・企業側に都合のいい情報を流していればイメージをコントロールできた時代は終焉した。
・社会からの評価を定着させる企業ブランディング。
・自社のファンを増やして採用に結びつける採用ブランディング。
・採用ブランディングの目的とは?
・採用ブランディングのメリットとは?
・採用オウンドメディア運用のポイントとは?
目次
採用のオンライン化で注目される採用ブランディング
新型コロナウイルスの感染対策として、採用のオンライン化が急速に拡がっている。また、SNSの浸透により情報の共有度が高まり、企業と個人の垣根を越えてつながるようになった。
このため、企業側から一方的に都合のいい情報だけを流していれば企業のイメージをコントロールできた時代は終焉を迎え、企業は社会とつながっているすべての接点から情報を見られ、評価される時代となった。オンライン上での母集団形成が激化し、優秀な人材の獲得は日々難しさを増している。
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例えば、求職者は企業のビジョンや理念、業務領域や仕事内容、福利厚生など採用サイトに記載されている情報だけでなく、その企業の製品やサービスの内容や評判の良し悪しまでを、さまざまなサイトやSNSなどからできるだけ多角的、総合的に情報収集しようとする。
このため、採用サイトや就活媒体メディアなどで表層的に自社の魅力を発信していても、インターネット上で入手できるあらゆる情報が、自社の実態が魅力的であることを裏付けていなければ、求職者からは選ばれないし、ひいてはユーザーなど他のステークホルダーも離れることにつながっていく。
企業はまず、「自社らしい」魅力としてミッション・ビジョンや企業価値を徹底的に掘り下げてこれを理解し、どう発信するのが最も効果的なのかを分析・整理しておく必要がある。もちろん「自社らしさ」の中には、どんな仲間がいるのか、どうやって働くのか、社内の雰囲気はどうかなど、求職者が真に知りたい具体的な情報を入れることも重要だ。
そして、この情報発信は事業説明や社風紹介という「作られた」コンテンツに限るわけではない。例えば採用活動の中での面接官をはじめとした自社社員の振る舞いや言動といった、何気ない場面など、あらゆる求職者との接点を通じて「自社らしさ」を伝えることが大切なのだ。
こうして“事実”を積み重ねた「自社らしさ」を丁寧に、時間をかけて確実に発信し続けていくことで、社会からの評価、ひいては求職者からの「共感」「憧れ」「信頼」を定着させることができるのだ。
この、一見地道な社会へのアプローチこそが採用ブランディングであり、いまこそ必要な概念として注目されるようになってきている。
採用と企業ブランドの関係においては、従来、企業発信で提供していた企業情報や製品・サービスに関するプラスイメージの情報は、これが事実と異なっていた時、インターネットで検索すればすぐに正しい情報や評価を入手することができるため、事実と異なる情報を流した企業として、あっという間にマイナスのイメージが定着してしまう。
そして、オンライン採用が浸透し、SNSで情報共有が飛躍的に拡大したウィズコロナ時代において、例えばオンライン選考では対面と違い、選考途中での離脱に対するハードルが下がり、比較的容易とされる。こうしたさまざまな要素の中にひとつでもマイナス要素があると、そこで求職者は選考から離脱してしまうことになる。
つまり採用ブランディングは、企業ブランディングと重ね合わせて一貫した戦略を立てていかないと成功に導くことは困難だということになる。
採用ブランディングとはなにか?その目的とメリット
ここでブランディングについておさらいしておくと、そもそも経済活動におけるブランディングとは、顧客との良好な関係づくりを通してブランドの「共感」「憧れ」「信頼」を高めていくマーケティング戦略である。
採用ブランディングとは、顧客を求職者に置き換え、求職者との良好な関係づくりを通して企業への「共感」「憧れ」「信頼」を高め、採用へとつなげていく活動ということができる。
求職者との良好な関係づくりには、自社のビジョンやフィロソフィー、商品やサービス、社風、社会貢献活動などさまざまな自社の姿を求職者に紹介することが考えられるが、ポジティブなイメージにつなげるのは容易ではない。
オンライン選考の過程を含め、採用活動の個別のやり取りに至るまでがSNSで即時に共有される時代となり、企業からの発信に加えて求職者の判断材料は格段に広がっているからだ。
企業の事業活動やそれを通じた社会貢献、面接官の態度や、日程提示のタイミングなどに至るまで、求職者とのありとあらゆる接点において、中長期的にその企業らしさを等身大で伝え続けることが重要となってくる。これこそが採用ブランディングの役割だ。
では採用ブランディングの目的とはなにか。
一昔前の採用活動では、自社の認知度を上げ、エントリー数を増加させることは採用担当者の至上命題であった。面接に進む段階までに大幅な絞り込みを掛けることで優秀な人材が抽出できる、そのためには選考対象の母数となるエントリー数は多ければ多いほどよいと考える担当者もいたであろう。
そのような認識の下では、採用ブランディングを考える際にも「認知度」と「エントリー数」の優先順位が高くなる。
しかし、選考辞退や採用後短期間での離職、特に若い世代の離脱・離職率が高まるにつれ、従来の目標設定は行き詰まりを見せている。表面的な企業イメージを拡散してエントリー数を増やすだけでは、結局「こんなはずではなかった」という失望を労使が互いに抱いて人材を失うことになるのだ。
そのため、内定者の歩留まりや人材定着に課題を抱え、真剣に向き合うことに迫られた企業ほど、ミスマッチのない採用を目指すようになってきている。
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そこで、エントリーの前にありのままの自社の姿を伝え、求める人材像を正しく理解してもらうことが、「認知度向上」「エントリー数」よりも重要になってくるのだ。入社後の労使双方の満足度が高まることで、定着率も向上する。結果として、効率のよい採用につながるといえよう。
結局、採用ブランディングを取り入れることの本来の目的は、「自社を本当に理解して」「自社のニーズにあった人材」を「効率よく」獲得することである。
そのため採用ブランディングでは、求職者の側が「その会社に入る意義や魅力」や「入社した自分の姿」を具体的に想起できるような「リアル(事実)で、かつ求職者のマインドに響く」情報発信をつづけていくことが非常に重要となる。
次に、採用ブランディングに成功するとどんなメリットがあるだろう。
「認知度」「エントリー数」にこだわった採用ブランディングでは、中小企業の場合、自社を少しでも「大きく」「立派に」見せようという力が働きがちだ。そこで起きるのは、自社製品の導入実績を針小棒大に喧伝したり、利用実態のない福利厚生制度を並べたりして、実態とかけ離れていってしまうことだ。
大企業や知名度のある企業の場合には、エントリー数にこだわって間口を広げるほど、「運だめし」「記念受験」といった志望動機のない空虚なエントリーが増えてしまうことが問題となる。
表面的な情報や実態に合わないイメージではなく、「自社らしさ」を掘り下げ、自社で働く姿がリアルに想像できるような採用メッセージを発信し続けることで、ミッション・ビジョンへの共感や、企業価値を理解した求職者のエントリーが増えていく。言い換えればマッチング度やエンゲージメントが向上するということだ。
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一方で、企業としても学歴や職歴といった、“他と比較する採用基準”ではなく、「価値観の共有」「ビジョンへの理解度」「その事業をやる意欲」といった “自社オリジナルの選考基準”で求職者を選ぶことができる。
つまり、エントリーの数だけではなく(増えることは悪いことではない)、エントリーしてくる人材の質(この場合はマッチング度やエンゲージメントの高さ)が向上することが、採用ブランディングを行う最大のメリットといえる。
また、副次的なメリットとして、採用コストの低減もあげられる。
欲しい人材像を絞り込み、そこに対して考え抜いたメッセージを込めた情報発信をすれば、「とりあえず応募しておこう」という考えのエントリーを事前に減らすことが可能だ。また、自社の現実としてネガティブな情報もすべて明確に発信することで、そのネガティブ要素が受け入れられない求職者はエントリーを断念する。
これで、書類チェックなどの省力化ができ、採用担当の作業効率のアップや、一人の求職者に費やす採用コストも圧縮できるようになる。
ブランディングに成功するためのオウンドメディア運用のポイント
企業が素晴らしいブランドになりうる資産(ミッション・ビジョン・フィロソフィー・商品・サービス・人材・社会貢献活動など)を持っていたとしても、その資産の価値を正しく整理・明文化して、社会に理解できる形で発信することは簡単なことではない。
さまざまな情報に溢れている現代社会では、既存の広告・求人媒体だけに依存していたのでは、“自社らしさ”を正しく発信することは難しい。どうしても「メディアの視点」を介した情報発信にならざるをえないからだ。
情報を受け取る側も情報リテラシーが高まっているため、その情報が正確であるかどうか、有益かどうかを見分ける目も鋭くなっている。
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もはや大きなメディアが情報を一方的に発信するのではなく、企業も個人も、自らの情報の真の価値を理解し、磨き上げ、自身でメディアを立ち上げて、情報を互いに発信しあい、共有し合う時代となっている。
自社の良さに磨きをかけ、社会と直接コミュニケーションが取れる発信力としてのオウンドメディアが必要とされる理由がここにある。
オウンドメディアを持つメリットはいくつかあるが、1つ挙げるならば、既存の広告や求人媒体と異なり、オウンドメディアでは形式や分量に制約がない。自社のビジョンやミッションに新規性があると考える企業は、経営者の思いを動画で伝えきってもよい。技術力が優れている企業は、技術力の高さをわかりやすく示すことに工夫を凝らしてもよい。社員の団結力を示したい企業であれば、社員紹介や社内行事を丁寧に紹介することも可能だ。自由度の高さはオウンドメディアの大きな魅力である。
こうして「自社らしさ」を存分に伝えるオウンドメディアの構築ができれば、これらの情報の一つひとつが直接、採用とはリンクしていなくても、自社を深く理解し共感した「ファン」を増やすことになる。ファンを増やすこと、これが採用においてエンゲージメントの高い人材を惹きつけることになるのだ。
また、SNSやブログ記事を継続的に発信することで、より多くのターゲットに情報が届き、多様な人材を採用ページへ誘導することが可能となる。
最後に、採用オウンドメディア運営のポイントを見ておこう。
オウンドメディアを運用するにはいくつか押さえておかなければならないポイントがあるが主なものは以下の5つといわれている。
1.ペルソナの設定
2.コンテンツの目的の明確化
3.回遊性の高さとゴール誘導
4.多角的な分析
順番に見てみよう。
1.ペルソナの設定
オウンドメディアコンテンツを作成する前に、必ず明確化しておきたいのはペルソナの設定だ。ペルソナとは「人格」であり、ターゲットよりももっと細かく想定した人物像である。自社に必要なあるモデルを想定しておくことでコンテンツの方向性やアプローチする戦術、目指すべきゴールを設定しやすくなる。例えば「成長意欲の高い、第二新卒くらいまでの企画力のある人材」など、ターゲットからもう少し絞った人物像を設定して、ここに生活基盤や家庭状況などの設定を肉付けしていくことで、詳細なペルソナを作りだすことができる。
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2.コンテンツの目的の明確化
それぞれのコンテンツは、ブログであったりメルマガであったりと、メディアミックスで多彩に展開するにしても、コンテンツの目的がはっきりせず、何のメディアか分らないと、ユーザーが定着しない。自社製品の紹介なのか、経営ビジョンの共有なのか、それとも就活に役立つ知識提供なのか。コンテンツの目的がぶれるとせっかく設定したペルソナに刺さるメディアにはならない。ペルソナを明確にした後は、そこに届くようコンテンツの目的がぶれないように注意したい。
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3.回遊性の高さとゴール誘導
オウンドメディアを訪問したユーザーが、サイト内の複数のページを閲覧する、つまり回遊性が高いほど、ユーザーの信頼感が高まるといわれている。そのため、回遊しやすい構造や仕掛けを仕込んでおくとよい。コンテンツの充実、「TOPへ戻る」「次へ」などのナビゲーションの設置、関連記事への内部リンクなどの工夫により、回遊性を高めることができる。
また、ただ単に閲覧者を増やすだけではなく、採用というゴールへ導くためのCTA(Call to Action)が必要だ。「資料請求」「お問い合わせ」「エントリー」「会員登録」などのCTAをページのどの位置に配置するか、リンクボタンやバナーの大きさは適切かなど、各社で工夫が必要なところだ。
4.多角的な分析
オウンドメディアは中長期的な運用が前提となるため、適切なタイミングで多角的に分析することが重要だ。グーグルアナリティクスやグーグルサーチコンソールなどの分析ツールを使えば、どんなキーワードで検索して訪問したか、どのページにどれだけの時間滞在したかなど詳細なデータが得られる。そこから、記事内容やタイトルなどを多角的に分析し、工夫していくことで効果的なオウンドメディアに育てることができる。
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まとめ
・事実を丁寧に、時間をかけて確実に発信し続けていくことで、社会からの評価と信頼につなげ、定着させるという地道な社会へのアプローチが採用ブランディングの役割。
・オンライン採用が浸透し、SNSで情報共有が飛躍的に拡大したウィズコロナ時代における採用ブランディングは、企業ブランディングと重ね合わせて、一貫した戦略を立てる必要がある。
・採用ブランディングとは、企業が自社の商品・サービスやさまざまな取り組み、ビジョンやフィロソフィーを発信することで、求職者から「共感」「憧れ」「信頼」といった前向きなイメージとともに自社を想起してもらい、ファン化させるための活動。
・採用ブランディングを取り入れることの本来の目的は、「認知度」「エントリー数」の向上ではなく、「自社を本当に理解して」「自社のニーズにあった人材」を「効率よく」獲得すること。
・採用ブランディングのメリットは、マッチング度やエンゲージメントの高い人材のエントリーにつながること。
・採用オウンドメディア運用のポイントは、1.ペルソナの設定、2.コンテンツの目的の明確化、3.回遊性の高さとゴール誘導、4.多角的な分析の4つ。