は正しい手続きをしないと、裁判所から不当だと判断されかねず、整理解雇が無効となったり、慰謝料や損害賠償を請求されたりする可能性がある。重大な裁判トラブルに発展しないように、整理解雇は慎重に検討すべきである。
今回紹介した整理解雇の概要や要件、実施する場合の5つのステップ、注意すべきポイントなどをしっかりと理解し、実際の企業活動で活用していこう。