■人手不足倒産とは?
■そもそも倒産とは何か?
■なぜ人手不足倒産は発生するのか?
■人事関連で行える人手不足倒産の対策
■経営クラスで行う人手不足倒産の対策
人手不足倒産の意味とは?
少子高齢化が進む日本では、人口減少に伴う人手不足が深刻な問題となっており、なかでも「人手不足倒産」の増加はもはや社会問題だと言えるほどだ。
「人手不足倒産」とは、その言葉の通り、人手が不足することで会社が倒産してしまうことを意味している。
以前から運輸業や医療・福祉関連・建設業などを中心に人手不足が深刻化しており、これが原因で倒産してしまう企業が少なくなかった。
現在も中小・零細企業を中心に人手不足倒産は相次いで発生しており、「人手不足倒産が過去最多」などというニュースを耳にすることも多く、今後も増加するとみられている。
もちろん、単に人手不足と言っても後継者不足や採用難などさまざまな理由や原因があるため、これを定義することは難しい。
一例として東京商工リサーチによる「人手不足関連倒産」の定義をあげれば、「後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰」を原因とする倒産ということになる。
それぞれの意味を整理しよう。
・ 後継者難型:後継者が見つからないまま、経営者が死亡、または入院・高齢化などによって引退することで起こる倒産を指す。
・ 求人難型:人手不足解消のために人材募集を行ったものの、うまく人が集まらなかったことで起こる倒産を指す。
・ 従業員退職型:定年退職や転職などによって、従業員が退職することで起こる倒産を指す。
・ 人件費高騰型:最低賃金の引き上げなどで人件費が高くなり、収益とのバランスが取れなくなったことで起こる倒産のことを指す。
では、そもそも「倒産」とはなんだろう?
倒産とは、一般的に会社がつぶれることを指す言葉であるが、正式な法律用語ではなく、東京商工リサーチが1952年から集計を始めた「全国倒産動向」によって広く知られるようになった。
倒産は大きく「法的倒産」と「私的倒産の」2種類に分けられる。
法的倒産は、裁判所の関与のもと法的に債務整理を行うもので、再建型の「会社更生法」「民事再生法」と、清算型の「破産法」「特別清算」に分けられる。
私的倒産は、裁判所を介することなく、債務者と債権者の間で協議をして手続きを進めるものだ。
会社の倒産は経営者だけでなく、従業員の人生をも一変させることは言うまでもない。
依然として就活生の大手思考や、大企業への転職を希望する人が多いなかで、今後も中小企業を中心に人材不足倒産増加の傾向は続いていくと考えられる。
本稿では人手不足倒産について、その課題や対策について解説していこう。
なぜ人手不足倒産は発生するのか?
前述の通り、人手不足倒産は後継者難、求人難、従業員退職、人件費高騰を直接の原因として引き起こされるが、日本の企業で人手不足倒産が発生する背景には、「採用」「定着」「育成」というそれぞれの段階において課題がある。
ここではその課題について、順を追って解説していこう。
1. 採用に関する課題
人手不足に陥ってしまう企業の多くは、「優秀な人材が採用できない」という課題を抱えている。
これには、いきなり優秀な人材を採用しようとしていることや、自社が採用すべき人材の要件を明確にしないまま採用活動を行なっているなどという要因が考えられるが、いずれにしても、新規の採用が上手くいかなければ人が増えないのは自明の理だ。
そもそも、働き手が不足している今、どの企業も優秀な人材を求めており、いきなり即戦力になるような人材を採用することは困難であるといえる。
採用活動を行ううえで重要なことは、求める人材の基準を明確に定めることと、いきなり即戦力として活躍できる人材を求めるのではなく、社内での育成制度を確立させ、長期にわたって支援することを前提に進めていくことだ。
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2. 定着に関する課題
採用活動にばかり力を注いでしまい、従業員が退職した理由や、離職に繋がる可能性があることを把握せずに、対策をしていない企業の多くが人手不足に悩まされている。
業務を中心的に進めていた人材が抜けてしまうことで業務が滞るといった問題が発生するのはもちろんであるが、一般の従業員も退職者が続けば、業務が回らなくなり、さらなる負荷が残った従業員にかかってしまう。
そうした事態となれば、またその中から退職者が現れるといった負のループに陥る可能性もある。
つまり、新規採用を行って一時的に増員できたとしても、早期退職者が出たり、多数の人材がコンスタントに退職してしまっていては問題解決には至らないのだ。
そのため、まずは組織の課題を理解し、問題を1つずつ解決していくことで従業員の定着を図ることが重要だ。
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3. 育成に関する課題
人手不足が起こっている多くの企業が抱えている問題として、従業員の入れ替わりが激しいために、技術や知識、マニュアルなどの業務進行に関する資産が蓄積されていかないことがあげられる。
採用した人材に早く現場に出て戦力として活躍してもらいたいと考えることは、どの企業においても共通するように思うが、十分な教育をされないまま現場に送り出される新入社員に正常な業務を期待することは難しいだろう。
また、そういった職場環境で働くことは大きなストレスとなりやすく、せっかく雇用してもすぐに離職してしまうという事態になりかねない。
必要な教育のプログラムをレベルごとに用意し、従業員の育成ができる環境・仕組みを整備することがとても重要だ。
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人手不足倒産に陥らないためにできること
では、人手不足倒産を防ぐにはどのような対策があるのだろう。
まず、人事関連で行えるものとして「採用」「定着」「育成」それぞれに以下のようなことが考えられる。
1. 採用計画を作り、最適な人員を採用し続けること
2. 採用要件を作り、自社に必要な人材像を明確にした採用活動を行うこと
3. 組織の課題を常に把握し、対策を講じること
4. 従業員が離職する要因を洗い出し、必要な予算を投じるなどすぐに対策を行うこと
5. 従業員が成長・活躍するための育成の仕組みを構築すること
6. 常に作業マニュアルや手順書などを整備し、更新を行い、仕事を標準化すること
また、経営クラスで行う対策として代表的なものに、以下の5つがある。
1. 労働環境の改善
有効な対策として賃金アップや福利厚生の充実といった方法もあるが、労働環境を見直すことも離職率の低下につながる。
たとえば、サービス残業の廃止、有給休暇の取得率向上、パワハラやセクハラなどハラスメントの防止、教育制度の充実など労働環境を改善し、従業員が働きやすい環境を整えることで、退職者の減少や新規採用者の増加が期待できる。
2. IT技術やシステムの活用
これまでマンパワーで行われてきた業務もAIやクラウドサービスなどのITサービスを導入すれば、省人化・効率化することができる。
たとえば、製品の生産や検査などの業務をAIやロボットに行わせることで必要な人員が減少し、新たな人材を雇用する必要が少なくなる。
また、ウェブ会議システムを活用することで地域に縛られることなく、遠方に住んでいる人材を雇用し、成功している企業も存在する。
このように人が行う作業と機械が行う作業の住み分けを行うことで、人手不足に悩まされない企業体質を作りあげることができる。
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3. 女性の雇用
女性の社会進出が叫ばれ始めてからしばらくの時が経ち、現在は日本においても女性が就業・出世できる環境が整いつつある。
男女共同参画局が2017年に公開した男女共同参画白書によると、女性の就業率は2001年では62%であったが、2016年には72.7%と上昇している。
しかし、男性の就業率の82.5%という数字とはまだ大きな差があるのが現状だ。
産休や育休をはじめ、時短勤務など女性が安心して働き続けることのできる環境を構築することで、人手不足を解消できるだけでなく、ダイバーシティマネジメントの推進にもつながる。
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4. 高齢者の雇用
総務省統計局の調査によると、65歳以上の高齢者の就業者数は2019年現在まで増加の一途を辿っており、その数は892万人と過去最多になった。
内訳を確認すると、65歳から69歳の就業率は、60歳から64歳までの数字に比べて低い水準となっている。男性の場合は、60歳から64歳の就業率が82.3%である。対して65歳から69歳の就業率は58.9%である。女性の場合は60歳から64歳の就業率が58.6%であるのに対して65歳から69歳までの就業率は38.6%となっている。
定年延長といった動きも政府主導で進められている中で、将来的な年齢引き上げも予想されるため、高齢者の雇用を進めていくことも人手不足倒産の対策となる。
5. 直接、現場の声を聞く
現場で働く従業員の管理を中間管理職に任せてばかりいると、経営と現場との間に溝が生じてくる可能性があるため、経営者が直接、従業員の声に耳を傾けることが必要だ。
そうした積み重ねによって組織に一体感が生まれ、人手の流出防止にもつながる。
ここまで人手不足倒産について解説をしてきた。
人手不足倒産の根本原因には少子高齢化問題があげられるため、今後も増加する可能性が高く解決が難しい問題ではあるが、それを単に社会問題として丸投げするのではなく、自社で取り組むべき課題や防止する策はないかを考え、行動していくことが必要だろう。
まとめ
・現在日本では、人口減少に伴う人手不足が深刻な問題となっており、なかでも人手が不足することで会社が倒産してしまう「人手不足倒産」の増加はもはや社会問題だと言えるほどだ。「人手不足倒産が過去最多」などというニュースを耳にすることも多く、今後も中小・零細企業を中心に増加するとみられている。単に人手不足と言ってさまざまな理由や原因があるため、これを定義することは難しいが、東京商工リサーチによる「人手不足関連倒産」の定義をあげれば、「後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰」を原因とする倒産ということになる。
・そもそも倒産とは、一般的に会社がつぶれることを指す言葉である。しかし、正式な法律用語ではなく、東京商工リサーチが1952年から集計を始めた「全国倒産動向」によって広く知られるようになった。倒産は裁判所の関与のもと法的に債務整理を行う「法的倒産」と裁判所を介することなく、債務者と債権者の間で協議をして手続きを進める「私的倒産」の2種類に分けられる。会社の倒産は経営者だけでなく、従業員の人生をも一変させることは言うまでもないため、対策を講じる必要がある。
・人手不足倒産は後継者難、求人難、従業員退職、人件費高騰を直接の原因として引き起こされるが、日本の企業で人手不足倒産が発生する背景には、「採用」「定着」「育成」というそれぞれの段階において課題がある。1.採用に関する課題:いきなり優秀な人材を採用しようとしたり、自社が採用すべき人材の要件を明確にしないまま採用活動を行なっていることが原因、2.定着に関する課題:新規採用にばかり目を向けて、従業員が退職した理由や、離職に繋がる可能性について対策しないことが原因、3.育成に関する課題:早期に現場で活躍することを期待して十分な教育をしないことを原因
・人手不足倒産を防ぐための対策として、人事関連で行えることは次のとおりだ。1.採用計画を作り、最適な人員を採用し続けること、2.採用要件を作り、自社に必要な人材像を明確にした採用活動を行うこと、3.組織の課題を常に把握し、対策を講じること、4.従業員が離職する要因を洗い出し、必要な予算を投じるなどすぐに対策を行うこと、5.従業員が成長・活躍するための育成の仕組みを構築すること、6.常に作業マニュアルや手順書などを整備し、更新を行い、仕事を標準化すること。
・経営クラスで行う対策として代表的なものに、次の5つがある。1.労働環境の改善:サービス残業の廃止、有給休暇の取得率向上、ハラスメントの廃止、教育制度の充実など従業員が働きやすい環境を整えることで離職率低下を図る、2.IT技術やシステムの活用:AIやクラウドサービスなどのITサービスを導入することで業務の省人化・効率化を図る、3.女性の雇用:まだ就業率が高くない女性を雇用することで人手不足解消につなげる、4:高齢者の雇用:女性の雇用と同様、高齢者の雇用を進めていくことも人手不足解消につながる、5.現場の声を聞く:経営者が直接、従業員の声に耳を傾けることで、組織に一体感が生まれ、人手の流出防止につながる。