2020.12.10

チームのパフォーマンスを高める上で重要な心理的安全性(Psychological Safety)を解説

読了まで約 6

・チームのパフォーマンスを高める心理的安全性とは?

・心理的安全性の浸透、認知度

・心理的安全性が職場に与える影響

・心理的安全性が高いとされるメンバーの特徴

・心理的安全性不足が引き起こす4つの不安と行動特徴

・どうすれば心理的安全性は高まるのか

心理的安全性とは

企業において大半の従業員は組織やチームの一員として仕事を進めている。Google社のリサーチチームが、複数の統計モデルを駆使し導き出したチームの効果性に影響する因子の1つとして「チームのパフォーマンス向上には心理的安全性を高める必要がある」という調査結果を発表して以来、「心理的安全性」は組織、チームの生産性を向上させる方法として大きな注目を集めている。

心理的安全性とは、英語の「サイコロジカルセーフティ(psychological safety)」を和訳したもので、従業員が安心して、自分の考えを自由に発言したり行動に移したりできる状態を指す。心理的安全性が高いほど仕事の効率化により成果がアップし、組織内の人間関係が深まるなどといわれている。今回は、この心理的安全性の意味をはじめ、どのような効果があるのか、そして、職場で活用する場合の方法までを解説したい。

まず、HR総研による【ミニ調査】「職場の心理的安全性に関するアンケート調査」(調査期間:2020年8月16日~8月23日 有効回答:64件)の結果から、心理的安全性という概念がどれだけ浸透しているのか、その認知度をみてみよう。概要を大きくまとめると以下の4つである。(ProFuture株式会社/HR総研

<概要>
1、「心理的安全性」の概念の認知度は約4割
2、心理的安全性、「重要である」が9割以上
3、心理的安全性が確保されていないと感じるのは会議での発言やプレゼン時
4、職場の心理的安全性を「高いと思う」は半数以下

アンケート結果によれば、「心理的安全性」の概念についての認知度は約4割と、半分以上が「知らない」と回答しており、一般的に浸透度合いは決して高いとはいえない。

一方で、チームのパフォーマンスを高めるうえで、心理的安全性の確保はどの程度重要だと考えているかについては、実に97%が「非常に重要である」「どちらかというと重要である」と回答している。

理由としては「業務に集中できる」「自由な発言が生産性を高める」「自身の成果に自信が持てる」など心理的安全性の確保が業務遂行に対して有効に働くと考えている企業が多いことがわかる。しかしながら、職場の心理的安全性を「高いと思う」は半数以下であり、多くの企業において心理的安全性の確保にはまだ課題があり、逆説的には心理的安全性を高めることで生産性を向上させる余地があるといえる。

心理的安全性が職場に与える影響

心理的安全性がここ数年で高い注目を浴びているのは、先に述べたGoogle社が2012年から約4年もの年月をかけて実施した大規模労働改革プロジェクト、プロジェクトアリストテレス(Project Aristotle)により発表された「チームを成功へと導く5つの柱」の中で、その筆頭に掲げられたということが大きく影響している。以下にその概要を引用してみよう。

<チームを成功へと導く5つの鍵>
心理的安全性:「チームの中でミスをしても、それを理由に非難されることはない」と思えるか。
相互信頼:「チームメンバーは、一度引き受けた仕事は最後までやりきってくれる」と思えるか。
構造と明確さ:「チームには、有効な意思決定プロセスがある」と思えるか。
仕事の意味:「チームのためにしている仕事は、自分自身にとっても意義がある」と思えるか。
インパクト:「チームの成果が組織の目標達成にどう貢献するかを理解している」か。
※参考:「効果的なチームとは何か」を知る/Google re:Work

中でも心理的安全性については「心理的安全性はその他の4つの力を支える土台であり、チームの成功に最も重要な要素」であると特筆されていたことから、高い注目を集めることとなった。心理的安全性の高いメンバー・チームは、主体的な行動をとり、チーム内のアイデアを効果的に活用できるため、生産性の向上に寄与するといわれている。

しかし、その言葉自体はそれ以前から存在していた。心理的安全性という概念を最初に提唱したのは、エイミー・C・エドモンドソン(Amy Claire Edmondson)である。彼女は、人々がチームとなり仕事を通しての学習を繰り返し、成果をあげることを「チーミング」(teaming)と呼び、20年以上にわたり病院やその他多様な組織を舞台に「チーミング」を研究し続けた。そして、「チーミング」が有効に機能する条件のひとつに心理的安全性をあげたのだ。エドモンドソンが述べた内容によれば、心理的安全性が確保されていない職場では、多くの従業員たちが自己呈示行動や自己印象操作を行い、本当の自分を偽りながら働いている状態に陥るという。その結果、相互に信頼ある関係性が築けない、従業員が本来の力を十分に発揮できない、イノベーションが生まれないなどの状態に陥り、チームのパフォーマンスにもネガティブな影響を及ぼしているという。

では心理的安全性が確保されている職場では具体的にはどのような効果があるのだろうか。Google社のプロジェクト調査結果によると、心理的安全性が高いとされるチームのメンバーは、「Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、『効果的に働く』とマネージャーから評価される機会が2倍多い」という。これらの結果からみるに、チーム、組織内の心理的安全性を高めることは、優秀な人材の離職、流出を少なくし、イノベーションの確率をあげ、業績を向上させ、メンバーのポテンシャル、モチベーションを高めることができるといえよう。

どうすれば心理的安全性は高まるのか

チームのパフォーマンスに大きな影響を与える心理的安全性だが、どうすれば高めることができるのだろうか。それには心理的安全性が不足している職場で起きている負の影響を知ることが近道だ。先述したエドモンドソンが紹介した「心理的安全性不足が引き起こす4つの不安と行動特徴」によれば、心理的安全性が確保されていない職場の従業員は、以下の4つの不安を抱えている。

<心理的安全性不足が引き起こす4つの不安>
・無知だと思われる不安
・無能だと思われる不安
・邪魔していると思われる不安
・ネガティブだと思われる不安

これらの不安を抱えることにより、本来持っている力を発揮できない、信頼関係を築けない、イノベーションが生まれないなどの状態に陥り、結果的にチームのパフォーマンスにもネガティブな影響を与えてしまう。

では、その4つの不安を取り除くにはどうすればよいのか。以下の4つの観点から観てみよう。

・メンバー間の相互理解を深める
・発言しやすい環境や雰囲気の醸成
・ポジティブ表現やポジティブ思考の浸透
・チーム編成の見直し

1、メンバー間の相互理解を深める
良いチーム作りには、チームメンバー同士の相互理解を深めることが重要である。相互理解とは文字通り「お互いを理解し、信頼関係を築いていく」ためのプロセスであり、それはチームメンバー同士のコミュニケーションの上に成り立つ。しかしながら、単にメンバー同士の接触回数を増やしたり、仕事を割り振れば良いというわけではなく、「質の高い」コミュニケーションが求められる。

そのためにまずは、メンバー間において「何が得意、不得意なのか」「どのように仕事をするのか?仕事のスタイルはどうか?」「大切に思っている価値は何か?」「相手が期待している成果は何か?」を十分に話し合い、理解することが肝要である。

メンバーの思考、強み、仕事観、期待値を理解することで、質の高いコミュニケーションが取れ、チームの生産性をあげることができる。そのためのアプローチは、1on1やメンター制を通じて相互理解をある程度時間をかけて積み上げる方法や、市場に出回っている個人の特性判断ツールなどの活用により互いの特徴を知ることも一案といえる。

2、発言しやすい環境や雰囲気の醸成
多くの日本企業は、フラットではなく、ピラミッド型の組織形態を取っている。これには「心理的安全性不足が引き起こす4つの不安」が誘因され、本音でコメントを言いづらいという欠点がある。上司からの頭ごなしの否定、同調圧力や暗黙の了解等により発言内容が制限されることが少なくない。これらの解消のためには、チーム内での共通認識をもつことが大切である。

具体的には、ミーティングや1on1の目的や方向性を定義し、明文化されたルールを定め、その定められた項目を、しっかりと全員に浸透させることがポイントである。それらのルールには例えば、相手の意見は否定しない、発言時にコメントをはさまない、発言機会を均等に与えるなど、心理的安全性が確保された状況下で、平等に全メンバーの意見を聞き入れる仕組みを取り入れる必要がある。

また、リラックスした状態の中、メンバー間でコミュニケーションが生まれる環境作りも重要だ。例として、効果的なアイスブレイクは緊張感をほぐし、全メンバーが自発的に会話へ参加することを可能とする。加えて、互いの成果を褒め、尊重することも大切だ。ミスや改善点を指摘することも時には重要なだが、褒めることやフォローすることとのバランスを忘れないようにしたい。意見を言いやすい環境では、役職や雇用形態に関係なく、チーム間で対等な立場でコミュニケーションを取れる風通しの良い組織を構築できる。ただし、常にそれら組織を機能させるための方法を見直し、試行錯誤を通じて解を探しながら実践していく必要はある。

3、ポジティブ表現やポジティブ思考の浸透
組織のなかにおいて、ネガティブな思想は将来の危機を予測し、危険を回避するために重要な要素であり、ネガティブな思想を全面的に否定してはいけない。しかし、組織やチーム内においてのネガティブ思考や発言は心理的安全性を脅かすものであり、ポジティブ思考やポジティブ発言へ変換する必要が出てくる。ネガティブな言葉は以下のように言い換えるだけで印象が異なる。

・経験が不足している→「今後の伸びしろがある」「新鮮な発想が期待できる」
・平凡である→「一般的でうける」「万人に好まれる」
・応用性がない→「基本に忠実である」「誠実を貫くタイプ」
・仕事が遅い→「仕事が丁寧だ」「自分のペースを守っている」

これらは言葉のテクニック的な要素ではあるが、心理的安全性を確保し、コミュニケーションを円滑にすることに役立つ。また、副次的な要素として、ポジティブな言葉を普段から使うことで、思考もポジティブになり行動にもプラスに表れてくる。

発言する、発言を受ける場合の相互においてのポジティブな言語化により、前向きな姿勢で活動に取り組め、チーム内の心理的安全性を大いに高めることができるからだ。心からの共感と理解を惜しみなく示し、多くのポジティブワードへの変換をストックしておくといいだろう。

4、チーム編成の見直し
今まで述べた3つの観点や、その他施策を行っても、心理的安全性がなかなか向上しない場合には、チームのメンバー編成の見直しを検討して欲しい。Google社のプロジェクトアリストテレスにおいて、各メンバーのスキル、パフォーマンスを構成要素としたチーム編成と、そのチームの生産性には大きな相関性がないことが明らかとなっている。しかし、ほとんどが重複したメンバーであるが、一部のメンバーを入れ替えることにより、チーム成果に大きな差が生まれたという同研究の結果もある。

チーム編成もコミュニケーションの円滑性に大きな影響を与えるものであり、心理的安全性の向上に重要な要素であるということがいえる。

日本は「気遣い」「阿吽の呼吸」等が文化としてあり、企業内においても自分の感情や本音を表に出さないようにする傾向が強いため、チームや組織が発言しやすい環境や雰囲気作りを意識的に構築しなければ、チームや組織全体の心理的安全性を確保することが難しい。しかし、日本企業においてもダイバーシティ(多様性)の受容やグローバル人材の育成が課題となっている中で、心理的安全性を確保し、誰もが自分らしく仕事のできる環境を構築することはチームや組織の生産性を飛躍的に向上させ、ひいては企業業績にも直結するものとなる。企業にとっても、働く従業員にとっても非常にメリットが大きい心理的安全性の確保は、もはやチーム、組織において必要不可欠のものである。

まとめ

・Google社が、「チームのパフォーマンス向上には心理的安全性を高める必要がある」という調査結果を発表して以来、「心理的安全性」は組織、チームの生産性を向上させる方法として大きな注目を集めている。

・心理的安全性とは、英語の「サイコロジカルセーフティ(psychological safety)」を和訳したもので、従業員が安心して、自分の考えを自由に発言したり行動に移したりできる状態を指す。

・心理的安全性は「チームの成功に最も重要な要素」であり、心理的安全性の高いメンバー・チームは、主体的な行動をとり、チーム内のアイデアを効果的に活用できるため、生産性の向上に寄与する。

・心理的安全性を高めるためには、心理的安全性の不足が引き起こす4つの不安による負の影響をまずは知ることが重要である。

・心理的安全性の不足が引き起こす4つの不安を取り除くには「メンバー間の相互理解を深める」「発言しやすい環境や雰囲気の醸成」「ポジティブ表現やポジティブ思考の浸透」「チーム編成の見直し」の実践が肝要。

・心理的安全性を確保し、誰もが自分らしく仕事のできる環境を構築することはチームや組織の生産性を飛躍的に向上させ、ひいては企業業績にも直結するものとなる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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