2020.12.11

アクティビティー・ベースド・ワーキング(ABW)のメリット・デメリットとは?

読了まで約 7

・アフターコロナ時代で注目を集める新しいワークスタイル「ABW」とは?

・「ABW」が目指す、働く空間と時間に制限をかけない、フリーアドレスのその先

・従業員と企業のパフォーマンスを底上げする「ABW」のメリットとは?

・より良いワークスタイル実現のために検討すべき「ABW」の課題点とは?

・ 新しい働き方「ABW」が導入しやすい条件とは?

・「ABW」導入のカギとなる「地ならし」の条件とは?

フリーアドレスより進化したABW

未曾有の影響を日本の社会と経済活動に与えた新型コロナウイルス感染症。その負の面を数えあげれば切りがないが、日本企業の変革を否応なしに推進させたという数少ないプラスの影響もある。政府の緊急事態宣言を受けて半ば強制的に導入された、在宅勤務などを中心とした「働き方」の多様化だ。コロナ禍以前には、テレワークやリモートワークなどを経験してこなかった企業や従業員が、そのメリット(または課題点)に触れることで、日本企業における新たなワークスタイルのひとつとして定着する傾向を見せ始めている。他方、海外ではこれよりに更に先行している取り組みとして「ABW(Activity-Based Workingの略)」があり、昨今、日本のビジネス界で注目を集めている。

ABWは、オランダのコンサルティングファームから始まった働き方の一形態で、発祥元のVeldhoen + Companyによれば、ABWとは―「企業の戦略や文化、ビジョンと照らし合わせながら、どうすればよりよく働けるかについて再考するきっかけを与える、いわば組織にとっての促進剤(カタリスト)」だとしており、「チーム間のより良いコラボレーションを促し、真のつながりを育み、イノベーションを推進し、優秀な人材を確保するためのアプローチ」であると定義している。

ABWでは、従業員がそれぞれの業務内容によって、効率よく働く場所や時間の拘束を受けることなく、オフィスなどの事業場内はもちろんのこと、場合によってはカフェや自宅などの事業場外を働く場所として選択肢に入れられることから、グローバル企業や、「働きやすさ」の改善を重視する企業を中心に、徐々に採用され始めている新しい働き方である。

一方、類似するワークスタイルとしてフリーアドレスがある。フリーアドレスでは、事業場(オフィス)内で従業員の座席を固定(または都度指定)することなく、どの座席に座って仕事をしてもよいという働き方であり、近年の日本企業でも導入が進んでいる取り組みのひとつだ。しかし、ABWとフリーアドレスとでは、アプローチに類似点がありつつも、その実現を目指す目標(ゴール)が大きく異なる。

企業がフリーアドレスの導入をすすめる主な目的は、「オフィスコストの削減」や「従業員同士の社内でのコミュニケーション活性化」であるため、働く場所はオフィス内に限定され、座席が自由といっても一日に頻繁に働く場所を変えることは想定されていないことが多い。

他方、ABWに取り組む企業が目指す働き方とは、「従業員の生産性向上」や「いかに働きやすい状況で働くか」などといった点に主眼が置かれていることから、働く場所はオフィスという制限を受けることがなく、また状況によっては出社の必要もなく、オフィス内で働く際も、業務内容によって利用するスペース(個人デスク、リフレッシュルーム、電話用サイレントボックスなど)を変えることができる。

これらのことから、ABWが従業員の業務遂行における自律性を前提としており、フリーアドレスとは似て非なる取り組み働き方であることがわかる。

ABWのメリット・デメリット

ABWのメリットには、主に下記のような点があげられる。

1. コスト削減
ABWへ取り組むことによって、サテライトワークやリモートワークなどを更に推進することが可能になる。オフィスへ出社する従業員が限定されるため、従業員全員のために席を用意するほどの広い物件を借りる必要がなくなり、家賃や固定電話、光熱費などの削減が可能だ。実際に、オランダの電力会社Essent N.V.では、ABWへ取り組むことで従業員の在宅勤務を推進した結果、オランダ国内にあった13ヵ所のオフィスを4ヵ所まで集約することに成功。不動産やオペレーションにかかるコストカットに成功した。

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中で、感染拡大防止に貢献しつつ、同時に固定費を中心とした経費削減につながることから、ABWは大きなコストメリットが見込める。

2. 仕事の生産性、仕事への満足度(EX)、そして企業価値を高める
ABWでは、個人で集中する時や、従業員同士でブレインストーミングする時など、業務内容に応じて働く場所を変えることができ、仕事の合間に自らのペースで休憩がとれることから、仕事の効率性を高めることができる。働く従業員ひとりひとりが自身の特性に合っていて、業務に沿った働く場所や時間が選択できることは、従業員の生産性だけではなく、従業員満足度(EX=Employee Experience)を上げるだろう。

結果として、ABWを実践することで企業イメージの向上につながり、パイオニア企業として社外への積極的な情報発信ができれば、好ましいPR効果を生むことが期待できると同時に、後述する採用マーケティングや、ステークホルダーを含めた、企業活動全体にとって有益となる。

3. 新たな人材獲得に向けて採用力を高める
ABWの導入は、従業員の仕事効率向上を目的として在宅勤務やサテライトワークなどといった働き方を実現するため、もともと育児や介護で出社やまとまった時間で働くことが厳しい人材や、地方または海外在住の優秀な人材も視野に採用活動を行うことが可能となる。また、前述のとおりABWを取り入れていること自体、ワークライフバランスの実現できる魅力的な企業として、採用マーケティングにおいてもアピールできることから、若手を含む幅広い人材への訴求力を強化することが期待できる。

ABWには数多くのメリットが存在するが、新しい制度であるため、これから検討されていくべき若干の課題点も存在する。

1. 社内制度や人事制度の抜本改革が必要
ABWへの移行に伴って、勤怠管理や評価制度の見直しが求められる。オフィスへの出社を前提とした出勤状況などは機能しなくなるため、物理的に目の届かないところにいる従業員をどのように評価するのか、根本的な制度の再設計が求められる。同時に、ABW導入によって、従業員の物理的な出社が必須ではなくなったとしても、オフィスへの来客や代表電話への来電対応などは発生する。そのため、どのように社外対応を行うのかを、リモートでの対応を可能にするツール導入なども含めて、具体的に検討していく必要がある。

2. 自律性とコミュニケーション活性化の両立
「どのようなタイミングにどのような環境下で」仕事を行うと、自身の能率を最適化・最大化できるのか。ABWに取り組む企業で働くことになる従業員は、常にこういった自律的なマインドをもって仕事をすることを求められる。そのため、企業としては、従業員各々が自主的に働く時間と空間をマネジメントできるよう、ABWに向けた過渡期から、従業員へのフォロー体制を確率することが極めて重要となる。

また、必ずしもオフィスへの出社を求められず、自律性を求められるABWでは、どうしても従来型のワークスタイルに比べて従業員同士のコミュニケーションが希薄化しやすい傾向にある。個人の能率を重視するがために、チームワークが機能せず、組織としての効率が下がっては本末転倒である。だからこそ、上長への相談、先輩に訊きたい小さな疑問や、仕事上の雑談などを、オンラインでも実現できるチャットツールの導入や、管理層がチーム内のきめ細やかな意見のすり合わせができるコミュニケーションのあり方を検討する必要がある。

3. リスクマネジメント
仕事をする場所や時間の制限を緩和する場合、従業員へ貸与されたコンピュータや携帯電話、外部メモリや書類などのセキュリティへの管理が難しくなることも懸念される。たとえば、カフェの無料Wi-Fiを使用したことによって法人から貸与されたコンピュータにウイルスが流入するリスク、または、オフィスや同僚からの電話だと思って出た電話で機密情報を誤って話してしまうリスクなど、常に従業員の業務に対して目が届かない環境では、さまざまな情報漏洩リスクが存在する。

この場合、電子機器には会社専用のセキュリティソフトを導入することや、社内システムへのアクセスにパスワードと法人携帯SMSの二段階認証を採用するなどといった対策を検討することが求められる。

ABWを導入しやすい企業とは

さまざまな改善するべき課題がありつつも、これからの日本のワークスタイルにとって、大きな潜在性を秘めるABW。企業にとっては、コスト削減を中心としたメリットが見込め、従業員にとっては、仕事の能率を上げつつワークライフバランスがとりやすくなると期待されるが、どのような企業がABWを導入しやすいのか。ここではABWへ取り組む準備が整っているといえる企業タイプをみていく。

1.  ABWとの親和性が高く、IT利用に積極的であること
ABWは、そのワークスタイルにおける特性上から、従業員の割合を占めるオフィスワーカーが多いほど導入しやすい。かつて、企業の総務や経理機能をつかさどるバックオフィスは、従来型の働き方から抜け出すことが難しく、ABWどころかフリーアドレス制の導入も難しいといわれていた。しかし、テクノロジーが進化した現在では、このようなバックオフィス部門でも、適切なツールの導入や組織内でのルール作りをするなどの努力と工夫によって、十分に実現可能となっており、ITツールを積極的に取り入れられる姿勢は、企業のABW導入を一段と容易なものとする。

ABW実現の前提として、従業員がどこからでも必要な社内のリソースにアクセスできる環境作りが必要となり、同時に情報漏洩のリスクに鑑みて徹底的なペーパーレス化や情報機器でのセキュリティ対策が必須となる。また、管理層や経営層としても、プロジェクトごとの進捗確認や、目の届かない従業員の生産性などを可視化できるツールの導入が経営判断を行う上で必須となってくるだろう。

反面、高度なセキュリティ環境下の業務従事者や、企業のフロントオフィス(企業の外回り営業や現場での仕事、客先常駐部門など)が多いと、ABW導入は決して容易ではないが、従業員ができるだけ自由な働き方ができるように、何らかの改善策を検討することは、従業員の仕事への満足度を上げる観点から、とても有意義だといえよう。

2. 意識や制度の改革に柔軟で、上下の信頼関係が強固であること
ABWは新しい働き方の制度であり、それぞれの企業の状況に応じて、組織内でのABWのあるべき姿は異なってくる。日本企業での導入もまだ始まったばかりであり、参考になる先例が多くないことから、社内での制度導入や枠組みの決定において、手探りの状態となったりするため、導入の中途段階でこまめな調節が必要になってくるだろう。このことから、ABW導入中の過渡期においては、従業員にかかる負担も大きくなってくる。

持続的に社内制度の抜本的な改革を行う際は、従業員の意識もアップデートできるよう、経営・管理側からの丁寧でこまめなフォロー体制を作り上げる必要がある。そのための前提となるのは、組織において上司と部下の信頼関係が確立されていることだ。なぜなら、上長と部下との間で信頼関係が構築されていない状態でABW導入を強行すると、企業の管理側は従業員をうまく管理できず、従業員側も組織への帰属意識などが希薄化しやすい。こうした環境におかれた場合、仕事への意欲低下を招く可能性などがあるからだ。

ABWの導入前に全社としての意識改革を実施することで、しっかりとした共通認識を上司と部下の双方が共有することで、ABW導入期での丁寧なフォロー体制を実現しつつも、過度なマイクロマネジメントの回避を期待できる。また、従業員からの定期的な社内制度へのフィードバックを、ABW導入の制度設計に組み込んでおくことも、従業員と経営者の双方にとって有益となるだろう。

まとめ

□未曽有のコロナ禍で急速に進んだテレワークなどの新しい働き方。一方、海外ではビフォーコロナから一部で普及が進んでいる新しいワークスタイル「ABW(Activity-Based Working)」が今注目を浴びている。オフィスワークの概念を根底から覆すABWは、働く場所と時間に対する制限を設けない(または大幅に緩和している)。そのため、より良く働くための取り組みに注力している企業やグローバル企業などを中心に徐々に採用されはじめている。

□ ABWは、日本で普及しつつあるフリーアドレス制とオーバーラップする部分があるが、フリーアドレス制は仕事場での従業員の席を固定しないことで、従業員同士のコミュニケーションを促したり、オフィスコストを削減することが目標であるのに対して、ABWでは「いかに働きやすい状況を作るか」を通じて従業員の能率を最大化することを目指しており、働く空間と時間に制限を設けないことはあくまでも手段だという点に、大きな違いがある。

□ ABW導入がもたらす最大の短期的なメリットはコスト削減だろう。従業員の働く空間と時間に制限を課さないことで、営業所数や支社数の統廃合からオペレーションコストカットが見込めるからだ。また、従業員それぞれが集中しやすいタイミングや場所などを尊重することで、個々の生産性の最適化・最大化が即ち従業員のやる気や仕事への満足度向上にも直結する。結果としてこれらのことは企業PRでも有益であり、新たな人材獲得の際にもより幅広い人材を募ることが可能となる。

□従業員の働き方に対する制限が少ない分、新しい働き方であるABWには、検討すべき課題やリスクも存在する。従来型の働き方からの変革をする場合は全社を挙げた意識改革や制度改革を断行する必要がある。また、従業員の自律性を重んじることと、チームという集団として動くこととが矛盾しないようなコミュニケーション方法も求められていくだろう。さらに、働く場所・時間が分散することで増える情報漏洩などのセキュリティリスクにも十分対策をとる必要が出てくる。

□ ABWとの親和性が高い企業は、まずオフィスワーカーが多いことであろう。もう一つは、企業として戦略的なITツールなどの利用に対して抵抗がないことだ。テクノロジーの進化のおかげで、従来難しいといわれてきた総務部門や経理部門なども、ITツールを駆使しつつ徐々にフリーアドレス制やテレワークを実施しつつある今、基本的にバックオフィスはABWが可能であると考えてよい。一方で外回りや現場仕事、客先常駐型ではABWの導入が難しいことは言うまでもない。

□まだまだ世界でも前例が少なく、特に日本では先行して導入している企業が少ないABWだが、その導入成功のカギとなる条件は2つある。まず、手探り状態となるであろうABWの導入期におけるトライ&エラーで、経営者と従業員の意識改革と認識のすり合わせができており、柔軟に制度改革というアクションに落とし込めること。次に、抜本的な制度改革に伴って増えるであろう従業員の負担やストレスと真摯に向き合い、上司と部下の強固な信頼関係に基づいてフォロー体制を築くことだ。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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