2022年に雇用保険法が改正され、その影響によって雇用保険料の値上げが行われた。今回は、雇用保険制度の概要や雇用保険料の値上げに関する情報などを紹介する。手取り30万円の人のモデルケースまで解説するため、あわせてチェックしよう。
目次
雇用保険とは?
そもそも雇用保険とは、会社員などの要件を満たす方が退職や失業した場合に、給与の代わりとして「失業等給付」を受けられるようにする労働保険のひとつである。
失業等給付によって、再就職もしくは起業するまでに必要となる給付を受けるもので、傷病手当金の給付も含まれている。ただし、医療費の負担軽減ではなく、再就職のために一時的に休業している間の生活を保障する目的で給付されるものだ。
雇用保険は広義の社会保険のひとつでもある。そのほかにも、健康保険や厚生年金保険、介護保険、労災保険が社会保険の種類だ。
失業等給付は、退職や失業をした際に約3ヶ月~1年間支給される。企業では、1人でも従業員を雇用したならば、強制的に雇用保険加入の適用事業となる。
ただし、その従業員の雇用日数が31日以上を見込めない場合や、1週間の労働時間が20時間未満である場合には、雇用保険に加入できない点に注意が必要である。
それでは、雇用保険制度の目的や加入条件、労災保険との違いなどを詳しくチェックしていこう。
制度の目的
雇用保険制度の目的は、働けなくなったときに備えることであり、労働者の生活や雇用の安定、就職の促進をするための制度である。もしも失業や休業することとなった場合に、給与が出ないために生活が困窮してしまわないよう、先述した失業等給付を受けられるように備えておける。そのため、雇用保険よりも「失業保険」という呼び方のほうがわかりやすい方もいるだろう。
失業時だけではなく、出産や育児、介護など継続して働けない事情ができたときの生活保障も該当する。また、雇用の機会の提供や就職に有利な知識やスキルの習得、資格取得に向けた職業訓練の受講など、離職した際の求職活動の支援も行っている。
加入条件
雇用保険に加入するための基本的な条件は、大きく分けると以下のとおりである。
● 雇用保険の適用事業所に雇用されていること
● 勤務開始時から最低でも31日間以上働く見込みがあること
● 1週間あたりの労働時間が20時間以上であること
● 学生ではないこと
雇用保険の適用事業所とは、先述したとおり1人以上従業員を雇い入れた場合に強制的に適用されるものだ。31日間以上働く見込みがあるかどうかは、実際に31日間以上働くかではなく、以下のようなポイントで判断される。
● 雇用期間の定めのない雇用か
● 31日未満での雇い止めの明示がない雇用か
● 同様の契約をした労働者での31日以上の雇用実績があるか
実際に31日間以上働かずとも、継続しないことが明確である場合以外には加入条件に該当するため注意しよう。
また、原則として学生は雇用保険に加入できない。ただし、内定をもらった企業で学生が卒業前から働く場合や、定時制の学生などは雇用保険加入の対象となる可能性がある。
労災保険との違い
雇用保険と混同されやすい言葉に労災保険がある。労災保険と雇用保険は、目的や支給内容、費用を負担する対象が違う。
労災保険とは、主に労働災害による傷病を負った労働者やその家族の保護を目的としている。労災保険で支給されるものは療養給付や休業給付、障害給付、遺族給付、傷病年金、介護給付だ。また、費用は全額事業主が負担することとなる保険である。
一方で雇用保険は、主に労働者が失業した際の生活の保護や再雇用の促進が目的である。支給されるものは基本手当や就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付で、基本手当のことは一般的に「失業手当」と呼ばれている。雇用保険の保険料は、事業主と従業員とで負担することとなる。
なお、労災保険と雇用保険をあわせた総称として、「労働保険」という言葉も使う。
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雇用保険料とは?
雇用保険料とは、雇用保険に加入するために必要となる掛け金を指す。先述のとおり、雇用保険料は該当の従業員と雇用主の双方で負担する。従業員側であれば給与から天引きされ、支払った金額は給与明細に保険料として記載される。
一方、事業者側は保険料を計算して支払う。そのため、雇用保険料の計算方法を把握しておく必要がある。
それでは、雇用保険料を算定する際に重要な、算定の基礎となる賃金や事業主の負担割合について、詳しくチェックしていこう。
雇用保険料算定の基礎となる賃金とは?
雇用保険料を算定する際の基礎となる賃金とは、税金や社会保険料などを控除する前の総賃金額である。臨時的な手当も含むため、厚生年金保険や健康保険に関する保険料を算定する際に基礎となる標準報酬月額よりも対象範囲が広いのが特徴だ。
雇用保険料算定の基礎となる賃金の例は、以下のとおりである。
● 給与
● 賞与
● 住宅手当
● 通勤手当
● 超過勤務手当
● 扶養手当
● 技能手当
● 皆勤手当
このように、さまざまな手当を含む金額が算定の基礎となる。ただし、役員報酬や結婚祝金、出張旅費、休業補償費、傷病手当金などは、雇用保険料算定の基礎となる賃金には含まれない。
雇用保険料の事業主の負担割合とは?
先述のとおり、雇用保険料は該当の従業員と雇用主の双方で負担する。しかし、同じく双方で保険料を負担する健康保険や厚生年金保険とは違い、その負担割合は労使折半ではなく従業員と事業主で保険料の負担の割合が異なることに注意が必要だ。
企業が負担する雇用保険料を計算する際は、「従業員に支払う賃金×雇用保険料率」で計算できる。雇用保険料の負担割合は、事業主のほうが該当する従業員よりも多くなる。また、事業の種類によって雇用保険の保険料率が異なることにも注意しよう。
参考:厚生労働省 我が国の構造問題・雇用慣行等について
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2022年の雇用保険法改正による雇用保険料の値上げとは?
2022年には、4月と10月に雇用保険料の引き上げが行われた。これらの引き上げは、雇用保険法が改正されたことによる影響である。今後、企業側と従業員側の負担額が増加すると考えられる。
雇用保険料の変動があるのは珍しいことではなく、以前にも上げ下げが行われていた。たとえば、2017年~2021年9月には引き下げがあり、2021年10月からは引き上げられていたのだ。また、税率が一時的に変更される「弾力条項」が適用されるケースも多い。
雇用保険料の引き上げがあったときには、理解したうえで計算しなければ納税におけるミスにつながってしまうため注意しよう。
それでは、改正の背景や2022年4月と2022年10月からの雇用保険料率について、それぞれ詳しくチェックしていこう。
背景
そもそも2022年に雇用保険料の引き上げが行われた背景は、新型コロナウイルスの感染拡大による経済的な打撃の影響が大きかった。休業する企業が激増したことに伴い、従業員も休業させて休業手当の支払いをするケースが増えた。休業手当の支払いに対して支給される「雇用調整助成金」を申請する企業が増加したことで、財政の悪化を招いたのだ。
また、失業手当の給付も増えている。これらによって雇用情勢が悪化した際に使える雇用保険の積立金が底をついたという報道もあり、積立金が一定水準以上であったこれまでほどの低水準ではまかなえなくなっているのだ。
2022年4月からの雇用保険料率
雇用保険料率は、事業の種類が「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」のどれにあたるのかによっても異なる。
2022年4月からの雇用保険料率は、労働者負担については以前と変わらない。しかし事業主負担は、以前よりも保険料率が0.05%ずつ増加するように変更されている。
たとえば一般の事業の場合、もともとの雇用保険料率は「労働者負担0.3%+事業主負担0.6%=0.9%」であった。しかし、2022年4月からは雇用保険二事業の保険料率に関する事業主負担が増えたことで、「労働者負担0.3%+事業者負担0.65%=0.95%」に変更されている。
参考:厚生労働省ハローワーク 令和4年度雇用保険料率のご案内
2022年10月からの雇用保険料率
2022年10月1日~2023年3月31日の間の雇用保険料率は、労働者負担も以前より増えることとなった。また、事業主の負担する雇用保険料率も増加している。
一般の事業での例では、「労働者負担0.5%+事業者負担0.85%=1.35%」となっている。2021年度の「労働者負担0.3%+事業者負担0.6%=0.9%」の雇用保険料率よりも大幅に増加しているのだ。
また、農林水産・清酒製造の事業と建設の事業は、労働者負担が0.6%になった。事業主の負担する雇用保険料率は、農林水産・清酒製造の事業が0.95%、建設の事業が1.05%にそれぞれ増加している。
参考:厚生労働省ハローワーク 令和4年度雇用保険料率のご案内
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【モデルケース】手取り30万円の人の雇用保険料の増加額とは?
最後に、労働者目線での雇用保険料の増加額をチェックしよう。労働者負担額は、一般の事業や農林水産・清酒製造の事業、建設の事業のいずれの場合でも0.2%ずつ引き上げられている。
手取り30万円をもらっているモデルケースの場合、天引き前の額面給与は36万円ほどだと考えられる。勤務先が一般事業であれば、2022年9月以前の雇用保険料支払い額は1,440円、10月以降は2,160円と計算されるため、増額は月額720円となる。
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まとめ
雇用保険とは、会社員などの要件を満たす方が退職や失業した場合に、失業等給付を受けられるようにする保険である。雇用保険制度の目的は働けなくなったときに備えることであり、労働者の生活や雇用の安定、就職の促進をするために利用されている制度だ。
雇用保険料を算定する際の基礎となる賃金とは、税金や社会保険料などを控除する前の総賃金額である。2022年には雇用保険法が改正されたことによって、4月と10月に雇用保険料の引き上げが行われた。
雇用保険料の引き上げがあったときには、理解したうえで計算しなければ納税におけるミスにつながってしまうため注意が必要だ。計算方法や2022年の変更点などをしっかりと理解し、実際の企業活動で活用していこう。