ES調査(従業員満足度調査)とは、社員一人ひとりが仕事に関するさまざまな事柄についてどのように感じているのかを調査することである。今回はES調査とはどのようなものか、実施する目的やメリット、デメリットを紹介する。代表的なアンケート項目例も解説するため、併せてチェックしよう。
目次
ES調査(従業員満足度調査)とは?
ES調査は、社員に対して実施する意識調査のひとつだ。ESとは「Employee Satisfaction(従業員満足度)」のことである。つまり、ES調査(従業員満足度調査)とは、社員一人ひとりが仕事に関するさまざまな事柄についてどのように感じているのか、企業にどの程度満足しているのかを調査することだ。
調査する際は、仕事内容や人間関係、報酬、福利厚生、労働環境などのさまざまな面からチェックし、定量的に表していく。ESが高い企業になれたならば、従業員が自社や自社製品に対して愛着心を持てるようになり、顧客満足度や業績をアップさせることにつながるといわれている。
なお、従業員のパフォーマンスを最大限に高める取り組みとしての従業員体験(Employee Experience:エンプロイーエクスペリエンス= EX)は2015年から2016年頃にかけて人事業界で認知度を高めるようになった。従業員に満足してもらうための施策を打ち出さなければ、人材を集めることが難しく、流出も防げない時代となっている。
関連記事:EX(従業員体験)向上の重要性とは?企業が実施している具体的な施策
調査を行う目的
近年の日本には少子高齢化の問題があり、近い将来に労働人口が大きく減少することが確実視されている。しかし、企業は人材を確保し続けなければ競争力を維持していくことが難しくなってしまう。また場合によっては人手不足倒産に陥る恐れも考えられる。
関連記事:人手不足倒産とは?その原因や理由、防止するために人事が取り組むべきことを解説
いくらIT化が進んでいっても、やはり人材による力は欠かせないものである。今後日本の労働人口が大きく減少してしまったとしても、人材を確保し企業を存続させていけるように、企業で働く従業員にとって満足感が高い職場づくりが重要なのだ。
近年は、働き手の価値観や働く側のワークライフバランスの変化が著しくなり、労働環境が多様化している。従業員にとって満足感が高い職場づくりをおこなっている企業が増え、社員と良好な関係になるために積極的にさまざまな制度や施策を取り入れていることも要因の一つだ。
このような現状で人材を確保するためには、「人材の採用」と「人材の定着」が重要である。ES調査は、このうちの人材の定着を目的として実施されているものだ。
ES調査を実施することによって、従業員が企業に対して感じていることや自社の強み、弱みを把握できるようになる。ES調査によって見つけられる課題は、人事制度や人事評価、労務管理、福利厚生、業務内容、職場環境などといったさまざまな面に及ぶ。見つけられた自社の強みはそのまま活かし、弱みは今後の改善のための資料にしていける。
企業にとって、従業員の満足度をアップさせることは容易ではない。従業員の満足度をアップさせるために人事施策を実施したとしても、勘や予想をもとにして考えるようでは、効果的な施策を打つことが困難である。そのため、かつては一部の優秀な経営者だけが効果的な施策を実施できていた。
しかし、近年はES調査を含めたアンケートなどの活用によって、人材の定着を妨げる要因を数的に把握するための効果的な方法が広まっている。ES調査などにより従業員から本音を聞き出し、想定していた目標と従業員の意識との間にギャップ、ミスマッチがないか、人事施策の効果測定ができるのだ。これにより、人事施策の現状を分析して課題を抽出し、適切な対策を立案していく、効率的な「PDCAサイクル」が可能となったのである。
関連記事:PDCAとは?何のためにPDCAサイクルを回すのか?古いと言われる理由とともに解説
例えば、人事評価に関する満足度が低いという課題が見つかった企業では、評価の見える化や評価制度の見直しが効果的だと考えられるだろう。
また、従業員のモチベーションややりがいを定量化・可視化することも、ES調査を実施する目的のひとつである。日常の様子や面談のみで従業員がどのように感じているのかを判断することは難しいだろう。そのため、ES調査によって従業員のやりがいなどに関するデータを得て、施策を検討する際の根拠として有効活用することが、多くの企業で重要視されている。
関連記事
・なぜ中途採用は難しい?その理由、成果に向けて見直すべきことを解説
・ミスマッチとは?企業やビジネスにおける定着率の高い組織をつくるための秘訣
・アンケートの正しい作り方|効果的に回収するコツや基本形式、例文
ES調査のメリット・デメリット
ES調査を実施することで、さまざまなメリットを得られる。一方で、調査の際に考慮すべきデメリットもあることに注意が必要だ。ES調査のメリットとデメリットは、以下のとおりである。
<ES調査のメリット>
・ 現場の社員から見た組織の現状を把握できること
・ 社員の満足度を客観的かつ定量的に収集できること
・ 水面下にある課題を早期発見できること
・ 会社に対して意見する機会を作れること
・ 従業員が抱える悩みを深く掘り下げられること
・ 人事や経営の戦略を立てる際の指標となること
・ 効果的な人事戦略のために活かせること
・ 社員との信頼関係が築けること
・ 従業員のモチベーションが向上し、業績やCSの向上につなげられること
一般的に、ES調査は匿名のアンケート形式で実施することが多い。これにより、不満に感じていることなどを伝えることへの心理的な負担が下がり、会社に対して率直に意見する機会を作りだし、心理的安全性を高めるきっかけとなる。従業員目線での組織の現状や課題、それぞれが抱える悩みなどを理解でき、人事などと現場社員とのギャップを防ぐことにつなげられるだろう。
このデータ結果を人事や経営の戦略を立てる際の指標にすることで、現場の社員に寄り添った効果的な人事戦略ができるようになるのである。また、定期的なES調査の実施によって、従業員のことを大切にしている企業であると感じてもらえ、社員との信頼関係が築けることもメリットのひとつだ。
関連記事:チームのパフォーマンスを高める上で重要な心理的安全性(Psychological Safety)を解説
<ES調査のデメリット>
・ 一度だけの実施は効果的ではないこと
・ 調査結果をもとに戦略を立てないと意味がないこと
・ 正確な調査結果を得られるように、調査方法や調査票の項目を決める際に注意が必要になること
従業員に対するアピールのために、形だけのES調査をおこなう企業もある。しかし、調査結果をもとにブラッシュアップしていかなければ、調査した意味がなくなってしまう。ES調査は、定期的に実施して改善し続けることも重要である。週次や月次といったサイクルで実施する場合はパルスサーベイ(パルス調査)とも呼ばれる。
関連記事:パルスサーベイとは?質問項目や事例を紹介
また、ES調査をしっかりと実施しようとしても、調査方法や調査票の項目を決める際に注意しなければ、従業員の正確な本音を集められなくなってしまうケースがある。5段階評価ですべて同じ選択肢を選ばれてしまったなど、信頼性の低い回答にならないように注意が必要だ。
代表的なアンケート項目例
代表的なアンケート項目例は、以下のとおりである。
・ 社員の属性が分かる項目
・ 業務に関する項目
・ 業務環境に関する項目
・ 処遇・評価に関する項目
・ 上司・マネジメントに関する項目
・ 会社・経営に関する項目
なお、さまざまな内容について確認しておきたいものの、アンケートの設問内容が細かすぎても社員に負担をかけてしまう。丁寧な回答をしてもらえなくなってしまう恐れがあるため注意が必要だ。調査目的を設定したうえで、質問項目を考えるべきである。
それでは、それぞれの項目についてチェックしていこう。
社員の属性が分かる項目
ES調査は原則匿名で実施していく。そのため、性別や年齢、部署、勤続年数など、ある程度社員の属性が把握できるような項目を入れる。従業員の立場ごとに企業に対して求めるものなどが異なるため、実施する対象の属性自体を分けて調査をすることも重要だ。
業務に関する項目
これは難易度や裁量権に関して充足感を感じているかなどを調査する項目である。「今の仕事はやりがいを感じるか」「スキルが身につく仕事であるか」「業務内容は自身の実力に適切か」「将来のビジョンに合うか」などの項目をチェックできるようにしよう。
業務環境に関する項目
業務環境に関しては、勤務時間や残業時間、一人あたりの仕事量は適切か、ストレスがかかっていないかなどを確認していく。また、社員同士のチームワークはいいか、アイデアを言いやすい雰囲気であるか、ハラスメントが横行していないかなどもチェックしよう。
処遇・評価に関する項目
待遇に満足しているか、昇進・昇級の頻度は適切か、人事異動の際に部署の希望を確認しているか、福利厚生の充実度が高いと感じるかなど、処遇・評価に関する項目も入れていく。
ちなみに、給与に対する満足度を調査項目に入れると、ほとんどのケースで他の項目よりも低くなるといわれている。ただし、給与制度を改善していくことは大切であるものの、従業員みんなが満足できるような給与にすることは現実的に考えると難しいだろう。
そのため、給与に対する満足度自体を上げるためだけではなく、ほかに給与と同じ程度に満足度が低い項目がないかどうかをチェックするための指標として用いることもおすすめだ。
上司・マネジメントに関する項目
これは、企業の人間関係やマネジメントに関する質問である。企業の人間関係に関して確認する際、主に上司に関する質問を実施することが多い。上司の仕事の指示は的確であるか、悩みの相談に乗ってくれるか、上司と相性が良いか、尊敬度合いはどれほどか、上司にリーダーシップや高い意欲があるかなどを確認する。
関連記事:統率力とは何か?リーダーシップやマネジメントとの違い、身につける方法
会社・経営に関する項目
会社・経営に関する項目の質問も用意する。会社の理念に賛同できるか、会社の業績は安定しているか、経営層は魅力的なミッション・ビジョンを発信しているか、経営層が社員を信頼して仕事を任せてくれていると感じるかなどを調べよう。また、設備は充実しているか、設備に清潔感はあるかなどもチェックしていく。
関連記事:ミッションとは?ビジョンとの違いやなぜ必要なのかを解説
まとめ
ES調査(従業員満足度調査)とは、社員一人ひとりが仕事に関するさまざまな事柄についてどのように感じているのか、企業にどの程度満足しているのかを調査することだ。ESが高い企業になれたならば、従業員が自社や自社製品に対して愛着心を持てるようになり、顧客満足度や業績をアップさせることにつながるといわれている。
調査を実施する目的は、満足度をアップさせることによる人材の定着や、従業員のモチベーションややりがいを定量化・可視化することなどだ。調査のメリットとデメリットは、以下のとおりである。
<ES調査のメリット>
・ 現場の社員から見た組織の現状を把握できること
・ 社員の満足度を客観的かつ定量的に収集できること
・ 水面下にある課題を早期発見できること
・ 会社に対して意見する機会を作れること
・ 人事や経営の戦略を立てる際の指標となること
・ 社員との信頼関係が築けること
・ 従業員のモチベーションが向上し、業績やCSの向上につなげられること
<ES調査のデメリット>
・ 一度だけの実施は効果的ではないこと
・ 調査結果をもとに戦略を立てないと意味がないこと
・ 正確な調査結果を得られるように、調査方法や調査票の項目を決める際に注意が必要になること
代表的なアンケート項目例なども理解して、実際の企業運営に役立てていこう。