■コロナ禍が与える心理的な影響とは
■瞑想をベースとしたストレス緩和法「マインドフルネス」
■マインドフルネスに期待される効果
■マインドフルネスによるデメリット
■マインドフルネスの実践方法
■マインドフルネスの注意点
コロナ禍でさらに注目されるマインドフルネスとは?
新型コロナウイルスの感染拡大防止への対策として、国民は外出や3密の回避などさまざまな自粛を求められ、社会や生活への急激な変化への対応を余儀なくされた。
また、世間では「コロナ疲れ」「コロナうつ」「コロナストレス」という言葉も生まれ、長引くコロナ禍は国民の行動だけでなく、心理的にも深刻な負担をもたらしている。
このような状況下における、ストレス緩和法として注目されているのが「マインドフルネス」だ。
「マインドフルネス(mindfulness)」は、過去の経験や先入観を取り払い、現実をあるがままに知覚して受け入れる心を育むトレーニングのことを指し、もとは、仏教の瞑想法がベースの概念である。近年では、科学的な研究によって、うつ病の再発予防や慢性的な痛みの軽減など医療分野やストレスの改善、自己啓発でも有効性が認められている。そのため、欧米企業では宗教色が排されたプログラムとして、早くから取り入れられてきた。
また、現在では長引くコロナ禍の影響を受けて、今まで以上にストレスを感じているビジネスパーソンの心身の健康を保つため、マインドフルネスを取り入れる企業が増えている。
そこで本稿では、ビジネス環境のストレスを軽減する方法として注目されているマインドフルネスについて、期待される効果やデメリット、実践方法や注意点について解説していこう。
マインドフルネスに期待される効果とデメリット
科学的な研究によって、マインドフルネスを実施することで、作業効率の向上、ストレスの軽減、抗炎症効果などが得られると言われている。
それぞれを詳しく見てみよう。
<マインドフルネスに期待される効果>
1. 作業効率向上の効果
マインドフルネスを実践することで集中力や記憶力、作業処理スピードが向上する。
アメリカ・ハーバード大学が管理職を被験者として行った研究では、マインドフルネス前後の作業処理スピードを「作業処理スピード」「正確性」「複数同時作業効率性」などの項目で調査した。その結果、マインドフルネスを実施したグループは「スピード」、「集中力」、「記憶力」すべての項目で、マインドフルネスが不十分であったグループに比べて数値がアップしたという結果になった。
こうした能力を向上させることは、作業効率のアップへと直結するだろう。
2. ストレス軽減効果
アメリカ・ワシントン大学が慢性的にストレスを抱えている210名の被験者に対して、マインドフルネスを6か月間実施し、ストレスに関係する遺伝子数の変化を調査した。その結果、マインドフルネスを実践した被験者はストレスに関係する遺伝子が減少したことが明らかになった。
この実験によって、マインドフルネスには耐ストレス性があることが証明された。
3. 抗炎症効果
アメリカ・オハイオ大学の研究では、乳がんを克服した被験者200名を半数にわけ、片方のグループにのみマインドフルネスを実施した。3か月後、血液検査を行って両グループを比較したところ、マインドフルネスを実施したグループでは3つの炎症マーカー値がそれぞれ10~15%減少した。
マインドフルネスは、メンタルケアだけでなく身体面での抗炎症効果も期待できるのだ。
また、日常的にマインドフルネスを実践することで、自分を見つめ直すことができたり、ありのままの自分を受け入れて大切にできる、などの意識の向上にもつながる。
このように、能力的、精神的、身体的、さまざまな面において効果が期待できるマインドフルネスであるが、デメリットも存在するという報告がある。
2つのデメリットについて整理してみよう。
<マインドフルネスによるデメリット>
1. ストレスやうつ症状を悪化させてしまう場合がある
マインドフルネスによって、ストレスの改善やうつなどの症状緩和の効果を狙っても、逆に症状を悪化させてしまう場合がある。
たとえば、うつ病などの精神的な病によってネガティブな感情を抱えている場合、集中して心を研ぎ澄ますことで、かえって心の奥底にあった不安感や怒りなどを増大させてしまうこともあるのだ。
これは、気持ちの切り替えがうまくできないことが原因で起こると考えられるため、そのような場合はマインドフルネスだけに頼るのではなく、心療内科等の受診を検討した方がよいだろう。
2. 瞑想やリラックスがうまくできない場合がある
マインドフルネスを自己流で実践した結果、うまく瞑想ができずリラックスできないという可能性もある。
神経を集中させようと焦るあまり、かえって興奮してしまったり、気が散ってしまうこともあるため、そうなってしまった場合は、過度な期待をせず気楽な気持ちでマインドフルネスに挑戦すると良いだろう。
マインドフルネスの実践方法と注意点
マインドフルネスには様々な効果があるが、正しい実践方法とその注意点を押さえておかないと、前項で解説したように効果が出ないどころか逆効果にもなりかねないので注意したい。
ここでは、マインドフルネスの実践方法を2つ紹介しておこう。
<マインドフルネスの実践方法>
1. 呼吸の瞑想
呼吸に意識を集中させることで心を無にする瞑想法であり、意識が乱れないよう自宅や静かな公園などで行うことが望ましい。
最初は2~3分からはじめ、慣れてきたら10~15分を目安に行うと良いだろう。
手順は次のとおりだ。
[ステップ1]
・背もたれに寄りかからず椅子に垂直に座り、両足を少し開ける。
・頭のてっぺんから一本の糸で天井に引っ張られているようなイメージで背筋を伸ばす。
・両手を膝の上に置き、静かに目を閉じてリラックスする。
[ステップ2]
・自然なペースで、鼻呼吸で5回深呼吸をする。
・呼吸の深さにはこだわらずに、自分が心地の良いと思う呼吸を探す。
[ステップ3]
・5回の深呼吸を終えたあとも、自然な呼吸を続ける。
・鼻を流れる空気や肺、お腹の動きなど、自分の呼吸に関する感覚だけに意識を集中させる。
[ステップ4]
・雑念が生まれても、焦らずに再び意識を呼吸に戻す。
[ステップ5]
・ステップ3とステップ4を繰り返し行ったら、瞑想を終える準備をする。
・最後に3回ほど呼吸をし、意識を自分に戻してからゆっくりと目を開ける。
2. ボディスキャン瞑想
自分の身体の細かな感覚に意識を向けることで体の動きや疲れを読み取り、心との繋がりを回復させる瞑想法である。特に、寝つきが悪い人や疲れが取れにくくやる気がでないと感じている人におすすめしたい方法だ。
時間の目安は15分ほどで、自宅など一人になれる場所で行うことが望ましく、横になって行う場合はヨガマットや布団などを用意すると良いだろう。
手順は次のとおりだ。
[ステップ1]
・楽な姿勢で行うこと。立つ・座る・横になる、どれでもOK。
・立って行う場合は、足を肩幅程度に開いてゆったりと立つ。
・座って行う場合は、背筋を伸ばして椅子に座る。
・横になって行う場合は、仰向けになって体の力を抜く。
[ステップ2]
・目を閉じてゆっくりと自然な呼吸を行う。
・呼吸をするたびにお腹が上下することに意識を向ける。
[ステップ3]
・意識をお腹から、他の部位へゆっくりと動かしていく。
・ライトで各部位を照らしながら確認をしていくようなイメージで、身体の繊細な感覚に意識を向けていく。
・意識を向ける部位を変える時には、深呼吸をして意識の切り替えをする。
[ステップ4]
・最後は頭と顔に意識を向ける。
・頭の表面や内部を隈なくライトで照らしながら確認していくようなイメージで行う。
・頭皮のかゆみや髪の毛の揺れなど、身体が感じていることに対して気づくようにする。
[ステップ5]
・自分の身体の状況を確認したら、呼吸と一緒に不快な感覚を吐き出すような状態をイメージする。
・全身に意識を向けて、身体に入った空気が全身を通って抜けていくような感覚で呼吸をする。
[ステップ6]
・少しずつ意識を身体に戻し、つま先を動かしたり、手のひらを動かしたりして、瞑想を終える準備をする。
・意識が身体に戻ったら、ゆっくりと目を開ける。
マインドフルネスの具体的な実践方法について解説したが、実際に行うにあたって注意しなければならないポイントもある。
<マインドフルネスの注意点>
1. 目的意識を持って取り組み、効果がでているかチェックする
マインドフルネスを行うこと自体に満足するのではなく、目的意識を持って行うことが大切だ。
頭の中を整理して物事の切り替えをうまく行いたい、不安を解消して穏やかな気持ちで過ごしたい、身体の疲れを癒して仕事へのやる気を向上させたいなど、何のためにマインドフルネスを行うのか目的を明確にして、その目的に対して効果を発揮できているのかを確認する意識が必要だ。こうすることで、やり方の見直しなどもでき、より効果を得ることが期待できるだろう。
2. 集中できる環境で行う
意識を集中させることが重要なマインドフルネスであるが、周囲の気配や雑音などの環境が集中力を途切れさせ、雑念を生じさせてしまう原因となることが大いにある。
静かでリラックスできる環境で行い、スマホなどの電源はオフにして気が散るものを周囲に置かない工夫も必要だ。
ここまでマインドフルネスについて解説をしてきた。
社員がストレスを抱えたまま生活や仕事をすることで、やる気が損なわれてしまったり、生産性の低下を招いてしまったりと心身の健康面だけでなく、ビジネス面にも大きな影響を与える可能性がある。
現在、ストレス増加が懸念されている中、マインドフルネスの実践はストレスを軽減させる方法としてますます注目されていくだろう。
まとめ
・新型コロナウイルスがもたらした社会や生活の変化は、「コロナ疲れ」「コロナうつ」「コロナストレス」という言葉も生み出すほど、国民に大きなストレスを与えた。いまだに終息の目途が立たないことにより、その影響はさらに深刻化している。そうした現状において「マインドフルネス」がストレスの緩和法として注目を浴びている。
・「マインドフルネス」は、現実をあるがままに知覚して受け入れる心を育む訓練をすることで、仏教の瞑想法がベースとなっている。近年では、科学的な研究によってストレスの改善等さまざまな効果が認められ、欧米企業では宗教色が排されたプログラムとして、早くから取り入れられてきた。長引くコロナ禍によって社員のさらなるストレスケアが求められる中、マインドフルネスを取り入れる企業が増えている。
・科学的な研究によって、マインドフルネスを実施することによって次のような効果が期待できるという結果が出た。1.作業効率向上の効果、2.ストレス軽減効果、3.抗炎症効果。また、自分を見つめ直すことができる、ありのままの自分を受け入れて大切にできる、など意識の向上も期待できる。
・さまざまな面において効果が期待できるマインドフルネスであるが、デメリットも存在するという報告がある。それは次のとおりだ。1.ストレスやうつ症状を悪化させてしまう場合がある、2.瞑想やリラックスがうまくできない場合がある。こうした状況に陥ってしまった場合には、状況に合わせてマインドフルネスへの取り組み方や意識を見直す必要がある。
・マインドフルネスの効果を有効に得るための実践方法を2つ紹介していこう。1.呼吸の瞑想:呼吸に意識を集中させることで心を無にする瞑想法、2.ボディスキャン瞑想:自分の身体の細かな感覚に意識を向けることで体の動きや疲れを読み取り心との繋がりを回復させる瞑想法。
・マインドフルネスを行うにあたっては注意なければならないポイントもある。それは次のとおりだ。1.目的意識を持って取り組み、効果がでているかチェックする、2.集中できる環境で行う。社員がストレスを抱えたまま生活や仕事をすることは、心身の健康面だけでなく、ビジネスにおいても大きな影響を与える可能性がある。現在、さらなるストレス増加が懸念されている中、マインドフルネスの実践はストレスを軽減させる方法としてますます注目されていくと考えられる。