アンコンシャスバイアスとは、無意識のうちに持ってしまう偏見や、根拠のない思い込みである。偏った見方はときとして他人を傷つけることがあり、組織運営においては大きな問題につながりかねない。この記事では、アンコンシャスバイアスの具体例や対処法を詳しく解説する。
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目次
アンコンシャスバイアスとは?無意識の偏見
「多様化」が1つのキーワードである現代において、「アンコンシャスバイアス」に注目が集まっている。アンコンシャスバイアスは組織運営に悪影響を及ぼすおそれがあることから、アンコンシャスバイアスへの対策が重要な課題とされているのだ。
アンコンシャスバイアスのない環境を整えるために、まずは言葉の意味や注目される背景について詳しく見ていこう。
アンコンシャスバイアスとは
アンコンシャスバイアスは、無意識下に根付いている偏見や、根拠をもたない決めつけ、思い込みを意味する。2つの英単語で成り立っており、直訳は「無意識の(=unconscious)偏見(=bias)」だ。
アンコンシャスバイアスの代表例は、「女性に力仕事を任せないこと」や「男性は機械に強い」などである。性別に限らず、年齢や文化、人種などに対する固定観念から、相手に偏った見方を押しつけることがアンコンシャスバイアスに当てはまる。
アンコンシャスバイアスを引き起こす主な要因を見てみよう。
・ エゴイズム
・ 慣習や習慣
・ こだわりや劣等感
アンコンシャスバイアスの発生にはエゴイズムが関係している。「自分を正当化したい」、「立場を守りたい」といった自己保身的な考え方により、新しいものを受け付けない姿勢に結びついてしまうのだ。
また、長年にわたって形成された慣習や習慣も、アンコンシャスバイアスを引き起こしやすい。常識として根付いていたことが、時代の変化によって非常識と捉えられるケースは多いだろう。そのような認識の変化に対する柔軟性がなく、「過去の当たり前」にしがみついたままでは、無意識の偏見や思い込みから脱することは難しい。
上記に加えて、それぞれが抱えるこだわりや劣等感も要因となりうる。これらを他人から刺激されると、人は自己防衛のために感情的になりやすく、つい攻撃的な発言をしてしまったり、冷静な判断ができなくなったりするのだ。
ダイバーシティ&インクルージョンとの関係
アンコンシャスバイアスが注目される背景には、ダイバーシティ&インクルージョンが関係している。ダイバーシティ&インクルージョンとは性別や年齢、宗教、人種などにとらわれず、それぞれの価値観や違いを認め合いながら共存共栄を目指すことだ。
働き方が多様化する現代では、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を強化する企業が増えている。しかし、偏った見方や思い込みを社員が自覚していない状態では、差別的な考え方が組織の風土として定着してしまうため、ダイバーシティ&インクルージョンを根付かせることは難しい。
そこで、多様な価値観を受け入れる土壌を社内に作るために、アンコンシャスバイアスへの対処が求められているのだ。
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アンコンシャスバイアスが引き起こす組織への悪影響
アンコンシャスバイアスは、それ自体に問題があるわけではない。過去の経験や学びを活用することで、物事をスピーディーに判断できるというポジティブな側面もある。
しかし、自分自身が無意識な思い込みに気づいていない状態では、思わぬ場面で他人を傷つけることになりかねない。特に企業では、採用や人事評価、職場環境などに悪影響が及ぶこともある。
アンコンシャスバイアスが組織にもたらす影響について、以下で詳しく見ていこう。
人間関係やパフォーマンスの悪化
偏見や決めつけにもとづく言動は、社内の人間関係を悪化させやすい。性別や年齢などへの差別、思い込みが会話の中に持ち込まれると、疎外感や孤独感を抱く人が出てくるだろう。
無意識に発せられた悪意のない言葉であっても、受け取る側にとってネガティブな内容であれば、良好な関係性を築くのは困難だ。コミュニケーションのストレスは仕事の効率にも影響するため、社員のパフォーマンスが悪化することにもなりかねない。
また、上司がアンコンシャスバイアスにとらわれていると、マイノリティの意見を無視したり、自分の考え方に合わない意見を受け入れなかったりすることもある。上司の偏った見方によって意見が通りにくい環境では、仕事に対する部下のモチベーションが低下してしまうだろう。
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採用、評価への影響と組織風土として定着する恐れ
アンコンシャスバイアスは、社内に属する個人だけではなく、組織全体にも大きな影響を及ぼす。例えば、人事担当者がアンコンシャスバイアスにもとづいて採用活動を行うと、似たような人材ばかりを採用してしまい、優れた人材を逃してしまうことにもなるだろう。
評価の面では「子育てをしている女性に役職は任せられない」、「残業をしない社員は向上心がなく、昇進に興味がない」などの偏見によって、優秀な社員の昇進や成長が阻害されるケースがある。
本人の希望よりも偏見にもとづく判断が優先されれば、会社に対する社員の不満は蓄積していくだろう。その結果「会社を辞めたい」という思いが強まり、長期的な視点では定着率の低下にもつながってしまうのだ。
このようなアンコンシャスバイアスを見逃していると、偏った見方をすることが組織の風土として根付いてしまう。偏見や思い込みにとらわれていることが社外にも知れ渡れば、ブランドイメージの悪化が避けられないだろう。
無意識の偏見や思い込みは、採用活動や人材育成、対外的な信用度に悪影響を及ぼす。組織運営においては、アンコンシャスバイアスがまん延していないかどうかを注意深く観察する必要があるだろう。
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アンコンシャスバイアスの具体例
アンコンシャスバイアスは一括りにできるものではなく、どのような心理や思い込みが働いているかによって、いくつかのパターンに分類される。ここでは、代表的な3つの例を見ていこう。
確証バイアス
自身の仮説と辻褄が合う情報のみを収集し、反対意見や反証データを受け付けない姿勢を「確証バイアス」という。言い換えると、自分にとって都合のいい情報だけを信じ込み、客観的な視点をもたない状態だ。
例えば、「成果を出すためには長時間労働が必要だ」という確証バイアスにかかっていると、長時間労働を肯定するデータや著名人の意見だけを取り入れ、長時間労働の問題点を指摘する意見やエビデンスを無視してしまう。
主観的にしか物事を見られない状態では、確証バイアスを取り払うことが難しい。確証バイアスから脱するためには、自分の仮説と相反するデータも積極的に収集し、中立的な視点で物事を判断することが重要である。
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正常性バイアス
「正常性バイアス」とは、危機に直面しているにもかかわらず、問題の程度を過小評価したり、不都合な情報を拒絶したりすることだ。「自分には関係ない」、「そのような問題が起こるはずがない」など、事態の悪化を楽観視するのが特徴である。
正常性バイアスが働いていると、問題が発生した際の対処が遅れてしまう可能性がある。重大なトラブルが予測される場面において、「前回もなんとかなったから大丈夫」と楽観的に考えていると、根本的な課題解決は難しいだろう。
集団同調性バイアス
所属する集団の常識や価値観に同調すること、または同調を強要することは「集団同調性バイアス」と呼ばれる。集団同調性バイアスが働いていると、「うちの会社ではこのやり方が正しい」、「みんなが言っているから間違いない」など、集団の考え方に疑問をもたなくなってしまう。
その結果、集団のあり方に意見する人がいなくなり、非常識な慣習やコンプライアンス違反が見過ごされることもあるのだ。集団同調性バイアスを取り払うためには、集団の考え方を絶対視せず、反証的な意見やデータなどに目を向ける必要があるだろう。
認知バイアスには他にも、能力の低い人ほど、実際の評価と自己評価との間に大きなギャップが生じてしまう「ダニング=クルーガー効果」がある。また、他者から期待されることでパフォーマンスが向上する現象を指す「ピグマリオン効果」も採用、人材育成に関わる立場であれば確認しておこう。
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アンコンシャスバイアスの対策
ネガティブなアンコンシャスバイアスは、組織運営の大きな妨げになりかねない。特に多様化が進む現代においては、アンコンシャスバイアスへの対策が重要な鍵となるだろう。ここでは、偏見や差別的な見方を回避するために有効な方法を解説する。
1.アンコンシャスバイアスへの気づき
アンコンシャスバイアスを解消するためには、「無意識に偏った見方をしていること」を自分自身で認知する必要がある。
アンコンシャスバイアスは自己防衛心の上に成り立っており、根本的に排除することはできない。完全に払拭するのが難しいものだからこそ、アンコンシャスバイアスの存在を自覚し、向き合っていく姿勢が重要なのだ。
無意識の偏見に気づくためには、発言に対する相手の反応や、自分自身の感情などをメモしておくことが有効である。例えば、何か思い切った決断ができない場合は、自分に対してアンコンシャスバイアスが働き、「自分には無理だ」と決めつけているのかもしれない。
メモをとることで自己認知力を高め、「自分の発言によって傷つく人がいないか」、「アンコンシャスバイアスというフィルターを通して物事を判断していないか」を常に検証する姿勢を心がけよう。
2.決めつけ、押しつけをしない
アンコンシャスバイアスは、偏った固定観念によって形成されやすい。そのため、決めつけや押しつけをやめることも対処法として有効である。
例えば「どうせ〜だ」、「〜すべきだ」などの言動をしている場合は、アンコンシャスバイアスが働いている可能性が高い。このような決めつけや押しつけの言動を意識的になくすことで、フラットな視点から物事を見られるようになったり、多様な考え方を取り込みやすくなったりするだろう。
3.相手とのコミュニケーションの違和感をそのままにしない
アンコンシャスバイアス対策では、コミュニケーション中にアンテナを張っておくことが重要だ。会話中に「相手の表情が暗くなった」、「イライラしているように見えた」などの変化があれば、自身の発言によって相手を傷つけてしまった可能性が高い。
そのような違和感に気づいた際は、自身の発言に偏見が含まれていないかどうかを疑い、相手の考え方に寄り添う姿勢を見せることが大切である。
まとめ
アンコンシャスバイアスは、無意識に存在する偏見や思い込み、決めつけを意味する。具体的には、性別や年齢、文化などに対する固定観念から、物事を偏った見方で捉えてしまうことだ。
アンコンシャスバイアスが働くと、社内の人間関係が悪化したり、社員のモチベーションや定着率が低下したりする。偏見や差別が組織風土として根付くと、ブランドイメージの悪化にもつながるだろう。
ダイバーシティ&インクルージョンを推し進めるうえで、アンコンシャスバイアスは大きな障害となりうる。アンコンシャスバイアスを解消するためには、一人ひとりが偏見を自覚し、多様な考え方を受け入れることが重要である。