・企業の好感度をSNSの注目度で測る「エンゲージメント量」とは?
・エンゲージメント量の面からもオウンドメディアの成功例と言えるメルカリ。
・オウンドメディアに必要な採用コンテンツマーケティングの考え方とは。
・オウンドメディアにおけるコンテンツの配信に関する工夫とは?
・採用オウンドメディアでブランディングを成功させるポイントとは?
・オウンドメディアにおける採用ブランディングを成功へと導くサイクルとは?
数字から見るオウンドメディアの成功例
オウンドメディアで成功した企業は株式会社スパイスボックスが2019年に行ったSNSやソーシャルメディアを通じたエンゲージメントを、学生の注目度として集計した調査結果『学生の注目企業2019』で見えてくる。
この調査は、採用市場において、就活生が主に活用するメディアを集計し、アクセス上位の9つのメディアを特定し、その9つのメディア上で企業が発信した情報やコンテンツがどれだけSNSで注目、話題化されているのかを定量的な「エンゲージメント量」として算出したもの。
SNSのデータから、就活生が日頃どのような情報に興味、関心を抱いているのかを可視化したもので、上位20社は学生に注目されるためのメディア戦略に成功した企業といえる。
エンゲージメント量はEGM量(『学生の注目企業2019』内で定義)としてあらわされ、「いいね!」やシェア、コメント、リツイートなどFacebookとTwitterでの総アクション数に加え、対象コンテンツについて取り上げた記事に対するSNS上における口コミなどの総数で、数が多いほど、“話題になっている”と考えられる。
EMG量5,000以上の企業が上位として発表されているが、既存の就活ナビサイトなどが実施している「人気企業ランキング」とは集計の方法が異なるので、名を連ねる企業も大きく異なっている。
この発表によると、20社のうち半数近くが2000年以降に創業した企業であり、XTechや、ゲーム配信サービス「Mirrativ」を運営するミラティブなどは、創業5年に満たないスタートアップ企業だ。
それまでマスコミなどのメディアに取り上げられることもあまりなく、学生を含む生活者への情報発信が少ないにも関わらず、多くのエンゲージメントを獲得している。
全体としては8,000〜9,999のグーグルやソフトバンクなどメガベンチャーや外資系企業が多く見られるが、10,000以上のパナソニックやトヨタ自動車など日系企業も高いEGM量があり、これらの企業はオウンドメディアやSNSでの情報発信を積極的に行っている傾向が見られたという。
なかでもEGM量5,000〜64,500のメルカリは、巧みなオウンドメディア戦略で、ここ数年のうちに「高付加価値人材が多く集まる企業」というイメージを定着させることに成功している。
メルカリといえば、「メルカン(mercan)」というオウンドメディアが有名だが、「メルカリの「「人」を伝える」をコンセプトに、学生やデジタルネイティブ世代がストレスなく消化できるコンテンツを数多く発信している。
メルカンでは、メルカリでの働き方や制度、経営のメッセージなどのコンテンツを、バリエーションのある表現でほぼリアルタイムに配信していて、ここを見れば、メルカリの企業文化をさまざまな角度から知ることができる内容となっている。
レイアウトや動線、カテゴリの分け方など2016年の創刊以来積み重ねてきたノウハウが活かされ、シンプルなフォーマットで内容が伝わりやすく、SNSなどでも展開されやすいことでEGM量が高くなり、ブランディングにも成功したのだといえる。
オウンドメディア立ち上げのポイント
では実際に採用オウンドメディアを導入する際、どのような手順やポイントを解説する。
まず重要なのは発信者である企業が求職者側の意識を正確に把握しているかどうかということ。
求職者がどのような情報を求めているのかを、アンケートなどの分析結果を基に正確に判断し、“届くメッセージ”を発信していくことが大切だ。
その意味で、採用オウンドメディアを運営していくにあたっては、コンテンツマーケティングの手法を取り入れることが重要だ。
コンテンツマーケティングとは、ユーザーに価値のあるコンテンツを配信することで、運営社にとって有益になるような行動(商品の購入やサービスへの入会など)を起こしてもらうマーケティング手法だ。
これを採用に当てはめることでオウンドメディアを成功に導くことが可能となる。
採用におけるコンテンツマーケティングの考え方とは、読者である求職者にとって価値のあるコンテンツを制作し、その発信を通して「採用における潜在的な求職志望層や、内定承諾者へのリーチ、最終的には自社に入社し、エンゲージメントの高い人材として働いてもらうこと」を目指すということになる。
ここで重要になるのが“誰に” “何を”伝えるのかを明確にしておくことだ。
“誰に”、については「求職活動はしているけど自社を候補と見なしていない」層や「内定は得たけれど、他社と迷っている」層を中心とした求職者すべてということになるが、“何を”、に関していえば「自社のイメージ」ということになる。
価値のあるコンテンツを発信することで企業のイメージをアップさせて、「この会社に入社したい!」と思わせ、しかも入社後には自社に対する愛着心や仕事への高いモチベーションを保った、いわゆるエンゲージメントの高い人材を獲得するための取り組みだということを明確にしておきたい。
さらに、オウンドメディアには「ファンとして定着させる」という効果もある。
求職者のみならず、自社社員やその家族もターゲットとしてとらえれば、自社の社会貢献をより深く知ってもらったり、あまり知られていない自社の意外な魅力を伝えたりするコンテンツを発信することでファン層を形作り、全社的なエンゲージメントを高めることも可能となる。
それには、単なるメッセージの羅列ではなく、社員が実際に働く姿やこの会社でどんなことができるか、どんな個性の人たちと働けるのかがイメージしやすいストーリー性のあるコンテンツなどもそろえることが重要となる。
また、コンテンツの配信に関しては、“採用のためのメディアに見えない”ための工夫が必要だ。
前述のメルカンを見ても、それぞれのコンテンツは興味深く、つい読み込んでしまうようなものばかりだが、採用のためのメディアとは一見すると分からない。
むしろ、採用は関係ない情報を装いながら、なんとか自社の魅力を理解してもらおうと工夫した結果が面白いコンテンツとなり、学生を含めた多くの人に見てもらうことにつながったと考えられるのだ。
オウンドメディアの成否はブランディングにあり
採用オウンドメディアが意図した通りに運用できるようになると、それにつれてブランディングも成功するようになる。
ブランディングができていれば求職者に対して明確な魅力を発信でき、以前よりも一層深い共感を得られるようになるため、エンゲージメントの高い人材を採用できるようになる。
採用オウンドメディアを立ち上げる際には、最初からブランディングを意識した戦略を立てることが重要だ。そのためのポイントは以下の3点となる。
1.ターゲットの明確化
採用におけるブランディングとは、「この会社で働くことは魅力的だ」と考える自社のファンが増えることだ。
そのために、ターゲットに対して企業理念やビジョン、自社が求める理想の社員モデル、職場の雰囲気などオウンドメディアを通じて戦略的に情報発信していくことになる。
採用活動のターゲットとしては、新卒採用なら学生、と考えがちだが、就職先の決定に当たっては家族や指導教員、友人や先輩OBなど、学生を取り巻くすべての関係者が影響を与える可能性がある。
中途採用においても同様で、求職者自身はもちろん、配偶者や子供など、その人を取り巻くすべての人がターゲットに対して「企業の価値」や「その企業で働くイメージ」を向上させることが目的となる。
その意味で、まずはこうしたすべての人をターゲットとして幅広くとらえておきたい。
2.自社のスタンス、メッセージの明確化
そのうえで、自社はどんなスタンスの会社で、どんな人材を求めているのかを明確にし、ターゲットを絞り込むことが必要だ。
母集合を集めるために総エントリー数を増加させようと、リーチできる人材すべてアプローチすることになりがちだが、それでは条件に合わない人材のデータばかりが蓄積される結果となる。
採用ブランディングにおいてはむしろ、条件に合わない(ペルソナ以外の)人材をシャットアウトする判断が必要となる。
偏ったメッセージを発信することを恐れる企業は多いが、実際には、個性を前面に押し出さなければ採用戦線で埋没する結果となってしまうのだ。
せっかくオウンドメディアを運用するなら、自分たちの特徴や強みをハッキリと宣言したほうがターゲットに届きやすい。
もう一つメッセージを届ける意味合いで重要なペルソナ設定においては性格や行動習慣、生い立ちなど細部まで想定して考察する必要がある。
自社にベスト・タレント・モデルがいるならその人をペルソナに設定することも有効だ。
ペルソナだけに届く自社のスタンスやメッセージをしっかりと練り上げ、明文化することはオウンドメディアによるブランディングの基礎工事といえる。
3.一貫したメッセージの発信
基礎工事においてどんなに良いメッセージを作っても、それがペルソナの心に届かなければイメージを高めることはできない。
作成したメッセージが、自社の求める人材に届くように発信することが最後の工程となる。
最適な情報発信には、表現形式・チャネル・タイミングを考える必要がある。
特に、長い期間、または複数のチャネルで情報発信する場合、メッセージの一貫性を保つことが重要だ。オウンドメディアだけでなく、他のメディアや説明会など、ペルソナとの複数の接点において統一感を欠くことなく、首尾一貫した情報発信をすることが共感や信頼の醸成につながるからだ。
そして、メッセージを発信した後には実際にどのような効果が生まれているか、具体的にどんな「口コミ」が発生しているかをSNSやアンケート集計などを通じて必ずチェックする。
これを次の採用ブランディングのブラッシュアップに役立てる、というサイクルを繰り返しながら、長期的に取り組むことで、オウンドメディアにおける採用ブランディングを成功へと導くことができるのだ。
まとめ
・SNSやソーシャルメディアを通じたエンゲージメントを、学生の注目度として集計した調査結果によると、上位の企業はオウンドメディアやSNSでの情報発信を積極的に行っている傾向がある。
・EGM量5,000〜64,500のメルカリは、巧みなオウンドメディア戦略で、ここ数年のうちに「高付加価値人材が多く集まる企業」というイメージを定着させることに成功した。
・採用オウンドメディアでは求職者がどのような情報を求めているのかを、アンケートなどの分析結果を基に正確に判断し、“届くメッセージ”を発信していくことが大切。
・オウンドメディアでエンゲージメントを高めるには単なるメッセージの羅列ではなく、社員が実際に働く姿やこの会社でどんなことができるか、どんな個性の人たちと働けるのかがイメージしやすいコンテンツが必要。
・採用ブランディングにおいては、エントリー数を増加させるより、ペルソナ以外の人材をシャットアウトする判断が重要。
・オウンドメディアだけでなく、他のメディアや説明会など、ペルソナとの複数の接点において統一感を欠くことなく、首尾一貫した情報発信をすることが共感や信頼の醸成につながる。