北米企業を中心に用いられる人事施策にレイオフがある。レイオフは企業の業績悪化を理由とした一時的な解雇で、一般的な解雇やリストラとは異なるのが特徴だ。
近年、企業のグローバル化にともなった解雇規制緩和が検討されるなか、人事担当者にもレイオフの意味を正しく理解することが求められている。今回は、レイオフの意味や、企業の目的、ほかの人事施策との違いを解説する。
目次
レイオフとは?
レイオフは、日本語で「一時解雇」や「一時帰休」(従業員を一時的に休業させること)などを意味する。景気変動や不況などで企業業績が著しく悪化したとき、人件費を抑制するために用いられる人事施策だ。
「一時」とあるように、レイオフは従業員を完全に解雇するわけではない。通常の解雇とは異なり、企業業績が回復した場合は再雇用することを前提とした一時的な解雇である。
企業が目指す業績に回復するまでの経過措置として、レイオフは実施される。米国やカナダなどの北米企業で用いられることが多く、勤続年数が短い従業員から一時解雇の対象にしたり、勤続年数の長い従業員から優先的に再雇用したりする先任権制度を導入する企業もある。
近年のレイオフの状況
近年の日本でも、IT企業を中心に大規模なレイオフの実施が相次いでいる。たとえば、情報アプリを展開するスマートニュース株式会社は、海外拠点を中心に人員削減することを発表した。2023年1月に実施された全社対象のオンラインミーティングで、代表取締役会長・CEOである鈴木健氏がレイオフに関する説明を行ったのだ。
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スマートニュース株式会社は、米国に3拠点、中国に2拠点を設ける日本企業である。欧米中央銀行の利上げで景気後退が懸念されるなか、人員削減でコストを圧縮するのが狙いだ。また、日本でも希望退職プログラムが検討されており、全従業員の4割が対象者となった。
ただし、日本では雇用規制上、一時的な解雇が認められていない。日本で実施される希望退職プログラムは、あくまで自ら手を挙げた従業員に適用が限られている。希望する従業員には、勤続期間に応じて給与の数ヵ月分の退職金が支払われ、必要に応じて転職支援も受けられるそうだ。
レイオフの目的とは?
業績が回復するのか不明確な状況で、北米企業では完全に解雇するのではなく、再雇用を前提とした一時解雇を選択する企業が少なくない。
レイオフを実施する目的には、以下のことが挙げられる。
1. 人件費の削減
2. 人材の流出防止
以下でそれぞれの項目を詳しくチェックしよう。
1.人件費の削減
企業がレイオフを選択する目的には、人件費の削減が挙げられる。経費のなかで占める割合が大きい人件費は、業績悪化で利益が出ない状況下で工面し続けるのは難しい。人件費を削減して固定費にかかる金銭的負担を減らすために、レイオフを決断する企業が多いのだ。
休業期間中の補償が必要になる一時休業と異なり、レイオフは解雇した従業員に対して給与を支払う義務はない。レイオフで抑えられた人件費は、業績回復させるための費用にあてられる。業績回復後に解雇した従業員を再雇用すれば、戦力を取り戻せるメリットもある。
2.人材の流出防止
あえて従業員を解雇せずレイオフするのは、人材流出を防止する目的も挙げられる。新入社員を戦力となる人材に育てるには、膨大なコストがかかる。育てた人材を完全に解雇すると、人材育成にかけた金銭的かつ時間的コストが無駄になるのだ。また、解雇した従業員が同業他社に転職し、優秀な人材が他社に流出するリスクも考えられる。
流出するリスクは人材だけではない。解雇した従業員が転職すると、自社独自の技術やノウハウが流出してしまうリスクもあるのだ。最悪の場合、業績回復の妨げになるおそれもあるだろう。
つまり人事施策としてレイオフを選択すれば、優秀な人材の流出防止に加えて、自社独自の技術やノウハウが流出するリスクも抑制できるのだ。
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レイオフとリストラ・解雇との違いとは?
レイオフと似た言葉に、リストラや解雇、一時休業がある。人事施策を検討するにあたり、これらの違いを正しく理解しておくことが大切だ。
以下でそれぞれの違いを詳しくチェックしよう。
1.リストラ・解雇
リストラは企業の業績悪化に伴い、組織の再構築を目的に実施される人員削減のことである。1990年代初頭に起きたバブル経済の崩壊では、業績が急速に悪化したため、大規模なリストラをせざるを得ない企業が続出した。
解雇には、懲戒解雇・普通解雇・整理解雇の3種類ある。
懲戒解雇は、就業規則に違反した従業員を処分するために行われる人事施策だ。解雇のなかでもっとも厳しい処分であるため、それ相応のやむを得ない事情がない限り認められることはない。
普通解雇は、従業員の能力不足や協調性の欠如、就業規則違反などに該当した場合に行われる処分である。業務に関することだけでなく、ケガや病気で就業できない場合も適用される。
整理解雇は、業績悪化を理由に実施される人員整理を目的とした解雇だ。レイオフやリストラは、整理解雇に該当する。ただし、レイオフは再雇用を前提とした解雇であることに対し、リストラは再雇用が前提とされていないのが大きな違いだ。
2.一時休業
一時休業は、業績悪化などの会社都合で業務縮小や操業短縮を行う場合、従業員の雇用を維持した状態で休業することだ。自宅待機や一時帰休も一時休業に該当する。
一時休業の目的は、レイオフと同じく人件費削減と人材流出の回避が挙げられる。一時休業は雇用関係が継続するため、一時的な休業という点では再雇用を前提としたレイオフと共通する。
ただし、レイオフは再雇用が前提であるものの解雇関係は一度切れてしまう。また、一時休業は雇用関係が継続するため、労働基準法第26条により従業員に平均賃金の60%以上を休業手当として支払う必要がある。つまり、従業員に一定賃金を保障しなければならない。
レイオフは再雇用が前提ではあるものの、完全に雇用関係が切れるため、休業手当は発生しない。業績悪化のなか休業手当の支払いが必要な一時休業を選択するのは、日本では労働組合や労働者保護の問題があるためだ。簡単に従業員を解雇できないため、業績悪化時の人事施策として一時帰休が用いられている。
参考:労働基準法「第二十六条」
なぜ、日本でレイオフが行われないのか?
北米企業を中心に用いられるレイオフだが、日本では行われていないのが現状だ。日本でレイオフが行われない理由には、以下の理由が考えられる。
● 労働法で正規労働者の雇用が守られている
● 合理的な理由がない限り解雇できない
ただし近年では解雇規制を緩める議論が活発化しており、日本でもレイオフに似た制度が設けられる可能性がある。以下で詳しくチェックしよう。
日本でレイオフが行われない背景
日本は労働者保護の目的から解雇実施の要件が法律で厳しく設定されており、業績が悪化しても簡単に正規労働者を解雇できないのが現状だ。レイオフは解雇に含まれるため、在籍させた状態で一時的に休業させる一時休業を選択する企業が多い。
また、正規労働者の解雇規制が厳しいため、解雇のしやすさを踏まえて非正規労働者を採用する企業も少なくない。ただし、非正規労働者も企業側の都合で簡単に解雇できるわけではない。やむを得ない理由がない限り契約期間中に解雇できないのである。
日本における解雇規制とは?
解雇規制は、正規雇用された正規労働者を守るための規制だ。労働契約法第16条において、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されている。労働契約法とは、雇用主が労働者を雇い入れる際に締結する労働契約に関する基本的な法律だ。
日本の企業は、第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけて終身雇用制が定着し、長期勤続を前提とした雇用システムがいまだにベースとなっている。終身雇用とは、企業が正規労働者を定年まで雇用する制度で、一度入社すると定年まで雇用されることが保証される。終身雇用制が定着していない海外に比べると、解雇が頻繁に行われていないのが実情だ。
現状の日本では簡単に解雇できないものの、レイオフにあたる整理解雇の実施は条件を満たせば行える。整理解雇の要件には、以下のことが挙げられる。
● 人員削減の必要性
● 解雇回避の努力
● 人選の合理性
● 解雇手続きの妥当性
以下でそれぞれの項目を詳しくチェックしよう。
人員削減の必要性
人員削減の必要性は、業績悪化など人員整理を行わなければいけない経営上の理由がある場合だ。経営状況を示す数値を用いて、どの程度経営が悪化しているのか客観的に説明しなければいけない。
解雇回避の努力
解雇回避の努力は、希望退職者の募集や配置転換、一時休業など従業員の解雇を避けるためにあらゆる努力を尽くした場合だ。企業にすべての手順を踏むだけの時間的余裕がないという理由では、あらゆる努力を尽くしていないと判断される場合がある。
人選の合理性
人選の合理性は、解雇するための人選基準が合理的かつ公平であることが挙げられる。勤務年数や勤務成績、年齢など複数の要素から解雇する対象者を選定するが、恣意的に判断してはいけない。
解雇手続きの妥当性
解雇手続きの妥当性は、労働組合、または労働者に対して解雇の必要性や実施時期、規模などを十分に説明しなければいけない。労働組合、または労働者に対して納得を得られるよう努力していない場合は、条件を満たしていないと判断される。
これらの条件を経て、企業は人員削減を理由に整理解雇を行える。その一方で、「一時休業するほど金銭的余裕がない」「配置転換する職場がない」など、段階的な雇用調整を行う余裕がない中小企業も多い。その結果、違法な権利侵害にあたる退職勧奨に踏み込まざるを得ない企業も存在する。
参考:労働契約法「第十六条」
参考:厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
解雇規制が緩和される可能性
終身雇用制が定着している日本では、長期雇用を前提とした雇用システムであるため、解雇は頻繁に行われていない。しかしその一方で、雇用形態は多様化しており、新卒一括採用で終身雇用という日本の雇用システムのあり方が見直されつつある。
関連記事:メンバーシップ型雇用は薄れゆく?ジョブ型雇用への転換で企業が求められることとは
また、日本の経済成長を促進するために、人材流動化の重要性も各方面から指摘されている。人材が企業間を移動することで産業が発展し、雇用市場の活性化につながると考えられているのだ。しかし日本の解雇規制は厳しすぎるため、人材の流動化や経済の成長を阻害している可能性があるという見方がされているのだ。
現在、規制緩和の一環として解雇規制を緩めるための議論が積極的に行われており、将来的に金銭的な補償との引き換えによる解雇やレイオフのような制度が実施される可能性も出てくるだろう。
関連記事:終身雇用は崩壊したのか?背景と原因、転職市場で必要なスキルを解説
まとめ
北米企業で見られるレイオフだが、日本では雇用規制の問題から簡単に行えないのが現状だ。しかし、厳しすぎる雇用規制が人材の流動化や経済成長を阻害している可能性があることが指摘されている。
将来的に、雇用規制が緩和されてレイオフのような制度が策定される可能性もある。今後の動向を丁寧に見ていく必要があるだろう。