■フォロワーシップが注目される背景
■フォロワーシップとは何か?
■フォロワーシップとメンバーシップの相違点
■リーダーシップとフォロワーシップの関係性
■フォロワーシップを高めるためにはどうすべきか?
■フォロワーシップを高める3つのポイント
フォロワーシップとは? なぜ注目されるのか
コロナ禍は、一年以上にわたって社会のあらゆる方面に大きな影響を及ぼしている。
なかでも経済活動に目を向ければ、新型コロナウイルス感染拡大初期から現在に至るまで、あらゆる国と地域において、深刻な停滞を経験していないところはないとすらいえる。
日本においても、度重なる緊急事態宣言下において、飲食業をはじめとして多くの業種がビジネスの行き詰まりや廃業、倒産などを余儀なくされている。
現在なんとか操業を続けている事業であっても、今後の状況によっては緊急事態宣言がまたもや発出される可能性もあることから、日本企業は、空前絶後の熾烈な生存競争を強いられているといえよう。
市場競争において、企業が勝ち抜くために重要となる要素のひとつは、生産性の向上である。
不確実で曖昧なVUCA時代と呼ばれる現代社会において、新型コロナウイルス感染拡大という先行き不透明な不安要素がさらに加わることを考えた場合、企業活動にとって、徹底的な無駄の排除と生産性の向上は、今まさに喫緊の課題である。
無論、企業をかたち作るのは人であり、このため、能率よく業務を推進し、事業の業績をけん引することができる、高い生産性をもたらす人材が、中長期的に自社で活躍できることが重要な鍵となる。
ある程度の規模の企業が業績を上昇させていく好循環を生み出すにあたって、人事戦略において重要となる要素が2つある。
1つ目は、このような高い生産性をもたらしつつ積極的なリーダーシップを発揮できる人材が長く自社で活躍することが可能であり、尚かつ若手からリーダー層を育成していく環境が整っていること。
2つ目は、このような社内環境を実現し、自社の人材をリテンションしつつ育成することが、人事戦略として重 要視されており、経営計画の大きなウェイトを占めていること、である。
他方で、緊急事態宣言発令の影響で、半ば強制的かつ急速に普及が進んだ在宅勤務や時差出勤などを導入した企業からは、生産性の低下や、従業員の労務管理が困難であること、あるいは組織への帰属意識の希薄化など、数多く懸念の声が上がっており、長期化するコロナ禍によって、すでに厳しい業績と市場環境下で競争を強いられている日本企業の現状に加えて、社内での組織運営に係る課題が噴出しているかたちだ。
このような、ウィズ・コロナ時代と先行きが見えないVUCAと呼称される現代社会において、新しい組織の在り方や、従業員の働き方が問われ続ける中で、組織を束ねる新しいリーダーシップと両輪を成す存在として注目を集めているのが、「フォロワーシップ」である。
フォロワーシップとは、部下などが自律的かつ主体的に考えて行動しリーダーを支援することで、チームの業績最大化へ貢献することを指している。リーダーシップとフォロワーシップは不可分の関係にあり、リーダーとチームが一体となることで、業績上昇を目指す考え方に基づいている。
例えば、リーダーがすばらしいビジョンを示したとしよう。しかしチームメンバーの共感を得られず、メンバー内でビジョンの共有や具現化が不可能であった場合、チームとしての成果にはつながらないのだ。
また逆に、チームが単純にリーダーに付き従うのみであった場合、チームとして誤った方向へ突き進んだ場合、誰にも歯止めがきかなくなってしまう。
このように、組織としての力は、リーダーシップの下のみで成り立つのではなく、メンバー全員のフォロワーシップにも大きく懸かっているものである。
本稿では、フォロワーシップやリーダーシップ、メンバーシップなどの違いを解説しつつ、組織においてフォロワーシップを高めるためのポイントについて見ていこう。
リーダーシップ、メンバーシップとの違い
前項ではフォロワーシップが企業の組織マネジメント課題に資すると期待される背景について見てきた。
ここではまず、近しい言葉として混同されることも多いフォロワーシップとメンバーシップの違いについて確認していき、次に、組織におけるフォロワーシップとリーダーシップの関係や、相互に求められている役割について見ていくことで、フォロワーシップについての理解をより深めていこう。
1. フォロワーシップとメンバーシップの違い
まずフォロワーシップへの理解を深める上で、リーダーシップとの関係以前に、混同しやすいメンバーシップとの相違点について確認していく必要がある。
フォロワーシップとメンバーシップの最も大きな違いは、「なにを支えているのか」という点にある。
フォロワーシップとは、チームのリーダーとなる立場の人を補佐したり、支援したりするという考え方である。対して、メンバーシップとは、チームにおける自身の本分を果たすことで、チーム全体を支援し、チームの業績最大化に貢献していくという考え方である。
こう説明しても用語上の違いがわかりにくいので、もう少し詳しく説明しよう。
フォロワーシップとは、チームにおける「人と人との繋がり」、つまり組織機能の維持と強化を目的としている。
対して、メンバーシップでは、あくまでチームとしての利益最大化など、「アウトプットへの貢献」が最も重要視されていることから、必ずしも組織の連帯感・一体感などを維持することに資するものではない。
ここでフォロワーシップを重視するメリットは、チーム内のリーダーとメンバーの信頼関係を強化できる点だ。
2. リーダーシップとフォロワーシップの関係
リーダーシップとフォロワーシップは、完全に相互補完の関係にある。
リーダーが適切なかたちでリーダーシップを発揮し、メンバーが高いフォロワーシップを発揮することができる環境では、チームの成果が最大限にもたらされることになる。
では、フォロワーシップを重視してこれを高めた場合、組織にはどのようなメリットがあるのだろう。
リーダーシップとフォロワーシップが適切なかたちで発揮される環境での最も大きなメリットのひとつは、リーダーとメンバーとの間での信頼関係を構築し、互いに建設的な議論が可能であり、余計なストレスがなくなり、チームが一丸となって目的のために業務遂行できることである。
また、リモートワークなどで直接的なマネジメントが行き届きづらい状況においても、フォロワーシップが強化されている組織の場合、自律的かつ自発的なメンバーが積極的にリーダーとのコミュニケーションを取ることで、組織内の齟齬や認識相違を都度解消していくこともメリットとして期待できる。
古くは、先天性の才覚だとされたリーダーシップも、近年の研究では後から身に付けることが可能な、時と状況によって変化するものであり、固定化されていないスキルとして認知されている。
このため、リーダー以外のメンバーにも時と状況によって変化するスキルとしてのリーダーシップやフォロワーシップが求められる場面が考えられる。
そこで次項では、フォロワーシップを自社の組織内で高めていく上でのポイントについて見ていこう。
フォロワーシップを高めるには
ここまでの解説で分かるとおり、優秀なチームとは決して優秀なリーダーのみ、あるいは優秀なメンバーのみで成り立つものではなく、リーダーシップとフォロワーシップがバランス良く適切なかたちで機能しているときに最大限のメリットを発揮するものだ。
このため、リーダーシップの教育や研修と同じように、企業における優秀なフォロワーシップを持つ人材、すなわち自ら考えて行動することができる主体性をもったチームメンバーを育成していく環境づくりは重要だ。
本項では、フォロワーシップを高めていくことができる組織づくりの3つのポイントについて解説していこう。
1. フォロワーシップに対する、組織リーダーの深い理解と支持があること
優秀なフォロワーシップを発揮できる組織づくりで、まず重要なのは、チームのメンバーたちがフォロワーシップを発揮できるよう、リーダーが各メンバーに求められている役割を正しく理解することである。
フォロワーシップを発揮しようとするメンバーの行動を認め、深く理解して、これを奨励することで、対話を通じたメンバーのフォロワーシップを更に高めていく環境の醸成にも資することが期待できる。
また、メンバーがフォロワーシップを発揮できず、萎縮してしまうようなことがないように、業務において失敗することを恐れず、果敢に何度でも挑戦することができるような環境づくりも、フォロワーシップを高める際に有効なポイントとなる。
2. リーダーの考え方やニーズを、チームに浸透させていくこと
組織において、リーダーに求められる役割と、メンバーに求められるそれとでは、大きく異なる。
このため、双方に「見えている光景」は必然的に異なることから、状況に応じて認識のすり合わせを行うための建設的な議論が必要となる。
チームのメンバーたちが、自律的にリーダーを支援して、フォロワーシップを発揮するためには、リーダーが担う役割と実践しようとしている考えについて、どれだけ深く、正確に理解しているかが重要なポイントとなるめ、これを浸透させる努力が必要となる。
チームメンバーとリーダーとの相互理解を進めていき、報告、連絡、相談など、組織における基本的なコミュニケーションを徹底して行うことで、互いに双方の判断や業務進捗などを推し量ったり、察したりするなどの、相互理解が深まることによるメリットが生まれるといえよう。
ここでも重要となるのは、どちらか一方的に努力することではなく、リーダーシップとフォロワーシップの相乗効果を求めるため、リーダーを含めたチームが一体となって、努力することが求められる。
3. リーダーとメンバーが、本音で対話することができる環境を作ること
リーダーとチームメンバーとでは、組織上の役職の差はあれども、同じチームとしてひとつの目的に向かっていることは変わりない。このため、必要とされるときには、対等の立場で風通しの良いコミュニケーションを図ることができる組織づくりが欠かせない。
リーダーからの一方的な上意下達や、一部メンバーなどからの過剰なピアプレッシャーによる同調圧力ではなく、建設的な議論を交わすことにより、チーム内でのコミュニケーションを通じて「共通認識」を醸成することが重要なポイントとなってくる。
また、この環境を実現するために、チームとしての目標や行動指針などを策定することで、明瞭な文章化された規則・規律を中心に行動することが望ましいといえよう。
フォロワーシップとは、メンバーがリーダーに対して行使する影響力という側面を有することから、正しくリーダーシップと表裏一体の関係にある。
このため、繰り返しとはなるが、リーダーシップとフォロワーシップが互いに働きかけることで、相乗効果を発揮できる環境と関係性を構築していくことが、チームの業績最大化を図っていく大きな推進力となることを忘れないでおきたい。
まとめ
・コロナ禍により、日本企業は社運を賭けた熾烈な生存競争を強いられている。このような、ウィズ・コロナ時代と先行きが見えないVUCAと呼称される現代社会において、新しい組織の在り方や、従業員の働き方が問われ続ける中で、組織を束ねる新しいリーダーシップと両輪を成す概念として注目を集めているのが、フォロワーシップだ。
・フォロワーシップとは、部下などが自律的かつ主体的に考えて行動しリーダーを支援することで、チームの業績最大化へ貢献することを指している。フォロワーシップは、チームメンバーがリーダーに対して行使する影響力でもあり、組織におけるリーダーシップとフォロワーシップは表裏一体であることから、双方が高めあうことで組織の業績最大化への貢献がはじめて可能となるものだ。
・フォロワーシップとメンバーシップの最も大きな違いは、「なにを支えているのか」という点にある。フォロワーシップとは、チームリーダーを扶助し、チーム組織の維持と強化に資するものであるのに対して、メンバーシップとは、メンバー個人が役割を果たすことでチーム全体に貢献し、業績や利益などのアウトプットに重点を置いている点に違いがある。
・リーダーシップとフォロワーシップは、完全に相互補完の関係にあり、リーダーが適切なかたちでリーダーシップを発揮し、メンバーがフォロワーシップを発揮することができる環境では、チームの成果が最大限にもたらされ、主なメリットとして、管理職と従業員との間での信頼関係を構築し、互いに建設的な議論が可能であり、不要なストレスなく目的のために業務遂行できることが挙げられる。
・優秀なチームとは決して優秀なリーダーのみ、あるいは優秀なメンバーのみで成り立つものではなく、リーダーシップとフォロワーシップがバランス良く適切なかたちで機能しているときに最大限のメリットを発揮するものである。このため、企業おいてはリーダーシップ研修と同じように、チームメンバーの従業員に自律的な行動を促すフォロワーシップを高める施策を用意することが求められる。
・優秀なフォロワーシップを発揮できる組織づくりにおいて重要なポイントは3つある。1つ目は、フォロワーシップに対する、組織リーダーの深い理解と支持があることだ。2つ目は、リーダーの考え方やニーズを、チームに浸透させていくことができていることだ。3つ目は、リーダーとメンバーが、本音で対話することができる環境づくりができていることだ。