採用人数を決める際は、その場その場での人員不足を感じて決定しているわけではない。要員計画などをもとに、企業全体での中長期的なニーズと現場での採用ニーズを検討して決めている。今回は、採用人数の決め方に関する基礎知識を紹介する。人数を決めたあとにどうするのかもあわせてチェックしよう。
目次
採用人数を決める方法
採用する人数の決め方は、単に「今この部署とあの部署に2人くらい人手が足りない」と思っただけで決定するわけではない。「要員計画」や「採用計画」に関連しており、今後の計画をしっかりと立てた上で適正な採用人数を決めるのである。
要員計画とは、「経営戦略や事業計画の実現を目的として、企業に必要な人材と数を一定期間確保するための計画」のことである。この計画では、雇用形態別の人員や人件費に関しても考慮しており、採用だけではなく配置や不要な人材の整理も検討している。要員計画を確認すれば、事業計画の遂行のためにはどのような能力や適性を持った人物を、どれほどの人数を採用すればいいのかが理解でき、採用人数を判断しやすくなるのだ。
この要員計画は「人員計画」と表現する場合もあるが、実際には違うものである。要員計画は人員に関する大きな枠組みであり、それをもとにして誰をどの部署に配属するのかを人員計画で決定していくのだ。
また、採用計画も要員計画とは異なるものであるため注意しよう。採用計画に関する詳しい説明は後述する。
採用人数を決める際は、社内の状況や関連する社外の状況を把握し、各ポジションで必要な人数を明確にすることも重要だ。それぞれ詳しくチェックしていこう。
社内の状況を把握する
社内の状況を把握する際にポイントとなるのは、今後注力する事業や世代構成、部署やチーム単位での採用ニーズなどである。
採用人数や要件が事業計画にそぐわないと、適切に事業計画を遂行することが難しくなってしまうだろう。経営層や事業計画に関わる社員と話をしておくと、企業の求める人材をスムーズに把握しやすい。
社員の年齢や雇用形態、職種の構成がどのようになっているかもあわせてチェックしておこう。その際に3年後や5年後、10年後などにどのように構成が変化するかをシミュレーションするようにしておけば、長期的な見通しがつきやすくなる。
こうした中長期的なニーズに基づいて採用人数や要件を決定する方法のほかに、短期的なニーズに基づいて採用人数を決める方法もある。部署やチーム単位など、現場での採用ニーズを確認して人員を確保するやり方だ。
即戦力としてよりも将来的な活躍を見越して採用する新卒採用の場合には、中長期的なニーズに基づいて採用人数や要件を決定する方法を取るケースが多いようである。
社外の状況を把握する
自社での採用に関わってくるような社外の状況を把握することも重要だ。社外の状況を把握する際にポイントとなるのは、ターゲット人材・職種の採用難易度や採用競合の動き、求職者の動きなどである。
採用需要の変化は国内景気による影響が大きく、それによって採用難易度も変わるものである。市場の現状や将来予測をもとに、中長期的な視点を持って採用市場の動向分析をおこなったほうが良いだろう。
また、採用する際に競合となる企業・業界の動きも調べておくべきだ。競合他社の採用人数や給与、対象者層などの採用指標をしっかりと調査し、場合によっては採用基準の見直しをおこなおう。
労働力人口が減少して人材の獲得のための競争が年々激化していることもあり、求職者の動きにもチェックが必要だ。これらのように、多角的な視点で状況を把握しておこう。
各ポジションで必要な人数の明確化~採用優先度をつける
社内と社外の状況を把握できたならば、各ポジションで必要な人数を明確にし、採用人数を決めていこう。必要な人数を算出する方法には、マクロ的な視点で求める手法のトップダウン方式と、ミクロ的な視点で求める手法のボトムアップ方式がある。
トップダウン方式とは、会社全体の財政面をもとにして適性となる人件費を算出し、必要な人員の総数を算出する手法のことだ。労働分配率や人件費率、売上高、損益分岐点、付加価値などのさまざまな要因を踏まえ、会社全体の大きな視点から求めた人員数を各部署や部門に振り分けていく。
一方のボトムアップ方式とは、現場における実際の業務量や職務分析から各部署や部門、職種に必要な人数を求めていくものである。現場の視点に立って算出し、それを積み上げることによって全体の人員総数を決めるという方法だ。
ただし、マクロ的な視点で求めるトップダウン方式も、ミクロ的な視点で求めるボトムアップ方式も、そのどちらにも課題がある。
会社全体のマクロ的な視点で求めるとコスト面としては良いものの、現場に人手が不足してしまって業務が滞る可能性がある。現場の採用ニーズをもとにミクロ的な視点で求める場合には、現場の人手は足りるようになるものの人員が増え過ぎてしまう恐れがあり、財政面での問題があるのだ。
採用人数の理想的な決め方とされるのは、事業計画や経営戦略をもとにした中期的な採用ニーズから人員の構成を決定し、毎年計画どおりに進めることだ。しかし、このように理想どおりにいくことは難しいだろう。
マクロ的な視点で採用人数を求めたのちにミクロ的な視点で算出しなおすなど、両面の視点から計算するのがおすすめだ。
ちなみに人員が不足している場合、その解消方法は採用人数を増やすことだけではない。配置転換や育成などによって人員不足を補えないかを検討してみるといいだろう。
必要な人数の明確化だけではなく、採用優先度をつけていくことも重要だ。経営面から見たニーズと現場でのニーズに対して、必ず増やさなければならないのか、すぐに増やす必要があるのかを確認し、緊急度や優先度を設定しよう。
人数を決めたあとは?
採用人数を決めたならば、採用計画に落とし込んだり関係者に説明したりして、現場の部署や経営陣の同意を得てから採用業務をおこなっていくことになる。
マクロ的な視点とミクロ的な視点の両面から人数を算出したり、労働生産性や過去の採用実績などをもとに調整したりすると、採用人数への妥当性は説明しやすくなる。
しかし、労働生産性をもとに算出した場合、将来の売り上げの見積もりが異なっていたときには、算出結果も異なってくるものだ。売上が減少するのならば退職者の補充を制限するなどして、ちょうどいい人員になるように工夫しよう。
採用人数を決定したならば、採用する人材の具体的なイメージを作り上げ、それに合う人を探していく。事前に求める人材の具体的なイメージを作り上げておくことで、採用する人材とのミスマッチを回避できるためしっかりと考えよう。知識や資格、スキル、経験、性格、勤務条件など、どのような人物像を求めているのかペルソナを理解し、採用する際の判断材料にするといいだろう。
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また、実際にどのような相手であれば自社が求める人物像に合っていると判断できるのか、選考の基準を決めておこう。自社のニーズにぴったりのいい人材がいたとしても、それを判断できなければ採用できない可能性があるだろう。書類選考や筆記試験、面接などの選考方法を決定するほか、これらをおこなう際に判断する合格基準を明確にしておくべきである。
採用する人数や採用するかどうかを判断するときの基準となるものを決定したならば、求職者に対するアプローチの方法を考えていく。求職者から連絡があるまでただ待つのではなく、ダイレクトリクルーティングなど採用担当者から求職者に対して声をかけられるようなアプローチ方法もおすすめだ。
関連記事:採用マーケティングにおける採用手法の選び方。ダイレクトソーシングやリファラル採用の効果とは
採用活動をおこなう際は、どうして採用活動を実施することになったのかの経緯や理由まで理解しておくといいだろう。今まで仕事をしていた人が辞めたことによる募集であれば、前任者が持っていたスキルや経験などを参考に基準となるものを決めておくことで、採用後のミスマッチを回避できる。増員による募集であれば、今後の事業で任せたい役割に合った人物像を考えておくなどしておけば、ニーズに合った人材を探しやすくなるだろう。
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採用計画とは?
採用計画とは、事業計画や採用の方向性をそれぞれ検討し、採用の指針となるように立てた計画のことである。採用計画を立てる際は、採用するのはいつで、どのような方法で決定し、どのような人をどの部署にどれくらい配置するのかを考慮しておく。自社における採用活動の問題点をはっきりさせることができるうえに、採用後のミスマッチを避けられるため、採用をおこなう前にはしっかりと計画を立てておこう。
採用計画を立てる際には、自社の現状を分析したうえで企業全体の経営戦略と現場の人たちが持っている人員へのニーズなど、さまざまなことを考慮して計画を立てていく。正しく採用計画を立てるためには、最新の採用マーケットの状況やターゲットとなる層の動向を把握しておこう。採用マーケットの状況を判断するには、該当する業界の有効求人倍率、各求人広告社の調査やアンケート結果などを判断材料としてチェックしておくことをおすすめする。
また、競合他社の状況を把握して自社の採用基準に反映させたり、自社の魅力を確認したりするといいだろう。
まとめ
採用人数を決める際は要員計画などを確認し、今後の計画をしっかりと立てたうえで適正な人数を決めるべきである。要員計画とは、経営戦略や事業計画の実現のために、企業に必要な人材と数を一定期間確保するための計画だ。要員計画の確認により、事業計画を遂行するためにどのような能力や適性を持った人物を、どれほど採用すればいいのかが理解できて判断しやすくなる。
また採用人数の決定のためには、社内の状況や関連する社外の状況を把握し、各ポジションで必要な人数を明確化することも重要だ。採用人数を決めたならば、採用計画に落とし込んで関係者に説明する。その後の採用業務も、採用する人材とのミスマッチを回避するために重要なポイントである。
しっかりとチェックして採用業務に活かしていこう。