・なぜ社内人事にもマーケティングが有効なのか。
・社内における社員のライフステージの各段階に人事は関わる。
・人事にマーケティングを当てはめてみると?
・人事マーケティングの顧客は2種類ある。
・人事担当に必要な資格とは?
・人事においてマーケティングの手法をどう駆使するのか?
人事担当にも必要なマーケティングの視点
新たに自社オリジナルの採用メディアを立ちあげて採用活動にマーケティングの手法を取り入れるメリットについてはこれまでにも述べてきたが、社内人事にもマーケティングの視点が必要だ。
なぜなら、終身雇用制の崩壊で価値観が多様化したのは学生だけでなく、企業で働く社員たちも他に魅力的な職場があれば転職が当たり前の時代になったからだ。
こういった時代においては、人事が従来と代わり映えのしない社内制度を用意し、その通りに進んでいけばキャリアが築けますとアナウンスしても、その会社だけで通用するキャリアでは社員個人としては将来設計に不安が生じる。
つまり、自社にとって優秀な人材を自社内に惹きつけておくためには、会社の目指している社会的価値やその中でどんなキャリアが形成されていくのかを常に社員に伝えていくというマーケティングの視点が必要なのだ。
例えば、マーケティングの視点から人事がすべきことを見てみると
・自社の目指す価値や行動規範を新しく入ってきた社員に発信する
・自社のキャリア形成制度にどのようなものがあり、どのような成長ができるか、その結果、自身の人材として市場価値はどう上がるのかを納得できるように説明する
・人事制度を変える際に、社員の目線を意識して制度設計をし、その目的を正確に社員に伝達する
・社内のカルチャーを明確にし、それを形成するための社員向けイベントやコミュニケーションツールを企画、実施する
などの活動が考えられる。
さらには、どんなに優秀な人材でもさまざまな理由で退職する日は必ずやってくる。その時に、退職後もその人が自社のファンであり続けてくれるような施策を用意し、ストレスのない退職プロセスで送り出すことも重要だ。
つまり、優秀な人材を獲得し、できるだけ早く戦力化を図り、エンゲージメントの高い社員として育て、社会に役立つキャリアを形成させ、退職後はファンとして外から自社を支えるような存在にさせる。
つまりは、入社前から退職後に至る社員のライフステージにおいて、まさにマーケティングの実践がそのまま人事に求められているのだ。
人事におけるマーケティングの「顧客」とは?
ドラッカーによるとマーケティングの定義は「顧客というものをよく知って理解し、製品が顧客にぴったりと合って、ひとりでに売れてしまうようにすること」となる。
コトラーもほぼ同様の定義をしている。
要は、顧客のニーズを探り、十分に理解することによりそのニーズを満たす価値である具体的な製品やサービスを提供することで「販売をしなくても自然に売れる状態を作り出すこと」と言える。
そしてマーケティングの基本は、1.誰に、2.どのような価値を、3.どのようにして提供するかという3つのステップであると言われている。
ではこれを人事部門に置き換えた場合を考えてみよう。
1.誰に、は販売においては「顧客」が唯一の存在となるが、人事マーケティングにおける「顧客」は2つある。
それは採用マーケティングにおいては「入社してほしい人材」であり、社内人事マーケティングでは「社員そのもの」である。
では、この二つの顧客に
2.どのような価値を提供するのか。
それは、入社してほしい人材に対しては「自社の価値をありのままに提示し、理解してもらい、ミスマッチを最小限に抑え、エンゲージメントの高い社員として採用するための施策」であり、社員に対しては「速やかに本人の能力を発揮して事業成長を支えてもらい、自社とともに成長してもらうための施策」となる。
そして、
3.どのように提供するのか、については、どう伝えるか、に置き換えて考えられる。
それは従来、採用においては求人媒体や求人サイトであり、社内人事においては企業理念や各種規程であったり、社内文書による通達であったりといった「文書」ベースでの伝え方が主流だった。
しかし現在ではでいろいろな新しいメディアやツール、SNSなどの進化により、価値の提供方法は多岐にわたっている。
中でもオウンドメディアは、自社でコントロールできる点、コストパフォーマンスの良いメディアであり、社外にも社内にも情報を伝えやすいメディアとして運用する企業が増加している。
現在では、オウンドメディアに限らず、数ある既存、新規の情報伝達方法をうまく組み合わせて、ある時は自社で開発しながら「顧客」である求職者と社員に価値を提供することが人事担当者の役割となってきているのだ。
人事マーケティングに必要なスキルとは?
転職が一般的になり人材の流動化が激しく進む中で、様々な制度を作ってそれを押し付けるだけで、社員の方がそれに合わせて運用してくれるという時代は終わりつつある(もちろんまだそうしている企業もある)。
しかし本当に優秀な人材を獲得し、入社後も自社に惹きつけておくためには、会社の提供する価値やそこでのキャリア形成を常に社員にわかるように伝えていくことが求められる時代であることは間違いない。
つまり、人事マーケティングに必要なスキルの第一は、概念や情報を「言語化・見える化できること」と言える。
実際、いままでも人事の仕事といえば
・求人票に過不足なく情報を記入する
・求人媒体に広告のコピーを書く
・転職メディアや自社サイトなどに原稿を書く
・応募数や面接通過率の数字(PVやコンバージョン率など)をグラフなどで見える化する
・その結果を踏まえて求人票や採用プロセスの改善をする
といった業務を行ってきたはずだ。
だから、一般的に言って人事マーケティングに特別な資格は必要ない(もちろん企業によっては資格が必要な場合もある)。
ただし、進化し多様化し続けるさまざまなメディアやツールを駆使して「自社のビジョンやパーパスと自社に必要な人材の理想像を言語化、見える化する」というスキルは必要であり、獲得していれば大きなアドバンテージとなり得るのだ。
さらに、ブレない、正確な言語化、見える化を実現しようとすれば、場合によっては経営トップへヒアリングしてその意図を質すことなども必要となるし、社員やその家族の会社に対するエンゲージメントについてツールを駆使して深堀りすることもあるだろう。
結論すると、これからの人事マーケティングに求められるスキルは、
経営や社員、求職者といった対象に対してマーケティングの手法を駆使して、可能な限り踏み込んだ調査、分析を行い、そこから得られた価値ある情報を言語化、見える化し、「届けたい相手」に「刺さる」ように発信すること。
だと言える。
まとめ
・自社にとって優秀な人材を自社内に惹きつけておくためには、会社の目指している社会的価値やその中でどんなキャリアが形成されていくのかを常に社員に伝えていくというマーケティングの視点が必要。
・人事はマーケティングの実践で優秀な人材を獲得し、できるだけ早く戦力化を図り、エンゲージメントの高い社員として育て、社会に役立つキャリアを形成させ、退職後はファンとして外から自社を支えるような存在にさせることができる。
・人事マーケティングの「顧客」には、採用マーケティングにおいては「入社してほしい人材」であり、社内人事マーケティングでは「社員そのもの」という2種類がある。
・人事担当者の役割は、数ある既存、新規の情報伝達方法をうまく組み合わせて、ある時は自社で開発しながら「顧客」である求職者と社員に価値を提供すること。
・本当に優秀な人材を獲得し、入社後も自社に惹きつけておくためには、会社の提供する価値やそこでのキャリア形成を常に社員にわかるように伝えていくことが求められる時代となった。
・経営や社員、求職者といった対象に対してマーケティングの手法を駆使して、可能な限り踏み込んだ調査、分析を行い、そこから得られた価値ある情報を言語化、見える化し、「届けたい相手」に「刺さる」ように発信することがこれからの人事マーケティングに求められている。