2021.5.10

ワークエンゲージメントとは?企業や従業員にとってのメリットや高めるために必要なこと

読了まで約 7

■ワークエンゲージメントの定義とは?

■高いワークエンゲージメントはどのような影響を与えるのか?

■ワークエンゲージメントを高める4つのメリット

■ワークエンゲージメントを高める3つのポイント

■ワークエンゲージメント向上のための具体的施策とは?

ワークエンゲージメントとは何か?

本稿では、最初にワークエンゲージメントがどのようなものであるのかについて、概念や定義にについて解説していく。

次に、自社従業員のワークエンゲージメントを高めていくことで、企業と働く個人の双方にとってどのようなメリットを享受することができるのかについて確認していく。

最後に、企業が自社従業員のワークエンゲージメントを高めていくために実行することができるポイントについて整理する。

まずは、ワークエンゲージメントの定義を見ていこう。

最初に人事関連の用語として使われるエンゲージメントについて整理したい。エンゲージメントには「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」がある。「ワークエンゲージメント」は学術的に発展してきた用語で、「従業員エンゲージメント」は産業界で使われることが多く「ワークエンゲージメント」に比べると定義が広く、多義的だ。

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今回取り上げる「ワークエンゲージメント」は、ひと言で表すと「従業員のメンタル面での健康度を示す概念」であり、「働く個人が自身の業務に対し、熱意をもって没頭でき、活力に満ちあふれている心理状態」のことだ。いわゆる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」の研究で著名なユトレヒト大学のシャウフェリ(Wilmar B.Schaufeli)教授によって定義されている。

ワークエンゲージメントには、「活力」、「没頭」、「熱意」といった3要素が存在する。

以下で具体的に解説していこう。

1. 活力とは
活力のある状態とは、働く個人が業務を行っていると、活力がみなぎるように感じる、あるいは業務自体から活力を得ていると感じる状態にあることを指す。

2. 没頭とは
没頭している状態とは、例えば業務にあたっていると、つい夢中となってしまう、あるいは他を顧みず熱心に取り組んでいる状態を表している。

3. 熱意とは
熱意のある状態とは、働く個人が自身の仕事に対して誇りを感じており、やりがいに満たされた中で業務にあたっており、業務に強く関わろうとする中で、業務に意味を見出している状態を指している。

また、活動水準が高いという点について、ワークエンゲージメントと類似していると捉えられがちな概念として「ワーカホリズム」、いわゆるワーカホリックというものがある。

ワーカホリズムは、活動水準が高いという点ではワークエンゲージメントと同等だが、両概念の違いは、業務に対する自発的な動機付けにある。

ワークエンゲージメントが高い状態は「働くことが楽しい」と感じている状態であり、対してワーカホリズムは「業務から離れたときの罪悪感や不安を避けるために業務を行っている」状態を指しているため、自発的かつ積極的に業務と向き合っているとは言えない。

したがって、やる気や満足度という点では正反対の関係にあるとすら言える。

企業にとって、ワークエンゲージメントを測定することにより、自社従業員のやる気や満足度などを把握することは、人事評価における判断材料としてだけでなく、経営判断を行う観点からも重要だといえる。

ワークエンゲージメントを高めるメリットと効果

従業員のワークエンゲージメントが高い状態にあることは、企業と働く個人の双方にとって大きなメリットがあり、具体的には、次に示す4つの要素へポジティブな影響をもたらすことがわかっている。

心身の健康
コミットメント
パフォーマンス
離職意思

ワークエンゲージメントが向上した場合、負のストレスが減少することで睡眠の質が良くなる(=健康状態の向上)。

また、業務内外を通じた自己啓発などにも積極的で、意欲的に業務にあたっており(=パフォーマンス)、結果として業務での成果の向上(=コミットメント)、そして転職などへの思い(=離職意思)が薄れるなど、多くのメリットがあるだけでなく、それぞれの4要素同士も深い相関関係をもたらすことがわかっている。

ここでは4つの要素について詳しく見ていきながら、ワークエンゲージメントが高い状態がもたらすメリットをしていこう。

1. 心身の健康状態がよくなる
ワークエンゲージメントが高い状態にある従業員は、業務上のストレスによる心理的苦痛が少ないことが研究により分かっている。

熱意をもって業務に取り組み、これに没頭するほど関わろうとする力が強く、かつ活力に満ちあふれている状態というのは、心身の健康状態と深い相関関係にあり、健康だから働ける←→働くことが好きだから健康でいられるという好循環を働く個人にもたらす。

また、企業にとっても自社従業員が健康な状態にあることは、心身の不調が原因となる離職を防ぐことができることから、メリットは大きい。

2. コミットメントの強化
ワークエンゲージメントが高まる状態というのは、業務に対してより熱意をもって取り組む状態にあることを指している。

このため、従業員は、「活力」、「没頭」、「熱意」という3要素に下支えされた状態により、必然的に業務成果が向上する機会と可能性が高くなる。

また、企業にとって、自社従業員のワークエンゲージメントが高いことによって生み出されるコミットメントの強化は、企業業績の向上に直結するため、大きなメリットがある。

働く個人にとっても、自身の業務成果向上によって、自社での評価が向上する可能性が高くなるため、メリットが認められるといえよう。

3. パフォーマンスの向上
ワークエンゲージメントが高い状態にあるということは、より仕事と関わろうとする意思が強くなることを示している。

このため、業務中であるかどうかを問わず、自己研鑽、自己啓発に努めようとする力が強くなっていく。

自己研鑽、自己啓発によってパフォーマンスが改善されていくことは、質の高い業務遂行能力を持ち合わせることによって、コミットメントと同じく企業の業績向上に資するだけではなく、与えられた役割以外にも積極的、そして前向きに取り組むことが分かっている。

このため、従業員自身の能力と企業の業績両方にとってメリットがあるといえよう。

4. 離職意思の低下
ワークエンゲージメントと離職意思とは、反比例する関係にある。

つまり、ワークエンゲージメントが高い状態にあれば、働く個人の離職しようとする意思はより低くなる傾向にあるわけだ。

このため、企業にとっては離職率の低下や人材リテンション率の向上、人材の自社定着化、そして結果として採用コストや教育研修コストなどを抑制することにつながり、メリットが大きい。

また、働く個人にとっても、自身と職場とのミスマッチが発生する環境への転職というリスクがなくなり、自身のキャリア成長を安定した環境で実現可能となる。

ワークエンゲージメントを高める際のポイントと具体的な施策

ここまで、ワークエンゲージメントとは何か、そして従業員のワークエンゲージメントが高い状態にあることがもたらす数々のメリットについて見てきた。

本項では、自社従業員のワークエンゲージメントを高めていくために、企業が取り組むべきポイントと、具体的に取り組むことができるプログラムについて確認していく。

ワークエンゲージメントが高まる要因には主に2つあり、1つ目は「個人の資源」、2つ目は「仕事の資源」だ。個人の資源とは、働く個人自ら心理的ストレスを軽減しながら、モチベーションを向上させていくなど、従業員自身の内的要因に係る部分だ。

具体的には、自己効力感や組織内部での自尊心、業務や職場に対する楽観性などが含まれている。

対して、仕事の資源とは業務量のコントロール、従業員個人の業務への動機付けなど、企業が取り組むべきワークエンゲージメント向上要因となる。

ここでは、企業が行える仕事の資源を充実させるための3つのポイントについて解説する。

1.雇用管理を充実すること
ワークエンゲージメントが高い企業で共通することは、従業員による有給休暇の取得を促進したり、労働時間の短縮、働き方の多様化などへ積極的に取り組んでいる点だ。

さまざまな価値観や考え方が多様性を生み、企業の競争力強化に資するものだと目される現在において、「違い」を許容でき、これを自社の強みとしていくことができる企業こそ、従業員満足度やワークエンゲージメント向上を実現しやすいといえる。

2.人材育成を促進すること
企業が積極的に従業員のキャリアアップや成長につながる教育および研修に関わろうとすることも、従業員のワークエンゲージメント向上との相関性が高い。

このことから、同じ部署を掌握するマネージャー職との定期的な面談、あるいは自社内の人事部門によるキャリアコンサルティングができる環境などを充実させることにより、自社従業員のワークエンゲージメントを高めることが期待できる。

3.人手不足を解消すること
従業員のワークエンゲージメントが低い企業に多く共通するネガティブな事項として、人手不足というものがある。

人手不足とワークエンゲージメントの低下は相関関係と相互増長の作用があるとされ、企業にとっては頭を抱える悪循環に陥りやすい部分だ。

まずは、自社業務フローを見直し、業務内容の棚卸しなどを通じて、従業員が担当する職務内容の効率化などを行うことで、人手不足の解消に努めることが求められる。

次に、自社従業員のワークエンゲージメントを向上させるために企業が取り組める具体的な施策「CREWプログラム」について解説していこう。

CREWとは、「Civility(礼節、丁寧さ)」、「Respect(敬意、尊敬の意)」、「Engagement(エンゲージメント)」、「Workplace(働く場)」の頭文字からとった造語であり、CREWプログラムは2005年にアメリカで開発されたプログラムだ。

ワークエンゲージメント向上のためにCREWプログラムを実施する目的は、従業員同士の対話を促していき、相互理解を進めていくうちに、従業員の職務満足度や定着率向上などを実現することにある。

具体的には、一定のテーマに沿った対話(CREWセッション)を繰り返し、互いのことを知っていくという手法となっており、具体的な流れとして以下に沿って行うと効果的だとされている。

1. キックオフ(アイスブレーキングに等しい)
2-1. お互いを知る(仕事に対する考え方やストレス解消法などを共有すること)
2-2. 敬意や尊敬について考える(相互尊重などの重要性を喚起していくこと)
2-3. 今後の職場について考える(自分たちが働きたいと思える職場づくりについて考えるきっかけを創出すること)
3. クロージング(そのセッションで話し合った内容をふり返り、理解の定着度を高めること)

CREWセッションの頻度について、週に1回15分から20分程度、四半期以上継続して行うことが最も効果的であり、毎回上記の項目2のいずれか一つに絞って行うことが望ましいとされる。

セッション中に最も心がけるべき内容は、互いの意見に対して傾聴することと、決して批判しないこと、そして話題が逸脱して雑談にならないようにファシリテーションを行うことだ。

ポジティブな意見を交わすことで、職場におけるワークエンゲージメントの向上が期待できる具体的な施策だといえよう。

ワークエンゲージメント研究の第一人者である、慶應義塾大学 総合政策学部 島津明人教授のwebサイトではCREWプログラム実施マニュアルが掲載されている。

参考:CREWプログラム 実施マニュアル

まとめ

・ワークエンゲージメントをひと言で表すと「従業員のメンタル面での健康度を示す概念」であり、「活力」「没頭」「熱意」という3要素が存在する。また、ワークエンゲージメントとは、特定の対象や出来事、あるいは個人やその行動に向けられた一時の感情や認知、あるいは身体的な状態ではなく、あくまで働く個人が自身の業務に向けた持続的かつ全般的な感情と認知状態だといえる。

・自社従業員のワークエンゲージメントが高いと、「心身の健康」「コミットメントの程度」「パフォーマンスの結果」「離職の意思」といった要素にポジティブな影響を与えることが分かっている。また、これらへの単純な影響を及ぼすだけでなく、それぞれの要素が深く相関関係を持って相乗効果を作り上げることが研究により分かっている。

・高いエンゲージメントがもたらす4つのメリットは次の通りだ。
まず、従業員の心身の健康状態がよくなり、働く個人は活力に満ちた状態で働け、企業は健康事由の離職懸念が減ること。次に、従業員のコミットメント強化が期待でき、働く個人は自身の評価が上がる可能性、企業にとっては業績向上が期待できる。3つ目に、従業員のパフォーマンス向上により、働く個人は研鑽や啓発に励もうとする力が強くなり、企業にとって更なる業績向上が目指せる。最後に、高いワークエンゲージメントが保たれることで、従業員の離職意思が低下し、企業にとって定着率向上が期待できる。

・ワークエンゲージメントの向上には、従業員自身の内的要因に係る「個人の資源」と、企業が取り組むべき内容に係る「仕事の資源」という2つに大別できる。企業が取り組むべきポイントは主に次の3つだ。
1つ目に、有給休暇や働き方の柔軟化などといった雇用管理を充実させていくこと。
2つ目に、企業が積極的な人材育成を行うことで、従業員のやる気を向上させていくこと。
最後に、従業員満足度と人手不足は反比例することから、業務整理と効率化を通して人手不足を解消すること。

・ワークエンゲージメントを向上させるために、企業が従業員へ導入することができる具体的な施策として「CREWプログラム」がある。CREWとは、「Civility(礼節)」、「Respect(敬意、尊敬の意)」、「Engagement(エンゲージメント)」、「Workplace(働く場)」の頭文字からとった造語だ。企業にとってCREWプログラムの実施目的は、従業員同士の対話を促していき、相互理解を進めていくうちに、従業員の職務満足度や定着率向上などを実現することにある。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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