・企業にも従業員にもメリットが多いテレワーク。
・テレワークにあるデメリットや課題にはどう対応すればいいか?
・約9割の企業がなんらかのかたちでテレワークを実施している。
・ほとんどの企業は新型コロナの影響でテレワークの実施を開始している。
・テレワークをうまく活用できている企業の割合は?
・テレワークを実施するにあたり検討すべきポイントとは?
テレワークのメリットとデメリット
HR総研が、緊急事態宣言解除後の5月27日~6月3日に実施した「テレワークの実態」調査(調査方法:WEBアンケート 調査対象:企業の人事責任者、人事担当者 有効回答:294件)によると、「現在テレワークを実施している企業は9割近く、中小企業でも7割以上」という調査結果が出ている。この数字は、テレワークには新型コロナへの感染拡大対策という側面以外にもメリットが多く、そのメリットを感じた企業が導入し、テレワークを継続していることを物語っている。電力やガソリンなど、出勤に伴うエネルギー消費を抑えることができるので、いうまでもなく地球にとっては良い状況になる。
日本テレワーク協会の試算によると、在宅勤務による家庭用の照明や空調はオフィス用のものよりも電力消費量が小さいため、テレワーク導入による家庭の電力消費量の増加を考慮しても、オフィス・家庭全体で電力消費量は、一人当たり14%の削減が可能となるとしている。また、世界中が緊急事態宣言やロックダウンに陥った際、自動車通勤による排気ガスや工場、営業車両の使用率低下などによりロンドンをはじめとした大都市の空が綺麗になったことは記憶に新しい。
参照元:テレワーク導入のポイント(一般社団法人日本テレワーク協会)
人口の東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)一極集中の解消にも繋がり、自身の障害や家族の看病などで通勤を諦めざるをえなかった人材が、テレワークによる在宅勤務で働くことができるようになるので、埋もれていた労働人口を創出するという効果も期待できる。
また、テレワークのメリットとして企業や働く人からは、以下のようなことが考えられる。
<企業から見たメリット>
・働く場所に縛られないので、育児中、介護中の人材や、地方、海外の人材にまで活躍の場は広がるため、多様な人材の確保が可能となる。
・会議室や応接室、カフェスペースなど従業員が出社することを前提に維持しているオフィスコストを削減することができる。
<従業員側から見たメリット>
・通勤がなくなることで、通勤時のストレスや体力的消耗がなくなり、通勤時間を自分の時間や作業時間を多く確保することに充当できる。
・自主的で柔軟なスケジュール調整ができ、より集中した環境で生産性高く働くことができる。
・家族との時間や、自己研鑽に使える時間が増えるなど、ワークライフバランスを保つことができる。
一方で、実際にテレワークを運用してみてわかる課題やデメリットもある。しかし、その解決策をしっかりと施しておくことでテレワーク導入を成功に導くことは決して難しくない。以下に代表的な課題とその対策を並べてみよう。
・従業員同士のコミュニケーションが取りにくく、組織の一体感が希薄になる。
対策→この課題を解消するためには、ウェブ会議ツールや気軽にやり取りできるチャットツールの導入などが有効だ。上長との1on1ミーティングや、同僚も交えたチームミーティングなどを定期的にこうしたツールを活用して行い、ビデオをonにして顔を見ながら、仕事の進捗や困っていることを話しあうことでコミュニケーションを取ることができる。
・人によって自己管理能力が異なるため、業務のパフォーマンスに差が出る。
対策→まず、従業員それぞれが自分自身で業務をマネジメントしていけるよう、共通の進捗目標やto doリストなどを作成し、連絡、報告できる体制を整えることが重要だ。また、業務の内容と達成目標を明記したジョブディスクリプションによってパフォーマンスを評価することも有効だ。
・勤務の実態を把握することが難しく、労働時間の管理が難しい。
対策→厚生労働省はガイドラインで、労働時間を記録する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録によることなどを挙げている。やむを得ず自己申告制で労働時間の把握を行う場合でも、このガイドラインを踏まえて措置を講じることで労働時間を管理することができる。
また、これと関連して、勤務実態の把握などのために中間管理層の管理工数が通常より多くなってしまうこともデメリットとしてあげられる。これには進捗管理ツールや勤怠管理ツールなどITの導入で中間管理層の負担を軽減する施策が有効だ。
・長時間労働になりやすい。
対策→他人の目が届かないテレワークでは、つい労働時間が長引いてしまうことが多い。この場合、「時間外勤務や、休日又は深夜の業務といった指示や報告を認めない」という明確なルールの作成と徹底が必要だ。その上で、勤務を認めた時間以外は社内システムにアクセスできないよう設定したり、長時間労働が生じるおそれのある労働者や休日・深夜労働が生じた労働者に対して注意喚起を行うことなどが対策となる。
このように企業として労働時間を管理するだけでなく、長時間労働による従業員の健康障害防止にも気を配ることが重要だ。
なお、こうした施策の実施には、就業規則への記載や、労使協定の締結が必要な場合があるので注意したい。
数字から見えてくるテレワークの実態
では、企業におけるテレワークの運用状況はどのようになっているのだろうか。前項で見たHR総研による「テレワークの実態」調査の結果から、Withコロナ・Afterコロナ時代におけるテレワークの実態を探ってみたい。
まず、「テレワークの実施状況」という設問には、「全社的に実施している」という回答が40%、「一部社員を対象に実施している」が46%となり、合わせて86%の企業がなんらかのかたちで、テレワークを実施していることがわかった。
同じくHR総研が今年2月末に実施した「働き方改革に関するアンケート」の結果によると、47%の企業がテレワークについて「導入予定はない」としていたが、その後3ヶ月間でテレワークを実施する企業が大きく増加していることがわかる。これはもちろん新型コロナウイルス対策としての緊急事態宣言が最大の要因と考えられ、感染拡大対策がテレワークの普及を後押しした形だ。
ただし、企業規模別に見た場合、従業員数1,001名以上の大企業と301~1,000名の中堅企業では9割以上が「全社的に」あるいは「一部社員に実施」としており、「実施予定はない」とする企業の割合はわずか4%となっているのに対して、300名以下の中小企業では、「全社的に」あるいは「一部社員に実施」の合計は75%とやや少なく、「実施予定はない」という回答が16%あり、これまでの状況と比べると高い割合であるものの、大企業や中堅企業と比べると、実施率が依然低い状況にある。
テレワークを実施している企業に「実施の開始時期」を聞いた設問では、「新型コロナの影響により対象者を拡大して実施」の37%が最多で、新たに「新型コロナの影響により導入・実施」が34%となっており、「緊急事態宣言により導入・実施」が18%、「新型コロナとは関係なく、「以前から実施」が11%となっている。
「新型コロナの影響により」と「緊急事態宣言により導入・実施」の合計が52%と過半数を占めているのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、事前準備ができているといないとに関わらず、緊急措置としてテレワークを実施せざるを得なかった企業が多いことを物語っている。このことは中小企業においてより顕著に表れていて、「新型コロナは関係なく」と「対象者を拡大して実施」の合計は28%にとどまり、「新型コロナの影響により」と「緊急事態宣言により」の合計が71%と7割以上を占め、多くの中小企業が新型コロナへの対応として緊急的にテレワーク実施に踏み切ったことがうかがえる。
さらに、「テレワーク実施の目的」という設問では、当然のことながら「新型コロナ対策」が最も多く91%であり、大きく離れて「BCP対策」と「社員の通勤時間の短縮」がともに38%である。企業規模別に見ると、大企業では「新型コロナ対応」が93%、「社員の移動時間の短縮」が50%であり、に次いで、「業務の生産性向上」が46%と半数近くになっている。また、「社員満足度の向上」や「エンゲージメントの向上」、「優秀な人材の確保」もテレワークを実施する目的として、中堅や中小企業よりもポイントが高くなっており、社員の安全確保だけでなく、生産性向上の手段や人事施策の一部として積極的に活用することで、企業の業績拡大を図ろうとしていることがわかる。
テレワークを効果的に活用するには
これまで見てきたように、新型コロナウイルス感染拡大への対応としてテレワークを実施している企業が大半の中、その運用状況はどのようになっているのだろうか。また、テレワークをどのように活用すれば効果的なのだろう。
HR総研による「テレワークの実態」調査の設問「テレワークの運用状況」に対する回答をみてみると、「まあまあ上手く運用できている」が58%で最も多く、次いで「どちらとも言えない」が25%、「あまり上手く運用されていない」が10%などとなっており、「非常に上手く運用できている」はわずか5%にとどまる。
(HR総研:テレワークの実態に関するアンケート 結果報告(1))
では、うまく運用するためのポイントとはなんだろう。一般社団法人日本テレワーク協会が発表している「テレワーク導入のポイント」によると、まず、以下の3つの方向から必要事項を検討することが大切だとしている。
1.労務管理方法の検討
・時間管理の方法
時間管理の方法としては通常の労働時間制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制のいずれも利用可能なので自社の実態に即して検討すれば良い。
・労働災害
万一傷病が発生したときに労災保険給付対象となるかどうかは、業務起因性、業務遂行性の要件によって決まるため、私的行為と業務の範囲をあらかじめしっかり定義しておきたい。
・評価制度
週に1、2日程度のテレワークならば、評価制度を変えずに運用することも可能だが、フルでテレワークを実施する場合は公正でわかりやすい評価制度を検討することが必要だ。
2.情報通信システム・機器の検討
・通信インフラ
在宅勤務では、すでに個人で契約している通信インフラを活用する場合が多いため、企業側には追加で費用が発生しないことが多い。通勤費用に代えて通信費を支給する企業もある。
・情報通信機器
テレワークを実施するために必要となる情報通信環境にはいくつかのパターンがあり、セキュリティーポリシーも勘案して検討することになる。
(1)通常のPCとVPN(Virtual Private Network)システムを利用する。
(2)シンクライアントPC(記憶装置がないため、データが残らない)とシンクライアントサーバを利用する。
(3)通常のPCに認証用USBキーを組み合わせて、仮想シンクライアント環境を構築する。
などがある。
・電話
会社支給の携帯電話を利用する場合。個人の携帯電話を利用し、その請求先を会社と個人に分ける場合。ソフトフォンなどインターネット電話を使う場合。などがある。 また、運用方法によっては会社の内線にかかってきた電話を携帯やPCのインターネット電話で受信することも可能だ。
・遠隔会議システム
上司や同僚とのコミュニケーションについては遠隔会議システムの利用が必要だが、テレビ会議システム、Web会議システム、電話会議システムなどがある。これもセキュリティーポリシーや自社の業務内容と合わせて検討したい。
3.テレワーカーの働く環境の検討
・作業環境の管理
自宅で在宅勤務をする場合、プライバシーに配慮したルールづくりが重要となる。 作業環境としては、机・椅子、照明設備、空調などが考えられ、場合によっては会社が支給することもある。 会社から机・椅子を支給する場合もある
・作業管理
テレワーク時は、どうしてもPCのディスプレイを長時間見て作業することになるので、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(厚生労働省)に準拠するなど、作業者の心身の健康に配慮する必要がある
まとめ
・テレワークには新型コロナへの感染拡大対策という側面以外にもメリットが多く、そのメリットを感じた企業が導入し、テレワークを継続している。
・テレワークの実施は企業、従業員、社会のそれぞれにメリットをもたらすが、デメリットや課題もあるため、対応策を押さえておくことが重要だ。
・テレワークの実施状況は、「全社的に実施している」と「一部社員を対象に実施している」の合計が86%であり、約9割の企業がなんらかのかたちで、テレワークを実施している。
・大企業では、「社員満足度の向上」や「エンゲージメントの向上」、「優秀な人材の確保」などもテレワークを実施する目的として、中堅や中小企業よりもポイントが高い。
・HR総研の調査によると「テレワークの運用状況」は、「まあまあ上手く運用できている」が58%、「どちらとも言えない」が25%、「あまり上手く運用されていない」が10%、「非常に上手く運用できている」はわずか5%にとどまった。
・日本テレワーク協会が発表している「テレワーク導入のポイント」は、1.労務管理方法の検討、2.情報通信システム・機器の検討、3.テレワーカーの働く環境の検討、である。