新卒採用に採用マーケティングを導入する企業が増えている。労働人口の減少や、転職者の増加がその理由だ。採用マーケティングにはさまざま手法が存在するが、導入したからといって必ずしも優秀な人材を確保できるわけではない。
正しいステップを踏んだうえで、採用マーケティングを導入しなければならない。ただし、最適な採用マーケティングの手法は、企業によって異なる。優秀な人材を確保するためには、自社に適した手法を検討しなければならないのだ。
この記事では、新卒採用における採用マーケティングが注目される背景や手法、導入ステップ、活用事例について解説する。
関連事例インタビュー
・競争が激化するエンジニア採用~自社の採用力や求職者の訴求力強化のために取り組んだオウンドメディアでアクセス数7倍&有効応募の増加を実現!(SBテクノロジー株式会社様のHR SEOオウンド導入事例)
目次
新卒採用で採用マーケティングが注目される背景とは?
新卒の採用活動にマーケティング手法を取り入れる企業が増えてきた。ここでは、新卒採用で採用マーケティングが注目される背景について以下の2点を取り上げて解説する。
労働人口の減少
新卒採用で採用マーケティングが注目される背景として、労働人口の減少が挙げられる。日本では、少子高齢化による労働人口の減少が顕著となり、新卒採用では売り手市場の傾向が強まる結果となった。
パーソル総合研究所の調査によると、2030年には人材が644万人不足すると推計されている。リクルートワークス研究所の調査では、2022年度の民間企業求人67.6万人に対し、学生の民間企業就職希望者は45.0万人であり、この結果からも売り手市場の状況であることがわかる。
また、新卒者の就活ルールが見直されたことによって就職活動期間の長期化が見込まれ、2〜3年かけて学生に接触することが想定される。このような採用環境の変化により、自社の魅力を伝えるための活動が求められている。
優秀な人材を確保するためにも、マーケティングの考え方を採用活動に取り入れる流れが出てきた。
転職者が増加
転職者の増加も、採用マーケティングが注目される理由だ。これまでは、新卒で入社した人材が定年まで会社に残り続ける終身雇用が一般的だった。しかし、近年では価値観の多様化によって転職が当たり前になっている。
2015年の厚生労働省の調査によると「一般労働者がいる事業所」のうち、「転職者がいる事業所」の割合は35.7%となった。その割合は、今後も増加が見込まれている。この結果からも、雇用の流動化が進んでいることがわかる。
採用した学生に自社で活躍し続けてもらうためには、自社の経営理念やビジョン、制度といった自社の魅力に共感してもらう必要があるのだ。その手段として、マーケティング手法の導入が注目されている。
関連記事:「人的資本経営」時代に企業が取り組むべき人材採用・育成とは?最新調査結果から探る
参考:厚生労働省「雇用の構造に関する実態調査(転職者実態調査)転職者の状況」
新卒採用における採用マーケティングの手法とは?
新卒採用における採用マーケティングには、以下の手法が存在する。
● ダイレクトリクルーティング
● リファラル採用
● ソーシャルリクルーティング(SNS)
● オウンドメディアリクルーティング
優秀な人材とめぐり合うためにも、自社に適した手法を選択することが大切だ。ここでは、代表的な採用マーケティングの手法について解説する。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングは、企業から学生に直接アプローチする手法だ。メールやSNSのDMを使用し、ターゲットの学生をスカウトする。自社が目を付けた学生のみにアプローチするため、良質な母集団を形成できる点がメリットだ。求人媒体を利用するよりもコストを抑えられる。
ただし、質の高い学生をピックアップし、一人ひとりに連絡するための工数が必要だ。良質な母集団を形成したい企業や、求人媒体からの応募率が低い企業におすすめの手法といえる。
メリット | ● 良質な母集団を形成できる ● 求人媒体を利用するよりもコストを抑えられる |
デメリット | ● 人材を選び、一人ひとりに連絡する工数が必要 |
リファラル採用
リファラル採用は、自社の従業員から知人や友人を紹介してもらう手法だ。従業員が直接自社の理念や企業風土、就労条件を説明するため、自社の理解を深めてもらいやすい点や採用コストを抑えられる点がメリットである。
企業によっては、紹介した従業員に対して紹介料を支払うケースや、紹介時に使用した費用を経費として認めるケースが存在する。ただし特定の部署だけではなく、自社全員で活動しなければ効果は薄い。できるだけ多くの従業員が協力できるような文化を浸透させていく必要がある。
時期を指定せずに通年で優秀な人材を探している企業におすすめの手法だ。
メリット | ● 候補者に自社の理解を深めてもらいやすい ● コストを抑えてターゲットに接触できる |
デメリット | ● 不採用時に、紹介した従業員と候補者双方への配慮が必要 ● 部署を問わず、企業全体で取り組む必要がある |
ソーシャルリクルーティング(SNS)
ソーシャルリクルーティングは、SNSを利用して求職者へアプローチする手法だ。TwitterやInstagram、LINEなどのSNSを利用し、自社をブランディングする。現代の学生はSNSネイティブ世代であり、就職活動にSNSを利用するケースは珍しくない。
求人情報だけではなく、自社の魅力や従業員の様子を伝えることにより、自社をブランディングできる。ブランディングによって学生からのフォローを集められれば、多様な学生とつながることができる。
ただし、SNS自体は就職活動を目的としたサービスではないため、短期間で効果を得るのは難しいだろう。自社のブランディングや知名度向上を狙いたい企業におすすめの手法だ。
メリット | ● 多くの学生が利用しているため、目に留まりやすい ● アカウントを育てれば自社のファンを獲得できる |
デメリット | ● 投稿内容によっては炎上リスクがある ● アカウントを育てるには時間がかかる |
オウンドメディアリクルーティング
オウンドメディアリクルーティングは、ブログや採用ページといった自社メディアを立ち上げて採用活動する手法だ。採用情報だけではなく、自社オフィスの紹介や従業員のインタビュー、イベントレポートを記事として発信する。
自社の好みに合わせたデザインにしたり、動画を使用できるため、自社の特徴を伝えやすいことがメリットだ。戦略的に自社の魅力を伝えることにより、自社のファン増加にもつながる。
ただし、メディアの立ち上げや運用にはコストと労力がかかるうえ、短期的な効果を見込める手法ではないことはデメリットだ。運用継続も簡単ではないため、運用体制を明確に定めたうえで着手する必要がある。
自社のブランディングや知名度向上を狙いたい企業、コンテンツを作り込める予算がある企業におすすめの手法だ。
メリット | ● 個性的なデザインで自社の色をだせる ● 自社のファンを獲得できる |
デメリット | ● メディアの立ち上げや運用にはコストと労力がかかる ● アカウントを育てるには時間がかかる |
関連記事:新卒の通年採用を解説!メリット・デメリットや導入までの流れを紹介
採用マーケティングを導入するためのステップとは?
採用マーケティングを導入するには、以下のステップを踏む必要がある。
1. 自社の分析
2. ターゲットのペルソナ設定
3. 最適なコンテンツの検討
ここでは、それぞれのステップについて解説する。
自社の分析
まずは自社の分析が必要だ。経営理念やビジョン、成果を見直し、自社の強みと弱みを分析する。「技術的に優れているもの」「風通しのいい職場環境」「独自の福利厚生」は強みとなる要素だ。
一方「年齢層の偏り」や「認知度の低さ」は弱みとなる。強みと弱みを認識したうえで、どのような層にアピールするのかを検討していく。
ターゲットのペルソナ設定
自社の分析後は、ターゲットのペルソナ設定が必要だ。ペルソナとは人物像を意味し、行動特性や価値観、考え方、能力といった項目を設定する。自社に必要な人物像を明確にし、ターゲット層を絞り込む。人物像を決める際は「コミュニケーション能力がある」「リーダーシップがある」といった曖昧なものではなく、具体的に定義する必要がある。
生活習慣や夢、夢に向かってどのような活動をしているのかを設定することで、具体的なペルソナ設定となる。ペルソナはひとつだけではなく、複数のパターンを設定しても良い。複数のペルソナを設定することにより、部署や職種に合わせたアプローチができる。
注意点として、あまりにもレベルが高いペルソナ設定は避けなければならない。「英語が堪能」「休日は勉強や研修参加に費やしている」といった条件にした場合、該当する人材を見つけるのは簡単ではない。
条件に優先順位をつけることにより、ペルソナに該当する人材を見つけやすくなるだろう。
最適なコンテンツの検討
ターゲットのペルソナを設定したならば、最適なコンテンツの検討に進む。まずは、ターゲットが求めている職場環境や条件を、SNSによるアンケート調査や採用活動で蓄積した情報から調査する。求人広告代理店では、このようなニーズを調査していることがあるため、問い合わせると良い。
ニーズがわかれば、ターゲットに最適なアプローチ方法を検討する。すでにターゲットの連絡先がわかるのであれば、ダイレクトリクルーティングが適しているだろう。
自社の認知からスタートするのであれば、SNSや自社メディアで自社の魅力を伝える必要がある。コンテンツの作成には工数がかかるため、社内にスキルを持った人材がいないのであれば、外注することも選択肢のひとつだ。
関連記事:内々定とは?その後の流れ、内定との違い、なんのためにあるのかを23卒採用調査とともに解説
実際の活用事例を紹介
採用マーケティングの手法は、企業によって異なる。複数の手法を組み合わせることで、効果を挙げている企業も存在する。オウンドメディアをつくるだけではなく、その利用方法を工夫することにより、人材確保につながるのだ。
ここでは、採用マーケティングの活用事例について解説する。
LINE株式会社
LINEは、オウンドメディアリクルーティングとリファラル採用を導入している会社だ。「全員が主役の採用」のコンセプトのもと、コンテンツ製作ができるメンバーを加えた「採用コミュニケーションTF(タスクフォース)」をつくり、全社的に採用活動を行っている。
LINEでは、人事領域に特化したオウンドメディア「OnLINE」を運営している。このOnLINEでは、社員インタビューを通じてイベントやキャンペーンの裏側がわかるため、働くイメージをつかみやすいことが特徴だ。
従来の新卒採用からリファラル採用に切り替えたことにより、企業カラーに適した人材や、スキルの高い人材の獲得に成功している。人材紹介会社を介した求職者と比べ、10倍の人材を確保する結果を出した。
それだけではなく、協力者には手当を支給するといった制度の導入により、従業員が自ら採用活動に協力する風土づくりにも成功した。社内外の仕組み化によって採用活動に成功した事例だ。
株式会社プルークス
プルークスは、オウンドメディアリクルーティングを導入している会社だ。オウンドメディア「プルチャン」では、社員インタビューや会社の日常を発信しており、ターゲット層を意識することによって独自性を出している。
新入社員や転職間もないZ世代の社員インタビューを充実させ、ターゲットとなる新卒採用者に向けたコンテンツとなっているのだ。面接対策や職場の雰囲気をターゲットに近い年齢層から発信することによって共感度が上がり、母集団形成に役立っている。
こちらはターゲットを意識したアプローチで採用活動に成功した事例だ。
株式会社伊勢半
伊勢半は、ソーシャルリクルーティングとオウンドメディアリクルーティングを導入している会社だ。コーポレートブランド「KISS ME」は、採用方法に「顔採用」を導入してSNSで話題となった。
これは顔の美醜で採用を決めるのではなく、面接時の服装やメイクを自由にすることにより「自分らしい見せ方を通して、自分を語ってもらいたい」という思いが込められている。
コンセプトや目的を自社メディアで説明し、SNSでの炎上リスクを抑制するとともに、SNS経由のエントリーを導入することにより、応募者数は前年比で倍増する結果となった。
独自の採用方法と丁寧な伝え方により、採用活動に成功した事例だ。
株式会社村田製作所
村田製作所は、ソーシャルリクルーティングとオウンドメディアリクルーティングを導入している会社だ。エントリー数の増加とエントリーシート未提出による候補者の離脱を課題としていた同社は、デジタルマーケティングの考え方を採用活動に応用した。
動画やSNSから候補者情報を取得し、Marketo Engageの活用によって候補者向けメッセージを作成したのだ。エントリーシート未提出の候補者にリマインドメールを送るといった、候補者の状況に応じたメッセージを作成する仕組みを構築した結果、エントリー数が10%向上し、エントリーシート提出数は60%も向上した。
これは興味を示した候補者へのアプローチを工夫したことにより、採用活動に成功した事例だ。
株式会社メルカリ
メルカリは、リファラル採用とオウンドメディアリクルーティングを導入している会社だ。メルカリでは組織の急拡大に対し、情報共有の仕組みが追いついておらず、部門間での情報共有が困難な状況になっていた。
その状況を変えるため、採用オウンドメディア「メルカン」の運営を開始した。社員情報や社内の雰囲気を発信することにより、社外への情報発信だけではなく、社内情報の共有にも役立っている。
また、メルカンは「従業員が知り合いを候補者として紹介する」といったリファラル採用のツールとしても利用されている。従業員が自社の採用や情報を理解する機会にもなっており、採用全体の半分以上がリファラル採用という結果となった。
オウンドメディアの利用方法を工夫することにより、採用活動に成功した事例だ。
関連記事:なぜ中途採用は難しい?その理由、成果に向けて見直すべきことを解説
まとめ
労働人口の減少や転職者の増加により、新卒の採用活動にマーケティング手法を取り入れる企業が増えている。採用マーケティングには、直接アプローチする手法だけではなく、SNSや自社メディアで自社のファンを増やすといった手法が存在する。
ただし、採用マーケティングを導入したからといって必ず人材を確保できるわけではない。自社分析やターゲットのペルソナ設定をおこなったうえで、適切なコンテンツを選ぶ必要があるのだ。
適切なコンテンツは、企業によって異なる。ひとつの手法だけではなく、複数の手法を組み合わせたり、利用方法を工夫することによって優秀な人材にめぐり合える。優秀な人材を確保するためにも、自社に適した手法を検討しよう。