企業における人事考課などで個人の能力を評価する際、相対評価と絶対評価の2つの評価方法が採用されてきた。本記事では、相対評価と絶対評価とはいったいどのようなものか、最近の評価の傾向などを紹介する。それぞれの評価基準を用いた場合のメリットやデメリットも併せてチェックしよう。
目次
相対評価とは
相対評価とは、「属する組織や集団内でどのような順位にあるか」という相対的な位置を基に、個人の能力に対する評価を行う方法である。相対評価をする場合には、集団の中での順位に応じて評価指数を設定する。
「S評価は上位10%の層」、「A評価は10~30%の層」、「B評価は30~60%の層」といったように、相対評価では予め評価の分布を定めておく。評価の対象者同士を比較して枠にはめ込むことで、相対的に序列を決めていくという特徴がある手法だ。
相対評価を使って評価した場合には、偏りが出ることなくバランスよく評価を分布できる。そのため、日本では従来から評価制度に取り入れられてきた。学校教育における学力評価や企業における人事考課の際に、以前から使われていた方法である。
絶対評価とは
一方の絶対評価とは、「集団内での順位にかかわらず、個人の能力に応じてそれぞれ評価する」という評価方法である。予め定められている目標の基準に応じ、その基準を満たすかどうかによって個人ごとのレベルを評価する。
評価基準が明確な上に自分の業績を直接的に評価してもらえるため、目標達成に向けて高いモチベーションを維持しやすくなることが特徴である。ただし、評価者ごとに評価のバラつきが発生しやすく、また評価者にかかる責任が重くなるという課題もある方法だ。
相対評価と絶対評価の違い
相対評価は評価対象者同士を比較し評価する評価方法だ。社内における同じ部署、同じチームの従業員同士、集団内における同じメンバー同士が評価の対象となる。
言わば、人同士を比較し評価するのだ。例えば、1から5までの5段階で5人の評価をするならば、相対評価では評価対象者を比較した上で、各人に1から5の評価が下されるため、全員が最高単位の5を取得できる可能性はない。
一方、絶対評価は評価対象が他人ではなく評価者の定める基準となる。こちらも同じく1から5までの5段階で5人の評価をする場合、絶対評価では評価者の定める基準をクリアすれば良いだけなので、評価対象者が全員最高単位の5を取得できる可能性がある。
相対評価と絶対評価ではこういった特性や性質の違いがあるため、環境や状況に応じてケースバイケースで使い分ける必要があるのだ。
絶対評価が重視されるようになった理由
先述の通り、2種類ある評価方法のうち、日本社会において従来から取り入れられることが多かったのは相対評価である。これら2種類の方法によるメリットとデメリットの詳細は後述するが、相対評価にすると一定の基準を定めておくだけで簡単に評価しやすくなること、バランスよく評価を分布できることなどのメリットがある。
しかし、相対評価によって評価していると、レベルの高いグループに所属していた場合に正当な評価が受けられなくなってしまう。個人の頑張りではなく周りとの比較で評価するため、頑張る動機が「周りよりも優れていると思われたい」という不健全な考え方になってしまいやすいだろう。
そのため、近年では個人の成長に目を向けるべきだとの声が高まり、より個人ごとの成果にフォーカスできる絶対評価が取り入れられるようになってきた。すでに小中学校では絶対評価が導入されており、自分が頑張ればきちんと成績に反映されるようになっている。
相対評価にも絶対評価にもメリットとデメリットがあるため、それぞれを組み合わせて活用する企業もある。例えば、1次評価を絶対評価で行ってから、2次評価として相対評価を行うなどの方法だ。
絶対評価だけで行うよりも、評価のバランスの分布が上手くいきやすくなる方法であるが、その分「頑張ったのに評価してもらえなかった」と感じてしまう社員が出る可能性があることには注意しよう。
相対評価のメリット・デメリット
2種類の評価方法の違いをより深く理解するために、それぞれのメリットやデメリットをチェックしていこう。まずは相対評価について解説していく。
相対評価は評価者が評価しやすいこと、評価のバラつきが抑えられることがメリットである。対してデメリットは、所属グループによる評価の違いが大きいこと、少人数だと適正な評価が難しいこと、成長にフォーカスしづらいことだ。
それぞれを詳しくチェックしていこう。
相対評価のメリット
相対評価のメリットは以下の通りだ。
グループや集団の中で順位をつけていくため、評価しやすい
グループや集団の中での順位をつけていき、その順位に応じて評価を行うのが相対評価だ。そのため、個人の特性や経験年数など様々な要因を加味することも検証の時間も必要なく、明確な基準を設けずに評価できるといった評価者にとって分かりやすい方法である。
一人ひとり詳しくチェックしていると、評価者にとってはメンバー全員を評価する作業が大きな負担となる。評価者の作業負荷を減らし、その他の業務に時間を割けるようになるだろう。
評価者による評価のバラつきが抑えられる
相対評価にすると、評価者による評価のバラつきが抑えられることもメリットの一つである。例えば、絶対評価では評価基準が複雑になり、また評価者による主観も入りやすくなってしまうため、評価者が変われば評価も変わってしまいやすい。しかし、相対評価であれば主観が入りにくくなるため、評価のバラつきが抑えられるのだ。
また相対評価にすると、予めS評価が何人でA評価が何人というように決められており、グループ内での評価の偏りが起こりにくいこともメリットだ。高評価を受ける人が多くなりすぎないため、昇給の人数をコントロールできることで人件費の高騰を抑えられるだろう。
相対評価のデメリット
相対評価のデメリットは以下の通りだ。
所属するグループによって評価が変わってしまう
相対評価にすると、所属グループの違いで個人の評価が変わってしまう点がデメリットである。個人がいくら頑張ったとしても、所属するグループ全体が高いレベルであった場合には、評価されにくくなってしまうのだ。
反対に、所属するグループのレベルが低い場合は、目標を達成できなかったとしても相対的に高い評価をされる可能性があるなど、評価が一定ではないだけに納得しにくいと言われている。
グループが少人数だと適正な評価にならない場合がある
評価の対象となる者の所属するグループの人員数が少ないと、相対的な評価が難しくなり、適正な評価にならない場合があることもデメリットである。
能力にそれほど大きな差のない社員が複数いたとしても順位を付けなければならず、評価の理由を聞かれると答えることが難しい。グループが少人数だと特に中間値がブレてしまいがちになり、評価が適正ではなくなる可能性が高くなるため注意が必要だ。
個人ごとの成長にフォーカスしづらい
相対評価では、個人ごとの成長にフォーカスしづらいというデメリットもある。個人が頑張って成績を上げたりスキルアップしたりしても、あくまでグループ内での相対的な順位付けを行うため、評価が上がっていくとは限らないのだ。
もしも所属するグループの皆が成績を上げた場合には、個人が頑張っていても反対に評価が落ちてしまう可能性もあり、納得しにくい評価になってしまう恐れがあるだろう。
絶対評価のメリット・デメリット
絶対評価のメリットは個人ごとにフォーカスした評価ができること、評価理由がはっきりしていることだ。デメリットは評価者による評価のバラつきが発生すること、適切な評価基準を定めづらいこと、プロセス評価が反映しづらいことである。
これら絶対評価によるメリットとデメリットについてもチェックしていこう。
絶対評価のメリット
絶対評価のメリットは、以下の通りである。
個人にフォーカスした評価ができる
絶対評価では、個人ごとの目標の達成度によって評価を行う。個人の成績やスキルアップなど、それぞれの頑張りにフォーカスして評価できることが絶対評価のメリットだ。どうすれば評価が上がるのかといった課題や目標が理解しやすいというメリットもある。
組織としても、どの従業員やグループが成長しているのかを把握しやすくなり、人事異動などで参考にできるだろう。
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評価理由を伝えやすく、評価者からの疑問が生まれにくい
絶対評価では個人ごとの頑張りにフォーカスした評価ができるため、「どうして今回の評価につながったのか」という理由を伝えやすいのもメリットだ。
目標の達成度を基準にするため、評価対象者側が納得しやすい評価理由を提示できるのである。どの点が優れ、どの点が課題なのかを伝えやすくなるため、評価の透明度を上げられるだろう。
同じ評価の人が何人出てもいいため、評価者にとっても相対評価と違って同程度のスキルの人に対して評価を変える必要がなくなる。
絶対評価のデメリット
一方で、絶対評価のデメリットは以下の通りだ。
評価者による評価のバラつきが発生する
絶対評価にすると、評価者による評価のバラつきが発生するというデメリットがある。評価者にもそれぞれ特徴があり、甘い評価をしやすい人と評価の厳しくなりがちな人がいて、それぞれのやり方によって評価基準が大きく異なってしまいかねないことに注意が必要だ。
明確に数値として示せるものであれば一定の評価がしやすいものの、そうではない場合には評価者が変わる度に評価が異なってしまう可能性がある。評価者の傾向を調整し、バラつきが発生しにくくできるかどうかが課題だ。
適切な評価基準を定めづらい
相対評価と違い、絶対評価では適切な評価基準を定めづらいというデメリットがある。簡単すぎて達成しやすい評価基準では高評価の人が多くなりすぎてしまうが、難しすぎると皆が低評価になってしまいかねないだろう。
バランスを見極めて、多くの人が平均的な評価になる程度の適切な評価基準を設定できるかどうかが課題である。そのためには、過去のデータの分析や社員の能力の把握が必要であるが、作業の負担や適切な基準を作成できるまでのプロセスが難しいという点に注意しよう。
プロセス評価が反映しづらい
絶対評価はプロセス評価が反映しづらいというデメリットもある。外的要因によって目標達成できなかった場合であっても、過程に関係なく結果のみで判断される場合が多いようだ。これにより、評価対象者のモチベーションが下がってしまう恐れがあるため注意しよう。
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相対評価・絶対評価の運用ポイント
例えば、個の能力が商談成立などの結果を左右することも多い営業などにおいては、絶対評価の方が従業員も納得し、モチベーションアップにも繋がるだろう。他方で総務や法務、人事など個の評価基準が設定しにくい部署に関しては、相対評価が適していると言えるだろう。
このように、相対評価と絶対評価はどちらか一方が重要というわけではなく、業種や職場環境、評価する対象者に応じて使い分けなければならない。そこで、以下では相対評価と絶対評価の運用ポイントを解説する。
相対評価の運用ポイント
相対評価においては他の従業員との比較となるため、従業員が納得できない事案も多く出てくるようになる。「なぜあの人より評価が下なのか?」「何をもってあの人より劣っていると評価されたのか?」といった不平不満を覚える従業員も出てくるだろう。
そこで、以下のポイントを実施することをおすすめする。
● 厳密な評価基準を作る
● 評価基準を公表する
● 数値を重視するなら絶対評価にする
厳密な評価基準を作る
相対評価では、チームや部署など集団内における他の従業員との比較になるため、厳密な評価基準を予め作っておくと曖昧さが減少する。また、上司や上長による贔屓や感情による評価もできなくなり、公平さを維持できるようになる。
相対評価は一度このような評価基準を設けてしまえば、後は誰でもその評価基準に従って比較的簡単に評価ができるようになる。つまり、相対評価は初期における厳密な基準作りが長く組織を運営していく上で重要なのである。
評価基準を公表する
上述において厳密な評価基準を設定したら、その評価基準を従業員に公表すると良いだろう。この評価基準を公表せず従業員に隠していたり、また曖昧だったりするから従業員も納得しないのだ。
何か特別な事情でもない限り、このような評価基準を従業員に明確に提示することにより、従業員も評価されたときに納得しやすくなる。そして、正当に評価される環境で仕事に従事できるようになれば、従業員一人ひとりのモチベーションもアップし、エンゲージメント向上にも繋がるようになるのだ。
数値を重視するなら絶対評価にする
相対評価は、評価を数値化することが難しいような場面において適している評価方法だ。評価者による評価のばらつきが少なく、従業員の評価を容易にできるからだ。
裏を返すと、数値で差が出てしまったり、個の数値を重視したりするような評価に関しては、適していない評価方法と言える。このような場合には、絶対評価に切り替える必要がある。相対評価・絶対評価、共に上手く運用していくには、使いどころをよく考慮し、適切な評価方法によって対象者を評価していかなくてはならないのだ。
絶対評価の運用ポイント
一方で絶対評価は、とある基準に対する個の評価である。他の従業員と比較するのではなく、予め決定されている基準に対して、それを達成できたか否かを評価要因とする。
従業員の努力や作業のプロセスを考慮せず、基準を達成できたかできないかで判断されるため、評価結果に従業員も一定の理解を示し、また個の成長を促しやすい特徴がある。
一方で、努力しながらも成果が出ない従業員に対しては厳しい評価基準となってしまう。社内における従業員同士の競争となるため、チームや集団としてのバランスを欠きやすく、また評価者によって評価に差が出てしまうこともある。
そこで、以下のポイントを実施することをおすすめする。
● 全評価対象者の能力やポジションは考慮されているかを確認する
● 全評価対象者に対して目標値は最適なのかを確認する
● 個人の努力や作業プロセスも評価の要因の一つとしてみる
全評価対象者の能力やポジションは考慮されているかを確認する
絶対評価では個の能力が評価対象の要因の一つともなるため、あまりにも従業員の能力やスキル、置かれているポジションを無視した基準を設定しても達成することができない。
そこで、全評価対象者が達成できる基準であるかどうかを、客観的に見て設定をする必要がある。評価を透明にするためにも面倒くさがらずに、まずは従業員個人個人の能力把握に努め、評価のポイントを擦り合わせるなどして、その上で基準を客観的に設定するようにしなければならないのだ。
全評価対象者に対して目標値は最適なのかを確認する
上述の通り、絶対評価では個の能力が評価結果を大きく左右することも多くあるため、チーム共通の目標である「目標値」に関しては常に「全評価対象者に対して最適なのか」を確認しておく必要がある。
あまりにも低い目標値では、達成できる評価対象者が多く出ることになり、評価が上手く機能しているとは言えない状況となってしまう。逆に高すぎる目標値を設定すれば、誰も達成することができなくなり、これも評価として機能しなくなってしまう。
重要なのは上述で解説した通り、全評価対象者の能力やスキル、置かれているポジションを把握し、適切な目標値を設定する必要があるのだ。
個人の努力や作業プロセスも評価の要因の一つとしてみる
絶対評価においては通常、目標を達成したか否かという結果のみの判断基準で評価され、個人の努力や作業プロセスまでは考慮されない。
こういった基準に個人の努力や作業プロセスといった行動レベルの評価も取り入れることにより、結果のみにフォーカスするという凝り固まった評価システムを改善できる場合がある。
例えば「結果が出ていなくても架電回数を一つの評価対象とする」「契約に繋がらなくてもこなした営業件数を一つの評価対象とする」などがそういった取り組みに該当する。
また、通常であれば数値化できず質的にしか表せない作業を定量化(見える化)することによっても、評価対象者のモチベーションをアップすることにも繋がる。例えば、顧客満足度や個人レベルでの顧客へのサポート体制、サービス品質といった評価を既存顧客にアンケートを取り、感想を述べてもらうことにより定量化できる場合がある。
こういった個人の努力や作業プロセスを評価の一つとして取り入れることも、絶対評価を上手く運用していくポイントとなるのだ。
まとめ
評価方法には、相対評価と絶対評価の2つがある。相対評価とは「属する組織や集団内でどのような順位にあるか」という相対的な位置を基に、個人の能力に対する評価を行う方法である。一方の絶対評価とは、「集団内での順位にかかわらず、個人の能力に応じてそれぞれ評価する」という評価方法だ。
従来の日本では相対評価が取り入れられていたが、近年は個人にフォーカスできる絶対評価へと評価方法が変わってきている。
それぞれにメリットとデメリットがあり、相対評価では評価しやすくグループ内において評価の偏りが起こりにくいが、個人の頑張りを評価しづらい。絶対評価は個人にフォーカスした評価ができて評価理由を伝えやすいが、評価者による評価のバラつきが発生するなどのデメリットがある。
それぞれの特徴を理解して実際の業務に取り入れていこう。
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