チームに所属するメンバーが個々に影響力をもち、リーダーとしての役割を担うことをシェアドリーダーシップと呼ぶ。環境が変化しやすいVUCA(ブーカ)時代においては、複数人がリーダーシップを発揮し、多様な考え方や価値観に基づいて業務を行なうことが有効とされている。
チーム全体のパフォーマンス向上に役立つ手法として、シェアドリーダーシップの仕組みやメリットなどを確認しておこう。
目次
シェアドリーダーシップとは?新しいリーダーシップ
さまざまな変化の波が押し寄せるVUCA(ブーカ)時代において、新たなリーダーシップ理論の「シェアドリーダーシップ」が注目を集めている。シェアドリーダーシップを実践して個々の主体性を促すと、組織の維持や成果の創出が期待できるのだ。
類似する「サーバント・リーダーシップ」「オーセンティック・リーダーシップ」との違いも含め、正しい意味や注目されている理由を確認していこう。
シェアドリーダーシップとは?
従来のリーダー像といえば、チームを牽引するカリスマ的存在を思い浮かべるだろう。それに対し、組織に属する一人ひとりのメンバーが影響力をもち、リーダーとしての役割をチーム全体で共有するあり方をシェアドリーダーシップと呼ぶ。
言い換えると、全員がリーダーでありながら、時にはフォロワーとしての役割も果たし、個々が主体的に働く状態だ。ある研究では、シェアドリーダーシップを浸透させるほうが、カリスマ的なリーダーを置くよりも成果が上がりやすいことがわかっている。
リーダーシップとは?
リーダーシップとは、設定したゴールの実現に向けて個人やチームの行動を後押しする力のことだ。影響力や統率力、指導力とも言い換えられ、業務の効率化や組織の結束力強化のためには欠かせないものと考えられている。
経営学者のドラッカーは、リーダーシップを「資質ではなく『仕事』」と定義した。これは、リーダーシップをもつために必要なのは本人の性質ではなく、仕事として優先順位や目標を明確に設定し、実際に行動を起こすことであるという考え方を意味している。
あわせて、「権力を誇示するのではなく責任を負うこと」「メンバーから信頼されていること」も、ドラッカーが提唱するリーダーシップに必要な要素だ。リーダーとして活躍するためにはこれら3つの要素が重要であり、カリスマ性は重視されないと理解しておこう。
注目されている理由
シェアドリーダーシップは、企業がVUCA(ブーカ)時代を生き抜くために必要な理論として注目されている。VUCAとは、時代の特性を表す4つの英単語の頭文字から生まれた造語だ。
1. Volatility(変動性)|テクノロジーや価値観などの変動性の高い
2. Uncertainty(不確実性)|自然環境や政治などが不確実である
3. Complexity(複雑性)|グローバル化によるビジネスの複雑化
4. Ambiguity(曖昧性)|変動性・不確実性・複雑化が合わさることによる社会の曖昧さ
このような時代の変化に伴い、一人のリーダーだけでは適切な意思決定を行なうことが困難になっている。また、AI(人工知能)やRPA(ロボットによるテクノロジーの自動化)の発展により、いわゆる「指示待ち人間」ではなく自発的に行動できる人材が必要とされている。
その点、チームに属するメンバー全員がリーダーとしての自覚をもっていると、緊急時でも柔軟かつスピーディーに判断できたり、自主性が養われたりする効果が期待できる。シェアドリーダーシップが注目されているのは、このように意思決定の難しさの解消や主体性の促進に効果的だと考えられているからだ。
関連記事:VUCA時代とは?ビジネスで広がる共創の概念。なぜ必要とされているのか?
サーバント・リーダーシップとの違い
サーバント・リーダーシップとは、奉仕精神をベースにしたリーダーシップ理論である。サーバント(servant)が召使いを意味するとおり、リーダーが部下に奉仕する姿勢を見せることを重視している。そのうえで、部下の能力を最大化できる環境づくりを実践するのが特徴だ。
関連記事:サーバント・リーダーシップとは?組織の中での特徴と支配型との違いを解説
オーセンティック・リーダーシップとの違い
価値観や信念などの「自分らしさ」を大切にしながらリーダーとして活躍することを、オーセンティック・リーダーシップと呼ぶ。
オーセンティック・リーダーシップの主なキーワードは「自分軸」や「人間力」だ。自分自身をきちんとマネジメントでき、倫理観に則ったうえで自分らしく行動するのがオーセンティックなリーダーの特徴である。
関連記事:オーセンティック・リーダーシップの意味とは? 近年人事領域で注目されている理由
シェアドリーダーシップのメリット
シェアドリーダーシップの実践によって得られるメリットは大きく以下の2つだ。
1. 生産性の向上
2. イノベーションにつながる
注目されている理由とあわせてメリットを理解しておくと、シェアドリーダーシップの必要性がよりわかりやすくなるだろう。ここでは、具体的な効果について詳しく解説する。
生産性の向上
メンバーそれぞれがリーダーシップを発揮できる環境を整備すると、生産性の向上が期待できる。
チームに所属するメンバーには、それぞれに得意分野・苦手分野があるだろう。
シェアドリーダーシップを実践すると、足りない部分をメンバー同士で補い合うことが可能となる。その結果、チーム全体のパフォーマンスが最大化され、生産性や業績の向上につながるのだ。
また、一人ひとりが主体性をもって働ける仕組みづくりは、個々の満足度にも良い影響を与える。社歴を問わず意見を出し合うことによって、組織全体の風通しも良くなるだろう。なお、リーダー職を任される前からリーダーとしての役割を体験できるため、人材育成においてもメリットがある。
イノベーションにつながる
シェアドリーダーシップが浸透するとメンバー間の意見交換が活発になり、イノベーションの促進にもつながる。これまでのチーム運営は個々に役割を割り当てるスタイルが主流で、役割から外れた分野に対して意見を出す機会は少なかった。
その点、シェアドリーダーシップではさまざまな視点からの意見が重視されるため、議論が多様な方向に展開されやすくなる。結果として柔軟なアイデアが生まれやすくなり、チーム全体のイノベーション力の向上が期待できるのだ。
シェアドリーダーシップを機能させるポイント
チーム運営でシェアドリーダーシップを円滑に取り入れるためには、以下の4つのポイントを意識しよう。
1. 目標やビジョンの適切な提示
2. 実行と振り返り
3. エンパワーメントを進める
4. フォロワーシップを高める
それぞれの具体的な方法について解説する。
目標やビジョンの適切な提示
シェアドリーダーシップでは個々の主体的な姿勢が求められるが、前提としてチーム全体が同じ目標・ビジョンを掲げていなければいけない。役職としてのリーダーが目標やビジョンを適切に提示し、それぞれが自発的に行動していても同じゴールに向かって取り組んでいる状態を作り出すことが重要だ。
実行と振り返り
シェアドリーダーシップが成立するかどうかの分かれ目は、所属するメンバーがリーダーとしての自覚をもっているかにかかっていると言っても過言ではない。リーダーとしての自覚を養うためには、リーダーとしての役割を繰り返し体験させる必要がある。
体験によって得られる学びを有効活用するためには、「PDCAサイクル」と「OODAループ」が欠かせない。メンバーがリーダーシップの実行と振り返りを効果的に行なえるように、それぞれの手法を整理しておこう。
PDCAサイクル
リーダーとしての精度を高めていくためには、業務の中でこまめにPDCAサイクルを回すことが重要だ。PDCAサイクルはフレームワークのひとつで、以下の英単語の頭文字から名付けられている。
1. Plan(計画)
2. Do(実行)
3. Check(評価)
4. Action(改善)
PDCAサイクルのメリットは、良かったところ・改善すべきところを逐一洗い出すことで、目標達成に必要な要素を見つけられることだ。メンバーが自らの行動を振り返り、「リーダーとしての自分に足りないもの」を把握する流れを繰り返せば、徐々にリーダーシップを身につけていけるだろう。
関連記事:PDCAサイクルとは?他の手法との違いや定着させる方法、企業実例
OODAループ
PDCAサイクルはリアルタイムの環境の変化に弱いという意見もある。その弱点をカバーするのが、以下の5つの要素で構成されるOODA(ウーダ)ループだ。
1. Observe(観察)
2. Orient(状況判断)
3. Decide(意思決定)
4. Act(実行)
5. ループ
基本的な仕組みとしては、現在起こっている状況を観察し、環境の変化に応じて現場レベルで意思決定を行なう。PlanからActまでを一方向で行なうPDCAサイクルとは異なり、OODAループはObserveからActの4ステップを自由に行き来できるのが特徴だ。
不確実性が高い中でリーダーシップとしての自覚を養うためには、より自由度の高いOODAループを実施するのもいいだろう。
関連記事:VUCA時代とは?ビジネスで広がる共創の概念。なぜ必要とされているのか?
エンパワーメントを進める
メンバーの主体性を刺激する方法として、エンパワーメントの実施もおすすめしたい。エンパワーメントの仕組みは、メンバーに権限を与えて能力開花を促すことだ。裁量権を得ることで当事者意識が生まれやすくなり、メンバーは自主性や自立性のもとで仕事に取り組むようになる。
結果として潜在的なスキルなどが開花すれば、リーダーとしての自覚も芽生えやすくなるだろう。個人の成長に加え、リーダーとしての人材育成にもつながるため、エンパワーメントによって得られるメリットは大きいといえる。
関連記事:組織における社員の自律性を高める方法「エンパワーメント」とは?
フォロワーシップを高める
シェアドリーダーシップを実施する際は、メンバー全員がフォロワーシップを発揮することが重要だ。フォロワーシップとは、業績の最大化を目標として部下がリーダーをサポートすることだ。リーダーの意見が不適切な場合に提言するなど、リーダーの補佐的な役割をイメージするとわかりやすいだろう。
チームがより良いパフォーマンスを行なうためには、リーダーシップとフォロワーシップの両方が円滑に機能している状態が理想だ。特にシェアドリーダーシップにおいては、個々がリーダーとフォロワーの役割を流動的にこなすことが求められる。
フォロワーシップを促進するためには、「リーダーがメンバーの行動などを適切に評価する」「リーダーとメンバーの相互理解を深める」「風通しの良い環境を構築する」の3点が有効だ。
チームの業績最大化を目指すためには、全員にリーダーとしての自覚をもたせる一方で、フォロワーシップの重要性も忘れないようにしよう。
また、最良のチームワークを目指してチームのあり方を模索・実践し続ける「チーミング(teaming)」の概念もチーム運営に役立つだろう。
関連記事:
・フォロワーシップは高められるのか?リーダーシップとの違いを解説
・チーミングの意味とは?チームが機能するために必要なこと
まとめ
シェアドリーダーシップとは、チームに所属するメンバー全員がリーダーとしての役割を担い、同じゴールに向かって目標達成を目指す仕組みを指す。変化が起こりやすい昨今においては、一人のリーダーが正しい意思決定を行なうのは簡単なことではない。
そこで、複数人のリーダーを立てることで多様な意見交換ができるシェアドリーダーシップの重要性が叫ばれているのだ。変動を続ける社会の中で生産性の向上やイノベーションの促進を目指すなら、シェアドリーダーシップを実践してみてはいかがだろうか。