2021.1.15

アジリティ(Agility)を高めれば組織が変わる?ビジネス用語としての意味を解説

読了まで約 7

・アジリティとは何か?

・なぜ今アジリティがビジネスに求められているのか

・時代に適合したアジリティの高い組織とは

・アジリティの高い組織の特徴

・変化に対応するためのアジリティ向上のヒント

・組織のアジリティ向上のための4つ施策

アジリティとは何か? なぜビジネスの現場で求められるのか

「アジリティ」という言葉を聞いたことがあるだろうか?もともとはスポーツの分野で使われている言葉であるが、この言葉は近年、ビジネスの分野でも注目を集めている。
「アジリティ(Agility)」は日本語では敏捷さや機敏さなどと訳すことができ、スポーツにおける定義では、急な刺激に瞬時に反応して速度や方向を正確に転換することのできる能力を指す。

ビスネスにおける「アジリティ」もこのイメージから、目まぐるしい環境変化に即応するために欠かせない、経営や組織運営のあり方における機敏性を表している。意思決定のスピードや効率、チーム編成や役割分担のフレキシビリティなどを含めた概念であり、不確実性が高く、不透明なVUCA(「Volatility=変動性」「Uncertainty=不確実性」「Complexity=複雑性」「Ambiguity=曖昧性」から、それぞれの頭文字をとった造語)時代を、組織や個人が日々発生する問題に対して素早く対応し、生き抜くためのキーワードとして注目を集めている。

関連記事:VUCA時代とは?ビジネスで広がる共創の概念。なぜ必要とされているのか?

では、なぜアジリティがビジネスの現場で求められているのだろう。

先に挙げた「SAQ」(Speed、Agility、Quickness)の中でアジリティの持つ「俊敏性」「機敏性」という意味と、単純な速さを指す「スピード」、そして反応の速さを示す「クイックネス」とはどう違うのだろうか?SAQは「速さ」という概念をより細分化したもので、3つの意味はそれぞれ異なる。

この違いを知ることでアジリティがなぜビジネスに求められているのかがわかる。

まず、「スピード」は、文字通り「速さ」という意味で、「スピードがある」とは、単純に「速い」ということを指す。そして「クイックネス」は、純粋な俊敏さであり、ある刺激に対してどれだけ素早く反応できるかを指している。一方で「アジリティ」は、刺激や障害に対して、どれほど的確に素早く対応できるかを指す。ただ速く動くだけでは足りず、その場にあった判断を即座に下して自分の身体を動かさなければならないのだ。

つまり、スピードやクイックネスの能力があっても、アジリティの能力がなければ、正確な判断を下して即座に反応できないということになる。先んじてアジリティの概念を取り入れたスポーツのひとつであるラグビーでは、脚の速さだけではなく、タックルしてくる相手を瞬時に見極めてそれをかわし、自分の動けるスペースをいち早く正確に確保できる能力を高めるためにアジリティトレーニングを行っているほどだ。

ビジネスシーンでも同様である。もちろん仕事が速いだけでも、反応が早いだけでも、大いに会社の戦力となる人材はいるだろう、しかし、これからの時代に本当に求められる人材は、速さとともに的確に判断する能力を兼ね備えたアジリティの高い人材であり、こうした人材を活かせるアジリティの高い組織こそがVUCAの時代に適合した組織といえるのだ。

アジリティの高い組織の特徴

では、アジリティの高い組織とはどのようなものか。そこには共通するいくつかの特徴がある。大きく4つに分けて、それぞれの特徴を紹介しよう。

1)組織のビジョンが明確である

アジリティの高い組織は、将来へのビジョンが明確だ。不確実な時代だからこそ変化は必ず起こるものと考え、組織の目標に向けて、ビジョンを定義、明示し、さらに必要な道筋をしっかり立てている。

関連記事:ミッションとは?ビジョンとの違いやなぜ必要なのかを解説

2)組織の置かれている現状を把握する能力が高い

目まぐるしく変化する時代の中で的確に立ち回るためには、状況判断が必須となる。今、自社がどのような状況下、立ち位置にあるかを客観的、俯瞰的に捉えられなくては、組織の内外で起こる出来事に対応できない。アジリティの高い企業の多くは、トップから末端に至るまで情報共有が徹底され、トップダウンで指示を出さずとも些細な変化にも各々が判断し、すぐに対応できる体制が整っている。

3)柔軟な発想力と応用力がある

旧態依然とした考え方の組織では、日々進化する時代の流れについていけない。アジリティの高さは、発想力と応用力の柔軟性に現れるのだ。それらの組織には、一つの物事に集中せず常に周りを見渡せる広い視野を持って、発想力を伸ばし、臨機応変に対応できる柔軟性のある人材が多い。また、そういった人材育成のために組織のメンバーには、新しいことにチャレンジさせ、知識や経験を積む、考える力を養う機会を多く提供していることも特徴といえる。

4)リーダーシップを持つ社員が多い

上記の組織の在り方にもつながるものだが、アジリティの高い組織は、社員それぞれが決定力や指導力をもって行動する風潮が成り立っている。そのため、自然とリーダーシップが高い社員が集まってくる。誰もが迅速に行動できなくては、アジリティの高い組織は成り立たないのだ。自身の持っている知識や特徴を活かし、自分と違った意見や情報も取り入れることで、リーダーシップを持ち、迅速で柔軟な対応を率先して行動している社員が多いといえよう。

変化に対応するためのアジリティ向上のヒント

では、不確実な時代を生き抜くために、組織アジリティを向上させる施策にはどのようなものがあるだろうか。以下にまとめよう。

1. 業務プロセスの改善

アジリティを向上させるためには、まず、業務プロセスを状況の変化に対応しやすいものにすることが必要になってくるが、大企業や歴史の長い企業ほど、現在の仕組みを早急に変更することが困難である場合が多く、長い目で見て取り組むが必要がある。

業務プロセス改善において歴史のある会社ほど、アジリティ向上に苦手意識を持っているケースが多い。確かに、今まで長年に渡って構築されてきた業務プロセスの中から課題を見つけ、各業務プロセスを再構築するような取り組みは社内的な反発もみられ、二の足を踏む傾向があり、着手にも実行にも時間がかかる作業ではある。

例に挙げると昨今業務のデジタル化を伴う変革(DX=Digital Transformation/デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれているが、稟議、押印などの一連の紙運用のIT化の業務プロセスは、なかなか着手できていない企業も多いのが現実である。一方で、そうした企業の中にも、業務プロセス改善に成功し、アジリティが向上している企業が存在することも確かだ。

まずは、明確な業務プロセス改善の意義、目的を定義し、関係者間でしっかりと共有し、共通認識を持つことからはじめよう。ここをおろそかにすると取り組みの一貫性がなくなり、気付かないうちに失敗していることがある。

その上で業務プロセスの洗い出し、課題の整理、原因の追究、改善計画の立案、実行、評価の一連のPDCAを回し、少しずつ時間をかけて改善をし続けることが、アジリティの高い組織構築につながるのだ。

関連記事:PDCAとは?何のためにPDCAサイクルを回すのか?古いと言われる理由とともに解説

2. ITツールの導入

組織のアジリティを向上させるには、情報の共有と意思決定プロセスのスピードアップが欠かせないものである。

そこで役に立つのがITツールで、例えば、社内での情報共有には、メールよりも気軽にメッセージでき、スピーディなコミュニケーションが可能なビジネスチャットツールなどを導入する企業も増えている。ビジネスチャットツールは、チャット機能やファイルの共有のみならず、リマインダーやさらにはタスク管理機能、音声通話まで備えたツールもあるため、スピード感が求められる組織では、ビジネスチャットツール上でほとんどの業務が完結するという場合もある。

これらを活用することにより、素早い情報共有、クイックレスポンスなど、円滑で迅速なコミュニケーションを取ることを可能とする。特にマルチタスクを同時進行で行うような場合、複数のプロジェクトに対しリアルタイムで非常にスピーディな情報共有ができるため、組織の機敏性を高めることに優れている。

新型コロナウィルス感染症をきっかけにテレワークやリモートワークを採用する企業が増えているが、従来のような対面での気軽なコミュニケーションが難しくなった今、非対面でのコミュニケーションツールとして、これらビジネスツールの導入も進んでいる。

居場所にとらわれずに複数人でのコミュニケーションが可能であるため、情報共有や社内の連携がとりやすくなり、日々のワークフローを効率化することができるからだ。組織の内側の仕組みだけではなく、外側のテクノロジーの活用と両輪で走らせることで、さらなる機敏性の高さを実現でき、組織や人材のアジリティを向上させることにつながる。

3. チャレンジさせる文化の醸成

アジリティの高い組織は、従業員に経営理念や行動指針を浸透させつつ、業務については目的やゴールなどの方向性だけを示し、具体的な意思決定については従業員に権限を与えていることが多い。

組織全体のアジリティの向上を図るには、当然ながら個人での機敏性も必要となるからだ。

責任や役割の範囲が明確である企業も少なくないが、アジリティの高い組織では、個人の裁量で仕事を進められる範囲が格段に広い。変化する時代の早さについていくためには、情報を正確にジャッジし、次への行動へと移すことが仕事のスピードを速めることになる。そして、この実現のためには、従業員への権限委譲が必須となる。

権限委譲を効果的に発揮させるためには、先に述べた「理念の共有・浸透」の他に「信頼関係の構築」「阻害要因の解決」なども必要となる。

阻害要因としては特にスキル不足があげられるが、この点については、経験と努力を通してしか獲得できるものではない。それはすなわち、ラクビ―でのアジリティトレーニングに他ならない。従業員に対しては新しいスキルを学ぶこと、不断の努力をし、自らの成長を追求することは責務であることを認識させよう。

また、権限委譲を経験したことがなければ、そのやり方を知らないのは当然であり、裁量を与える側はまずは業務を分解し、小さくチャレンジさせていくところからスタートしてみるとよい。このような働き方は、アジリティの向上だけでなく、様々なメリットがある。

従業員にとっては責任を持って仕事を任されるため、自身がイニシアティブを発揮でき、成長やモチベーションアップにも繋がる。また、画一的ではない現場のさまざまなアイデアは顧客にとっても付加価値となり、スピード感ある対応が期待できるため、質、量、スピードともにそろった仕事を顧客に提供できることにもなる。

関連記事:権限委譲とは?その意味と企業における組織の成長のために適切に行う方法を解説

4. 経営理念の共有

社員に裁量を与えるとはいっても、経験やスキルがないのに判断をゆだねてしまっては、かえってトラブルを招いてしまう可能性がある。

これを防ぐには、企業の舵取りの大きな方向性である、経営理念を浸透させることが重要である。アジリティとは課題や問題に対して瞬時に判断し行動することが求められるため、従業員がいちいち上司にお伺いを立てているようでは、スピード感がなく、アジリティが高い組織とは言えない。

そのためある程度、自己裁量に任せた判断や行動が必要となってくるが、そのよりどころの根幹をなすのは経営理念である。

経営理念が明確に打ち出され、それが社内に浸透している企業ほど利益率も高い、という調査結果もあるほどだ。まずは、経営理念に沿ったメッセージを経営陣や人事が日常的に伝える仕組みを導入しよう。

加えて、経営理念を軸とする行動指針を作成し、それらを実現するにあたってのスキルを明確化してほしい。さらに、スキルアップがはかれる機会を提供することで、従業員が同じ方向を向いて意思決定ができ、彼らとのエンゲージメントや組織のアジリティ向上に資することができる。

関連記事:経営理念とは?企業理念との違いや企業例とともにわかりやすく解説

まとめ

・「アジリティ」は、もともとはスポーツの分野で使われており、急な刺激に瞬時に反応して速度や方向を正確に転換することのできる能力を指す。企業経営や組織における「アジリティ」も、目まぐるしい環境変化に即応するために欠かせない、経営や組織運営のあり方における機敏性を表し、不確実性が高く、不透明なVUCA時代を、生き抜くためのキーワードとして近年ビジネスでも注目を集めている。

・アジリティは、刺激や障害に対して、どれほど的確に素早く対応できるかを指すが、ただ速く動くだけではなく、その場にあった判断を即座に下して自分の身体を動かす必要がある。ビジネスシーンでも、これからの時代に本当に求められる人材は、速さと共に的確に判断する能力を兼ね備えたアジリティの高い人材であり、こうした人材を活かせるアジリティの高い組織こそがVUCAの時代に適合した組織といえる。

・アジリティの高い組織に共通する特徴は、大きく分けて「組織のビジョンが明確である」「組織の置かれている現状を把握する能力が高い」「柔軟な発想力と応用力がある」「リーダーシップを持つ社員が多い」の4つであり、各々が複合的に重なりあっている。

・組織のアジリティ向上のために行うべき施策の1つとして業務プロセスの改善がある。明確な業務プロセス改善の意義、目的を定義し、関係者間でしっかりと共有し、その上で業務プロセスの洗い出し、課題の整理、原因の追究、改善計画の立案、実行、評価の一連のPDCAを回し、少しずつ時間をかけて改善をし続けることが、アジリティの高い組織につながる。

・組織のアジリティを高めるためには、情報の共有と意思決定プロセスのスピードアップが欠かせず、メールよりも気軽で、スピーディなコミュニケーションのビジネスチャットツールなどを導入する企業が増加。これらを活用することにより、素早い情報共有、クイックレスポンスなど、円滑で迅速なコミュニケーションを取ることができ、組織の仕組みとテクノロジーの活用を両輪で走らせることで、さらに機敏性を高め、組織や人材のアジリティを向上させることにつながる。

・アジリティの高い組織は、従業員に経営理念や行動指針を浸透させつつ、業務については目的やゴールなどの方向性だけを示し、実際の行動は権限委譲し、従業員の判断に任せている。このような働き方は、アジリティの向上だけでなく、従業員にとっても成長機会が大きく、やりがいにも繋がり、顧客にとっても付加価値となる。

・アジリティは、経験に基づいたスキルと知識を活かし、問題を機敏に解決する能力のある従業員が、自己裁量により判断し、行動することだが、その行動の規範となるのは経営理念である。その浸透のためには経営理念を日常的に伝える仕組みや行動指針を作成し、それらを実現するにあたってのスキルを明確化する必要がある。さらに、スキルアップがはかれる機会を提供することで、従業員が同じ方向を向いて意思決定ができ、彼らとのエンゲージメントや組織のアジリティは向上する。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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