人材ポートフォリオとは、事業を行っていくうえで、どこに人材が必要かを分析したものである。人材ポートフォリオがあれば、事業の成果を上げやすくなるだろう。この記事では、人材ポートフォリオの基礎知識や作り方を解説する。作成する目的を理解して、事業に役立てよう。
目次
人材ポートフォリオとは?
人材ポートフォリオとは、企業が事業を進めていくうえで、「どのような人材が、どの程度必要か」といった人材に関する情報を分析したものである。まずは、ポートフォリオの基礎知識を確認しよう。
そもそもポートフォリオとは
ポートフォリオとは、イタリア語のPortafoglioが語源となっており、業界によってさまざまな意味で使用される言葉である。
例えば、クリエイターとして活動している人にとって、ポートフォリオとは、自分が作成した作品をまとめたもののことだ。ポートフォリオを作成することで、自分の世界観や実力を相手に伝えられる。
ほかにも、金融や投資家にとってのポートフォリオとは、保有している金融商品の一覧や組み合わせたものを表しているのだ。
以上のように、ポートフォリオは使う人や業界によって、さまざまな意味で用いられる言葉である。
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人材におけるポートフォリオとは
一方、人材におけるポートフォリオとは、企業を運営するうえで「どのような能力を持った人材が、どのタイミングで、どれほど必要か」を分析したものである。つまり、事業で結果を残すために、以下の3つを明確にするのが重要なのだ。
・ 社内のどの場所に人材が必要か(例:部門やポジション、役職など)
・ どのような人物が必要か(例:職種や能力、スキル、性格など)
・ どのくらい必要か
これらを明確にしておけば、成果を出すために必要な人材についての詳細が明らかになるのである。人材ポートフォリオは採用や従業員の評価、人材の配置などを行う際に利用されてきたが、近年は労働形態を問わず、広い雇用を視野に入れながら活用されている。
人材ポートフォリオを作成する目的
人材ポートフォリオを作成する目的は、以下の3つである。
・ 現在の組織に適した採用方針を検討するため
・ 企業成長に合わせた必要な育成を明らかにするため
・ 経営方針に紐づいた人材戦略立案~実行のため
それぞれの目的について、詳しく見ていこう。
現在の組織に適した採用方針を検討するため
人材ポートフォリオは、現在の組織に適した採用方針を検討するために作成される。人材ポートフォリオを作成すれば、自社の現状を把握できる。例えば、正社員が多い企業であっても、ベテランの人材が大半を占めているようであれば、10~20年後は人材不足になり得るといえるだろう。
また、従業員が多い企業であっても、できる業務内容に偏りがあれば、業務の成果を得にくいかもしれない。つまり、人材ポートフォリオを作成すれば、現在の組織に足りない人材を確保できるように採用方針を検討できるのである。
企業成長に合わせて必要な育成を明らかにするため
人材ポートフォリオを作成すれば、企業成長に合わせて必要な育成を行える。例えば、定型業務を行う人材が多い反面、管理や監督業務を担う人材が不足しているのであれば、マネジメントできる人材を増やさなければ、企業成長は見込めないだろう。
人材ポートフォリオを作成していれば、提携業務を行う人材の中からマネジメント業務に適正のある人材を抜擢して育成することができるのだ。ほかにも、定型業務を行う人材に対してヒアリングを実施し、業務の縮小や適材適所への配置転換の検討などもできる。
管理職を担う人材が少ない場合は、総合職を担っている人材の中に適正のある人がいれば育成できる。つまり、人材ポートフォリオを作成することで、企業に必要な育成が明確になる。各従業員の育成方法が明確になれば、企業がより成長するだろう。
経営方針に紐づいた人材戦略立案~実行のため
人材ポートフォリオを作成すれば、経営方針に紐づいた人材戦略立案や実行ができる。経営方針を反映することで、企業の目標も達成できるだろう。
例えば、経営方針が従業員の若返りを目標としている場合、人材ポートフォリオに反映させればスムーズに目標を達成できるのだ。また、革新的な取り組みを行っていきたい場合も同様に、専門性を重視した人材ポートフォリオを作成することで、専門性のある企業へと成長できるだろう。
つまり、経営方針に基づいて人材ポートフォリオを作成すれば、今後の人材戦略が明確になるのである。
人材ポートフォリオを作成する流れやポイント
人材ポートフォリオを作成する流れは、以下のとおりである。
・ データに基づいた自社の現状把握
・ 将来的な理想像を考える
・ 理想と現実を比較し、課題を明らかにする
・ 課題に対する施策を検討する
それぞれのステップについて、作成する際のポイントと併せて確認しよう。
人材データなど、客観的事実に基づいて作成する
人材ポートフォリオを作成する際は、人材データといった客観的な事実に基づいて作成するのがポイントである。以上を踏まえたうえで、各ステップを見ていこう。
データに基づいた自社の現状把握
人材ポートフォリオを作成する際は、データに基づいた自社の現状を把握することから始める。まず、自社に必要な人材をグループごとに分類しよう。一般的な分類方法は、業務の性質によって以下の2軸・4象限に分けることである。
・ 個人で行う仕事か
・ チームを組んで行う仕事か
・ 新しく創り出す仕事か
・ 既存の業務を運営していく仕事か
例えば、個人で行う仕事かつ新しく創り出す仕事であれば、経営層や経営に携わる人材が当てはまるだろう。ほかにも、クリエイティブな人材も該当するかもしれない。グループ分けすることで、自社にどのような人材が必要なのかが明確になるのである。
また、雇用形態によって分類するのもひとつの方法だ。現在自社に在籍している人は、どのような雇用形態で、それぞれ何名在籍しているのかを把握することも重要である。雇用別に分類しておけば、自社が強化したい部分が明確になるだろう。
分類方法を決めたら、自社の人材を実際に分類して現状を把握する。ここで、ポイントとなるのが、担当者の主観や勘でグループ分けを行わないことだ。人事やマネージャーが、従業員について正しく評価できていないケースは珍しくない。
そのため、適性検査によって分類するのがおすすめである。適性検査を実施すれば、能力や性格などの分類も行いやすくなり、従業員の育成や配属などにも活用できる。
将来的な理想像を考える
グループ分けにより現状を把握できたら、将来的な理想像を考えよう。例えば、グループごとに理想の配置人数を考えておくのも重要だ。現在の人材ポートフォリオだけではなく、理想の人材ポートフォリオを作成すれば、将来的な理想像も明確になる。
理想と現実を比較し、課題を明らかにする
現状と将来的な理想像が明確になったら比較を行い、課題を明らかにしよう。例えば、理想的な配置人数に対して、明らかに人材が足りていないときは業務に支障が生じる。
定型業務を行う人材と比較して、管理業務を行うマネジメント人材が極端に少なければ、定型業務を適切に管理できていない可能性も考えられるのだ。また、マネジメント人材の人数が確保できていても、勤務年数の短い若手が少なければ、10~20年後には人材不足が課題になるかもしれない。ほかにも、正社員の大半が総合職に就いており、専門知識を持つ人が少ないこともあるだろう。
反対に、人材が多すぎる場合も、適切な人数に調整しなければいけない。このように、現状と将来の理想像を比較すれば、人材に関する課題が明確になるはずだ。
課題に対する施策を検討する
課題が明確になれば、課題を解決する施策を検討しよう。事業を進めるうえで成果を上げる人材を増やす方法も、成果を出さない人材を減らす方法も、基本的には以下の4つの施策を行う。
・ 配置転換(例:部署の異動や出向、転勤など)
・ 採用(例:新卒採用や中途採用、派遣社員の活用、アルバイトの採用など)
・ 退職や解雇(例:役職定年制度の導入や早期退職の推奨など)
・ 人材育成(例:研修の充実や目標管理、人事評価の導入など)
これらの施策をうまく組み合わせながらマネジメントすることで、適切な場所に適切な人材を配置できる。なかでも、実施しやすく効果を得やすいのは採用だ。新たな人材を獲得できれば、一定の成果が期待できるほか、既存の従業員に良い刺激となるだろう。
その反面、採用時に適切な人材を見極めなければ、企業にマイナスな影響を与えかねない。そして、人材を減らしたい場合は、慎重な行動が重要だ。日本の法律では、従業員の解雇はハードルが高く、なかなか実施できない。また、従業員にとっても、不安の要因となるだろう。
そのため、作成した人材ポートフォリオも元に、適材適所を意識した配置転換をすれば、活躍できる従業員が増える可能性はある。つまり、適材適所に人材を配置するのが目的であることに注意が必要だ。
まとめ
人材ポートフォリオとは、企業が事業の成果を上げるために、どこに人材が必要なのかを分析したもののことである。社内のどの場所に、どのような能力を持った人材が必要なのかを分析しておくことで、事業に大きな影響を与えるだろう。
また、人材ポートフォリオを作成すれば、採用方針の検討に利用できるほか、必要に応じた人材育成も可能となる。ほかにも、経営方針に合わせた人材戦略も立てられるのだ。つまり、人材ポートフォリオを作成することで、さまざまな成果が期待できる。
ただし、作成する際は、主観や勘に頼った評価を基準にするのではなく、客観的な事実に基づいた分析が重要だ。正しく評価することで、より活用できる人材ポートフォリオが作成できるだろう。