近年、「終身雇用は崩壊した」と言われることが多い。今回は終身雇用の基礎知識や成立していた背景、メリットとデメリット、現状、崩壊したと言われる原因などを紹介する。
今後の転職市場で必要なスキルまで解説するため、併せてチェックしよう。
目次
終身雇用とは
そもそも終身雇用とは、よほどのことがない限りは定年になるまで雇用関係を継続することを指す。労働者を社員として一旦採用したら、企業は雇用が継続できるように様々な努力を行い、基本的には一時的にでも解雇をすることがないという雇用体制だ。終身雇用は、日本の経済成長に大きく寄与してきたシステムである。
「終身雇用制度」などと呼ばれているものの、厳密には制度ではなく、法律で何らかのルール化をしているわけでもない。企業側の努力目標であり、日本特有の雇用習慣と言った方が実状に合っているだろう。
終身雇用によって定年までの雇用を約束することで、安心して働けるというメリットがある。基本的に大きなルール違反がなければ、新卒で入社してから定年まで雇用が継続される一方で、社員は企業に忠誠心を持って働くのだ。終身雇用は、日本企業にとってスタンダードな雇用制度であった。
終身雇用という言葉が生まれたのは、アメリカの社会学者ジェームス・アベグレン氏が著した「The Japanese Factory」が元になっている。アベグレン氏は日本の工場を調査した上で、「日本ではどのような水準の工場組織でも、入社に際して労務者は働ける残りの生涯を会社に委託する」と書いている。
また、「会社は最悪の窮地に追い込まれない限り、一時的にでも彼を解雇することはしない」と記述して「lifetime commitment」と表現した。この部分を神戸大学教授の占部都美氏が「終身雇用の原則」と訳したことがきっかけとなり、終身雇用という言葉ができたと言われている。
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終身雇用が成立した背景
終身雇用制度の原型は、大正末期から昭和初期にかけて出来上がったようだ。戦前の日本では、企業による解雇や労働者による転職が日常的に行われていた。
1900~1910年代にかけては、熟練工の転職率は極めて高かったと言われている。優秀な人材の引き抜きや、より良い待遇を求める転職が当たり前で、当時の熟練工は5年以上勤続が続くのは1割程度しかいなかった。
当時の企業にとっても、熟練工の短期転職によって大変なコストがかかっていた。そのため、大企業などが勤務年数に応じた昇給や退職金制度、福利厚生の充実などの様々な奨励制度を行い、優秀な人材を引き留めようとしたのだ。これにより、年功序列を重視する雇用制度となっていった。
とはいえその後、日中戦争や第二次世界大戦によって労働環境が変化した。働き手である男性が徴兵された上に、軍需産業が高まるなどして、人手不足が深刻化したのである。このとき国が労働統制を行い、労働力を配備したことなどで、日本では「国や企業のために働き、それに対して国や企業が労働者の生活を保障する」という価値観が広まっていった。
ただし、労働力不足を原因とした短期工の賃金の上昇や、敗戦後に行われた社会制度の改革により、終身雇用の慣行は一旦衰退したと言われている。その後、1950~1960年代の高度経済成長の時代となると日本の景気は右肩上がりとなり、大きな労働力を必要としたため、多くの企業で労働力が不足した。
大企業を中心に年功序列や新卒一括制度、終身雇用制度を導入して雇用を安定させたことで、人材の確保ができるようになったのだ。このような制度は、経済が右肩上がりで今後の雇用を守れると約束できていたために成立したものである。
終身雇用のメリット
終身雇用は、企業側にも労働者側にも、どちらにとってもメリットのあるシステムだ。労働者にとってのメリットは、以下の通りである。
● 安定した収入が得られる
● 雇用に安心感がある
● 勤続年数により賃金が増すため、モチベーションにつながる
一方で、企業にとってのメリットは以下の通りだ。
● 十分な人材を確保し続けられる
● 長期的な視点での人材育成ができる
● 社員からの忠誠心や帰属意識が高まる
双方にとってのメリットについて、詳しくチェックしていこう。
労働者にとってのメリット
従業員は、終身雇用によって長年にわたる雇用が保障され、安心して生活できる。また、勤続年数によって賃金が増していくため、十分な安定的収入が得られることがメリットだ。
終身雇用があることで、よほどのことがない限りは、基本的に定年まで収入を得て生活し続けられるという見通しができるようになるのである。
また、年々賃金が増すことで、モチベーションを維持できるというメリットもあるだろう。
企業にとってのメリット
終身雇用を導入することによる企業にとってのメリットは、十分な人材を確保し続けられることだ。人材が長年働き続けてくれることで、安定した体制で企業活動が実施できるようになる。
また、長期的な目線で人材を育成できるというメリットもある。人事異動などで様々な経験を積み、社内特有のスキルを身に付けさせられるのだ。帰属意識や忠誠心が芽生えやすくなること、離職率の低下などもメリットである。
関連記事:新卒一括採用とは?日本特有の制度ができたきっかけやメリット、デメリット
終身雇用のデメリット
一方で、終身雇用のデメリットもある。労働者にとってのデメリットは、以下の通りだ。
● 若手社員のうちは処遇が低い傾向がある
● 安心感により努力を怠りやすくなる
企業にとってのデメリットは、以下の通りである。
● 人件費が高騰しやすくなる
● 社員が努力しなくなりやすい
● イノベーションが起こりにくい
それぞれ詳しくチェックしていこう。
労働者にとってのデメリット
終身雇用における労働者にとってのデメリットは、若手社員のうちは処遇が低い傾向があることと、安心感によって努力を怠りやすくなることだ。
終身雇用では、勤続年数が長い社員の処遇や賃金が高くなることが特徴である。その一方で、若手社員のうちは成果を上げていても正当な評価を受けにくい。この点を不満に感じて、モチベーションが低下しやすいため注意が必要だ。
また、長期的に企業に在籍できるという保障がある分、社員は安心感によって努力を怠りやすくなってしまう。努力しても正当な評価を受けられず、成果を出さなくても勤め続けられるため、パフォーマンスに拘らずに仕事をしてしまうケースがあるのだ。
企業にとってのデメリット
終身雇用を導入することによる企業のデメリットは、人件費が高騰しやすくなること、社員が努力しなくなりやすいこと、イノベーションが起こりにくいことである。
終身雇用は年功序列と共に運用されてきたため、社員の年齢が上がると支払う給与も増えていく。能力や経験がどうであろうと年齢が上がるだけで人件費が高騰してしまうため、注意が必要だ。また、組織の硬直化や人材の同質化が起こりやすく、イノベーションが起こりにくい環境になってしまう。
終身雇用の現状
終身雇用の現状は、「崩壊した」とも「日本では根強く残る」とも言われている。実際には、まだ終身雇用制度を残している企業もあるものの、多くの企業では廃止されているようだ。
若年期に入社後そのまま勤め続けた社員の割合は、年々減少し続けている。1995年には大卒の生え抜き社員の割合は6割以上、高卒の生え抜き社員は4割程度であった。その後低下し、2016年には大卒が5割程度、高卒が3割程度になっている。
とはいえ、生え抜き社員が減少傾向であることは間違いないものの、未だに同一企業で勤め続ける社員の割合はそれなりに高いままであると言えるだろう。同一企業で働く割合は、大卒社員は金融業と保険業が、高卒社員は製造業が高いようだ。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000358251.pdf
終身雇用「崩壊」の原因
終身雇用が崩壊したと言われるほど、制度を取り止めた企業が増えた原因は、以下の通りである。
● 日本経済の低迷
● 成果主義の採用
● 雇用の流動化
日本経済は、経済成長期に比べると縮小傾向にある。多くの企業が業績を伸ばした経済成長期には、従業員を長く雇用することでの人件費の負担よりも、人材を確保し続けられるメリットの方が大きかった。しかし、経済成長が鈍化したことで人件費の負担が重くなり、長期雇用が難しくなったのだ。
さらに、成果や実力を重視する成果主義を採用する企業が増えたこと、転職が珍しくなくなったこと、社員に求めるスキルの変化が激しくなったことも、終身雇用が崩壊した原因である。
関連記事:新入社員の転職検討が増えている背景とは?企業が取り組むべき対策
今後の転職市場で必要なスキルとは?
今後の転職市場で歓迎されるスキルには、コミュニケーション能力や新しい環境への適応能力、交渉力などのヒューマンスキルに加えて、ITリテラシーなどがある。
特に、業種や職種に関わらず通用する「ポータブルスキル」は、転職でアピールできるスキルであり、企業からの需要が高い。例えば、コミュニケーションスキルや目標設定スキル、問題解決能力などは業種や職種に関わらず必要なポータブルスキルの一種で、高い評価を得られる。
必要なスキルは、「リスキリング」によって取得するのも良いだろう。リスキリングとは社会人の学び直しのことで、基本的に会社組織の中で行われる。デジタル化が進んだことで、DXに関する仕事ができるように学び直すことが多く、不足しがちなデジタル人材を自社内で創出できるというメリットがある。
関連記事:ポータブルスキルとは?概要とスキル一覧、テクニカルスキルとの違いを解説
まとめ
終身雇用とは、よほどのことがない限りは定年まで雇用を継続することを指す。これは、経済が右肩上がりで今後の雇用を守れると約束できていたために成立した制度である。
労働者のメリットは以下の通りである。
● 安定した収入が得られる
● 雇用に安心感がある
● 勤続年数により賃金が増すため、モチベーションにつながる
一方で、企業のメリットは以下の通りだ。
● 十分な人材を確保し続けられる
● 長期的な視点での人材育成ができる
● 社員からの忠誠心や帰属意識が高まる
ただしデメリットも大きく、転職が珍しくなくなったことなどもあり、現在では終身雇用が崩壊したとも言われている。これらの情報を参考にして、実際の企業活動で活用していこう。