過去の辛い経験を思い出して、気持ちが滅入ったことはないだろうか。例えば、ある人から見下したような発言をされ、何度も思い出しては気分が滅入り、目の前の楽しみも味わえないといった経験を持つ人は少なくないだろう。
このように不快な経験を何度も思い出し、気持ちを滅入らせることを「反芻思考(はんすうしこう)」と呼ぶ。反芻思考は決して生産的ではなく、精神的にも有害なことが多い。どのような対策を取れば反芻思考に陥らずに済むのか、詳しく見ていこう。
目次
反芻、反芻思考とは?
過去のネガティブな出来事や不快に思ったことを何度でも思い返すことを「反芻(はんすう)」や「反芻思考(はんすうしこう)」と呼ぶ。「あのときなぜあのように行動してしまったのだろう」のように否定的に過去を振り返り、自分の言動や選択を責め続けてしまうのだ。反芻をすると、気持ちが不快になるだけでなく、気分が滅入る、不安になる、問題解決能力が低下するなどの負の連鎖が起こることがある。
言葉の意味
「反芻」とは、元々は牛などが何度も胃に入ったものを口に戻しては噛み砕き、食べ物を消化しやすくする行為を指す言葉だ。牛たちが何度も繰り返し咀嚼し続けるのと同様、過去の不快な出来事を何度も思い返しては味わい、噛み砕き、何度もつらい気持ちになり、その度に気持ちが落ち込んでいくことを「反芻」あるいは「反芻思考」と呼ぶことがある。
反芻思考と精神疾患の関係
反芻することで、気持ちがネガティブになるだけでなく、うつ病や不安障害などの精神疾患になる可能性もある。
なお、反芻思考を持つ人、つまり、普段から過去の不快な記憶を思い出すことが多い人は、ストレスに対して弱い傾向があるといわれている。ストレスにつながる出来事が起こるだけで無気力になることもあり、場合によっては精神疾患と判断される程度に精神状態が悪化することもある。
反芻思考の種類
過去の不快な事実を何度も思い返す反芻思考は、実際のところ、常に精神状態に悪影響を及ぼすわけではない。思い返してどのように受け止めるか、どのようなスタンスで思い返すかによって、よりネガティブな気持ちになることもあれば、反対にポジティブに前進できることもある。
反芻思考は、過去の不快な出来事を思い返すスタンスによって以下の2つに分類できる。
・ リフレクション
・ ブルーディング
それぞれの違いや精神疾患との関わりについて見ていこう。
リフレクション
リフレクションとは、過去の不快な出来事を振り返るというよりは、不快な出来事が起こった理由、つまり、「自分は失敗をなぜしたのだろうか」という点に注目して振り返る反芻思考だ。自分の行為を分析することで、次は同じ失敗をしないようにしたいという前向きな気持ちに起因することが多い。
リフレクションは失敗を反省材料にして今後に活かす思考だ。実体験に基づいて自分をブラッシュアップするという側面もあるので、リフレクションは自己成長につながる反芻思考ともいえるだろう。
ブルーディング
ブルーディングとは、過去の不快な出来事を「不運だった」「自分の言動や選択が間違っていた」というスタンスで振り返る反芻思考だ。過去の自分を否定し、いかに周囲から納得できない仕打ちを受けたかと不満をつのらせる。
ブルーディングは前向きとはいえない思考方法だ。過去をどんなに悔いたり恨んだりしても、気持ちが滅入るだけで、将来に役立つアイデアが浮かぶわけでもポジティブになれるわけでもない。そのため、ブルーディングをする傾向がある人は、うつ病などの精神疾患を引き起こす可能性があると考えられている。
対策としてのマインドフルネス
ネガティブな過去を思い出すことや、周囲の人々による理不尽な仕打ちを思い起こすことは珍しいことではない。しかし、思い起こす度に不満をつのらせ、不安でいたたまれない気持ちになることは、精神衛生上好ましいこととはいえないだろう。
過去の不快な出来事を思い出すことがあっても、その経験から何かを学び、ポジティブに受け止めていくためには、ブルーディングによる負の連鎖を断ち切る必要がある。そのための対策として「マインドフルネス」を挙げることができるだろう。
マインドフルネスとは?
マインドフルネスとは、今の状態をあるがままに受け止めることを指す言葉だ。反芻思考は過去に気持ちを向ける行為、特に過去の中でもネガティブな部分にだけ気持ちを向ける行為である。過去の不快な出来事から、これから起こるかもしれない不快な未来を想像し、さらに気持ちを滅入らせることもある。つまり、反芻思考では「今」が抜けているといえるのだ。
また、リフレクションとして反芻思考をする場合でも、過去から未来に飛躍しているため、「今」の状態を見ていないと考えられる。ブルーディングとは異なり明るい未来を描くことも多いため、精神状態を悪化させることは少ないが、「今」を見ていないという点では同じといえるだろう。
マインドフルネスを行うことで「今」に気持ちを向ければ、過去の不快な出来事や将来起こりうるネガティブな出来事に振り回されることは減るだろう。また、過去や将来に振り回されないことで、気にかけることが減り、ストレスが増えにくくなるという効果も期待できる。
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ウェルビーイングとの違い
ウェルビーイングとは、幸福や健康を意味する英語だ。ただし、ウェルビーイングと表現したときの健康は病気の対義語としての健康ではない。医学的には病気であっても、身体的・精神的・社会的に満たされていればウェルビーイングの状態だと考えることができる。
ウェルビーイングは、元々は福祉や医療分野で使われていた言葉だ。しかし、近年ではビジネスや経営の場面でもウェルビーイングに注目するケースが増えている。
従業員がウェルビーイングの状態で働くことができれば、仕事に対する満足度が高くなり、離職を回避することにもつながるだろう。また、従業員が集中して業務に取り組むため、仕事の質の向上も期待できる。
実際に従業員が健康で幸せな状態、つまり、ウェルビーイングの状態であれば、創造性や生産性、ひいては売上も向上するとされている。また、ウェルビーイングの状態にある人は周囲と良好な関係を築きやすくなるので、他の従業員にとっても働きやすさが向上する要因になる。良好な人間関係のある職場であれば、欠勤率は下がり、離職も減ると考えられるだろう。
このように従業員がウェルビーイングの状態であるかどうかは、企業にとっては存続をかけた命題でもある。ウェルビーイングの状態を生むための手段として近年注目されているのがマインドフルネスだ。マインドフルネスを行うことができれば、精神的にウェルビーイングの状態になりやすく、仕事に対しての満足度向上も期待できるだろう。
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企業事例
従業員のウェルビーイング実現のために、マインドフルネスを日常的に取り入れる、社員研修として実施する企業も増えている。例えばある企業では、社員が自主的にマインドフルネスを実践するプログラムに参加できる1日30分の機会を提供している。瞑想などのプログラムに参加することで、生産性の向上を実感する社員も少なくないようだ。
実践方法
マインドフルネスは、呼吸とボディスキャンの2つの方法で実践することが多い。まずは呼吸で実施する手順を紹介する。
1. 呼吸に意識を集中し、心の中の雑念を取り除く。静かな環境を選ぶと集中しやすい。
2. 頭頂部から糸で吊られているようなイメージで背中を伸ばして座り、足を少し開ける。
3. 両手は膝におき、目を閉じて気持ちを落ち着ける。
4. 鼻からゆっくりと5回深呼吸をする。
5. 深呼吸の後は自分のペースで自然な呼吸を繰り返す。呼吸に意識を集中する。
6. 深呼吸と普通の呼吸を何度か繰り返し、意識を自分に戻す。
次はボディスキャンの方法を紹介する。ボディスキャンとは、体を隅々まで意識することで疲労や動きを読み解くことだ。体に意識を向けることで、体と心のつながりが回復しやすくなる。
1. 楽な姿勢を取る。立つ、座る、寝転がるのいずれでも良い。立つ場合、脚は軽く開き、座るときは背筋を伸ばす、寝転がるときは仰向けになって脱力する。
2. 目を閉じて自然なペースで呼吸をし、腹部の動きに意識を集中する。
3. 腹部から体の他の部分に意識を向けていく。意識を向ける場所を変える度に、深呼吸をして気持ちの切り替えを行う。
4. 最後に頭部と顔面に意識を向ける。
5. すべての部分に意識を向けた後、不快な感覚があれば呼吸と共に吐き出す。
6. 意識を体に向け、手足の先端部を動かして瞑想を終える準備に入る。
7. 意識が通常に戻ったら、ゆっくりと目を開く。
マインドフルネスを実施するときは、目的を定めるようにしよう。例えば頭の中をすっきりとさせたい、不安な気持ちを取り除きたい、だるさや疲れを減らしたいなどのように目的を持つと、よりマインドフルネスの効果を期待しやすくなる。
また、マインドフルネスを実施するときは、集中できる環境を選ぶことも大切だ。雑音がある環境では気持ちを集中させることが難しく、思うような効果を得られないことがある。また、スマートフォンなどの音が鳴るものや集中を削ぐものも排除し、マインドフルネスを実施している間は他の物事に気を取られないようにしておこう。
なお、マインドフルネスはストレスや不安をなくすための方法ではない。ストレスなどがあれば、それをそのまま受け止めることがマインドフルネスだ。そのまま受け止めることで、結果的にストレスが軽減され、ウェルビーイングの状態に近づくことができる。
まとめ
反芻思考とは、過去の好ましくない状況を何度も思い返すことだ。反省点を見つけることで次回の行動につなげるケースもあるが、精神的なダメージを何度も受けるケースもあるので注意が必要だ。
反芻思考によってネガティブな気持ちを生み出さないためにも、今の状況をあるがままに受け止めるマインドフルネスが求められる。企業側は従業員がより良い状態で働くためにマインドフルネスに注目し、研修などで取り入れている企業もある。