2020.11.10

EX施策に重要な役割を果たすエンプロイージャーニーマップとは?

読了まで約 6

・EX向上に重要なエンプロイージャーニーマップ。

・エンプロイージャーニーマップの作成で経験価値を見える化できる。

・エンプロイージャーニーマップに必要な視点の転換とは?

・エンプロイージャーニーマップ作成による従業員体験の検討プロセスは?

・エンプロイージャーニーマップ作成の4ステップとは?

・EXを高めるためにエンプロイージャーニーマップを活用するポイント。

EXのキモとなるエンプロイージャーニーマップ

1980年以降に生まれた「ミレニアル世代」が企業や組織の中核的存在になり、さらに、1990年代後半以降生まれの「Z世代」が社会人として世に出てきてことによって、採用市場ではエンプロイーエクスペリエンス(従業員経験Employee Experience:以下EX)の向上がますます重要視されている。

これは、生まれた時からインターネットやデジタル機器が当たり前に存在していたデジタルネイティブ世代である彼らが、デジタルデバイスに慣れ親しんでいるとのは当然として、顧客としても非常に高い経験価値を享受してきた世代でもあるからだ。例えば大手のECサービスなどでは、顧客の購買履歴や閲覧履歴などからその顧客固有のニーズや嗜好を読み取り、丁寧なレコメンドが送られてくる。しかも決済手段や受け取り方法も多彩な選択肢が用意されていて、注文や問い合わせなどに対するレスポンスも極めて早い。

こうした経験を子供の頃から積んでいるこの世代は、就職先企業に対してもデジタル化された経験価値を求める傾向が強いという特性を持つ。

一見、仕事とは関係のない特性と思われがちだが、今後もデジタルネイティブ世代が採用ターゲットの中心となっていくことが確実である以上、採用活動をする企業は、彼らの感覚や志向を前提として、その能力を最も発揮できるような職場環境を整えていく必要がある。

このためEXに注力することが重要視され、EXを採用活動の中心に据えて成功しているニトリのような事例に学んで、EX向上に着手する企業は急激に増加している。

EXのメリットや事例については従業員体験(EX)向上の重要性とは?企業が実施している具体的な施策で解説した通りだが、いざEXに着手するとなるとどこからはじめていいのかわからないというケースも多い。そこでカギとなるのが「エンプロイージャーニーマップ」の作成による経験価値の見える化だ。これはEXを向上させるためのアクションプランを策定する際に役立つのみならず、EX施策そのもののクオリティーも左右する重要なものだ。

具体的には、企業との出会いから、選択して入社、従業員として働き、退社に至るまでの一連の流れを設計し、各フェーズに応じた施策・取り組みを計画実行していく。この流れの中で、従業員がどのような経験を期待し、どのような感情を抱くのかを体系立てて整理することで、従業員目線で従業員のキャリアデザインを組み立てることができる。従業員が自社と関わる一連の流れを一つの「旅」として捉えて、従業員が何を求めて、どう成長してもらうのかをイメージして作成するのが、エンプロイージャーニーマップだ。

エンプロイージャーニーマップを作成するにあたり、もっとも重要なのは経営陣や人事担当者が「視点を転換できるかどうか」だ。

従来の人事は、社員の入社から退職までという限られた期間を「どう管理するか」、という視点で施策を行ってきた。しかし、エンプロイージャーニーマップは従業員の目線に立って「どう体験価値を感じてもらうか」という視点から施策を検討するものであるため、大きく視点を転換することが必要となる。さらにエンプロイージャーニーマップの対象とする検討課題は、入社以前の候補者としての出会いの段階でいかに自社に良いイメージを持ってもらうか(候補者としての経験価値)から、退職後にどれだけ自社に関してポジティブなメッセージを発信してもらえるか(退職時前後のコミュニケーション、退職後のネットワーク形成・発信してほしいメッセージ)などまで長期間、広範囲にわたる。「管理する」という視点では到底追いつけない量と質だ。このため、エンプロイージャーニーマップで従業員の経験を細かく想定していくと、これまでの人事施策に抜けや漏れを発見することも少なくない。旧来の視点のままエンプロイージャーニーマップを作成しても、EXを向上させることはできない結果となってしまうことに注意したい。

エンプロイージャーニーマップ作成の4ステップ

エンプロイージャーニーマップ作成による従業員体験の検討プロセスは、 1.ゴールの設定 2.ペルソナの設定 3.ジャーニーマップの作成 4.施策の立案・実行 という4つのステップからなる。

4ステップと表現したが、1.と2.は同時に設定することがのぞましい、まず目指すべきゴールを設定したら対象となるペルソナのタイプを同時に明確化していくのだ。例えば「今後の事業展開を加速させるため(ゴール)にデジタルスキルを持つ人(ペルソナ)の獲得を強化する」「現在、自社にいる若手従業員(ペルソナ)のエンゲージメントを高める(ゴール)」といったことだ。もちろん、ゴールもペルソナも自社の状況にあわせて、ここで示した例よりも詳細に設定することになる。

そのうえでペルソナに沿った3.ジャーニーマップの作成を行い、4.施策の立案・実行へと落とし込んでいく。

そして実際のエンプロイージャーニーマップの作成には、次の4ステップがある。

1.従業員へのヒアリング
まず、対象となる従業員が、いまどのような状況に置かれていてどのような感情を持っているのか、現状を知るためのヒアリングを行う。例えば企業研修に関するジャーニーマップを作成するなら、従業員が現状の研修についてどう感じているのか、学習に関してどのようなニーズがあるのかを知ることができるような質問を用意しておく。そして、ターゲットとなる従業員の中から職種や年代、性別などの属性がバランス良くなるようヒアリング対象者を選定し、求める情報をヒアリングしていく。

2.対象とする人のペルソナを複数設定
ここでいう「ペルソナ」とはマーケティングで用いられる概念で、ターゲットとなる人物像をさまざまな属性によって明確化したものだ。

例えば前述したタイプの「デジタルスキルを持つ人」ではペルソナの設定としては不十分で、年齢層、これまでのキャリアや現在の役職、キャリアビジョン、仕事において重視していることなど細々としたことを挙げていく。例えば、<現在20代。新卒で入社し、海外生活の経験を持っている。スキル獲得に熱心で、他社でも活躍できるスキルを早く身につけたいと思っている。PCよりもモバイル端末を利用することが多く、メールよりもチャットでのコミュニケーションを望む。同僚と仲良く仕事し、残業はしたくない>などの設定だ。

このように、ターゲットとなる人物タイプを明確にすることで、彼らにどのような経験を提供することが望ましいかがイメージしやすくなる。

3.フェーズの分類
フェーズとは、入社・研修(オンボーディング)・配属・実務・育成・評価・退職といった企業内での大きなイベントやプロセスを指す。このフェーズごとに従業員が希望するであろうことや問題になり得ることなどを洗い出し、改善施策を打ち出していく。 ただし、入社から退職というような長期的な視点ではなく、1日の流れや1年間、プロジェクトごとの短期間など、フェーズを細かく区切ってイベントを想定することもある。

4.EX向上のためのアクションプラン策定
ここまでが終われば、「従業員が良い経験をするために会社が何をすべきか」という具体的なアクションプランの策定段階へ移ることができる。

EXを高めるエンプロイージャーニーマップ活用のポイント

エンプロイージャーニーマップは、あくまでも従業員体験を通じて従業員のエンゲージメントを高める手法であり、これを作成しただけでは目的を達成したことにならない。

エンプロイージャーニーマップを活用してEXを高めるためのポイントを押さえておきたい。

1.組織が目指す姿を明確にする
事業を継続的に発展させて生き残るために、どのような組織を目指すのかを明確にすることが大前提であり、もっとも重要だ。これを明確にしておけば、おのずとそのために必要な人材がどのようなものかが見えてきてペルソナの設定にブレが生じない。従業員側としては、自社の目指すべき姿と自身のエンプロイージャーニーマップとのつながりを見出すことで、業務へのやりがいや会社へのエンゲージメントを高めるきっかけとすることができる。

2.従業員を主体とした制度を整える
従業員が遭遇するそれぞれの経験において、「それらを通じて自分はどうなりたいか」、「それぞれのフェーズで会社にどうしてもらいたいか」という希望(期待)を明らかできるように、制度やプロセスを設計しておく。

自社が生き残っていくために、組織や人材のあり方を明確にしつつ、従業員自身が自分の成長をイメージできるような制度を整備しておく。

3.自社が従業員にとって価値のある場所であることを発信する
従業員を主体とした制度を整えたとしても、それが従業員にとってどんなメリットのあることなのかを伝えられなければ意味がない。各種教育制度や、キャリア形成が自身描いたエンプロイージャーニーマップにおける成長のどの段階にどうつながるかをメッセージとして折に触れて発信し続けていくことが大切だ。社内報やオウンドメディアなどを活用してり、従業員が参加しやすい気軽な相談会などを従業員同士の交流の場を兼ねて開くなど、自社の現状に合わせて臨機応変な施策を考案したい。

また、これらのポイントを押さえた上で、エンプロイージャーニーマップを活用し、施策を実施するにあたり、転換しておきたい重要な「視点」もある。これは先に述べた「経営者と人事の視点の転換」をさらに具体化したものである。

・総員提供から個別提供へ
従来の人事施策のほとんどは「時間をかけて完成度の高い制度を設計し、全社一律で導入する」という流れが一般的だった。しかし、エンプロイージャーニーマップにおいては、例えば「キャリア・能力開発」フェーズなら、同年次の社員に一律の研修メニューを提供してもEXの向上をはかることはできない。個人のキャリアに対する志向性やニーズ、スキルや過去の受講履歴などを踏まえて最適と思われる研修プログラムをいくつか用意し、これを選択してもらったうえで提供することで、はじめてEX向上に結びつけることが可能となるのだ。

・定期アクセスから即時アクセスへ
エンプロイージャーニーマップを活用するにあたってはどのフェーズでも即時にペルソナにアクセスできることが重要となる。例えば業務成績やプロジェクトの進捗などはどの程度の頻度でチェックしているだろうか。また、入社希望者や、社員からの社内制度や各種手続きに関する質問などに対して、どのようなツールでレスポンスを返しているだろうか。

メンター制度やメンタルヘルスチェックのように面談で対応することが必要な場合を除き、モバイル端末を導入したり、チャットツールを活用するなどして日常的にペルソナと即時アクセスできる仕組みを構築しておくことがEX向上には重要となる。

まとめ

・ミレニアル世代が企業や組織の中核的存在になり、Z世代が社会人として世に出てきてことによって、採用市場ではエンプロイーエクスペリエンスの向上がますます重要視されている。

・エンプロイージャーニーマップの作成による経験価値の見える化はEXを向上させるためのアクションプランを策定する際に役立つのみならず、EX施策そのもののクオリティーも左右するほど重要だ。

・従業員が自社と関わる一連の流れを一つの「旅」として捉えて、従業員が何を求めて、どう成長してもらうのかをイメージして作成するのが、エンプロイージャーニーマップである。

・エンプロイージャーニーマップ作成による従業員体験の検討プロセスは、1.ゴールの設定、2.ペルソナの設定、3.ジャーニーマップの作成、4.施策の立案・実行、という4つのステップ。

・エンプロイージャーニーマップを活用してEXを高めるためのポイントは、1.組織が目指す姿を明確にする、2.従業員を主体とした制度を整える、3.自社が従業員にとって価値のある場所であることを発信する、の3つ。

・エンプロイージャーニーマップを活用してEXを高めるためのポイントを押さえた上で、エンプロイージャーニーマップを活用し、施策を実施するにあたり、転換しておきたい重要な視点は、・総員提供から個別提供へ、・定期アクセスから即時アクセスへ、の2つ。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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