クオータ制とは、女性の社会参加推進に向けた取り組みだ。組織における女性比率を指定することにより、女性の参加を促している。しかし、日本における女性の社会参加の割合は低く、大きな課題だ。
この記事では、クオータ制の意味や各国の導入状況、日本における課題、メリット、デメリットについて解説する。
関連記事
・女性管理職を増やすには?現在の比率・割合、少ない理由、取り組み事例を解説
・ガラスの天井の意味は。壊れたはしごとは違う?女性やマイノリティのキャリアアップの障壁
・ポリコレの意味とは?マーケ・広報・人事が企業活動で炎上しないためのポイントを解説
目次
クオータ制とは
クオータ制とはどのようなものなのだろうか。以下ではクオータ制について解説している。
● クオータの意味
● クオータ制の目的
● クオータ制の種類
● クオータ制発祥の国・ノルウェーの取り組み
● その他の各国の導入状況
クオータの意味
クオータの意味とはどのようなものだろうか。クオータの意味とその由来、格差是正などについて解説した。
● クオータの意味とその由来とは
● マイノリティに割り当てを行う取り組みを指す
● 男女間格差の是正や女性活躍を推進する場面などで使われることが多い
● 貿易用語としてのクオータ
クオータの意味とその由来とは
まず「クオータ」という言葉の由来は、ラテン語の「quota pars=等分の大きさ」から来ているとされている。「quota」も「pars」も、ともにラテン語で「quota」は「割り当て」「分担」「取り分」、「pars」は「等分」「割合」といった意味だ。
「quota」は19世紀に英語に取り入れられたとされ、その後、当該目標の割り当てや配分などを示す言葉として広まっていったのである。ちなみに「quota」のあとに「system」が付くと「quota system」となり、「割当制度=クオータ制」の意味になる。
マイノリティに割り当てを行う取り組みを指す
クオータ(クォータ制)はマイノリティに割り当てを行う取り組みを指す言葉として使用されている。マイノリティは「少数派」を意味し、ほとんどの場面において社会的少数派を指す言葉として使用される。歴史的な観点からみたマイノリティとは女性や黒人、障がい者といった人たちを指す場合が多い。これらの人たちが過去に受けた差別や待遇などを改善すべく、積極的な格差是正の措置を講じることをアファーマティブアクションと呼ぶ。
そしてこのアファーマティブアクションのひとつとして行われている取り組みがクオータ制なのである。
男女間格差の是正や女性活躍を推進する場面などで使われることが多い
クオータ制はポジティブ・アクション手法のひとつとされ、男女間格差の是正や女性活躍を推進する場面などで使われることが多い言葉でもある。
例えば政治分野におけるジェンダークオータは議会での男女間格差の是正を目的とし、もっと女性の活躍を推進できる場にする狙いがある。企業においては上司や上長、役員など上層部に女性の割合が一定になるようにする制度のことを指す。
ビジネス面においても女性の社会進出を後押しする言葉として使用されているのだ。
貿易用語としてのクオータ
貿易用語としてもクオータという言葉が使用されている。貿易用語としてクオータを使用する場合は「Import Quota(通称:IQ)」となり、日本語では「輸入割当制度」といった意味になる。国内における産業を保護し、需給の調整を行うために経済産業大臣が指定した品目における輸入量や金額などを制限する制度だ。
この制度によって指定された品目において、割り当てられた輸入量や金額以上の取引はできない。つまり輸入品の国内流通量超過によって、国内製造の同商品が売れなくなることを防ぐための措置なのだ。
現在では主に魚や貝、昆布などの水産物とオゾン層破壊物質等の2ジャンルが対象品目となっている。
クオータ制の目的
クオータ制とは、女性の社会参加推進に向けた取り組みの一つだ。男女間格差の是正を目的とし、2020年現在では118もの国で導入されている。
クオータ制には3つの種類が存在し、この考え方が生まれた背景を語るのにノルウェーの取り組みは外せない。この考え方は、ノルウェーを発祥として導入が広がっていったのだ。
クオータ制の種類
クオータ制には、以下の3種類が存在する。
● 議会割当制
● 法的候補者クオータ制
● 政党による自発的なクオータ制
議会割当制は、議席における女性の数を定めるものだ。前述した118ヵ国でこの制度が使用されている。
法的候補者クオータ制は、議員候補者名簿における男女比率を定めるものだ。議会割当制よりも多くの国で使用され、その数は60ヵ国にものぼる。
政党による自発的なクオータ制は、政党が独自の規則で議員候補者における男女比率を定めるものだ。55ヵ国が国政選挙に使用しており、その内22ヵ国は他の制度と併用している。
クオータ制発祥の国・ノルウェーの取り組み
クオータ制の考え方は、ノルウェーが発祥だ。ノルウェーでは1973年に「50%クオータ制」を導入し、1978年には「男女平等法」が制定された。1988年には公的な場における女性比率が40%以上となるように改正されたことを受け、父親の家事育児を推進するパパ・クオータ制度が制定されたのだ。
2003年には「40%クオータ」が会社法における取締役会規定として定められ、経済界でも推進されている。また、男女平等法遵守の推進機関として「オンブッド」が設立され、その結果2005年では国営企業の女性役員比率が25%だったものの、2008年には全ての上場企業で40%を達成し、2021年では41.5%となっている。
このような取り組みがデンマークやスウェーデンといった北欧全体に広がり、北欧諸国が先駆けとなったのだ。
参考:内閣府男女共同参画局「共同参画」
● デンマークの取り組み
● スウェーデンの取り組み
● フランスの取り組みと「パリテ法」
● アフリカ・ルワンダの取り組み
デンマークの取り組み
ノルウェー発祥のパパ・クオータはデンマークでも採用されており、両親合わせた育休は概ね365日程度となっている。育休中は公務セクターであれば給与の保証が全額されており、安心して育休に専念できる。
また民間セクターでも基本的に給与の保証はされる場合が多いものの、こちらは企業によってさまざまであり、雇用契約の内容によっては支給されない場合もある。しかしそういったときでも公的な育児保険があるため、そちらを自分で申請すれば利用できるようになっている。
スウェーデンの取り組み
同じく北欧スウェーデンでの育休は両親合わせて最長480日とデンマークの365日より115日も多い育休が取得できる。スウェーデン国会では、子育て世代がしっかりと家族の時間を取れるように配慮しているのだ。
国会議員のほぼ半数である46%が女性というスウェーデンでは、こういった取り組みを強化しているからこそ安心して育休を取得できるのである。
フランスの取り組みと「パリテ法」
1997年時点での女性議員が10.2%と欧州における女性議員率がワースト2位と言われていたフランスでは、パリテ法を施行することによってこの汚名を返上した。パリテとは「同等」「同量」という意味のフランス語で、パリテ法はいわばフランスにおけるクオータ制といえるだろう。
フランスでは過去にクオータ制の導入に頓挫した経歴があり、それに変わる制度としてパリテ法が施行されたのである。しかしながらパリテ法はフランス独自の構想で成り立っており、各国が実施しているクオータ制とはさまざまな点で異なることに留意する必要があるだろう。
アフリカ・ルワンダの取り組み
アフリカでは、54ヵ国中37ヵ国がクオータ制を導入している。割合が68.5%になることからも、その浸透具合が分かるだろう。
中でもアフリカのルワンダでは2003年以降より、国会における女性議員の割合が世界トップクラスとなっており、2014年時点で63.8%を占めている。これは男性議員2人に対して女性が3人と言う割合だ。
ルワンダでは、全議員の少なくとも30%を女性にするように憲法で定めている。こうした取り組みによってルワンダの経済は急成長を遂げ、高層ビルがいくつも立ち並ぶようになった。また治安も急速に回復し、現在ではアフリカ随一の安全性を保てるまでになったのである。
その他の各国の導入状況
北欧での推進をうけ、世界でもクオータ制を導入する動きが広がっている。世界中の約60%の国や地域がクオータ制を導入し、その内の半数は政党による自発的クオータ制を採用していることが特徴だ。
● ドイツの取り組み
● アイスランドの取り組み
● アジアはどうなのか
ドイツの取り組み
ドイツは昔から、男女の役割意識や家庭の価値といった部分で日本と考え方が似通っており共通する部分も多い。そういった背景から女性の社会進出はなかなか進展しなかった。
しかし1987年ごろから女性議員が増加しはじめ、女性運動の活発化やクオータ制の導入などに力を入れていった結果、1998年に初めて3割を超えるまでになったのである。
アイスランドの取り組み
ジェンダー平等で12年連続世界トップとなっているアイスランドでは男性の育休の取得は7割以上となっている。
アイスランドも女性の声で社会を変えるまでになった背景には、クオータ制の導入がある。この制度によって国会議員は約4割が女性となった。
また企業役員や公共の委員会も40%を女性にするよう法律で定めており、こういった取り組みによって女性の社会進出が顕著な国となっていったのである。
アジアはどうなのか
一方のアジア地域では43ヵ国中19ヵ国の導入に留まっており、その割合が44%であることからも浸透度の低さが読み取れる。
日本の課題
日本の課題として、政治分野及び産業界における女性の社会進出が遅れていることが挙げられる。OECDに加盟している30ヵ国でクオータ制を導入していない国は日本を含めて4ヵ国しか存在しないことや、衆院選の女性議員比率が10%に満たないことからもその状況が理解できるだろう。
ここでは、政治分野と産業界における女性の社会進出の課題について解説する。
政治分野
政治分野では、2018年に「候補者男女均等法」ともいわれる「男女共同参画推進法」が施行された。当初は努力目標とされていたが2021年6月に改正され、行政や地方公共団体が「環境整備や実態調査」「人材育成やセクハラ防止対策の明記」といった女性議員の参画推進に取り組むことが責務となっている。
参院選では、自民党が比例代表候補の女性比率を30%にする目標を示した。立憲民主党と共産党は50%、国民民主党は35%と各党が目標を掲げている。立憲民主党は46.5%、共産党は51.9%、国民民主党は44.4%とまずまずの結果を出したものの、自民党は19.2%と目標には届かない結果だった。
これは現職の男性議員に実績があり、現議員が引退しない限りは女性候補の擁立が困難であることが理由だ。女性議員を増員するためには、強制力のあるクオータ制の導入が求められている。
参考:毎日新聞「まだ少ない女性候補者 クオータ制導入は世界の潮流」
産業界
産業界では、女性の就業率が拡大傾向にある。内閣府男女共同参画局が刊行した「男女共同参画白書 令和3年版」によると、令和2年に就業者の女性比率が54.4%まで達しており、欧米と同等の水準だ。ただし、管理職では欧米と大きな開きがある。
政府は2003年に「2030(ニイマル・サンマル)」という目標を掲げた。これは2020年までに国会や地方議会議員、企業や団体での課長以上の役職、専門性が高い職業における女性比率を30%にするという目標だ。
しかし、2020年の女性管理職の女性比率は13.3%となっており、この数字はシンガポールやフィリピンといったアジア諸国よりも低い結果だ。これは出産や育児、介護といった家庭の負担によるライフチェンジだけが理由ではない。
正規雇用への移行を希望しない女性がいることが原因とされており、それにより女性が管理職に就く機会自体を損失している可能性が考えられるのだ。
参考:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書令和3年版・第2章 働く女性の活躍の現状と課題」
関連記事:ダイバーシティマネジメントを解説!注目を集める背景、日本企業の事例
クオータ制のメリットとデメリット
クオータ制の導入には、女性の社会進出を促せることや人材の多様化につながるといったメリットがある。一方で、逆差別が発生する可能性や、企業によっては運用に負担がかかることはデメリットだ。
ただし、クオータ制はそもそも痛みを伴う改革でもある。デメリットを受け入れた上でも、導入するだけのメリットがあるのだ。ここでは、クオータ制のメリットとデメリットについてそれぞれ2つずつ解説する。
メリット①女性の社会進出を促せる
クオータ制のメリットとして、女性の社会進出を促せることが挙げられる。日本の課題は、国会や地方議会議員、企業の管理職における女性比率の低さだ。前述したようにライフチェンジだけが理由ではなく、正規雇用を希望しない女性たちの存在が自ら社会進出の機会を損失しているといえる。
クオータ制を導入すれば女性比率が指定されるため、女性を登用するための環境整備が推進されるだろう。つまり、クオータ制は半ば強制的に女性の社会進出を促せるのだ。
メリット②人材の多様化につながる
2つ目のメリットは、人材の多様化につながることだ。女性は出産や育児、家事といった家庭での役割を多く担う可能性があり、そうなると時間的な制約が生まれる。これが社会進出を妨げる原因になっていることは否定できない。一方男性は家庭での役割が少ないケースが多く、時間的な制約がないため管理職に登用されやすい状況になっていた。
クオータ制によって、女性の管理職登用に一定比率が割り当てられれば、女性の社会進出を促すための環境を整備せざるを得ない。これは多様な人材の採用にもつながる。
女性が活躍できる環境を整備することで、女性に限らず多様な価値観を持った人材の活用にもつながるのだ。ひいては労働力不足の解消にも期待できるだろう。
デメリット①逆差別が発生する可能性がある
クオータ制のデメリットとして、逆差別の可能性が出てくることが挙げられる。クオータ制が女性の社会進出を促すだけではなく、組織の多様化にもつながることは前述した通りだ。
やりすぎると男性に対する逆差別になる可能性もある。例えば、男性従業員と女性従業員の能力が同等だとしても、女性が優先的に管理職に登用されるケースが想定できる。場合によっては女性従業員の方が能力的に劣っていたとしても、女性比率の条件を満たすために女性従業員を登用するケースもあるだろう。
ただし、これは改革に伴う一時的な痛みでもある。これまでの差別的な扱いを是正するためには、どこかの年代や階層の男性従業員が必然的に痛みを負うことになるのだ。クオータ制を導入する以上、この痛みは避けられないものである。
デメリット②企業によっては運用に負荷がかかる
2つ目のデメリットは、企業によっては運用に負担がかかることだ。女性に限らず、就業時間や就業環境といった制限がある人材を管理職に登用した場合、不在時のリスク対策が求められる。
例えば女性管理職が出産する場合、代替となる人材を準備しなければならない。管理職ともなれば簡単に人材を準備できるわけではないため、事前に人材育成に力を入れておく必要があるだろう。
いくら人材育成が投資であるとはいえども、負担がかかることには違いはない。また教育費用だけではなく、多様な人材を受け入れるための環境を整備するのにも費用がかかる。新しい取り組みをする以上、運用に負担がかかることは受け入れる必要があるのだ。
関連記事:アンコンシャスバイアスの具体例は?仕事上で気をつけたい対策
混同しやすい「クオーター」との違い
クオータには複数の意味合いがあるため混同しやすい単語でもある。以下で混同しやすい事例について解説する。
● 4分の1を意味するクオーターではない
● 大学におけるクオーター制
● 「女性の割合を4分の1以上にする」は誤り
4分の1を意味するクオーターではない
4分の1を意味する単語もクオーターだ。しかし単語におけるつづりが「quarter」となり、意味が違うものとなる。
大学におけるクオーター制
大学にもクオーター制がある。しかしこちらは1年間を第1学期と2学期に分け、さらにそれぞれ半分に分けた期間ごとに授業を行う制度のことを指す。近年日本の大学に導入が進んでいる制度のひとつだ。
「女性の割合を4分の1以上にする」は誤り
上記の単語の意味から、「クオーター(quarter)=4分の1」と認識している人も少なくない。そのため格差是正におけるクオータ制も「女性の割合を4分の1以上にする」という意味として捉えてしまいがちだ。しかし格差是正におけるクオータは「quota=割り当て」であるため、この認識は誤ったものとなる。
関連記事:クォーターライフクライシスとは?意味や5つのフェーズ、対策方法を解説
まとめ
クオータ制とは、女性の社会参加推進に向けた取り組みの一つで、男女間格差の是正を目的としている。2020年現在で118ヵ国において導入されていることからも、その浸透度が分かるだろう。
クオータ制には3つの種類が存在する。クオータ制の考え方は、ノルウェーの取り組みが発祥だ。ノルウェーの取り組みが北欧に広がり、世界中にも広がっていった。
クオータ制における日本の課題として、政治分野や産業界に対する女性の社会進出の遅れが挙げられる。クオータ制を導入していない国が、OECD加盟30ヵ国の中でも日本を含めた4ヵ国しか存在しないこと、衆院選の女性議員比率が10%に満たないことからも、浸透度の低さが理解できるだろう。
クオータ制の導入には「女性の社会進出を促せる」「人材の多様化につながる」といったメリットがある。半ば強制的に女性の登用人数を指定することで、女性の登用を促せるだけではなく、環境の整備によって多様な人材の採用につながるのだ。
一方「逆差別が発生する可能性がある」「企業によっては運用に負担がかかる」といったデメリットも存在する。ただし、クオータ制自体が痛みを伴うことを前提とした改革だ。デメリットを受け入れた上でも、クオータ制を導入するメリットの方が、利があるのだ。
クオータ制の導入で、日本国内で女性の活躍の場が広がることを期待したい。