2021.8.5

ピグマリオン効果とは?ゴーレム効果との違いや人材育成に活かす方法

読了まで約 6

■ピグマリオン効果とは? 定義と由来

■ピグマリオン効果に関する2つの実験

■「ゴーレム効果」との違いとは

■「ハロー効果」との違いとは

■ピグマリオン効果の活用例

■ピグマリオン効果の注意点

ピグマリオン効果とは? その定義と由来

仕事や勉強、スポーツなどのあらゆる場面において、周囲からの「応援している」という言葉に支えられて、いつも以上の成果を出せたという経験はないだろうか。
誰かに期待をされているという実感は、個人のモチベーションだけでなく、実際の結果にまで影響を及ぼすものだ。
そのような心理的効果の1つとして、高い注目を集めているのが「ピグマリオン効果」だ。
ピグマリオン効果とは教育心理学の用語で、他者から期待されることでパフォーマンスが向上する現象を指す。
アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって提唱されたことから、別名「ローゼンタール効果」、または「教育期待効果」とも呼ばれている。
ピグマリオン効果はギリシャ神話と深い関係があり、その名称はギリシャ神話に登場する王様の名前が由来だとされている。
地中海のキプロス島の王様であるピグマリオンは、現実の女性に失望したことから、自らの手で理想とする女性像を彫ったところ、その像に恋をしてしまい、像が本物の人間になることを切に願った。
すると、その姿を見た神によって願いが叶えられ、ピグマリオンはめでたくその女性と結婚することができたのだ。
この神話が由来となり、期待することで相手のパフォーマンスが向上するという心理現象が、ピグマリオン効果と名付けられた。
最初にピグマリオン効果が発見されたきっかけは、提唱者であるローゼンタールとフォードが1963年に行ったネズミを使った迷路実験であった。
実験を行う際に、個体差のないネズミをあえて「これはよく訓練された利口なネズミ」、「これは訓練されていない利口でないネズミ」と説明をしたうえで学生たちに渡した。
すると、利口なネズミを渡された学生たちはネズミを丁寧に扱い、そうでないネズミを渡された学生たちは、ネズミをぞんざいに扱った。
また、実際には個体差がないにも関わらず、利口とされたネズミの方が良い結果が出たと報告する学生が多かったという。
ローゼンタールは、これは両者のネズミへの期待値の違いが結果にも反映されたのだと結論付けた。
そして、学生とネズミの間で起こった現象は、人間同士でも成り立つのではないかと考え、1964年にサンフランシスコの小学校である実験を行った。
ローゼンタールは生徒に一般的な知能テストを受けさせたが、学級担任にはそれを「今後成績が伸びる生徒が分かる特別なテスト」であると説明し、テスト後、結果に関係なくランダムに選出した生徒のリストを「今後成績が伸びるのは、この生徒たちである」と伝えた。
すると、ランダムに選ばれたにも関わらず、学級担任から「成績が向上する生徒」と期待された生徒の成績は向上したのだ。
この実験によって、人のモチベーションやパフォーマンスは他者の期待によって向上することが明らかとなった。
このピグマリオン効果を上手に活用することは、企業の人材育成にも大いに役立つであろう。
そこで本稿では、社員のモチベーションを向上させ、最大限のパフォーマンスを引き出すことが期待できるピグマリオン効果について、他の心理的効果との違い、活用事例や注意点について解説していこう。

ゴーレム効果、ハロー効果などとどう違うのか

心理的効果にはさまざまな種類が存在するが、ピグマリオン効果とは反対の作用として「ゴーレム効果」と呼ばれるものがある。
ゴーレム効果とは、人が他者から期待されていないと感じることによってパフォーマンスが低下する現象のことを指し、この概念もピグマリオン効果と同じくロバート・ローゼンタールによって提唱された。
先述したものと同様の実験を行い、ランダムに選出された生徒に対して、「これらの生徒は成績が悪い生徒である」と学級担任に伝えたところ、その生徒たちの成績が下がったという結果からゴーレム効果が明らかとなったのだ。
他人から期待をされるとピグマリオン効果によってパフォーマンスが向上する反面、まったく期待をされないとゴーレム効果によってパフォーマンスの低下を招いてしまう。
このゴーレム効果はビジネスシーンにおいても成り立つと言える。
たとえば、上司が部下に対して、「失敗をしてばかりだ」というような批判を繰り返したり、部下の話をまともに聞かないというような状況であった場合、「自分は上司に期待をされていない」と感じたことによって、部下のモチベーションやパフォーマンスの低下、成長の遅れにつながってしまう恐れがあるのだ。
そのため、人材育成やマネジメントなどの場面においては、ゴーレム効果に陥らないよう細心の注意を払う必要があるだろう。
また、ピグマリオン効果と意味が似ている心理的効果に、「ハロー効果」というものがある。
ハロー効果とは、1つの側面に対するイメージを、全体への評価として錯覚してしまうことを指す。
つまり、相手を評価するときにその人の目立つ特徴に引きずられてしまうことで、他の特徴についての評価までもが歪められてしまうということだ。
たとえば、「良い大学出身の人だから仕事ができそう」というようなポジティブな効果をもたらす場合もあれば、反対に、「身だしなみが整っていないから性格もだらしがないのだろう」というようなネガティブな効果をもたらす場合もある。
ピグマリオン効果もハロー効果も認識が歪められる認知バイアスの1種という共通点はあるが、ピグマリオン効果は評価をされる側が相手の期待に応えようと行動を変える心理現象であるのに対して、ハロー効果は評価を下す側の心理現象であることに違いがある。
また、ハロー効果は現時点での事実誤認であるが、ピグマリオン効果は未来の成果を変える現象であるため、時間軸においても明確な違いがあると言える。

関連記事:「確証バイアス」とは?例と採用選考や人事評価の際に注意したいポイントをご紹介

ピグマリオン効果の活用事例と注意点

これまで解説してきたように、ピグマリオン効果をうまく活用することで、成果を向上させる効果が期待できる。
実際、ピグマリオン効果はビジネスシーンで活用されることもあるため、どのような場面で役立つのかを把握しておくとよい。
シーン別の具体的な活用例を解説しよう。

<ピグマリオン効果の活用例>
1. 人材育成
ピグマリオン効果が活用される最もポピュラーな事例としてあげられるのは、部下や新入社員などの人材育成の場面だ。
成長途中の社員は仕事を覚えている段階でミスをしてしまうことも多々あるだろう。
しかし、その際にミスしたことをただ𠮟りつけるのではなく、「そのミスを次に活かすことを期待している」、「ミスは少なくなってきているので期待している」などの言葉をかけると良い。
部下や新入社員が、自分が期待をされていることを実感できれば、ピグマリオン効果によって、その後の成長に良い変化が生じる可能性が期待できるだろう。
2. 自分のモチベーション向上
ピグマリオン効果の対象となるのは他人だけではなく、自分自身に対して効果をもたらすことも可能である。
目標や前向きな言葉を紙に書いて見えやすい場所に貼ったり、小さなチャレンジを繰り返したりすることで、自分の持つ可能性をポジティブに捉えることができるようになる。
自分の可能性をポジティブに捉えて、期待することを習慣化することで、ピグマリオン効果が働いて、目標達成や成果を高めるためのモチベーション向上につなげることができるだろう。

人材育成や自分のモチベーション向上にも大いに役立つピグマリオン効果であるが、活用するうえでは注意点もある。
ピグマリオン効果を最大限に引き出すためにも、注意点をしっかりと把握しておくことが必要だ。
特に注意しておきたい点としてあげられるのは、「褒めすぎない」ことである。
むやみに褒めすぎてしまうことで、現状に甘えてしまったり、手を抜いたりしてしまうケースが生じ、かえって成長の妨げとなる可能性もあるため、注意したい。
このような事態を回避するためには、「叱り」と「褒め」をバランス良く使っていくことが大切だ。
このバランスをうまくキープすることで、部下や社員が持つ能力を引き出しやすくなる。
また、相手に合わせて期待値の量や質を見極めることも、ピグマリオン効果を最大限に活用するために気をつけておきたいポイントだ。

ここまでピグマリオン効果について解説をしてきた。
ピグマリオン効果はうまく活用することで、人材育成やパフォーマンスの向上に役立つ非常に優れた心理的効果である。
ピグマリオン効果によって他人や自分の能力を最大限に引き出すことは、企業全体の成長にもつなげることが大いに期待できるだろう。

まとめ

・他者から期待をされているという実感は、モチベーションだけでなく、実際の結果にまで影響を及ぼすものだ。そのような心理的効果は「ピグマリオン効果」と呼ばれ、アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって提唱された概念である。その名称はギリシャ神話に由来があり、ピグマリオンという王様の願望が、願い続けたことで神によって叶えられた、という逸話から、期待することで相手のパフォーマンスが向上するという心理現象は、ピグマリオン効果と名付けられた。

・ピグマリオン効果が最初に発見されたきっかけは1963年に行われたネズミを使った迷路実験であった。実際にネズミに個体差はなかったものの、期待値が高いネズミの方が良い結果が出たと報告されたことから、ローゼンタールは同じ現象が人間の間にも成り立つのではないかと考え、翌年、小学校で「特別なテスト」と称した一般的な知能テストを用いて実験を行い、その結果から無作為に選出した生徒のリストを作成し、「今後成績が伸びる生徒である」と学級担任に伝えたところ、期待値の高い生徒の成績が向上したという結果が出たため、ピグマリオン効果が明らかとなった。

・ピグマリオン効果とは反対の作用を生む心的効果として「ゴーレム効果」がある。この概念もローゼンタールによって提唱されたもので、人が他者から期待されていないと感じることによってパフォーマンスが低下する現象のことを指す。ビジネスシーンにおいてゴーレム効果が生じてしまうと、社員のモチベーションやパフォーマンスの低下、成長の遅れにつながってしまう恐れがあるため、人材育成やマネジメントなどの場面ではゴーレム効果に陥らないよう注意を払う必要がある。

・ピグマリオン効果と意味が似ている心理的効果として「ハロー効果」がある。ハロー効果とは、相手の1つの特徴に対するイメージに引きずられて、それを全体の評価として錯覚してしまうことを指し、ポジティブな効果もネガティブな効果も生み出す。ピグマリオン効果もハロー効果も認知バイアスの1種という共通点はあるが、ピグマリオン効果は評価をされる側の心理現象であるのに対して、ハロー効果は評価を下す側の心理現象であることに違いがある。また、ハロー効果は現時点での事実誤認であるが、ピグマリオン効果は未来の成果を変える現象であるため、時間軸においても明確な違いがあると言える。

・ピグマリオン効果のシーン別の具体的な活用例としてあげられるのは次のとおりだ。1.人材育成:部下や新入社員に対し、叱るだけでなくポジティブな言葉をかけることで、相手が期待をされていることを実感できれば、ピグマリオン効果によって、その後の成長に良い変化が生じる可能性が期待できる。2.自分のモチベーション向上:自分の持つ可能性をポジティブに捉えて、期待することを習慣化することで、ピグマリオン効果が働いて、目標達成や成果を高めるためのモチベーション向上につながる。

・ピグマリオン効果はさまざまな効果が期待できる一方で、注意点もある。特に注意したいのは「褒めすぎない」ことだ。むやみに褒めすぎてしまうことで、甘えや手抜きが生じ、かえって成長の妨げとなってしまう可能性があるため注意が必要だ。「叱り」と「褒め」をバランス良く使っていくことでこのような事態を回避でき、社員が持つ能力を最大限に引き出しやすくなる。また、相手に合わせて期待値を決めることもピグマリオン効果を最大限に活用するために重要なポイントだ。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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