2021.3.2

アサーション・トレーニングとは?リモートワークでも有用!ビジネスシーンで自己表現を向上する方法

読了まで約 7

■アサーション・トレーニングが必要とされる背景とは?

■自己表現法としてのアサーションの3つの分類

■己を知り、他者を知ることに資するアサーション・トレーニング

■ビジネスシーンで活かされるアサーション・トレーニング

■アサーション・トレーニング実践時の4つのポイントとは?

■アサーション・トレーニングにおける具体的な実践例とは?

自己表現の方法として身に付けるべき「アサーション」とは?

ソーシャルメディアの発達や、さまざまな価値観が許容される社会へ移行しつつある中で、いかに自分の意見や意図するところを「話し手」として相手に伝えるか、あるいは他者の良き「聞き手」として主張を受け止めるか、という力が求められている。そこで注目されているコミュニケーション能力として「アサーション」というものがある。

アサーションとは、自他共栄という日本に古来から伝わる考え方にも通じるように、相互尊重を通じてコミュニケーションを図ろうとする能力のことである。もともと1950年頃のアメリカにおいて、上手く自己主張を行うことができない患者のため、精神医学の行動療法やカウンセリング手法として生まれた用語だ。

その後1970年代に入ると、人種差別や性差別に対して、自己権利を主張するための考え方として世間に広まり、今日ではビジネスシーンでの活用が期待されるなど、日本でも広がりを見せている。

アサーションは、他者と上手くコミュニケーションを図る上で欠くことができないスキルだということができ、社内外での円滑な意思疎通という役割を果たすため、効果的な訓練を通して身に付けることができるスキルだ。このアサーションを身に付けるためのトレーニングを、アサーション・トレーニングと呼ぶ。

アサーション・トレーニングとは、自身の気持ちを制限することなく、自分の考えを相手に伝えることを可能とする自己表現法を身に付けることを目指すトレーニングである。

本稿では、アサーションのタイプを解説しつつ、アサーション・トレーニングがもたらすメリットや、ビジネスシーンなどにおける具体的な効果について触れつつ、アサーション・トレーニング実施時の具体的なポイントや実践例を紹介していく。

ここではまず、アサーションの基本的な分類から始めよう。アサーションには大きく分けて以下の3つのタイプがある。

1. アグレッシブ(攻撃的な状態)
「アグレッシブ」という語意どおり、自己主張がかなり強く自己中心的な発言が目立つタイプだ。自己意見を正しいと信じ切り、受け取る側の考えや気持ちを慮ることに欠くことが多い点に特徴がある。このため、自身の考えや想いを相手に伝える点に優れる場合があるが、自分の意見を通すため、大声で怒鳴る、あるいは相手の言い分などを無視して言い包めてしまうなど、協調性に欠く場合や精神的に幼稚だと判断される場合もある。

2. ノン・アサーティブ(非主張的な状態)
ノン・アサーティブは、自身の考えなどを押し殺してまで他者に迎合するタイプを指す。一歩引くことで相手を思いやっているように見受けられるが、自己主張をし損なう場面が多く、これをもとに弁解が多くなることで、自己嫌悪に陥るという悪循環に陥りやすいことを特徴とする。曖昧な物言いや自己主張が苦手あるいは控えめといったことから、前出のアグレッシブの反対に位置するタイプであるといえよう。

3. アサーティブ(攻撃型と非主張型のバランスがとれた理想的な状態)
これらに対し、アサーティブでは、自分の気持ちや考えを率直に伝えつつも、相手の気持ちも先読みし、その場の「空気」をつかみ取ることに長けているタイプだ。

相手を慮りつつ、適宜表現を変えながらも、自分の考えや想いをしっかりと伝えることができるタイプであるといえ、まさしくアグレッシブとノン・アサーティブの中間に位置する「バランス型」だ。

これら分類を用いてビジネスシーンで置き換えた場合、従来型の企業組織構造下では、ヒエラルキー型組織を前提とした上意下達が機能していたため、必然的に指揮命令を行う上長は「アグレッシブ(攻撃的な状態)」となり、命令を受け業務遂行を行う立場にある部下は「ノン・アサーティブ(非主張的な状態)」であるといえよう。

しかし、前述のとおり多様な価値観が許容され始めており、より不確実で曖昧かつ複雑なVUCAと呼ばれる現代では、3つ目に紹介した「アサーション」、つまり攻撃型と非主張型のバランスがとれた理想的な状態であることが、コミュニケーションを図る上で最も望ましいといえる。

このように、円滑なコミュニケーションを図ることができる理想的なアサーションを身に付けるため、アサーション・トレーニングには多くのメリットがあるといえる。

次項では、アサーション・トレーニングがもたらす具体的な効果やメリットについて見ていこう。

アサーション・トレーニングを行う目的と具体的な効果・メリット

ここまで、アサーションの基本的なタイプや、アサーション・トレーニングが必要とされる背景について見てきた。本項では、アサーション・トレーニングをビジネスシーンで実践する目的や、トレーニングを通して得られる効果やメリットについて見ていこう。

1. ビジネスでアサーション・トレーニングを活かす目的とは?
ビジネスシーンにおいて、アサーションを会得する最大の目的は、職場環境で生じがちなコミュニケーション・エラーを起因とするストレスの軽減にある。

このため、アサーション・トレーニングを通して自分と相手を尊重することを学び、相互に無理がないコミュニケーションを図ること、会得することに努めることで、結果として良好な人間関係や職場環境の構築を期待できるものである。

特に、コロナ禍をきっかけとして大きく普及したリモートワーク環境下などでは、相手の息づかいや場の雰囲気などがオフラインと比べて掴みづらく、自身の発する言葉や態度などが、自身の意図しないかたちで相手に伝わってしまう場合もあることから、過度にアグレッシブな態度をとっていないか、あるいは必要以上に畏まり遠慮しがちな態度をとっていないかなど、アサーション・トレーニングを通じて、円滑な「ニューノーマル」コミュニケーションを図ることも期待できよう。

2. ビジネスで活きるアサーション・トレーニングの効果とは?
第3次産業の中でも、サービス業を中心として、人と人が関わる業種に身を置くビジネスパーソンは、職務特性から必然的にクライアントの要望を聞き入れることが優先となる。その過程で、ある程度の自己犠牲が伴うことから、結果としていわゆる「燃え尽き症候群」になりやすい職種であるといわれる。

自社の優秀な人材が熱心に業務に取り組んでいたにもかかわらず、ある時を境に突然働く意欲が低下し無気力状態となってしまうようでは、企業としても大きな損失を抱えることとなる。

このため、例えば無理な依頼がクライアントから来た場合でも、適切なかたちでの「かわす力」や「断る力」が必要とされるだろう。つまり、クライアントの様子を伺いつつも、「その納期では難しい」あるいは「こういう方法を試すのはどうか」など、自分の考えや想いをクライアントにしっかり伝えることで、クライアントと自身の双方にとって互恵関係をしっかりと構築していくことにも、アサーション・トレーニングの効果があるといえる。

相手の意見と、伝えたい想いの両方を尊重することができる、両者にとって良い関係性を築き上げることができること、これこそがアサーションの最も大きい効果だといえる。

3. アサーティブな人材のケーススタディ
ここでは、ありがちな実際のビジネスシーンでのアサーティブな対応を見ていきながら、アサーション・トレーニングのメリットを確認していく。 例えば、次の日に控えた重要な顧客との商談に向けた資料作成中に、上長から「明後日の会議資料を本日中にまとめておくように」との業務指示があったとする。これに対し、アグレッシブな部下である場合、端的に「NO」を突きつける可能性があるだろう。あるいは、ノン・アサーティブなタイプの部下であった場合、心の中では難色を示しつつも、上長からの依頼を断れず快諾してしまうかもしれない。

しかし、アサーティブな人材であるならば、「現在、明日の重要な商談に持っていく資料を作っている最中のため、商談後に会議に間に合うように作成するかたちでもよいか」という、現状の説明にもとづく妥協案を申し入れることが可能である。自分の状況はしっかりと申し伝えつつも、相手の依頼を断らず、両者にとってメリットのある提案ができること、これこそがアサーション・トレーニングのメリットだ。

アサーション・トレーニング実施時のポイント

前項まで、現代においてアサーション・トレーニングが必要とされる背景や、自己表現法としてのアサーションの分類、また、アサーション・トレーニングを実践することによるメリットについて見てきた。

ここでは、ビジネス上の人間関係をより円滑にしていき、業務を進めやすい環境を築くことに欠くことができないアサーション・トレーニングについて、実施する際のポイントや、実践例を紹介していく。 アサーション・トレーニングにおけるポイントは、主に以下の4つだ。

1. アサーティブな自己表現のバリエーションを用意する
アサーション・トレーニングを通じてアサーティブタイプを目指していく上で、気を付けておくべき自己表現のバリエーションとして以下の5つが重要だ。

i. 自分の気持ちの把握
自分の伝えたい内容が不明瞭である場合、業務遂行にあたり齟齬が生まれたり、過失の原因になりかねない。コミュニケーションの基本として、他者に自分の意図を理解してもらうことは大前提となる。

ii. 周囲の評価や結果を過度に気にしない
仕事上の失敗や、相手にどのように思われているかという点を考えすぎると、いわゆるノン・アサーティブなタイプに陥りかねない。自分の考えや意図を尊重しつつ、適度に結果や評価に目を向ける程度とする方がよい。

iii. アサーティブな(バランスのとれた)考え方
企業は人で成り立っている。そのため、全員との良好な人間関係を構築することは理想だが、現実的ではない。全員に好かれる、あるいは上司に気に入られることに対する固定観念や既成概念が強すぎることは、仕事を行う上で却ってよくない。

iv. 人権を尊重すること
企業での上司や部下の関係があるとはいっても、人として自分と他者は等しく平等である。このため、アサーティブな人材になるため、常日頃からコミュニケーションをとる相手との、互いに人としての権利を尊重する姿勢を持つことが望ましい。

v. アサーションスキルの会得
アサーション・トレーニングを通じて会得するアサーティブな考え方や行動は、常に揺れ動く価値観と激しい変化を伴う現代社会においては、日常的な実践と絶え間ないブラッシュアップが求められる。このため、自己表現のスキルを学び、活かし続けることが必要だ。

2. 主語はいつでも「YOU」ではなく「I」で伝える
アサーティブなコミュニケーションをとるために、相手に何かを伝える時、常に最初に来る主語は、伝える相手「YOU」ではなく、発信者である自身「I」である。これは他責を前提とした表現を避けることができると同時に、自身の意図や考えを明確に伝える姿勢の表れともなることから、極めて重要だといえる。

企業組織内で例えるならば、上司のマネジメントにおいて、部下へ「なぜこのようなことができない」と叱責することに比べ、「私はあなたにこのように業務を行ってほしい」と「I」を主語に持ってきた上で、自身の意図を相手に伝えることで、叱責ではなく激励、そして業務上のアドバイスに内容を昇華させることが可能だ。

3. 建設的な言葉遣いや話し方を心がける
互いに気持ちが通った意思疎通を行うためには、細やかな言葉遣いへの配慮、そして思いやりが欠かせないものだ。業務効率化や能率向上のため、質の高いビジネスシーンでのコミュニケーションを実現していくためには、アサーション・トレーニングを通じて、常に否定的な表現を避けながら、代案を提案しつつ前向きであり、建設的な表現に置換していくことが重要だといえる。

例えば、クライアントから無理な納期を伝えられた際、ただ「できません」という趣旨で話すのではなく、「~のような品質を担保するため、いつまでなら可能です」、あるいは「~のようなやり方に変えることで、ご希望の納期に間に合わせることが可能です」など、常に代案を提示しつつ、前向きな会話のキャッチボールを心がけることが肝心だ

4. 「DESC法」に当てはめて相手に伝える
DESC法とは、聞き手に伝えたい内容を「状況の描写(describe)」「心情の表現(express)」「明確な提案(specify)」「選択の余地(choose)」の4つに整理するフレームワークだ。

自他の置かれた状況を客観的に描写した上で、自分の伝えたい考えや気持ちをしっかり述べる。この上で、相手に望む行動や解決策を、具体的かつ現実的なかたちで提案することで、相手からの反応(YESまたはNOなど)を踏まえて、再度コミュニケーションのキャッチボールをしていくというアプローチである。 ビジネスシーンでの具体的な実践例で見てみよう。

ベンダーとの価格交渉があり、提示された見積もりが高いと感じたとする。その場合、「予算はこのくらいだ」と描写(describe)した上で、「できれば貴社で決めたいが、この価格では稟議が通らない」と表現(express)する。また、「予算帯まで値下げをできるか」という具体的な提案(specify)を行った上で、ベンダーからの提案が自社の要件に満たない場合、他社取引先へ相見積もりを行うという選択(choose)を行うことが可能だといえよう。

まとめ

・さまざまな価値観が許容される社会へ移行しつつある中で、いかに自分の意見や意図するところを「話し手」として相手に伝えるか、あるいは他者の良き「聞き手」として主張を受け止めるか、という力が求められている。そこで注目されているのが「アサーション」という概念だ。

・アサーションには基本的に3つの分類があり、自己主張がかなり強く自己中心的な発言が目立つ「アグレッシブ」タイプ、自身の考えなどを押し殺してまで他者に迎合する「ノン・アサーティブ」タイプ、そして自分の気持ちや考えを率直に伝えつつも、相手の気持ちも先読みし、その場の「空気」をつかみ取ることに長けている「アサーティブ」タイプの3種だ。

・ビジネスシーンでのアサーション・トレーニングを実施する最大の目的は、コミュニケーション・エラーを起因とする職場環境でのストレス軽減だ。トレーニングを通じて自他を尊重することを学び、相互に無理や齟齬のないコミュニケーションに努めることを通して、良好な人間関係や職場環境を構築することを目指すことに意義がある。

・アサーション・トレーニングを通じてアサーティブな考え方を会得する最大のメリットは、働く個人にとって、いわゆる「燃え尽き症候群」を未然に防ぎ、健全な心理状態で働くことの実現に資することだ。そして企業側のメリットとしては、優秀な人材が同様の理由で企業活動における戦力外となることによる損失を防ぐことにあるといえる。

・アサーション・トレーニング実践のポイントは4つあり、アサーティブな自己表現のバリエーションを用意すること、主語はいつでも「YOU」ではなく「I」で伝えること、建設的な言葉遣いや話し方を心がけること、そして、聞き手に伝えたい内容を「状況の描写(describe)」「心情の表現(express)」「明確な提案(specify)」「選択の余地(choose)」の4つに整理した「DESC法」に当てはめて相手に伝えることの4つだ。

・管理職の場合、部下に注意を与えることも業務の一環だが、「I」を主語に伝えることで、叱責ではなく助言という建設的な表現へ変化させることが可能だ。また、部下の立場では、無理難題を上長より言い渡された際に、「できない」と伝えるよりも、どのように変えたら実現できるか、締め切りを何時何時までに変えられるかなど、代案を提示して妥協点を見出す努力を行うことが、アサーティブな考え方を実現する一歩となる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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