■第4次産業革命において懸念されること
■DX時代の人材教育手法として注目されている「リスキリング」
■DX時代になぜリスキリングが有効なのか
■OJTとリスキリングの違いとは?
■リスキリングを導入にあたって経営層に求められること
■リスキリングを導入するときの2つのポイント
リスキリングとは何か?
現在、世界は「第4次産業革命」とも呼ばれる革新的な変化の最中にある。
IoTやビッグデータ、AIなどのテクノロジーの活用によって、さまざまなプロセスがデジタル化・自動化している。
業務の効率化が図られる一方で、デジタル化・自動化に対応可能な高度な技術を持った人材は不足しており、新たな人材確保にかかるコストも企業を悩ませている。
そこで、既存の人材に対してDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応できる新たなスキルを身につけてもらう必要が生じており、DX時代の人材教育手法として今、注目されているのが「リスキリング」だ。
「リスキリング(Reskilling)」とは、「職業能力の再開発、再教育」を意味する言葉で、一般的には新しい職業に就くため、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、新たなスキルを獲得するための教育と定義されている。
近年では、ビジネスのデジタル化によって生じる業務の大幅な変更へと適応するために必要なスキルを獲得するための教育のことを指すことが多い。
また、似た概念に「リカレント教育」があるが、通常リカレントは、キャリアを中断して大学などに入り直すことを意味する。対してリスキリングは仕事を続けながら自身のスキルを継続的にアップデートしていくことを指すとされている。
関連記事:リカレント教育とは?人生100年時代の生涯学習の重要性と企業が取り組むメリット
リスキリングによって、人材不足を解決しようとする取り組みは世界各国の企業ですでに始まっている。世界経済フォーラムの年次総会(いわゆるダボス会議)では2020年1月、「リスキリング革命」が発表され、2030年までに10億人に対し、リスキリングに向けたより良い教育、スキル、仕事を提供することが宣言された。
実際、リスキリングによって失業が懸念される人材を新たな雇用が生まれる分野の事業へスムーズに移動させることができれば、採用コストの削減だけではなく、これまで既存人材が作り上げてきた企業文化を継承できるというメリットもある。
これからますます加速するであろうDX時代への変化に合わせた人材戦略を検討するためには、リスキリングは欠かせないと言っても過言ではないのだ。
そこで本稿では、リスキリングについてDX時代に有効な理由や導入するときのポイントについて解説していこう。
DX時代になぜリスキリングが有効なのか?
DXとは、業務遂行の手段をデジタル化し、効率化を図ることだけを目的としているのではない。
企業の価値の生み出し方、すなわち「どこで」「どのような」価値を創出するか、といった企業の事業構造におけるベースの変革までが含まれており、本格的なDXが進むということは、ビジネス上のすべてのプロセスにおいてこれまでとは異なるスキルや能力が必要になることを意味する。
しかし、必要とされる高度なスキルを持つ人材を外部から大量に採用するということは、多くの企業にとって現実的ではない。また事業戦略を策定する担当者や、基幹システムを構築するエンジニアだけをデジタル人材に置き換えればいい、ということでもない。
つまり、各プロセスにいるすべての既存人材にデジタル時代の価値創造のための新しいスキルを獲得してもらう必要があり、これを育成するリスキリングこそがDXの実現に欠かせない人的資源戦略となることは間違いない。
しかし、日本では社内の人材教育と聞くと「OJT(On-the-Job Training)」を思い浮かべる人が多いだろう。
では、OJTとリスキリングの違いはどこにあるのだろうか。
まず、OJTは社内に「今存在している」部署の「今ある」業務を通じて、やり方や流れを教育し、スキルを習得してもらう手法だ。
これに対してリスキリングは、「今はまだない」、「今はできる人がいない」事業や業務のために必要なスキルを新たに獲得してもらうことが目的である。
DX時代において求められるデジタルスキルは、おそらく今どの職場にも「ない」スキルである。
たとえば、今まで人が作業をしていた製造ラインでロボットが導入されたとする。
その場合、手でモノを仕分けたり溶接したりする、という業務はなくなるが、今後はそれまでになかった、ロボットを管理したり、システムにエラーがあったときにそれを修正したりする仕事が生まれるだろう。
製造ラインの現場で働いていた人たちは、そのような新しいスキルを習得することで、今までとは違ったかたちで、引き続きその企業における価値創造に参加することができるのだ。
企業はDX時代を生き抜くための新しい価値創造の手法を多くの社員に習得してもらうことなくDX戦略を成功させることはできないし、逆にデジタルやAIが人々の雇用を奪うという事態を抑えることもできない。
これがDX時代においてリスキリングが有効とされる理由である。
リスキリングは、DX時代に企業と労働者の両者が生き残るための重要な戦略なのだ。
実際にリスキリングを導入するときのポイント
リスキリングを進めるうえでは、従来の産業構造が根本的に変わることを念頭に置き、これまでの個人のキャリアやビジネスのやり方に捉われない観点からスキル開発にあたる必要がある。
文系だからデジタルのことは分からない、DXなんて自社には関係ない、といった先入観は捨て、各々の適性の把握や自社のビジネスにおけるDX戦略立案を早急に行い、いち早く組織的なリスキリングに取り組むことが、企業経営の安定につながるのだ。
リスキリングを導入するにあたって、経営層には、今後のデジタル変革において自社に必要となるスキルを洗い出し、現在、企業や社員が持っているスキルとのギャップを短期間で埋めるプログラムを用意することと、それを実現するための投資をする覚悟が求められる。
だが、現実問題として、現在社内に「ない」スキルを短期間で多くの社員に習得してもらうにはどうすればよいのか。
社内にそのスキルがないからといって、ただ単に社外のありふれたITやデジタル関連の各種講座を受講しただけでは、現場で有効なスキルを習得したとは言えないだろう。
では、実際にリスキリングを導入するにはどのような点に気をつければいいのだろうか。
それには以下の2つの観点がある。
1. 基礎のスキルは外部プログラムを有効活用する
デジタルとは何なのかといった基礎的なこと、たとえば、Webサイトを作成したりそれを編集したりするための考え方やプロセス、RPAの活用方法、クラウドサービスの使い方、簡単なプログラミングなど、こうしたスキルを学ぶことのできる講座やプログラムは、すでに世の中にあふれている。
このような一般的なスキルの習得については、自社にデジタル人材育成のノウハウがなければ、外部にあるものを活用するべきであろう。
2. ビジネスの変革と同時進行で進める
基礎的な知識やスキルを習得したとして、実際に自社のビジネスにそれらをどう浸透させるのかについては、現場でのOJTと試行錯誤が必要となる。
前項でリスキリングはOJTとは異なると述べたが、リスキリングにおいても、少しでも早く新しいスキルを習得した者が、そのスキルを使って価値創出をしている現場に、後からスキルを習得した者が参加し、実践でのポイントなどを教えてもらう、ということになるだろう。
座学だけではわかり得ないコツや注意点はどこにあるのか、参考書には載っていない現実的な難所はどこなのかを、実践で学びながらスキルの有効性を高めていくことになるはずだ。
リスキリングを成功に導くためには、おそらくOJT的な現場体験が不可欠なのである。
日に日に進化するデジタル技術によって、価値の生み出し方は瞬く間に変わっている。
また、2020年に発生した新型コロナウイルスがビジネスと人々の生活を今までにないカタチで脅かしたことにより、DXの必要性に気が付いた企業も多く、ビジネスのデジタル化がこれからますます進んでいくことは想像に難くない。
DX戦略によって将来のビジネスプランや事業に変化が生じるとき、それぞれの現場で働く社員は、どのような変化を求められるのか、その変化に対応できるスキルや知識はすでに持ち合わせているのか、どうすればそれらを習得することができるのか。
これらを見極めてリスキリング戦略を立てることで、社員の能力の再開発を着実に実行していくことがDXを成功へと導く。
リスキリングは現在働いている人々に、自社の価値創造へこれからも参加し続けてもらうための第一歩なのだ。
まとめ
・現在、世界は「第4次産業革命」とも呼ばれる革新的な変化の最中にある。さまざまなテクノロジーの活用によって業務の効率化を図れる一方で、それらの技術によってそれまで人が行っていた労働の補助や代替が可能となるため、多くの労働者が職を失うことが予想されている。失業者の増加が懸念される中で、業務のデジタル化・自動化に対応可能な高度な技術を持った人材は不足しており、新たな人材確保にかかるコストも企業を悩ませている。そこで、既存の人材にDXに対応できる新たなスキルを身につけてもらう必要が生じている。
・「リスキリング(Reskilling)」とは、「職業能力の再開発、再教育」を意味する言葉で、近年では、ビジネスのデジタル化によって生じる業務の大幅な変更へと適応するために必要なスキルを獲得するための教育のことを指すことが多い。実際、リスキリングによって労働移行がスムーズに進めば、採用コストの削減だけではなく、これまで既存人材が作り上げてきた企業文化を継承できるというメリットもある。今後も加速するであろうDX時代への変化に合わせた人材戦略を検討するためには、リスキリングは欠かせない。
・DXは業務の効率化を図ることだけを目的としているのではなく、企業の価値創出の仕方や事業構造のベースの変革までが含まれている。本格的なDX が進むということはビジネス上のすべてのプロセスにおいてこれまでとは異なるスキルが必要になるため、各プロセスにいるすべての既存人材にデジタル時代のための新しいスキルを獲得してもらわなければならない。これを育成するリスキリングこそがDXの実現に欠かせない人的資源戦略となる。
・OJTとリスキリングの違いは、OJTは社内に「今存在している」部署の「今ある」業務を通じてスキルを習得してもらう手法なのに対して、リスキリングは、「今はまだない」、「今はできる人がいない」事業や業務のために必要なスキルを新たに獲得してもらうことが目的であることがあげられる。DX時代において求められるデジタルスキルは、おそらく今どの職場にも「ない」スキルであるため、リスキリングが求められている。
・リスキリングを進めるうえでは、従来の産業構造が根本的に変わることを念頭に置き、これまでの先入観に捉われない観点からスキル開発にあたる必要がある。各々の適性の把握や自社におけるDX戦略立案を早急に行い、いち早く組織的なリスキリングに取り組むことが、企業経営の安定につながる。リスキリングを導入するにあたって、経営層には、将来自社に必要となるスキルと現在社員が持っているスキルとのギャップを埋めるプログラムを用意すること、そのための投資をする覚悟が求められる。
・実際にリスキリングを導入するにあたって気をつけるべきポイントは次の2つだ。1.基礎のスキルは外部プログラムを有効活用する:デジタルの基礎的スキル習得については、自社にデジタル人材育成のノウハウがなければ、外部にあるものを活用するべきだ。2.ビジネスの変革と同時進行で進める:座学だけではわかり得ないコツや注意点、現実的な難所はどこなのかは、実践で学びながらスキルの有効性を高めていく。
・日々進化するデジタル技術によって、価値の生み出し方は瞬く間に変わっている。DX戦略によってビジネスプランや事業に変化が生じるとき、社員に求められる変化や、変化に対応するためのスキルや知識の習得方法などを見極めてリスキリング戦略を立てることで、社員の能力の再開発を着実に実行していくことがDXを成功へと導く。リスキリングは現在働いている人々に、自社の価値創造へこれからも参加し続けてもらうための第一歩だ。