企業のあり方についても多様化が進み、近年では「ゼブラ企業」が注目を集めている。ゼブラ企業とは環境・社会との共存性に価値を置く企業のことで、利益を優先する「ユニコーン企業」の登場に伴い、そのアンチテーゼとして生まれたのがゼブラ企業だ。
この記事では、ゼブラ企業が生まれた背景やユニコーン企業との違い、国内外の事例について解説する。
目次
ゼブラ企業の概要
ゼブラ企業とは、SDGsやサステナビリティを重要視し「共存性」に価値を置く企業のことだ。利益を追及することを最優先にしている「ユニコーン企業」のアンチテーゼとして登場した。
住みやすい社会の実現を目指しているため、最優先事項は利益ではない。「社会貢献」を優先事項にしていることが特徴だ。ここでは、ゼブラ企業の由来や特徴について解説する。
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ゼブラ企業の由来
ゼブラの名称は、ベンチャー企業をユニコーン企業と名付けたことから始まる。ベンチャー企業は、社会的意義ではなく利益の追求を最優先事項としている。それにより、創業から短い年月で多額の収益を上げてきた。ベンチャー企業の成長の様子を、単独行動が特徴の「ユニコーン」になぞらえたのだ。
ユニコーン企業のアンチテーゼとして登場したのがゼブラ企業だ。ゼブラ企業が目指す共存性を「群れで行動する」シマウマ(ゼブラ)の習性に例えたことに由来している。
ゼブラ企業の特徴
ゼブラ企業は「相利共生」というテーマのもと、以下の4つの特徴を持っている。
・ 社会からの注目
・ ステークホルダーに対する還元
・ 事業の透明性
・ 革新的な取り組み
昨今では、価値観の多様化が受け入れられるようになり、組織のあり方も問われるようになってきた。ゼブラ企業の「社会貢献」を優先事項とした取り組みは、社会的にも注目を集めている。
相利共生を目指し、自社が獲得した利益や資源をステークホルダーに還元する組織であることも特徴だ。ある企業では「顧客、従業員、創業者、株主」の4つのステークホルダーごとにオーナーを設置し、それぞれの立場のオーナーが経営に参加する体制を取ることで、利益を還元している。
相利共生を目指した取り組み自体が革新的であることも、ゼブラ企業の特徴といえるだろう。
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ゼブラ企業が注目を集める背景
ゼブラ企業が注目を集める背景には、ユニコーン企業が抱えていた問題が関係している。短い期間で成長してきたユニコーン企業は、大企業からも協業や投資を求められるようになり、社会的にも評価される存在になった。
しかし、急成長の裏には問題を抱えていた。自社の利益を最優先に追求した結果、市場を独占し、社会基盤に悪影響を与えるような経営をしていたのだ。このような企業は、悪評を避けられない事態となった。
社会的にも企業の「社会に対する役目」を見直す動きが現れ、アメリカの4人の女性起業家によって、社会貢献を第一主義とする組織が提唱された。それがゼブラ企業だ。
自社の利益だけを求めるのではなく、社会的意義や持続可能性といったテーマにも取り組み、共存を追求する姿勢は評価され、ゼブラ企業の概念が広まったのだ。
ユニコーン企業との違い
ユニコーン企業は短期間での成長や利益の追求を目的としているため、起業から10年経たない若い企業であることが特徴だ。一方、ゼブラ企業は社会貢献を目的とすることから、方法やチーム編成といった経営スタイル、経営理念にも違いが現れている。
ここではユニコーン企業の特徴や、ゼブラ企業とユニコーン企業との違いについて解説する。
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ユニコーン企業の概要
ユニコーン企業の基本的な特徴は以下の3つとされている。
・ 起業から10年以内
・ 企業価値(評価額)が10億ドル以上
・ 未上場
起業から10年を経過した企業は経営基盤が安定している。そのため、新規市場への参入に対しリスクがあると判断する企業が一般的だ。安定よりもリスクを取り、判断と行動を迅速にできるというのは、企業から10年を目安とした若い企業に多く見られる特徴といえる。
ただし、新規市場に参入して利益を上げるには、資金が必要だ。成功している企業の目安として、企業価値10億ドル以上という特徴がある。
未上場であることもユニコーン企業の特徴だ。ベンチャーキャピタルが投資先として企業を見た場合、将来的な利益獲得を考えると未上場であることは魅力的といえる。
また、上記3つ以外に「テクノロジー企業」もユニコーン企業の特徴とする考え方も存在する。
ゼブラ企業・ユニコーン企業の違い
ゼブラ企業とユニコーン企業の違いは目的だ。自社の利益を最優先とするユニコーン企業に対し、ゼブラ企業は社会貢献を目的としている。ゼブラ企業にとっては、利益の創出は目的ではなく手段でしかない。目的の違いにより、経営スタイルに以下のような違いがある。
ユニコーン企業 | ゼブラ企業 | |
方法 | 競争 | 協力 |
受益者 | 株主 | コミュニティ |
資源の持ち方 | 独占する | 共有する |
チーム編成 | エンジニア重視 | エンジニア・マネージャー・顧客サポートをバランスよく |
評価基準 | 定量的 | 定性的 |
求め方 | 今より更に | 十分に長く |
結果 | 独占 | 共存 |
ユニコーン企業が上場や成長に向けて取り組むのに対し、ゼブラ企業は社会形成への寄与を優先するため、持続可能な範囲での成長を求めている。経営方針としては、事業の規模を大きくし続けるのではなく、事業規模が一定のラインで止まっても良いという考え方だ。
国内外のゼブラ企業事例
日本でも、1998年の特定非営利活動促進法(NPO法)の施行をきっかけとし、利益追求ではなく社会課題を解決することを目的とした企業や、ソーシャルビジネス事業を展開する企業が増加している。
実際に、発想の転換で地域コミュニティに貢献した例や、2つの住宅問題を解決した例も存在している。これらの企業は地域の悩みを解決すると同時に、収益モデルも確立したことで、持続的な事業展開ができているといえるだろう。
ここでは、ゼブラ企業と言われる国内外の企業について紹介する。
Peerby
シェアリング・プラットフォーム事業を展開するオランダのPeerby(ピアビー)は、元々ユニコーン企業を目指していた企業だ。目先の利益を追求した結果、方向性を見失った経験から、企業理念を「廃棄を減らす」「人びとがお互いに助けを求められるローカルコミュニティをつくる」に見直した。
そこで生まれた発想が各家庭にある日用品のシェアだ。モノの考え方を「所有」から「共有」に移行することで、廃棄物の削減だけでなく「必要なときに借りる」という、選択肢の増加にもつながっている。
この選択肢の増加により、地域の中で助け合う関係性ができたのだ。Peerbyは、発想の転換から地域コミュニティに貢献したゼブラ企業といえるだろう。
Rennovater株式会社
Rennovaterは、単身高齢者や外国人、低賃金といった賃貸物件が借りられない人に低賃料で住居を貸し出すサービスを提供している企業だ。2018年に京都府で法人化されている。空き家や築年数が経過した物件を数百万で買取、修繕したうえで貸し出すことにより、住宅の確保に困っている人と、空き家問題という2つの問題を解決した。
賃料収入を空き家の買取費用や修繕費用に充てることで、事業を上手く回している。だれでも貸し出すわけではなく、身元や収入状況を確認したうえで貸し出している。事業を継続させることも目的のため、いくら低賃料とはいえ事業が成り立たなくなるほどには賃料を下げない。
住居確保のほかに、入居後の生活支援も行っている。水漏れの修繕をはじめとしたメンテナンスに加え、18歳以下の子どもを持つひとり親世帯に進学費用の確保を目的とした積み立て給付をするサービスも提供している。
生活支援をすることで、近隣住民とのコミュニケーションも形成できるだろう。これにより、入居者が安定して長期間居住できる環境作りをしている。長期間居住してもらうことで収益も安定し、事業を継続できるのだ。
2022年4月には物件数100戸を突破した。Rennovaterは、公費に頼ることなく社会問題の解決に貢献したゼブラ企業といえるだろう。
株式会社マザーハウス
マザーハウスは、東京都台東区に本社があり、途上国を助ける事業を展開している企業だ。2006年に設立され「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というテーマのもと、バングラデシュの現地工場で製作されたバッグを販売している。
現地工場で生産することで、途上国の雇用を確保しているだけではなく、現地スタッフと日本人顧客の交流会も開催している。それにより新しいコミュニケーションが生まれ、良いサイクルへとつながるのだ。
マザーハウスは、ステークホルダーの雇用確保とステークホルダー同士でのコミュニケーションの場を作ることで、社会に貢献したゼブラ企業といえるだろう。
まとめ
ゼブラ企業とは、共存性を経営方針の優先事項として活動する企業だ。自社の利益を優先するユニコーン企業のアンチテーゼとして登場した。
注目を集める背景には、ユニコーン企業が市場を独占し、社会基盤にまで影響を与えるケースが出てきたことが関係している。企業が社会に果たす役割を見直す動きが始まったことで、社会貢献を第一主義とするゼブラ企業が登場したのだ。
ゼブラ企業とユニコーン企業の違いは目的だ。ユニコーン企業は、短期間での利益追求を目的として活動している。そのため「起業から10年経たない若い起業」「企業価値が10億ドル以上ある」「未上場」といったことが特徴だ。
一方、ゼブラ企業は社会貢献を目的としている。目的の違いにより、ゼブラ企業とユニコーン企業では、経営方法やチーム編成に違いが出てきているのだ。
日本でも、特定非営利活動促進法をきっかけとして、社会課題の解決を目的とした企業が出てきた。実際に、住宅の確保に困っている人と、空き家問題という2つの問題を解決した企業も存在している。
社会貢献とともに、事業を継続するための収益モデルを確立することも大切だ。新たなあり方の企業として、次のゼブラ企業の登場にも注目していきたい。