2023.1.18

コンピテンシー評価とは?人事評価制度の導入手順やメリット・デメリットについて解説

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従来の職能資格制度に代わる新たな人事評価制度として、「コンピテンシー評価」が注目を集めている。コンピテンシー評価とは、自社の売上や成果に貢献する人材の行動特性を分析した上で、理想的な行動(=コンピテンシー)を評価基準とする仕組みだ。

評価項目が具体化されるため、評価者の主観が入りにくく、公平かつ客観的な評価が可能となる。従業員が評価を受け入れやすい他、理想的な社員の在り方をイメージしやすいのもメリットだ。

一方で、導入に手間と時間がかかる点や、柔軟性に乏しい点などには注意しなければならない。この記事では、コンピテンシー評価の概要やメリット・デメリット、導入手順などを解説する。

コンピテンシー評価とは?

コンピテンシー評価とは、人事評価における評価基準の一種である。良いパフォーマンスを発揮している人材の行動特性(=コンピテンシー)をロールモデルとして、従業員のスキルや適性を評価する仕組みだ。主な評価項目には以下が挙げられる。

● 対人交渉能力
● タイムマネジメント力
● ストレスマネジメント力
● リスクテイクに関わる判断力
● アカウンタビリティー
● 意思決定能力 など

評価者の主観に頼らず、客観性と公平性を担保できることから、日本企業においてコンピテンシー評価に注目が集まっている。

コンピテンシーの定義

そもそも「コンピテンシー」とは、ある業務や職種で高いパフォーマンスを発揮する人材の行動特性を指す。分かりやすく言うと、成果を出す人に共通する能力や考え方の特性である。1970年代にハーバード大学のマクレランド教授が提唱したのち、人事管理の概念としてビジネスシーンにも浸透した。

コンピテンシーを明らかにするためには、良い成果を挙げる従業員の思考や行動を分析する必要がある。その際、知識や技能、学歴、行動、年齢といった可視化できる要素は排除しなければならない。コンピテンシーの設定では、目に見えるものではなく、行動や成果に至るまでの動機や価値観、性格などを重視するのが特徴だ。

職能資格制度(能力評価)との違い

職能資格制度(能力評価)とは、知識や能力を基準とした評価制度である。習熟度に応じて等級が決められ、等級ごとに給与や賞与の金額が設定されるのが一般的だ。日本独自のシステムであり、多くの日本企業で採用されている。

職能資格制度では総合力が評価されるため、様々な業務を幅広くこなせるゼネラリストが育ちやすく、長期的な視点での人材育成に適しているだろう。一方で、年功序列に陥りやすい点や、曖昧かつ主観的な評価になりやすい点などの課題もある。

関連記事:プロセス評価とは?なぜ必要なのか、導入時の注意などを分かりやすく解説

コンピテンシー評価の目的

コンピテンシー評価を導入する目的は、人事評価と人材育成、採用面接の3つの観点に分けられる。コンピテンシー評価がそれぞれにどのような影響をもたらすのかを見ていこう。

人事評価

コンピテンシー評価を人事評価に用いると、評価基準の具体化が可能となる。抽象的な概念ではなく、実際に成果を挙げている従業員の行動特性を指標にするため、人事評価の具体性や客観性を担保できるのだ。

また、企業側がコンピテンシーを明確にすることで、従業員は目指すべき姿をイメージしやすくなる。ロールモデルとなる行動特性を一人ひとりが習得できれば、従業員の意識改革や生産性アップにもつながるだろう。

人材育成

コンピテンシー評価の導入は、人材育成の効率化に貢献する。コンピテンシーを明確化すると、理想像の実現に必要なスキルや知識の獲得に専念できるため、優秀な人材を効率良く育成できるのだ。

また、自らの行動とコンピテンシーを照らし合わせることで、従業員は自分の強みと弱みを把握しやすくなる。コンピテンシーに対して不足する部分や、自分の思考の癖を振り返ることによって、自発的な成長やキャリア開発などのきっかけとなるだろう。

採用面接

採用面接の観点では、コンピテンシー評価は優秀な人材の確保に寄与する。自社で活躍する従業員の行動特性を基準にすることで、自社が求める人材を採用しやすくなるだろう。候補者自身も自らの能力を存分に発揮できるため、入社後のミスマッチも防止できる。

関連記事:相対評価と絶対評価を分かりやすく解説。最近の傾向はどっち?

コンピテンシー評価のメリット

コンピテンシー評価のメリットとして、以下の3つが挙げられる。

● 本質的かつ公平に評価できる
● 従業員側の納得度が高まる
● 戦略的な人材マネジメントができる

本質的かつ公平に評価できる

コンピテンシー評価を導入するメリットは、本質的かつ公平な評価が可能となることだ。評価者によっては、社内の人間関係や昇進、保身といった主観的な考えに左右され、評価を歪めてしまうことも少なくないだろう。

その点、コンピテンシー評価には、具体的な行動特性という確固たる評価基準が存在する。評価者の主観が入りにくくなるため、客観的な視点で従業員を評価できるのだ。

従業員側の納得度が高まる

評価に対する従業員側の納得度を高められることも、コンピテンシー評価のメリットだろう。具体的な評価基準があることにより、評価の公平性や客観性が担保されるため、従業員は自分への評価を受け入れやすくなる。

また、「何が評価されたのか」「不足する部分は何か」が明確化されることによって、評価への理解度が高まったり、自分の課題を見つけやすくなったりするだろう。

戦略的な人材マネジメントができる

コンピテンシー評価は戦略的な人材マネジメントの実施にも貢献する。コンピテンシー評価では、具体的な評価基準を基に評価することで、一人ひとりの行動や思考を掴みやすくなる。その結果、適材適所な人材配置が可能となるだろう。

特性にマッチする業務や部署に従業員を割り振ることで、能力を存分に発揮できたり、不満やストレスを抑えられたりするのは大きなメリットだ。

関連記事:テレワーク・在宅勤務での人事評価制度はどのように変わる?評価の軸はプロセスから成果へ

コンピテンシー評価のデメリット

コンピテンシー評価にはメリットがある一方で、以下のようなデメリットも存在する。

● 導入までのハードルが高い
● 完成までに検証を重ねる必要がある
● 環境変化に適応しにくい

導入までのハードルが高い

コンピテンシー評価のデメリットとして、導入までのハードルの高さが挙げられる。理想像となる人材の在り方は企業ごとに異なるため、まずは独自のコンピテンシーを定義しなければならない。コンピテンシーの定義には、優秀な人材にヒアリングをした上で、行動特性を洗い出して言語化する作業が必要となる。

また、コンピテンシーは職務や部署によっても変わってくるため、それぞれに対応する基準を定めなければいけないのだ。コンピテンシー評価を導入するのであれば、実施までに様々なプロセスが必要であり、簡単に導入できるものではない点を理解しておくべきだろう。

完成までに検証を重ねる必要がある

理想的なコンピテンシーの完成までに見直しが必要なことも、コンピテンシー評価の難点の一つである。手間や時間をかけて定義したコンピテンシーが、必ずしも正しいものとは限らない。行動特性の分析が不十分な場合は、的外れな内容になっていることもあるだろう。

コンピテンシーを評価基準として運用するためには、実際に自社の成果に貢献する行動なのかどうかを何度も検証し、その都度修正しなければならないのだ。

環境変化に適応しにくい

コンピテンシー評価の弱点として、業務や経営状況の変化などに適応しにくいことが挙げられる。具体的な行動特性という明確な基準がある分、コンピテンシー評価は柔軟性に乏しく、環境変化に応じた細かな変更が難しい。

事業を進める上では、成長フェーズへの突入や社会情勢の変化などによって、解決すべき課題が変わっていくだろう。業務に必要な行動が変わるケースも珍しくなく、既存のコンピテンシーが古くなることも考えられる。

環境変化にコンピテンシーを適応させたくても、コンピテンシーの再定義には手間や時間がかかってしまう。また、評価基準が頻繁に変わることにより、従業員が目指すべき姿を見失いやすくなるのもデメリットだ。

コンピテンシー評価の導入手順

コンピテンシー評価を自社に導入する際は、以下のフローを参考にしてみよう。

● ステップ1:モデルとなる人材の選出・分析
● ステップ2:評価項目の洗い出し
● ステップ3:コンピテンシーモデルの作成
● ステップ4:自社のビジョンや経営戦略とのすり合わせ
● ステップ5:評価シートの共有、コンピテンシーの調整

ステップ1:モデルとなる人材の選出・分析

まずは、コンピテンシー評価のモデルとして、従業員の中から優秀な成果を挙げている人材を選出する。次に、対象者へのヒアリングや観察を実施し、具体的な行動特性を明らかにしていく。

人材の選出と分析はコンピテンシー評価の軸とも言える部分であるため、的外れな仮説を立てないよう、ある程度の時間をかけて取り組むことが推奨される。

ステップ2:評価項目の洗い出し

ステップ2では、分析結果を基にコンピテンシー評価の基準となる項目を洗い出していく。優秀な従業員に共通する行動や思考をまとめたり、他社の事例と照らし合わせたりして、自社に適した評価項目の候補を挙げていこう。

ステップ3:コンピテンシーモデルの作成

コンピテンシーモデルとは、業務においてコンピテンシーを実践するための行動モデルを指す。以下の3つに分類されるため、自社の状況に合う形でコンピテンシーモデルを作成することが重要だ。

モデル型 優秀な人材をお手本としたモデル像
理想型 企業理念やビジョンにマッチする理想的なモデル像
ハイブリッド型 モデル型に理想型の要素を加えたモデル像

ステップ4:自社のビジョンや経営戦略とのすり合わせ

独自のコンピテンシーを設定できたならば、自社のビジョンや経営戦略とすり合わせる段階に入る。ビジョンや経営戦略とのマッチ具合を考慮しながら、ステップ3で洗い出した項目の候補を精査するイメージだ。

企業にとって不要と判断できる項目を除外することで、より確度の高いコンピテンシー評価を形成できるだろう。

ステップ5:評価シートの共有、コンピテンシーの調整

最後に、設定した評価項目を評価シートにまとめ、従業員に共有する。その際、策定までのプロセスや、評価項目として設定した理由などを説明できると、従業員が理解しやすくなるだろう。

コンピテンシー評価の実施後は、売上動向や成果と照らし合わせながら、設定した項目が適切かどうかをチェックしなければならない。必要に応じてコンピテンシーを調整しながら、より良い評価基準へとブラッシュアップしていこう。

コンピテンシー評価の注意点

コンピテンシー評価を導入する際は、以下のポイントに注意が必要だ。

● 導入の目的を明確化する
● コンピテンシーにこだわりすぎない

導入の目的を明確化する

コンピテンシー評価を導入する目的は、具体的な行動特性を基準とすることで、企業の成果につなげることだ。導入の目的が不明瞭な状態では、システムが形骸化することにもなりかねないため、最終的なゴールを明確にしておくことが重要である。

コンピテンシーにこだわりすぎない

コンピテンシー評価を導入する際、コンピテンシーにこだわりすぎるのは禁物だ。あまりにハイレベルな理想を押し付けすぎると、従業員のモチベーション低下の原因となり得る。

理想的な行動特性を全て満たすような従業員は滅多にいないと考え、コンピテンシーはあくまで一つの目安だと認識しておくべきだろう。

関連記事:「確証バイアス」とは?例と採用選考や人事評価の際に注意したいポイントをご紹介

コンピテンシー評価の導入事例

ここからは、コンピテンシー評価を導入する日本企業の事例を見ていこう。

凸版印刷株式会社

凸版印刷株式会社では、「お客様からの信頼」「組織力の強化」などの5項目を基に、従業員が取るべき行動特性や行動様式をコンピテンシーとして定義している。従業員がコンピテンシーを実践できるよう、スキルの習得につながる開発プログラムなどが多数展開されている。

出典:経団連「経営環境の変化にともなう企業と従業員のあり方

豊田市

豊田市の管理職を対象としたコンピテンシー評価は、3つの観点においてコンピテンシーを適用し、マネジメント業務のPDCAサイクルと連動させているのが特徴だ。基準に沿った行動をしても同じ成果が得られない場合は、PDCAを回して行動を分析し、改善につなげる仕組みとなっている。

出典:内閣官房「民間企業や地方公共団体におけるマネジメント能力向上のための支援措置事例

まとめ

コンピテンシー評価とは、自社の成果に貢献する人材の行動特性を基にした評価制度である。具体的な行動を評価基準とするため、評価者の主観に左右されにくく、公平かつ客観的に評価できるのが特徴だ。

理想の行動が明確化されることで、従業員の納得度が高まる他、意識改革や生産性アップにもつながるだろう。実施までに手間や時間がかかるものの、企業にとっても従業員にとってもメリットがあるため、新たな評価制度として導入を検討してみてはいかがだろうか。

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監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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