・「人手不足倒産」が過去最高を記録するほど日本の人手不足は深刻化している。
・新卒採用も中途採用も人材獲得競争は激化している。
・「自社そのもの」の価値を高める採用ブランディング。
・採用ブランディングで、いまよりも優秀な人材を採用する。
・採用活動のさまざまな課題を解決する採用ブランディング。
・採用ブランディングのポイントとは?
採用ブランディングが注目される背景
急速に少子高齢化が進む日本では、黒字であるにも関わらず従業員を確保できないことによる「人手不足倒産」が2019年過去最高を記録(帝国データバンクの調査による)するなど、企業の人手不足は深刻化している。
これは、海外や異業種からの競合の参入や通年採用など採用環境の変化に伴い、新卒採用の競争が厳しくなったことで、新卒採用で新人を育てるだけでなく、即戦力である中途採用に注力する動きまでが活発化したため、新卒採用も中途採用も、ともに優秀な人材の確保が困難となり、人材の獲得競争が激化したためと考えられる。
このように激しい人材獲得競争の中では、今までは一般的であった就職ナビからの情報発信や人材紹介会社を利用した母集団形成に頼る方法だけでは、目標とする人材や人数を確保できなくなってきている。
こうしたことを背景に、継続的に人材を確保するための方法として、自社の持つ魅力を徹底的に洗い出し、それを効果的に発信し「採用力そのもの」を高める戦略である採用ブランディングが注目されている。
マーケティングでいうブランディングとは、あるブランドに対する共感や信頼などといった顧客にとっての価値を高めていくために企業や組織が行うマーケティング戦略の1つで、その企業や組織が意図した通りのブランド・イメージを消費者・顧客が抱くように、さまざまな角度から戦略的にアプローチしていくことである。
既にあるブランドをさらに高めることも、まだブランドになっていない企業や製品をブランドに育て上げていくこともブランディングと呼ばれる。
採用マーケティングにおいては、「顧客」を「求める人材」に置き換えたものが採用ブランディングである。
そして、マーケティングにおいてブランディングで高める対象は製品やサービスなどであるのに対して、採用ブランディングではその対象は「自社そのもの」となる。
採用ブランディングで解決できること
採用ブランディングの目的は、「自社が求める人材を獲得すること」にある。
それには採用したい人材のスペック(優秀さ、魅力)に対して、自社のスペック(見えている魅力)が認知不足である場合に、自社のポテンシャル(まだ求める人材に伝わってはいない魅了)を認知させて、その認知不足の部分を埋めて「自社そのもの」のイメージを高めることで採用活動を成功に導くことが戦略の基本となる。
採用ブランディングに取り組むことで自社の魅力を引き出し、選考歩留まりの向上や入社後のミスマッチ改善などが期待できる。
さらには「いまよりも優秀な人材を採用したい」という課題の解決にもつながるが、企業の魅力は千差万別であり、求める人材像も様々なため、採用ブランディングにはその企業に最適化したオリジナルの戦略、施策が必要となる。
ブランディングによって解決できる課題を以下にあげてみよう。
・求職者とのミスマッチ解消
採用ブランディングによって、求める人物像を理解した上で求職者が応募してくる状態を作れるため、マッチ度が高くなり、離職率を下げることもできる。
・採用コストの削減
オウンドメディアなどによる採用ブランディングが機能すれば既存の採用媒体に頼ることなく求める人材を採用できるため、コスト削減を実現できる。
・応募者数の増加
採用ブランディングに取り組むことで企業の認知度が向上し、ブランドイメージや発信内容に魅力を感じるファンも増えるため、応募者数の増加が見込める。
・社員のエンゲージメントとモチベーションアップ
採用ブランディングによって「魅力的な企業」と認識されることは、自社の社員のエンゲージメントを高め、「帰属意識が芽生える」「モチベーションが上がる」などのメリットにつながる。
採用ブランディングのポイント
採用ブランディングはすべての企業のなかでナンバーワンになるための手段ではない。
求職者が比較検討する企業の中で独自の魅力を発信し、人材獲得において競合に競り勝つための施策である。
そのためにもっとも重要なのは自社の強みがどこにあるかを徹底的に分析し明確にすることである。
「自社の魅力を発信するとは言っても、どこに魅力があるのかわからない」という場合、それは大手企業や人気企業と自社を比べているときに陥りやすい迷路だ。
求職者の価値観が多様化している現在、求職者にも様々なタイプがあり、重視している要素も異なる。
その求職者がもっとも重視する点に訴えかけられればある一定の効果は期待できるのだ。以下に強みを洗い出すためのポイントをいくつか紹介する。
・採用範囲を定め、そのなかで独自のポジションを築く。
何か強みがあったときに、それが必ずしも日本一や世界一である必要はなく、求職者が検討している範囲の中で独自のポジションにあればそれが魅力となる。
・自社と競合を徹底的に比較して、その差を洗い出す。
競合と競争しているのは採用の場だけではない。例えば営業の現場でコンペとなったとき、営業担当はどうやって自社の優位性を訴えて契約を獲得しているのか。大手企業もライバルとなる環境の中で生き残ってきた事実から、自社ならではの強みが見えてくることもある。
そして強みの明確化とともに、どのような人材を求めるのかを明確にすることも重要だ。どのような人材をターゲットにしているのかが曖昧なままだと、応募者も「なんとなく」集まってしまい、採用ブランディングの効果は薄まってしまう。
求める人材像を決定する際の評価基準は、「学歴」「求めるスキル」「社風にマッチするかどうか」など様々な要素が考えられるが、採用ブランディング策定の際は、この基準を大胆に見直し、「妥協できない要素」と「捨ててもいい要素」を決めると人材要件が明確になる。
例えば大手企業ではすべての採用基準を満たすことが求められるが、他の能力が高くてもある特定の基準だけ満たしていないために大手に採用されない人材は多い。そのある特定の基準が自社にとってあまり必要でなければ、「捨ててもいい要素」であり、その人材は自社にとって必要な人材であるということになる。
しかし、「我が社ではこうした人材を求めています(他の要素は重視していません)」、というメッセージを明確に発信していなければ、その人材は応募すらしてこないだろう。これが採用ブランディングの効果であり、重要視されている理由である。
まとめ
◆激しい人材獲得競争の中では、今までは就職ナビからの情報発信や人材紹介会社を利用した母集団形成に頼る方法だけでは、目標とする人材や人数を確保できなくなっている。
◆自社の持つ魅力を徹底的に洗い出し、それを効果的に発信し「採用力そのもの」を高める戦略が採用ブランディングである。
◆マーケティングにおいてブランディングで高める対象は製品やサービスなどであるのに対して、採用ブランディングではその対象は「自社そのもの」。
◆人材のスペックに対して、自社のスペックが認知不足である場合に、自社のポテンシャルを認知させて、その認知不足の部分を埋めて「自社そのもの」のイメージを高めること採用ブランディング戦略の基本。
◆企業の魅力は千差万別であり、求める人材像も様々なため、採用ブランディングにおいてはその企業に最適化したオリジナルの戦略、施策が必要となる。
◆採用ブランディングで重要なのは、自社の強みがどこにあるかを徹底的に分析し明確にすることと、どのような人材を求めるのかを明確にすること。