クレドとは、信条や行動指針を表す言葉で、2000年代以降に相次いだ企業の不祥事をきっかけとした広まったものである。クレドがあると業務上の判断基準が明確になり、従業員が適切に行動できることが主なメリットだ。この記事では、クレドの意味や経営理念との違いなどを解説する。
目次
クレドとは?経営理念との違い
クレドは2000年代以降から広まった言葉で、社内の意識を統一するために重要なものとされている。クレドを導入して高い効果を得るためには、正しい意味や経営理念との違いなどを理解しておくことが大切だ。
ここでは、クレドの意味や類似用語との違いを解説する。
クレドとは
クレドはラテン語に由来する言葉で、従業員一人ひとりが意識すべき「信条」や「行動指針」を意味する。または、「従業員が行動する際の判断基準」と言い換えるとわかりやすいだろう。
クレドの例には「顧客の満足度を最優先に考える」「常に進化を追求する」などが挙げられる。行動の模範となるクレドを企業側がきちんと明示することで、従業員は状況に応じて適切な判断をしやすくなるのだ。
類似用語との違い
クレドには、以下のように類似する言葉がいくつかある。
・経営理念
・行動指針(ミッションステートメント)
・パーパス
・ミッション、ビジョン、バリュー
クレドの意味を正しく理解するためにも、それぞれの類似用語との違いを確認しておこう。
経営理念
クレドと経営理念は明確に分けられているものではなく、企業によっては経営理念をクレドとして扱うケースもある。強いて違いを挙げるならば、両者は「具体的であるか」「状況に合わせて変化するか」が異なるポイントだ。
経営理念は企業の核となる考え方であり、創業者の思いや信条などが反映されることが多い。それに対し、クレドは経営理念をよりわかりやすくしたもので、従業員の行動を具体的に定義するのが特徴だ。
また、経営理念は企業の根幹となる考え方であることから、簡単に変更されるものではない。その点、クレドは状況の変化に応じて作り替えられていくものである。クレドが時代に適さなくなった場合は、社内で議論されて内容が更新されることも珍しくない。
経営理念は抽象的かつ変化しないもの、クレドは具体的かつ変化しうるものと覚えておくといいだろう。
行動指針(ミッションステートメント)
行動指針(ミッションステートメント)もクレドと同様の意味をもつが、それぞれの目的に違いがある。ミッションステートメントの役割は、企業の価値観を従業員全体に共有したり、社会的使命を対外的にアピールしたりすることだ。
一方で、クレドはミッションステートメントを実現するための手段として用いられることが多い。例えば、企業としてミッションステートメントに則った活動ができるように、判断基準となるクレドが書かれたカードを従業員に配布するケースがある。
関連記事:ミッションステートメントの役割とは?経営理念との違いと作成方法、効果について
パーパス
パーパスは英語では「目的」「意図」と訳されるが、経営戦略などの話題では「存在意義」として使われる。クレドと意味が似ているものの、パーパスはクレドよりも社会的な意義にフォーカスしているのが特徴だ。
社会における自社の価値を定義し、企業が活動する目的と従業員が働く目的を一致させることがパーパスの役割である。
関連記事:パーパスとは何か?企業経営における意味とパーパス・ブランディングの取り組み方
ミッション、ビジョン、バリュー
ミッションとは、企業が担う使命や任務、企業活動を行なう目的を表す。言い換えると、「何のために存在するのか」「どのような価値を提供するのか」をわかりやすくしたものである。
ビジョンは経営理念やミッションを前提として作られており、企業にとっての理想の姿を表すものだ。企業が進むべき方向性や達成すべき目標を従業員に共有するという役割がある。
バリューは企業が大切にしている価値観を表し、ミッションやビジョンを達成するために欠かせない基準という側面も持つ。特に企業の軸となる価値観はコアバリューと呼ばれ、企業に所属する全ての従業員が共有すべきものとされる。
これらの言葉とクレドの違いは、ミッションとビジョンの主語は企業であるのに対し、クレドの主語は一人ひとりの従業員であることだ。なお、クレドはミッションとビジョンを実現するための指針という役割があり、その点はバリューと共通していると考えられる。
関連記事:ミッションとは?ビジョンとの違いやなぜ必要なのかを解説
クレドが重要な理由
クレドの意味を理解できたら、なぜ昨今の企業経営においてクレドが求められているのかも知っておこう。ここでは、クレドが重要な理由について解説する。
なぜクレドが重要なのか
クレドが重要視される理由として、以下の2つが挙げられる。
1.コンプライアンス遵守のため
2.エンパワーメント浸透のため
コンプライアンス遵守のため
さまざまな企業において「クレドを作成すべき」という流れが広まったのは、コンプライアンスを遵守する意識が高まったことが関係している。クレドが注目され始めたのは2000年代以降であるが、この時期には食品偽装などの不祥事によって倒産する企業が相次いだ。
これによって多くの企業がコンプライアンスの強化を重要視するようになり、従業員の意識改革の手段としてクレドが用いられるようになったのだ。
クレドの作成によって企業の行動指針が浸透していれば、従業員は自身の倫理観に左右されずに適切な行動をとれる。結果としてコンプライアンスの遵守につながり、企業としては事業を継続しやすくなるのだ。
エンパワーメント浸透のため
クレドが必要とされる理由として、エンパワーメントの浸透も挙げられる。エンパワーメントとは、従業員に対して裁量や権限を与え、個々の能力や自発的な姿勢を養う手法である。
エンパワーメントのメリットは、従業員が自分自身で意思決定できるようになることや、業務の効率化が期待できることだ。一人ひとりが主体的に行動することによって潜在的な能力が開花し、結果として優秀な人材の確保につながることもあるだろう。
一方で、従業員の判断に委ねられる部分が大きくなることから、社内で認識のズレが生じることも考えられる。従業員の行動が企業の軸から乖離することを防止するためには、従業員の認識を揃えておかなければいけない。
クレドを定義して従業員に共有すれば、企業としてのあり方を踏まえたうえで判断できるようになるだろう。このように、組織として統制を図りながらエンパワーメントを円滑に進めるためには、クレドの導入が必要とされているのだ。
関連記事:組織における社員の自律性を高める方法「エンパワーメント」とは?
クレド作成のポイントと事例
ここまではクレドの基本的な知識を解説した。次項からは、実際にクレドを作成する際のポイントや企業の成功事例を確認していく。
クレド作成のポイント
クレドを作成する際の基本的な流れは以下のとおりだ。
1.クレドの作成方法やスケジュールを設定する
2.経営陣・従業員にヒアリングする(打ち合わせやアンケートの実施)
3.結果を文章としてまとめて告知する
上記の手順を踏まえたうえで、クレドを作成する際は以下の2つのポイントを意識するといいだろう。
1.経営理念、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)などをもとにクレドを明文化する
2.経営層だけでなく全社を巻き込んでクレドを決める
それぞれのポイントについてわかりやすく説明する。
経営理念、MVVなどをもとにクレドを明文化する
クレドを作成する際は、経営理念やMVVなどを取り入れて明文化するのが基本である。なぜなら、クレドは会社のあり方や目指すべき姿、価値観などを前提として作られるものであり、これらを達成するための行動指針という役割を担っているからだ。
そのため、クレドの作成時は各部署・役職の代表でミーティングを行なうのが基本だが、できれば経営層もミーティングに参加することが望ましい。経営層がミーティングに参加するのが難しい場合は、事前にヒアリングを行なう必要がある。企業の代表である経営層の思いや考え方を盛り込み、経営理念やMVVがクレドに反映されるように意識しよう。
なお、文章にする際は従業員が読み手であることを忘れてはならない。抽象的な内容では認識にズレが生じる可能性があるため、具体的かつ簡潔な文章でまとめよう。
文章化したクレドを名刺サイズのカードに印刷し、従業員に配布している企業もある。従業員が携帯しやすいように工夫することで、行動に迷った際の判断基準として活用してもらいやすくなるだろう。
経営層だけでなく全社を巻き込んでクレドを決める
自社に所属する従業員を交えてクレドを決定することも大切なポイントである。クレドをきちんと根付かせるためには、従業員に賛同される内容でなければいけない。
しかし、経営層だけでクレドを作成するような経営層の意見を押し付けるだけでは従業員の共感を得るのは難しく、結果としてクレドが浸透しないことも考えられるだろう。
クレドを決める際は、経営層だけではなく従業員の意見を盛り込むことも不可欠である。具体的には、従業員に対してクレドの重要性を事前に説明した上でアンケートを行なうなど、現場の声を集めるのが有効だ。
企業事例
ここでは、以下の3つの企業事例をもとにクレドの効果を見ていこう。
1.リッツ・カールトン
2.ジョンソン・エンド・ジョンソン
3.トヨタ自動車
リッツ・カールトン
リッツ・カールトンは、クレドの導入によって顧客満足度の向上に成功している大手高級ホテルチェーンだ。リッツ・カールトンでは、顧客に満足してもらうための行動指針や心構えが記載されたカードを従業員に配布し、毎朝読み合わせを行い意識の共有を徹底しているといったエピソードがある。
従業員全員がクレドに基づいた行動をとることによって「顧客満足度の高いホテル」というイメージがつき、リピーター客のみならず新規顧客の獲得にもつながっている。
関連記事:スターバックスやリッツ・カールトンが盛況な理由/CXでリピーター獲得のビジネス戦略
ジョンソン・エンド・ジョンソン
クオリティの高いクレドが浸透している企業として有名なのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンだ。ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、顧客への責任を第一に考えてクレドが作られている。
過去に、販売する鎮痛薬によって社会的な事件が起こった際も、「一番に顧客を守る」というクレドに沿って迅速に行動し、信頼回復に成功した。
トヨタ自動車
トヨタ自動車はクレドを導入している日本企業の一つである。会社のあり方を「トヨタ基本理念」として明文化したうえで、「トヨタ行動指針(トヨタウェイ2020)」というクレドを定め、従業員一人ひとりが理念に基づいた行動をとれるように促している。
まとめ
クレドとは信条や行動指針を表すものであり、経営理念をより具体的に文章化したものだ。クレドによって従業員の認識を統一すれば、企業のあり方や理想の姿、社会における存在意義を踏まえて業務を進められる。
ただし、クレドの浸透には従業員の共感が不可欠なため、作成にあたっては経営層と従業員の両方から意見を吸い上げることが大切だ。クレドの意味や作成時のポイントなどを整理し、社内の意識改革に有効な手段としてクレドを導入してみよう。