■CFTが注目される背景とは?
■CFTの基本概念と類似する組織形態
■CFTがもたらす3つのメリット
■機能しないCFTを改善する3つのポイント
■3ステップで解説!CFTの導入方法
■ CFTを成功させる4つのポイント
クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)とは何か?
硬直化した日本企業の組織構造が問題視されて久しい。
事業部それぞれが独立し過ぎたことにより、同一の企業体であるにも関わらず、横断的な交流や戦略が策定しづらく、あるいは戦略が現場レベルで実行されないこともありがちな問題の一つとなっている。
例えば全社的な問題が勃発したとする。しかし、これに対応するにも、事業部を超えて議論する機会、あるいはその仕組み自体がないという企業が多いのだ。
結果として、事業部署や部門ごとにそれぞれの既得権益に対して保守的となることで、利害調整が上手くいかず課題が解決せず硬直化する、といった具合だ。
ある程度の規模を有する日本企業であれば、どの企業でも起こりうる問題かもしれない。
しかし、より先行きが不透明となり、不確実性の増していくVUCA時代において、このような硬直化した問題を抱えたままの企業にとって、ビジネス環境は決して優しいとは言い難い状況にある。
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加速するグローバル化、進出してくる外資企業の影響力など、様々な問題が次から次へと出てくる中で、いかにして日本企業の競争力を維持していくのか。
もはや旧来の縦割り組織では、部門ごとで課題解決に至らない問題や、縦割りによる経営の管理の容易さ以上に、企業活動そのものに支障をきたすことのほうが多くなってきているのが実情だといえる。
このため、抜本的な企業形態の改革が求められるケースが多くなっており、そこで企業経営陣に注目されているのが、「クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)」という考え方である。
本稿では、CFTとは何なのかについて、そのメリットや克服すべきデメリットについて、そしてCFT導入に向けたステップとCFT運用を成功させるためのポイントについて紹介していきたい。
本項では、まずCFTとは何なのかについて解説していこう。
クロス・ファンクショナル・チーム(Cross Functional Team=CFT)とは、全社的な経営課題の解決に向け、事業部門や職階、場合によって自社の従業員であるかどうかに関わらず、多様な知見を有するメンバーで構成されたチームを指しており、またこれを執行するマネジメントツールだ。
1990年代に業績不振に苦しむ日産自動車の立て直しで名を馳せたCFTは、一般的に経営や業務上の課題解決、そして縦割りにより硬直した組織体制の刷新に有効であるといわれている。
種類としては2種類あり、プロジェクトとして期限付きの短期で設けるものと、正式な社内部署として常時設置されるものの2種類だ。
面白いのは、CFTの理論自体は、かつての日本が有していた強みを元としている点である。
1980年代に高度成長の頂点を迎える日本企業では、活発な社内外における従業員同士のコミュニケーションが下支えとなり、自然と事業部間の情報共有や協力体制を実現できていた。
北米や欧州の研究者たちは、この強みこそ、当時の日本企業、特に製造業において高い生産性と品質を維持する原動力であると考え、これをCFTと名付けた。
その後、日本企業ではコミュニケーション不足と縦割り組織による弊害に大きな焦点が当たっていくこととなり、結果として理論化されたCFTを「逆輸入」する企業が増えているわけである。
なお、類似する概念として「マトリクス組織」というものがある。
マトリクス組織とは企業組織を縦横の2軸でかけ合わせ、多元的指揮命令系統の下で組織を機能させることを指すもので、1960年代のアメリカ宇宙開発「アポロ計画」が原点といわれている。
アポロ計画に参画していた関連企業に対し、製品ごとにプロジェクトマネージャーを設置し、職能別と製品別で組織を管理する体制を確立したことにより広がりをみせた組織形態だ。
多元的な指揮命令系統を有するため、指示に矛盾が生じた場合に組織が混乱するリスクがあること、そして全従業員が多元的な指揮命令系統下にある点において、CFTとは大きく異なる。
CFTのメリットとデメリットは?
前項では、クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)とは何なのかについて見てきた。
本項では、CFTを自社の企業改革や課題解決に導入していくことで期待できるメリット、また導入にあたって克服することが求められてくるデメリットについてそれぞれ目を通していこう。
まずは機能しているCFTから得ることができる3つのメリットについて見ていこう。
1. 縦割り組織の再生と活性化が期待できること
縦割りを前提とする組織において、通常業務では関わることが少ないメンバーとの活動がCFTの醍醐味であり、定められた目標達成に向けた原動力となる。
それぞれの出身部門からの知見を活かしながら協働していくことで、工数削減と互いのコミュニケーションを最大化させながら、一丸となって解決すべき目的に向かってCFT活動を行っていくことが可能となり、企業にとって組織の活性化という大きなメリットを得ることが期待できる。
2. 社外からも必要な知見を取り入れることができること
CFTにおけるクロス・ファンクショナルとは、必要に応じて社外から適当な人材を招くことで、課題解決に有用な提案や役割を果たしてもらうことも可能とする。
このため、社外メンバーから自社が保有しない知見やノウハウなどを提供してもらうことで、CFTはより一層の課題解決に向けた活動を行うことが可能となり、大きなメリットでとなる。
ただし、事前に然るべき商業倫理規定承諾書や相互機密保持契約書などを取り交わすことは必須である。
3. 多視点によって新しい解決策が生まれること
既述の通り、従来の日本型縦割り組織では、経営陣にとって管理しやすい利点がある反面、部門ごとでは社内横断的に意思疎通が取りづらく、課題解決力に限界があった。
CFTでは、社内横断的に集められたメンバーと、必要に応じ社外から招聘した優秀な人材により、多様な視点と斬新な意見を取り入れ、事業改革に向けた大きな機動力を発揮することが期待できる点が、大きなメリットとなる。
このように、十分機能しているCFTの場合には大きなメリットが見込めるが、一方で機能不全に陥っている場合、克服すべき課題も多い。
ここでは、3つのデメリットについても同時に確認しておきたい。
1. チーム構成のバランスが悪いと効果が出ない
CFT結成時、事業部や役職に偏りがあった場合、新たな視点の欠如、部門間バランスの不均衡などにより問題解決に向けた効果が十分に出ないことがある。
経営陣とCFTリーダーがメンバーを選出していく際、自社での経験年数、現在の役職、あるいは従業員の年齢などに幅をもたせておくことで、多様な意見を出し合い、問題解決や企業の抜本的改革に資するバランスの良いCFTとして活動していくことが可能となる。
2. モチベーションが維持できない
CFTメンバーは、通常業務と兼務していることが多い。
このため、メンバーのCFTに対する優先順位について、意識づけを高められていない場合、多忙さや意見相違によるCFT業務の停滞により、著しいモチベーション低下を招く可能性がある。
対策としては、管理者などが、CFT業務に対するインセンティブ付与や、CFT内でのコミュニケーションを促すといった施策が重要となってくるだろう。
3. リーダーによる介入に過不足が生じる
CFTリーダーによるチームへの介入バランスは、CFTの成果と深く結びついている。
過度な介入はメンバーの萎縮や反抗、協調性の欠如を生み出してしまう。反対に、介入や支援などが足りていない場合、メンバーの意見がまとまらず、同じく協調性と機能性を失う結果となる。
このため、CFTリーダーには、事業部間の利害調整や部門を跨ぐメンバーを取りまとめる高い管理能力を有する従業員を充てることが必要とされる。
CFT導入のステップと成功に向けたポイント
ここまでCFTとは何なのか、またその享受しうるメリットや、導入に向けた克服すべきデメリットについて見てきた。
ここでは、CFTを自社で運用し始めるにあたり、その導入ステップと成功させるためのポイントについて見ていこう。
まずは導入ステップからだ。
導入方法については、CFTの設計、立ち上げ、そして運営という3ステップに分けて見ていこう。
1. CFTを設計しよう
CFTの設立にあたり、まずは自社内での当該CFTの設計を行い、位置づけを明確にすることから始まる。活動内容と目標、活動期間、必要コストの見積もり、付与する活動権限、組織の管理者とスポンサーシップなどを経営陣で策定する必要がある。
その後、CFTの管理者として経営陣から1名ないし数名を選出、選出された管理者がCFTのリーダーやメンバーの選出を行うかたちが一般的だ。
2. 設計したCFTを立ち上げよう
CFTの立ち上げにあたり、当該組織の行動規範となるのがチームマニュアルだ。
これは活動開始してから確立していく場合もあるが、この段階においては、CFTメンバー同士が互いを認知し、活動を通じて信頼関係を築き、協働していく努力を行うことが欠かせないので、あらかじめ準備しておくことが望ましい。
意識づけとして重要なのは、それぞれのメンバーがチームマニュアルによって割り振られた役割を果たすことで、チームとしての目標達成に向けて共に前進していくという姿勢だ。
3. 立ち上げたCFTを運営していこう
課題解決あるいは企業の抜本的な改革のために組織されたCFTを運営していくにあたって、チームメンバー間の信頼関係、各自の多様性の発揮、そして目標達成に向けた協働の3点は欠くことができない。
この中で、それぞれのメンバーに対して新たな能力開発を行う必要性が出てきた場合、必要に応じて当該CFTの管理者が支援しながら成長を促すことも、CFT全体の成長に欠かせない。
次に、CFTを成功裏に機能させ続けるための4ポイントについて見ていこう。
1. 経営陣の介入を最小限とすること
多様性に富んだメンバーと環境下で、斬新な発想を生み出しつつ課題解決を目指すことが、CFT結成の最も大きな目的だ。
このため、経営層はCFTミーティングの冒頭と終盤で質疑を行うなどして、CFT活動の方向性と経営戦略との一貫性について確認するなど限定的な役割に徹することで、過度なCFT活動への干渉を行わないことが求められる。こうすることで、自由な発想のもとで問題解決にあたる従業員をサポートする側に回ることが重要だ。
2. 責任の所在を明確にしておくこと
全社を横断する組織であるCFTが機能不全に陥る理由の一つとしてあげられるのが、責任所在の不明瞭さだ。
このため、メンバーの認識相違が起きないかたちで会議内容を保存していくことや、出席している全メンバーで会議内容の責任を取ることなどを行い、CFTとしての結束力強化と活動の更なる活性化を図ることが重要である。
3. 必要に応じて現場からもCFTに従業員を参加させること
CFTは組織であると同時に、問題解決に対するアプローチであるべきだ。
このため、ある部門における問題解決を図る上で、他部門にも影響が出る可能性もある場合、課題解決に向けたプロジェクトチームへ、影響が出る関係他部門からもメンバーが選出されるべきだ。
このように、組織内の隔たりと偏りを極力排除していき、縦と横のつながりを強化することが、CFT浸透と成功に向けたポイントの一つとなる。
4. 課題解決の目標と成果を数値化すること
企業がCFTを運用していく上で、解決すべき問題の目標と成果について、数値化できていることは、CFTが機能する上でも、またCFTの有効性を検証する上でも有用だ。
そのメリットは主に数値化によって得られる効果測定力に加え、具体的な数値によって従業員間での目標明瞭化によるモチベーション向上と、評価時の容易さが挙げられるため、CFT実行時の重要なポイントの一つとなる。
まとめ
・加速するグローバル化と不確実性が増していくVUCA時代のビジネス環境下で、日本企業は旧来の縦割り組織による弊害に苦しんでいる状況だ。
全社課題に対して横断的に課題解決できない企業は淘汰される可能性すらある状況で、抜本的な課題解決と企業体制の刷新が期待されるマネジメント手法として「クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)」というものがある。
・CFTは、全社的経営課題の解決に向け、部署や職階に関わらず、場合によって社外人材も招聘しつつ多様な役職と経験を有するメンバーで構成される組織横断的チームだ。
CFTは、主に経営や業務上の課題解決と、硬直化した組織体制の刷新に有効とされる。
類似する組織形態としてマトリクス組織というものがある。
マトリクス組織は多元的な指揮命令系統を持ち、指揮が矛盾した場合混乱をきたすリスクがある点と、全従業員が多元的に管理される点において、CFTと大きく異なる。
・CFTがもたらすメリットは次の3つが大きいといえる。
1つ目に、旧来の縦割り組織では解決できなかった問題に対して、社内横断的に人選を行い、それぞれの部門の意見を集約できること。
2つ目に、社内の知見やノウハウが課題解決に足りないと判断された場合、必要に応じて社外から人員を招聘できること。
3つ目に、これらを活用していくことで、CFTが企業の抱える問題に対してあらゆる知見とリソースをもって解決にあたることを可能とすることだ。
・CFTが機能不全に陥っている主な要因として、チーム構成が原因であることや、通常業務との兼務で優先順位が下がっていること、あるいはリーダーによる介入が過剰または不足している状態であることが挙げられる。
チーム構成は、経験や役職、年齢などに関わらず幅広く選出すること、モチベーション向上は、管理者からコミュニケーション促進やインセンティブ付与を行っていくこと、経営陣によるリーダー人選は、高いマネジメント能力を有する者を選ぶことなどで、改善が期待できる。
・CFTの導入方法は設立、立ち上げ、運用の3ステップに分けて考えられる。
設立では組織の権限、コスト、目標、活動内容などを策定し、メンバー選出を行う。
立ち上げでは、活動指針となるチームマニュアル策定と、組織員の相互認知に重点を置く。
そして実際の運営では、相互信頼、各自の多様性発揮、目標達成に向けた協働という点に重点を置き、活動することが重要なステップとなる。
・CFTを組織の課題解決や企業改革に資するかたちで機能させるためには、次の4ポイントを押さえておくことが有用だ。
まず、経営戦略とCFT活動の一貫性確認以外で経営陣にCFTへ介入させないこと。
次に、全メンバーで会議内容の責任を共有することでその所在を明確にすること。
そして、問題解決のためには現場従業員もCFTへ随時参加させること。最後に、CFT組織の目標と成果を数値化しておくことだ。