■コロナ禍における働き方の変化
■リモートワークが推進された背景とは?
■リモートワークで生産性が低下する要因
■リモートワークによる生産性向上のポイント
■これからの働き方についてリモートワークに期待されること
コロナ禍で導入が一層進んだリモートワーク
2020年初頭に発生し、現在も世界中で大流行している新型コロナウイルスの影響への対応策として、政府は感染拡大を防止するため、緊急事態宣言により国民へ、密閉・密集・密接の3密を避け、不要不急の外出を控えるよう要請を出した。
そのため、オフィスのような狭い空間での密集した状態で仕事を続けることは困難となり、多くの企業では、感染拡大防止への対策として、在宅勤務やフレキシブルオフィスの利用といった、リモートワーク(テレワーク)による働き方にシフトすることを余儀なくされたのだ。
そういった状況下だったということもあり、2020年9月に東京都が発表した「テレワーク導入実態調査結果」によると、2019年の調査では25.1%だった導入率が、2020年では57.8%にまで上昇している。
もちろん、リモートワークはコロナ禍以前から、従業員のワークライフバランスの向上につながるほか、企業にとってもオフィスを借りる必要がなくなるなどコスト削減の観点からも導入が進められていた。
特に2011年の東日本大震災以降、日本国内での労働生産性の向上と世界基準での競争力を高めることを目指す施策の一環として、東京オリンピックの開催や政府の推進する働き方改革とも連動して、国を挙げてリモートワーク推進に力を入れてきたという経緯もある。
総務省が令和2年8月に発表した「令和元年通信利用動向調査の結果」によれば、令和元年(コロナ禍以前)の段階で、テレワークを導入している」または「具体的な導入予定がある」と回答した企業は29.6%と3割にのぼり、前年の26.3%を3.3ポイント上回っている。
コロナ禍を経て、より世間のリモートワークへの関心が高まっている中で、次回の調査結果がこれを上回る数字となることは想像に難くない。
なぜリモートワークで生産性が低下するのか
こうしてリモートワークが多くの企業で導入される一方、企業がリモートワークを導入する主な目的である労働生産性の向上については、むしろ低下しているという調査結果もある。
内閣府が2020年6月に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(調査期間:2020年5月25日~6月5日 対象:15歳以上の登録モニター10,128人)」では、「労働時間、生産性の変化」という設問に対して、「大幅に減少」「減少」「やや減少」という回答を合わせると全体の47.7%が仕事の効率性や生産性が低下したと答えている。
この数字に対して内閣府では「テレワーク等の実施率が高い業種では、労働時間が減少している傾向」と分析し、「労働生産性の改善の効果は限定的である」と結論づけている。 では、生産性の向上を目指して導入したはずのリモートワークにおいて、なぜ生産性が低下するという現象が起きてしまうのだろうか。
その原因は同調査の「あなたの職場において、テレワークで不便な点と考えられるものに関し、重要なものから順に回答してください。(最大3つ)」という設問に対する回答から垣間見ることができる。
この設問に対して、最も多かった回答は、「社内での気軽な相談・報告が困難」であり、34.5%。次に「取引先等とのやりとりが困難(器、環境の違い等)」が34.0%、以下「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」27.1%、「機微な情報を扱い難いなどのセキュリティ面の不安」26.7%、「テレビ通話の質の限界(タイムラグ、⾳声や映像の乱れ等)」24.7%、「在宅では仕事に集中することが難しい住環境」17.8%と続く。
こうしたことからリモートワークで生産性が低下する要因を洗い出してみると、以下のように整理することができる。
1. 社内のコミュニケーションに関する要因
・報告、情報共有、相談を気軽に行うことが難しい
・仕事の進捗確認がスムーズに進まない
・会議等の際に大人数で同じ場所に集まることができない
・連携を取りにくいためトラブル発生時の対処に時間を要する
・タイムラグ、ネット環境の不具合によるweb会議でのストレス
・従業員同士の雑談等から生まれる意見や閃きが得られにくい など
2. 社外のコミュニケーションに関する要因
・やりとりの際、速やかな対応が難しい
・ネットでは打合せや商談が進めにくい
・導入しているツールや環境の違いなどによって不便が生じる など
3. 仕事の進め方に関する要因 ・勤怠管理が曖昧となる
・契約書やFAX等書類のデジタル化が進んでいない
・いまだに押印が必要な業務がある
・社内システムへのアクセスやセンシティブな情報を扱いにくい
・勤務態度等における人事評価が難しい など
4. 生活環境に関する要因
・孤独を感じることからストレスが生まれる
・自宅等のネット環境を整える必要がある
・在宅で仕事をするには集中することが難しい住環境である
・在宅環境で仕事とプライベートの切り替えが難しい など
参考:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」
リモートワーク時の生産性向上のポイント
リモートワークで生産性が低下する要因を見ていくと、リモートワークという独特の働き方であっても、リアルにオフィスワークを行っていたときと同様に、生産性を向上させるためにさまざまな施策を工夫して実施する必要があることがわかる。
特に、リモートワーク環境下で喪失されがちなコミュニケーションの機会を創出することは、離れた場所でもチームワークを発揮して生産性を向上させるためには欠かせない。
また、リモートワーク時の勤怠管理をしっかりと行うことでモチベーションを維持させることも生産性向上に欠かせない施策だ。
そこでこの項では、リモートワークにおいて生産性を維持、向上させるためのポイントを押さえておこう。
1. リモートワーク導入時にコミュニケーションの機会創出を考案しておく
先ほど紹介した調査の結果でも、リモートワークにおいて不便な点として、コミュニケーションに関することが多くあげられていたように、リモートワークでは、オフィスワーク時のように気軽に質問や相談ができず、社内外の情報から孤立してしまうことが最も懸念される。
そうした情報格差を生まないようにするためには、あらかじめ、どうやってコミュニケーションの機会を増やすのか、社外にいながら社内の情報を共有したり、入手したりできる環境を整えておく必要がある。
逆の言い方をすれば、有効なコミュニケーション手段や情報共有の仕組みが構築できないなら、リモートワークによる生産性の向上は見込めない、とすら言えるのだ。
具体的な対策として、気軽にやりとりができるビジネスチャットやWeb会議システムなどのツールを活用することで対応可能である場合が多い。
2. リモートワークに適した勤怠管理システム・人事評価制度を採用する
リモートワークに適した勤怠管理と人事評価制度を採用することも、生産性向上には欠かせない。
実際に、従業員をまとめるマネジメント層の多くも、リモートワーク下における従業員の業務への姿勢について不安を抱いている。
勤務態度が可視化されないままリモートワークを導入することで、評価方法に不満を感じる従業員や、在宅時に自己管理がうまくできずに生産性が低下する従業員が出てしまう可能性があるため、従業員のモチベーションを維持し、適切な行動管理策の運用に向けて企業全体での工夫と対策が必要となる。
例えば従業員の様子を直接確認できない状況でも、定期的な業務進捗の報告を義務付けることで管理を行う、リモートワークにおける評価項目を明確化し、web面談を利用することなどで適切な評価を与えることができれば、生産性の向上につなげることができるだろう。
3. ストレージやツールなどのテクノロジーを導入する
リモートワークで生産性を向上させようとするなら、先進テクノロジーの導入がキーとなる。
その中でもよく知られているものとしては、出社することなくオンライン上で顔を合わせて会議を行うことができるweb会議ツールや、メールより気軽にやりとりができ、グループ作成や資料の共有など、より業務を効率化できるビジネスチャットツールがあげられるだろう。
これらのツールは、リモートワーク導入が進むコロナ禍においてより注目を浴びた。
また、従来の業務においてさまざまな場面で使用されてきた「紙」の文化もリモートワークを推進するうえで見直す必要があるといえる。
例えば、社外から紙の注文書が届いたり、サービスの申込みが郵便やFAXで送られてくるといった制度のままだと、担当者が出社して郵便物を開封する必要があったり、契約の重要度によっては、捺印して返送するなど出社の手間がかかるケースもあるだろう。
このような課題は、取引先や顧客とも連携をとり電子データでやりとりを進めていくことで解決していくことができる。
電子化を進めていく中で、文書の管理システムやオンラインストレージを利用することで、データの一括管理や分類をすることができる。Web会議やビジネスチャットでのやりとりにおいても、同じ文書を共有しながら話しを進めることが可能となり、より業務を効率化し、生産性を上げることが期待できる。
ここまでリモートワークが推奨されるようになった背景や、それによって生産性低下が懸念される要因、また生産性を向上させるためのポイントなどを解説してきた。
依然として新型コロナウイルス終息の目途が立たず、人と人との直接的な接触を極力避けることが要請されている世の中において、リモートワークはますます推奨され、浸透していくだろう。
また、感染対策への観点からだけでなく、通勤時間を削減することができたり、育児や家事、介護などと両立しながら働くことが可能になるなど、多様性が求められる現代の働き方へも柔軟に対応することができるというメリットもある。
リモートワーク環境でも従業員が自身の最大限のパフォーマンスを発揮し、企業全体の生産性を向上させるためにも、社内ルールを働きやすいよう柔軟に変更したり、コミュニケーションツールなどを積極的に活用して、従業員の意見をしっかりと取り入れながらリモートワークを推進していくことが重要だ。
まとめ
・世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、政府は緊急事態宣言を発令し、国民に3密の回避と不要不急の外出自粛を要請した。それを受け、多くの企業でもオフィスでの人の密集を避けるためにリモートワークへの取り組みを余儀なくされた。そのような状況下でリモートワークの導入率は2019年から2020年の1年間で30%以上も上昇している。
・コロナ禍以前においても、従業員のワークライフバランスの向上や企業側のコスト削減の観点でリモートワークは導入が進められていた。特に東日本大震災以降は、国内での労働生産性向上と世界基準での競争力を高めることを目的として国を挙げてリモートワークは推進されてきた。コロナ禍を経て、よりリモートワークが注目されている中で、リモートワークを導入する企業はますます増えていることだろう。
・リモートワークを導入する企業が増えている一方で、主な目的であるはずの労働生産性向上についてはむしろ低下しているという内閣府の調査結果もあり、それによると調査対象全体のおよそ半数近くが仕事の効率性や生産性が低下したと回答している。そういった状況に対して考えられる要因は大きく4つあり、次のとおりだ。1.社内のコミュニケーションに関する要因、2.社外のコミュニケーションに関する要因、3.仕事の進め方に関する要因、4.生活環境に関する要因
・生産性を向上させるためには、リモートワークにおいてもオフィスワークを行っていた時と同様に企業がさまざま工夫をしていく必要があり、そのポイントは次の通りだ。1.リモートワーク導入時にコミュニケーションの機会創出を考案しておく、2.リモートワークに適した勤怠管理システム・人事評価制度を採用する、3.ストレージやツールなどのテクノロジーを導入する。
・新型コロナウイルスへの感染防止対策の観点だけでなく、多様な働き方が求められる現代においてリモートワーク導入はますます推進されていくだろう。リモートワークによって従業員の労働生産性の向上を目指すために、企業側も柔軟に働きやすい環境作りに取り組むことが重要だ。