退職した人材「アルムナイ」を活用する制度を採り入れる企業が増加してきた。これは、終身雇用が一般的ではなくなった現代において、採用リスクを抑える対策となる制度である。また、労働人口の減少により企業にとって人材を計画的に採用するのが難しい状況になっており元々、自社にいた即戦力以上の人材が戻ってくることは採用計画上、非常に前向きな施策となる。
この記事では、アルムナイの意味や背景、企業事例とともに、アルムナイ制度導入時のポイントについて解説する。
目次
アルムナイとは?
人事分野においてアルムナイとは「退職者」を表す用語であり、英語で卒業生や同窓生を意味する「alumni」から生まれた。退職者やOB、OGで形成されるコミュニティを、アルムナイネットワークという。
アルムナイネットワークでは、SNSや交流会によってアルムナイ同士の交流を深めている。このコミュニティには退職者のみで形成されているケースと、企業担当者も参加しているケースが存在する。ただし、退職者と企業の間に雇用関係は存在しない。
アルムナイネットワークを利用して退職者が元の企業に再就職できる制度を、アルムナイ制度という。もともとは海外で導入されていた制度で、日本でも外資系企業をはじめとした企業で導入されはじめた。
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アルムナイが注目される背景
アルムナイが注目されはじめた背景として、雇用形態の変化と労働人口の減少が挙げられる。これまでは、入社した企業で定年まで働くことを前提とした終身雇用制度が一般的だった。
そのため、中途退職というとネガティブなイメージがつきまとっていたことは事実だ。しかし、近年では会社に不満があるわけではなく「違う企業で働いて視野を広げたい」「海外で働きたい」といったポジティブな理由で中途退職するケースが増加している。
他方で、少子高齢化による労働人口の減少は、人材不足という問題も引き起こしている。企業には、社員のエンゲージメント向上への取り組みや採用マーケティングの強化、副業の解禁といった施策が求められているのだ。
しかし、このような施策にはコスト増加や採用ミスマッチの発生といったリスクが存在する。そこで注目されたのが「アルムナイ」の活用である。ポジティブな理由で退職した人材であれば、企業理念に対する理解や能力を把握しているため、採用ミスマッチが発生する可能性は少なく、採用コストも抑えられる。
企業とアルムナイが関係性を継続することで、再雇用や業務委託といった方法で人材を活用できるのだ。人材不足に悩む企業にとっては大きなメリットとなる。このような背景から、アルムナイネットワークを構築する企業や、アルムナイ制度を導入する企業が増加している。
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アルムナイの制度を設けている企業事例
アルムナイの活用方法は、企業によってさまざまだ。積極的にイベントを開催している企業や独自の制度を導入した企業、コニュニケーションを重視した企業が存在する。
ここでは、アルムナイ制度を設けているアクセンチュア株式会社、中外製薬、サイボウズ株式会社、ヤフー株式会社の以下では5つの企業をピックアップして事例について紹介する。
アクセンチュア株式会社
アクセンチュアは、総合コンサルティングサービスを提供している企業だ。アクセンチュアでは退職した人材も仲間として定義し、ネットワークを構築している。
アルムナイ専用のサイト「アクセンチュア・アルムナイ・ネットワーク」は、30万人以上のアルムナイが在籍している巨大ネットワークだ。78ヵ国で活動プログラムが実施されており、アクセンチュアのメンバーとのつながりが途切れることはない。
アルムナイネットワーク内のメンバーや従業員とのコミュニケーションが取れるため、求人情報の掲載やメンバー間でのコラボレーションによってアイデアの共有もできる。具体的には、以下のような活動やサービスである。
・ 再就職の支援
・ 年間100回を超えるイベント開催
・ サービス利用時のディスカウント
・ ビジネスアイデアの共有
・ 採用情報の案内
実際にアクセンチュアに復職し、前回の雇用時を超える活躍を見せる従業員も存在する。アルムナイネットワークの整備により、人材活用に成功した事例のひとつといえる。
中外製薬
日本を代表する製薬会社のひとつである中外製薬は、2020年5月にアルムナイ制度を導入した。これまでにも再就職制度自体は存在していたものの、その対象は限定的であり、結婚や出産といったライフイベントを理由に退職した人材だけだった。
今回のアルムナイ制度ではこれまでの再就職制度を刷新し、ライフイベントを理由に退職した人材だけではなく、キャリアアップや留学を理由に退職した人材も対象としたのだ。年齢層も20代から50代と幅広く、2022年現在では約150人がアルムナイネットワークに登録している。
これは退職時に会社からアルムナイ制度を案内したり、個人的につながりがある人材に従業員から連絡した結果だ。制度の浸透によって人材活用に成功した事例といえる。
ただし、必ずしも採用に関する会社の思惑と、アルムナイの希望が合致するわけではない。中外製薬は採用に対して「異能人材を獲得したい」という考えを持っている。再雇用であっても中途採用のひとつであるため、アルムナイだからといって選考で優遇することはない。そのため再雇用を狙ったものの、ハードルが高いと感じる人材もいるようだ。
また、再雇用されたアルムナイの中には即戦力として馴染んだ人材がいる一方で、温度差を感じる人材も存在する。選考で優遇されることなく再雇用された人材は、基本的に前回の雇用時とは能力や意識が高くなった状態で戻ってきているだろう。
しかし、周囲からすると「以前いた人材が戻ってきた」感覚になるため、以前と同じように接するケースがある。能力や意識が高くなって戻ってきた人材からすると、その対応に温度差を感じ、結果的にミスマッチとなってしまうのだ。
たしかに、以前に出来上がっていた関係性を変えるのは簡単ではない。しかし、せっかく戻ってきた人材を活かすためにも、受け入れ側に以前の関係とは異なることを理解してもらう必要がある。受け入れる側の環境整備が大きな課題となっている。
サイボウズ株式会社
グループウェアや業務改善サービスを提供しているサイボウズでは「育児休暇制度」を導入している。この制度は、離職時に希望しておけば6年間までの間、復職の権利をもらえるものだ。サイボウズを離れる人材に「戻る場所がある」という安心感を持ってもらい、自身のやりたいことに挑戦してもらうのが目的である。
また、サイボウズではエンジニアと交流できるイベント「Cybozu Meetup」を毎月開催している。なかでも退職したエンジニアを集めたイベントは、アルムナイの意見を採用活動に活かす取り組みとなっている。
これは、単にアルムナイを再雇用して活用した成功事例ではなく、アルムナイを自社の採用活動のツールとして活用している事例だ。
ヤフー株式会社
ヤフーは、2017年2月に独自のアルムナイネットワーク「モトヤフ」を設立した。非公開のFacebookグループを作成し、モトヤフ同士がコミュニケーションを取れるようになっている。
モトヤフメンバーは、ヤフー本社17階にあるオープンスペース「LODGE」を利用可能で、従業員との交流ができる環境も構築した。これは、退職者同士での交流や外部目線による改善点の指摘により、コラボレーションが生まれることを目的としている。
これはアルムナイメンバーとのコミュニケーションを重視した事例のひとつだ。
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アルムナイ制度を整備するポイントとは?
アルムナイ制度を整備するには、制度の周知やアルムナイネットワークを構築することが必要だ。しかし、それだけではアルムナイ制度は成功しない。イグジットマネジメントや受け入れ体制の構築など、退職前と復職後にも目を向けることが大切だ。
ここでは、退職時のイグジットマネジメントと復職時の受け入れ体制について解説する。
イグジットマネジメントを強化する
アルムナイ制度を整備する場合、イグジットマネジメントを強化することが必要だ。イグジットマネジメントとは、退職の管理を指している。
アルムナイ制度を導入するには、前提として円満退職をしている人材が存在することを要する。そのため、退職後のステップアップ支援をはじめとしたイグジットマネジメントを強化し、退職後も連絡を取り合える関係を構築する必要がある。
退職後も連絡を取り合う人材が増えることで、アルムナイ制度の効果も出てくるのだ。
受け入れ体制を構築する
アルムナイ制度の導入には、企業側の受け入れ体制の構築もポイントだ。受け入れ体制の構築とは、退職者に対する制度の周知やアプローチだけではない。
例えば、中外製薬が抱える課題にもあったように、従業員が前雇用時と同じように接していては、再雇用された人材が温度差を感じるだろう。なぜ退職者がアルムナイ制度を使って戻ってくるのかを従業員に説明し、理解してもらうことが必要だ。
また、雇用形態に幅を持たせることも、受け入れ体制構築のひとつといえる。労働環境の多様化に対応し、副業や時短、業務委託といった雇用形態のバリエーションを増やせば、再雇用を選択する人材の増加につながるだろう。
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まとめ
人事分野においてアルムナイとは、「退職者」を表す用語のことだ。退職者で構成されたコミュニティを「アルムナイネットワーク」といい、そのネットワークを利用して元の企業に再就職する制度をアルムナイ制度という。
アルムナイが注目される背景として、雇用形態の変化と労働人口の減少が挙げられる。終身雇用が一般的ではなくなりつつある今、ネガティブなイメージが先行していた退職ではなく、ポジティブな理由で中途退職するケースが増加している。そのため、人材不足に悩む企業において、採用リスクを抑える対策としてアルムナイが注目された。
アルムナイの成功事例には、イベント開催に注力している企業や独自の制度を導入した企業、コニュニケーションを重視した企業などさまざまである。
アルムナイをどのように活用するにしても、アルムナイ制度を整備する際のポイントは共通している。制度の周知やアルムナイネットワークの構築だけではなく、イグジットマネジメントや受け入れ体制の構築にも取り組むことが必要だ。
アルムナイ制度を整備するポイントをおさえて自社に適した施策を講じ、人材不足の解消につなげよう。