2020.10.21

インナーブランディングとは?採用マーケティングにおける重要性と進め方

読了まで約 6

・ブランディングにはアウターブランディングとインナーブランディングがある。

・インナーブランディングとアウターブランディングの違いとは?

・インナーブランディングを実践するメリットとは?

・インナーブランディングにはデメリットもあるので注意が必要。

・ポイントを押さえてから実施したいインナーブランディング。

・インナーブランディングの具体的な施策とは?

インナーブランディングとはなにか

ここ数年の採用市場の大きな変化によって、採用ブランディングが企業の採用戦略に欠かせない要素であることは認知されはじめてきた。しかし最近では、一般的に採用ブランディングと呼ばれているものは「アウターブランディング」が主体であり、「インナーブランディング」は軽視されがちである点に注目が集まり、インナーブランドに力を入れる企業が増加している。

そもそもインナーブランディングとアウターブランディングとは、企業マーケティングにおいて、ブランディングへの取り組みが浸透し、ブランドイメージを向上させたり維持したりするための施策が整理されていく中で生まれてきた概念であり、この2つの違いを理解し、それぞれの特徴を生かしたブランディングを行うことで、さらに効果的にブランドイメージの向上につながるということから注目が集まっているのである。

ではインナーブランディングとアウターブランディングの違いとはなんだろう。

まず、わかりやすいアウターブランディングから説明すると、これはその名称の通り「社外」に向けたブランディングである。対象として、PR(Public Relations:パブリックリレーションズ)という側面からは消費者や顧客・取引先であり、IR(Investor Relations:インベスター・リレーションズ)の面では株主や投資家などが想定される。

商品やサービスなどの自社が持っている価値に対して特定のイメージを抱かせることで、購入や利用を後押しし、収益に結びつけることができる。

アウターブランディングの具体的な施策としては「コーポレートカラーやデザインの考案」「企業広告や意見広告」「キャッチコピー」「社名(製品名)の浸透」などが挙げられ、今まではブランディングといえばこれらの施策を指すことが多かった。実際、社名だけでどのような商品・サービスなのかがわかる大手企業、有名企業の中には、「社名(製品名)を前面に押し出したブランディング」を行っているケースが多い。

一方、インナーブランディングとは、企業が自社の従業員に向けて行うブランディングのことである。その企業のブランド価値や企業理念などを従業員やその家族に正しく「認知」「共感」「浸透」させていくことを目的として行われる。これは言い換えれば、企業の「WHY(存在意義)」と「WHO(何者なのか)」を従業員が正しく理解することでもある。

インナーブランディングを行い、従業員自身が所属する企業のブランドやサービスの存在意義についてしっかりと理解することで得られるメリットは多いのだが、目に見えて収益に直結することがわかるアウターブランディングと比べ、身内相手のブランディングであるためこれまで軽視されがちだった。

しかし、近年はアウターブランディングを成功させるためにも、従業員のエンゲージメントを高めて全社一丸となって前に進むことができ、サービス品質や採用力を向上させるインナーブランディングが有効であることが多くの企業で認知されはじめ、実施するケースが増えている。

そして、これを採用マーケティングに置き換えて、自社の社員やその家族はもちろん、学生や採用候補者、転職潜在層などを対象としてインナーブランディングを実施する企業が増加しているのだ。

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インナーブランディングのもたらすメリットとデメリット

採用マーケティングでインナーブランディングを実践すると、どのようなメリットがあるのだろうか、代表的なものをピックアップしてみよう。

1.企業理念・経営方針と社員の行動指針に一貫性が出る
企業理念や経営方針と、社員の日々の仕事への向き合い方の一貫性が保たれるという点が、インナーブランディングの大きなメリットのひとつだ。これにより、社員が常に企業理念に沿った行動を取るため、理念が社員にまで浸透している会社と認知され、結果として企業のブランド価値向上にもつながり、ファン層の獲得によって採用活動に好影響を及ぼす。

2.自社やブランドへの愛着や誇りが生まれる
自社やブランドへの愛着や誇りを持つ、エンゲージメントの高い従業員が増加することもインナーブランディングの効果のひとつだ。こうした従業員は、積極的に自社のイメージをSNSなどで積極的に発信してくれるため、潜在的な求職者へも自然な形で良い企業イメージを拡散することができる。従業員自身によるブランド維持・向上への貢献という側面は採用マーケティングにおいても大きなメリットとなる。

3.従業員満足度・モチベーションの向上
上記のようにエンゲージメントが高まることで、従業員満足度の向上や、仕事に対するモチベーションアップにもつながる。また、企業理念の実現に貢献しているという実感を得ることより、企業のビジョンを実現するためにより自発的な行動をとる社員が増えることも期待できる。さらにミッションやビジョンを共有することにより組織に一体感が生まれ、心理的に安定して仕事が遂行できるため、個々のパフォーマンスも向上する。

4.リファラル採用に結びつく
インナーブランディングによって会社に対するロイヤルティが高い社員が増えることで、「うちの会社はいい会社だよ」という情報が発信されたり、ストレートに知人に勧めたりするようになると、「自分も受けてみたいから紹介してほしい」という要望が発生することになる。ここからリファラル採用に結びつくことも大きなメリットだ。信頼できる第三者による「クチコミ」は、信頼性の高いエビデンスとなり、リファラル採用を後押しする。

5.社員の定着率が向上し採用活動が容易に
従業員が自社やそのブランドに愛着を持つことで、自社で働くことに意義を見出すようになれば、結果として離職率の軽減につながる。離職率が低い企業には人材も集まりやすいため、採用に強い会社となり、安定した人材確保が可能となる。

6.業務が効率化し改善が促進される
インナーブランディングが成功すれば、従業員の意識も高まる。業務に対してより真剣に、自発的に向き合い、積極的な改善や提案を行うようになる。その結果、業務の効率化や生産性の向上も期待できるのだ。

このようにメリットが多いインナーブランディングだが、いくつかのデメリットもあるので、以下に注意点とあわせてピックアップしておこう。

1.コストがかかる
社内の従業員向けとはいいながら、全員へ情報を発信し、それが共有されるまでを無料で行うことは難しい。例えば後述するポスターの作成ひとつとってもコストは発生するし、意識共有のための社員研修やインナー向けのサイトの作成などもそれなりの費用がかかる。こうした活動にはどれくらいのコストがかかるのかを事前に把握しておき、しっかりと費用を見積もった上で実施する必要がある。

2.効果が見えにくく、実感できるまでに時間がかかる
元来ブランディングとは即効性のあるものではなく、時間をかけて浸透させていくものだが、収益や株価など数値化された効果が測定しやすいアウターブランディングに比べ、インナーブランディングの効果は数値化しにくく、結果が出るまでにさらに時間がかかる。 このため、実施前にインナーブランディングの目的と内容をしっかりと検討したうえで活動の計画を策定することや、発信した内容がどのくらい従業員に浸透しているのかを定期的にサーベイ調査などを行って測定していくことが重要となる。インナーブランディングは測定した結果に基づいて修正と実行を繰り返すことではじめて効果が高まっていくものなので、根気強く施策を行っていくことが大切だ。

3.目標が不明瞭であれば逆効果になる
目標や方針が定まらないままとりあえずインナーブランディングをはじめてしまい、共有する内容が現実と程遠く、実現性に乏しい場合は従業員からの共感を得ることができず、なかなか効果を上げることはできない。ひどい場合には目標を達成できないまま終了してしまう可能性すらあるので、情報を発信する前の共有内容や活動計画については、現実に立脚した綿密なプランを練ることが非常に重要となる。

インナーブランディング実施のポイントと具体的な施策

以上のメリット、デメリットとその注意点を考慮に入れて、インナーブランディングを実施する際のポイントとしては、以下のものがある。

1.正確な現状把握
インナーブランディングを行う際、まずは自社の現状について調査・分析・把握することが重要となる。経営理念や自社ブランド、ビジョンについて従業員がどのように捉えているか、理解しているかを調査するためアンケートなどを実施するとよい。

現時点におけるブランドの浸透度を分析、評価したうえでインナーブランディングに向けた施策を決めていくことなるので、基礎固めとして非常に重要なポイントだ。

2.企業理念やビジョン・ミッションの見直し・策定
現状把握の次は、企業理念やビジョン・ミッションの見直し・策定を行う。インナーブランディングを実施するうえで、浸透させるべき理念やビジョンが曖昧では効果も望めない。インナーブランディングを行う前に、理念やビジョンを見直し、必要があれば改定することも視野に入れておきたい。

3.明確な指標の設定と測定
浸透させたい理念・ビジョンが固まれば、次は実際にインナーブランディングを行ううえでの指標を定める。指標については、定量的に数値化できるものを設定し、例えばエンゲージメントサーベイなどを駆使して定期的に測定することなどが考えられる。

以上のポイントを踏まえた上で、インナーブランディングの実施にはどのような施策が考えられるだろう。以下に代表的なものを紹介する。

・ポスターの掲示
自社のオリジナルポスターを作り、社内に掲示することはインナーブランディングに有効な方法の一つ。コストもそれほどかからずに取りかかることができるので手軽に始めることができる。人気のキャラクターや漫画の主人公などを載せて、従業員の関心を高めている企業も多いが、社内でテーマを決めてポスターコンクールなどを行うことも一体感の醸成に役立つ。

・社内報の発行
社内報はポスターと並んで導入しやすい施策のひとつだ。社内報を定期的に発行することで、企業の理念やビジョンを共有することができ、モチベーションの向上にもつなげることができる。例えば、顧客からの声を社内報で紹介し、外から見た自社のイメージや評価の共有や、経営層や従業員へのインタビューなどを実施して経営層の思いや他部署で働く社員の仕事への取り組み方などを発信していくこともエンゲージメントを高めるために有効だ。

ポスターは社内の人間しか目にできないが、社内報なら社員が持ち帰って家族が読んだり、少し多めに発行して取引先に差し上げたり、会社説明会でバックナンバーを配布したり、という手法で露出を拡大することもできる。

・従業員向けサイトの設置
従業員向けに企業理念やビジョンなど企業情報を共有する施策だ。理念のほかにも社内でのイベントやお知らせ、従業員に役立つ情報など従業員が関心を持ちやすいテーマや内容を掲載することも飽きさせないための大事なポイントだ。また、社内インタビューなどを行い他部署の従業員の情報などを共有する、リレー形式でコラムを執筆してもらうことなどもインナーブランディングに有効だ。

・採用動画の制作
インナーブランディングのために採用動画を作成している企業も多い。採用動画を制作することで自社のビジョンや価値観などを再確認でき、短い時間の中で全従業員に会社の事を認知させることが可能となる。また、求職者に対しても会社の思いが伝わりやすくなり理念に共感を持ったエンゲージメントの高い人材を確保しやすくなる。

まとめ

・インナーブランディングとアウターブランディングはブランディングへの取り組みが浸透し、施策が整理されていく中で生まれてきた概念であり、それぞれの特徴を生かすことで、さらに効果的にブランドイメージの向上につなげることができることが知られてきた。

・インナーブランディングは企業のブランド価値や企業理念などを従業員やその家族に正しく認知、共感、浸透させていくことを目的として行われる。言い換えれば、企業の存在意義と何者なのかを従業員が正しく理解することでもある。

・インナーブランディングのメリットには、1.企業理念・経営方針と社員の行動指針に一貫性が出る、2.自社やブランドへの愛着や誇りが生まれる、3.従業員満足度・モチベーションの向上、4.リファラル採用に結びつく、5.社員の定着率が向上し採用活動が容易になる、6.業務が効率化し改善が促進される、がある。

・インナーブランディングのデメリットには、1.コストがかかる、2.効果が見えにくく、実感できるまでに時間がかかる、3.目標が不明瞭であれば逆効果になる、の3つがある。

・インナーブランディングを実施する際のポイントには、1. 正確な現状把握、2.企業理念やビジョン・ミッションの見直し・策定、3.明確な指標の設定と測定、の3つがある。

・具体的なインナーブランディングの施策としては、・ポスターの掲示、・社内報の発行、・従業員向けサイトの設置、・採用動画の制作、などがある。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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