■VUCA時代に再び脚光を浴びている「コンティンジェンシー理論」とは
■コンティンジェンシー理論以前のリーダーシップ論
■コンティンジェンシー理論へつながった研究事例
■コンティンジェンシー・モデルとは
■時代によって異なる「理想的なリーダーシップ」
なぜ今コンティンジェンシー理論なのか? その背景
「VUCAの時代」と呼ばれ、あらゆるものを取り巻く環境が目まぐるしく変化し、将来の予測が困難な状態に陥っている現代。
変化に取り残されないよう、どのように企業や組織が舵をとっていくのか多くの議論がなされている。
なかでも、企業や組織の意思決定や運営に多大な影響を与えるリーダーシップに関する考察が見直される中で、再び脚光を浴びている理論がある。それがコンティンジェンシー理論だ。
リーダーシップ論は、古くから多くの学者の学術的な関心を集めており、1900年代以降になるとアメリカを中心として研究が進められ、多大なる発展を遂げてきた。
1960年代になると、バーンズ&ストーカー、ウッドワード、ローレンス&ローシュ、フィドラーなどによって「コンティンジェンシー理論」が提唱された。日本でも1980年代に、加護野忠雄などによって論じられている。
「contingency(コンティンジェンシー)」とは偶然性や偶発性、不確実性という意味を持つ英単語である。コンティンジェンシー理論は、唯一最適なリーダーシップ・スタイルは存在せず、外部環境や状況によって望ましいリーダーシップのスタイルも異なる、という考え方のもと生まれたリーダーシップ論である。
かなり古い時代の理論だが、現代がVUCAと呼ばれ、先行き不透明であることから、この時代を乗り切る理論として再注目されているのだ。
コンティンジェンシー理論が生まれた背景として、まずはそれ以前のリーダーシップ論を2つ紹介しておく。
<コンティンジェンシー理論以前のリーダーシップ論>
1. リーダーシップ特性理論
リーダーシップ研究の中でも最も古典的な理論であるとされている「特性理論」は、1940年代頃まで主流とされていたリーダーシップ論で、「リーダーシップは後天的に身につけられるものではなく、生まれ持った才能である」という仮説に基づいた考え方である。
歴史上の重要な書物である、プラトンの『国家論』の中では「英知を持ったリーダーが国を治めよ」という主張がされており、マキャベリの『君主論』では「権謀術数に長けたリーダー像」の必要性について言及されている。
また、イギリスの歴史家・評論家であるトーマス・カーライルは「リーダーシップ偉人説」の中で、「他より優れた何らかの資質を持つ偉人のみがリーダーになることができる」と説いている。
しかし、優れたリーダーの研究をしても普遍的な特性の発見には至らなかったため、科学的にこの理論を証明できる研究結果は得られず、広く展開されることはなかった。
2. リーダーシップ行動理論
1940年代頃から登場した「行動理論」は、それ以前に提唱されていた特性理論とは対照的に、「リーダーシップは天性のものではなく、行動によって作られる」という考え方に基づいた理論である。
機能論・職能論ともいわれ、優秀なリーダーが取る行動を研究し、その行動を模倣させることで優れたリーダーを育てようとした。
行動理論の研究は世界中で行われ、方法に多少の違いはあったものの、組織力を向上させるには、「課題達成(Task)」と「人間関係を維持すること(Relation)」の2つの機能が必要であるという結論が得られた。
コンティンジェンシー理論に関する代表的な研究
前項で見た通り、多様化の時代に対応すべく、リーダーシップ論においてもさまざまな異なる条件の下での研究が行われるようになった。その中で生まれたのが「コンティンジェンシー理論」だが、本項ではどのような研究が行われてきたかについて、代表的な事例を紹介しよう。
<コンティンジェンシー理論へつながった研究事例>
1. 機械的組織と有機的組織
まずはイギリスの社会学者バーンズと、心理学者ストーカーによって行われた、エレクトロニクス分野における事業組織の構造についての研究だ。
イギリスの20の企業を対象に、どのような組織がどのような環境下で有効なのかという研究を行ない、両極端な二つの組織構造をそれぞれ「機械的組織」、「有機的組織」と定義した。
・ 機械的組織:階層が明確な官僚的組織構造を特徴とし、情報や権限が上層部に集中しており、指示・命令的なリーダーシップが取られる。
・ 有機的組織:役割分担が明確化されておらず状況に合わせて調整が図られ、情報や権限が分散しており、支援的なリーダーシップが取られる。
バーンズとストーカーはこの研究で、マーケットや技術環境などの変化が激しく、不安定な場合には有機的組織が有効であり、外部環境の変化が緩やかで安定している場合には、機械的組織が有効であると主張した。
最終的な結論としては、これら2つの組織構造はどちらか一方が優れているというわけではなく、その有効性はマーケットや利用技術など、経営環境によって変化するということだ。
リーダーシップの観点においても同じように、状況に応じて望ましいスタイルは異なるということがわかった。
2. 組織の条件適応理論
次に紹介するのは、ハーバードビジネススクールの教授であるローレンスとローシュによる研究だ。
1967年にローレンスとローシュが著した『組織の条件適応理論』によってコンティンジェンシー理論は広まることとなった。
この研究では、異なる環境に身を置く3業種を対象に、「分化」と「統合」という観点から組織の状態と業績の関連性を調査している。
結果として、この分化と統合をうまく行い、組織内部の状態を外部環境に適合するよう調整する機能を持っている企業は、良い業績を出していると結論付けた。
また、ローレンスとローシュは『組織の条件適応理論』のなかで企業組織の内部状態・プロセス・外部状況はそれぞれ異なるため、「唯一絶対の方法(only one best way)」は存在しないことも見出しており、リーダーシップの観点においても、組織内の各部門において最適なリーダーシップは異なるという見解を示している。
コンティンジェンシー・モデルに見るこれからのリーダー像
最後に、リーダーシップ・スタイルという概念を取り入れた研究事例として、1964年にフィドラーが提唱した「コンティンジェンシー・モデル」を紹介しよう。
コンティンジェンシー・モデルは「最適なリーダーシップ・スタイルは組織を取り巻く状況によって異なる」という理論で、リーダーシップとは資質ではなく、「状況に応じて役割を変える必要があるもの」だという立場をとっている。
もう少し掘り下げて見てみよう。
<コンティンジェンシー・モデルとは>
1. 状況好意性
リーダーシップの有効性に関わる条件変数は「状況好意性」という概念で定義されている。
状況変数には3つの要素があり、一般的にはこのようにいわれている。
・ リーダーが組織の他のメンバーに受け入れられる度合い
・ 仕事・課題の明確さ
・ リーダーが部下をコントロールする権限の強さ
3つの変数がそれぞれ高い場合は、状況好意性が高くリーダーシップを発揮しやすい状況、低い場合にはリーダーシップを発揮することが困難な状況とされる。
2. LPC(Least Preferred Coworker)
フィドラーはリーダーシップの測定尺度として、LPC(Least Preferred Coworker=最も嫌いな同僚)という指標を定めている。
LPC得点の高いリーダーは苦手な同僚とも友好的な関係を築くことのできる「人間関係志向」のリーダー、LPC得点の低いリーダーは苦手な同僚と人間関係を築くよりも職務遂行を優先する「職務志向」のリーダーとして分類される。
コンティンジェンシー理論では、前述の状況変数と組み合わせた「LPC」×「3つの状況変数」の計算式によって導き出される数値が、リーダーが実際にあげることのできる業績に直結する指標であるとしている。
3. リーダーシップ・スタイル
リーダーシップ・スタイルは一般的に「タスク中心・指示的なスタイル」と「人間関係中心・非指示的なスタイル」の2つに分けられる。
リーダーにとって状況好意性がとても高い、あるいはとても低い場合には、タスク中心・指示的なスタイルが有効とされ、状況好意性が高くも低くもない場合には人間関係中心・非指示的なスタイルが有効であるとされる。
このようにフィドラーは、「唯一の正解」といえるリーダーシップは存在せず、状況によって有効なリーダーシップは異なるということを提唱し、この考え方は後の研究者にも多くの影響を与え、引き継がれていった。
たとえば、1977年にハーシーとブランチャードが提唱した「SL理論」は、フィドラーのコンティンジェンシー・モデルの状況要因をさらに深堀りし、メンバーの習熟度に注目して展開されたリーダーシップ論だ。SLは、Situational Leadershipの略で状況対応型リーダーシップと呼ばれることもある。
このように、時代によって外部の経営環境や組織の内部要因は変化し、それに合わせて理想的なリーダーシップも異なってくる。
先述したとおり、コンティンジェンシー理論はかなり古い時代の理論であり、そのまま当てはめては、現代の組織運営に合わない部分も多く存在する。
ただ、先の見通しがつきにくい不確実性の高い現代において、柔軟なリーダーシップを唱えているコンティンジェンシー理論の考え方自体は、組織運営を行ううえで大きな可能性を期待できる。
変化のスピードがより急激になっている今の時代にふさわしい、新しいコンティンジェンシー理論が組織の成功を導くために必要となるだろう。
まとめ
・リーダーシップ論は、古くから多くの学者の関心を集めており、1900年代以降にはアメリカを中心とした研究によりさらなる発展を遂げてきた。1960年代になると、「コンティンジェンシー理論」が提唱され、日本でも1980年代に論じられている。コンティンジェンシー理論は、唯一最適なリーダーシップ・スタイルは存在せず、外部環境や状況によって望ましいリーダーシップのスタイルも異なる、という考え方のもと生まれたリーダーシップ論で、かなり古い時代の理論だが、VUCA時代である現代において、再び脚光を浴びている。
・コンティンジェンシー理論が生まれた背景として、まずはそれ以前のリーダーシップ論を紹介しよう。次の2つがあげられる。1.リーダーシップ特性理論:「リーダーシップは後天的に身につけられるものではなく、生まれ持った才能である」という考え方に基づいた理論、多くの歴史的な書物にも特性理論の基礎となるような主張がされている。2.リーダーシップ行動理論:「リーダーシップは天性のものではなく、行動によって作られる」という考え方に基づいた理論。
・コンティンジェンシー理論へつながった研究事例として、代表的な事例を2つ紹介しよう。1.機械的組織と有機的組織:バーンズとストーカーによる研究で、両極端な組織構造である「機械的組織」、「有機的組織」は経営環境によって有効な組織構造は変わるという結論が得られた。2.組織の条件適応理論:ローレンスとローシュによる研究で、分化と統合をうまく行い、組織内部の状態を外部環境に適合するよう調整する機能を持っている企業は、良い業績を出していると結論付けた。
・1964年にフィドラーが提唱した「コンティンジェンシー・モデル」を紹介しよう。1.状況好意性、2.LPC(Least Preferred Coworker)、3.リーダーシップ・スタイル。コンティンジェンシー・モデルは「最適なリーダーシップ・スタイルは組織を取り巻く状況によって異なる」という理論で、リーダーシップとは資質ではなく、「状況に応じて役割を変える必要があるもの」だという立場をとっている。この考え方は後の研究者にも多くの影響を与えた。1977年にハーシーとブランチャードが、状況要因をさらに深堀りし、メンバーの習熟度に注目して展開した「SL理論」もその例のひとつである。
・時代によって外部の経営環境や組織の内部要因は変化し、理想的なリーダーシップも異なってくる。コンティンジェンシー理論はかなり古い時代の理論であり、そのまま当てはめては、現代の組織運営に合わない部分も多く存在するが、先の見通しがつきにくい現代において、柔軟なリーダーシップを唱えているコンティンジェンシー理論の考え方自体は、大きな可能性を期待できる。組織の成功を導くためには、変化のスピードがより急激になっている今の時代にふさわしい、新しいコンティンジェンシー理論が必要となる。