2023.3.29

有給休暇の時季変更権について権利行使の条件や注意点を解説

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原則的なルールとして、労働者はいつ有給休暇を取得できるかを決められるが、企業側には日時の変更を求められる時季変更権がある。今回は、有給休暇の時季変更権の概要や条件、注意点などを紹介する。さらに時季変更権を濫用することによるリスクも解説するため、あわせてチェックしよう。

有給休暇の時季変更権とは?

時季変更権とは、労働者側が申請した有給休暇の時季(タイミングなど)を企業側が変更する権利を指す。

労働法によると、「有給休暇をいつ取得するかは労働者が決められる」ことが原則とされている。ただし原則的なルールとして有給休暇の取得日を労働者が決められるとはいえ、労働者の指定した日時で有給休暇を取得されると、会社の事業運営に支障が生じることがある。このような場合に、企業から労働者に日時の変更を求められることを、時季変更権と呼ぶのだ。

企業に有給休暇取得時季の変更権があるとはいっても、好きなように変えられるわけではない。企業側が有給休暇の時季変更権を行使する際は、注意すべき点やリスクがあることに気をつけ、濫用にならないようにすべきだろう。

労働基準法39条5項の規定によると、以下のように定められている。

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

引用:3.年次有給休暇の時間単位付与 – 厚生労働省

このように、企業側の時季変更権は「事業の正常な運営の妨げになる場合」にだけ行使できる権利であり、有給休暇をどのような目的で使うかなどは労働者の自由である。また、労働者が持つ権利のほうが企業の時季変更権よりも強いため、強制力のある権利ではない。時季変更権を行使するならば、労働者からの合意を得るようにしよう。

時季変更権と似た言葉として、「時季指定権」や「時季指定義務」がある。このうち、時季指定権とは、有給休暇の日にちを指定する権利のことで、従業員が持っている。

また時季指定義務とは、年5日分の有給休暇の取得日を指定する企業側の義務のことだ。年10日以上の年次有給休暇の付与がある労働者に対して発生する義務で、遠慮して有給休暇を取得しない労働者が多かったために設けられたものである。この場合、労働者の意見を尊重しつつ、使用者が有給休暇の取得日を決めるという手順で行われる。ただし、すでに有給休暇を5日以上取得している労働者に対しては、使用者が時季指定を実行しなくても良い。

参考:労働基準法 | e-Gov法令検索

関連記事:有給休暇の5日間取得義務化とは?目的や対象、罰則を説明

時季変更権行使の条件とは?

時季変更権を行使するための条件は、先述のとおり「有給休暇の取得が事業の正常な運営を妨げる場合」であることだ。行使の正当性を認められるかどうかは、希望どおりの有給休暇を取得させるための配慮が判断基準となる。

基本的に、もしも繁忙期に労働者が有給休暇の取得を希望したとしても、できる限り希望どおりになるように企業側が配慮することが求められているのだ。そのため、「繁忙期のため今ではなく来月にしてほしい」とすぐに労働者へ伝えるのではなく、以下のような状況に応じた努力をして、希望する日に有給休暇を取得できるように対応すべきなのだ。

● 代わりの従業員を確保する
● 勤務のシフトを変更する

企業側が時季変更権を行使できる条件は、以下の要素によって異なってくる。

● 事業所の規模や業務の内容
● 当該労働者の担当する職務内容や性質
● 職務の繁閑(繁忙期と閑散期)
● 代替要員確保の容易性、同時季に年次有給休暇を指定した員数
● これまでの労働慣行など

これらの要素が考慮されたうえで、時季変更権の行使に正当性があるかどうかが総合的に判断されるのだ。たとえば、繁忙期の真っ最中に「明日から2週間有給休暇を取る」との希望を出された場合、2週間も代替要員を確保することは困難であると考えられる。この場合、時季変更権の行使の正当性が認められやすいだろう。

また、仮に6人しかいない部署で業務の繁忙期に3人から同時季に年次有給休暇を指定された場合も、代替要員の確保が困難であると考えられる。そのため、時季変更権の行使の有効性は高いと判断されやすいだろう。

ただし、企業や従業員の事情によっては、時季変更権の行使ができない場合もある。たとえば、以下のようなケースがありえる。

● 従業員の退職(解雇)予定日までの日数が保有する有給休暇日数よりも少ない
● 事業廃止や倒産などにより、有給休暇を取得しておかないと有給休暇を消化できなくなる
● すぐに有給休暇を取得しないと、従業員の有給休暇が時効によって消滅してしまう
● 時季変更権を行使すると産後休業や育児休業などの期間に重なってしまう

このように、行使の正当性を認められるかどうかは、さまざまな場合で異なるものだ。

関連記事:男性育休制度の現状と企業の取り組み、最新の改正育児介護休業法を解説
関連記事:サバティカル休暇の意味は?ヤフーなど日本企業の事例、導入する際の注意点

時季変更権行使時の注意点

企業に有給休暇の時季変更権が認められたとしても、権利を行使するためには、あらかじめ就業規則で規定しておき、行使の際に理由を明示する必要がある。なぜならば、有給休暇の時季変更権の行使によって、従業員と企業側の意見が対立してトラブルに発展してしまうことがあるからだ。

就業規則にはその企業で働くためのルールが記載されているため、なにかあった場合には従業員に参照されることが多い。有給休暇の申請どおりの時季では事業の正常な運営を妨げる場合は、時季変更権を行使する可能性があることを明記しておこう。このように従業員に対して事前に周知しておけば、トラブル防止につながるだろう。

また、企業による時季変更権の行使が正当な場合であっても、従業員の理解が得られないとトラブルが起こり得るため、注意が必要だ。できる限りトラブルを避けるためには、従業員に対して十分に納得してもらえるような説明を果たすようにしよう。

時季変更権行使が問題となるケース

実際にどのような場合に時季変更権行使が問題となるのか、具体的な事例をチェックしておこう。時季変更権の行使がトラブルとなった事例として、以下の2つを解説する。

● 繁忙期を理由とする時季変更権行使
● 長期連続の有給休暇に対する時季変更権行使

また、退職前に消化するために取得する有給休暇も、変更を求めると問題となるケースがある。これは、異なる日に有給休暇を与えられないためだ。

それでは、時季変更権行使がトラブルとなる2つのケースについて詳しく見ていこう。

事例1:繁忙期を理由とする時季変更権行使

繁忙期を理由に時季変更権を行使したという事例は数多くある。しかし、繁忙期だという理由で時季変更権を使っても、適正だとは認められにくい。

時季変更権行使には企業側の合理的な努力が必要であり、多くの裁判例では繁忙期を理由とする行使を認めていない。努力をしても事業の正常な運営が困難なときのみ行使可能な権利のため、「繁忙期ならば仕方がない」のではなく、どうしても代替勤務者を確保できない場合などに限って権利を行使しよう。

関連記事:人事カレンダーから立てる広告計画/日本の企業人事担当者の繁忙期は?

事例2:有給休暇が長期連続にわたる場合の時季変更権行使

長期間の連続した有給休暇取得に対して時季変更権を行使したケースでも、トラブルになった事例は多い。例えば、24日間もの連続する有給休暇の取得に対して、企業側が後半の10日間分の時季変更権を行使したことで裁判になった「時事通信社事件」の事例などだ。

とはいえ、長期間の連続する有給休暇の申請は、事業に対する支障が大きいと判断されやすい。この事例の場合、裁判で企業側の時季変更権行使が認められたのだ。

有給休暇が長期間の連続にわたる場合であっても、すべてに対して時季変更権を行使すると、適切ではないと判断される可能性がある。事業の運営に支障が生じる日のみに対して時季変更権を行使するようにしよう。

時季変更権濫用によるリスクとは?

企業が時季変更権を行使できるとはいっても、濫用してしまうとパワハラに認定されてしまい、損害賠償請求の対象となる可能性がある。例えば、従業員に有給休暇を取らせないようにしている場合や、有給休暇の取得希望日を数回変更しても認めない場合などだ。

関連記事:パワハラ防止法の中小企業への義務化を解説!

また、時季変更権の行使が悪質だと判断された場合には、企業に対して罰則が適用されるリスクがあるため注意しよう。合理的な理由もなく時季変更権を行使すると、労働基準法第39条に違反してしまう。

企業側に罰則が課せられた場合には、労働基準法第119条に定められている「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が適用される。パワハラが成立した場合、当該従業員に対する慰謝料を支払わなければならない可能性もあるだろう。

一方で、適法な時季変更権の行使であれば、有給休暇を申請した日であっても労働者には働く義務が発生する。企業の適法な時季変更権の行使を従業員が無視して勝手に長期間欠勤した結果、始末書などを提出させて厳重注意をする譴(けん)責処分のうえ賞与を減給した事案を、適法であると判断した判例が過去にあるのだ。

しかし、「どのような場合であれば時季変更権が認められるのか」は判断が難しいだろう。有給休暇の時季変更権の行使は、慎重にすべきだといえる。できる限り、時季変更権の行使をしなくとも人員の調整などが可能な職場づくりをしていくといいだろう。

参考:労働基準法 | e-Gov法令検索

最後に

基本的に労働者には時季指定権があるため、いつ有給休暇を取得できるかを決められる。一方で、企業側にも日時の変更を求められる時季変更権がある。

有給休暇の取得時季を変更する権利があっても、好きなように取得時季を変えられるわけではない。有給休暇の時季変更権を行使する際は、注意すべき点やリスクがあることに気をつけよう。また、適法な時季変更権の行使であれば、労働者には働く義務が発生するため、もしも時季変更を無視して労働者が欠勤したならば、企業は処分をくだすことも可能だ。

とはいえ、時季変更権が認められるのかどうかの判断は難しく、裁判で「適正ではない」と判断されることはよくある。人員の調整などがしやすい職場づくりをおこない、時季変更権の行使をしなくとも対応できるようにすることをおすすめする。

今回ご紹介した有給休暇の概要や行使する際の条件、注意すべきポイント、問題となるケースなどをしっかりと理解し、実際の企業活動で活用していこう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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