2021.1.12

サーバント・リーダーシップとは?組織の中での特徴と支配型との違いを解説

読了まで約 7

■変化の激しい現代で求められるリーダー像

■指揮よりも奉仕することにフォーカスするリーダー

■サーバント・リーダーの10の特徴とは

■サーバント・リーダーシップに適さないケースも存在する

■リーダーシップもトップダウンからボトムアップへ

■多様化する時代におけるリーダーシップのあり方とは

サーバント・リーダーシップが求められる背景

人は、リーダーシップという言葉を聞くと、どのようなイメージを持つだろうか。

多くの人が思い描くリーダーシップとは、効率的な陣頭指揮や、適切な命令指示を行うことができ、他のメンバーを力強く導く人物像ではないだろうか。確かに、武家が社会を支配していた時代はもちろん、明治維新を経て戦後の民主主義の時代に至ってもなお、日本では長きにわたり、このような「支配型リーダーシップ」が主流であった。

上長が部下を管理し命令することで、組織の運営を取り仕切り、強い意志と組織のリーダーの考えや価値観を貫くことで部下をけん引していく、上下関係と強力な統率力に基づくリーダーシップである。

もちろん、経済成長が著しかった明治期や戦後の高度経済成長期には、このようなリーダーシップ像が一定の役割を果たし、日本企業の力強い成長を支えたことは間違いない。しかし、バブル崩壊やグローバリゼーションの時代に突入したことによって、ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化している現代において、新たに注目される「理想の上司」像は変化を遂げつつある。その概念として近年広まりつつある考え方が「サーバント・リーダーシップ」である。

「サーバント(servant)」とは、英語で召し使いや使用人を意味している。言葉どおり、サーバント・リーダーシップでは部下に対する奉仕の姿勢を重要視し、傾聴の姿勢をもって組織メンバーの能力最大化を図る環境づくりに取り組むことに重きを置いている点が特徴だ。部下の話に耳を傾け、能力を肯定し、協力しながら組織としての目標達成を促していくさまは、従来の支配型リーダーシップと比較して「支援型の」リーダーシップだと捉えることもできる。

アメリカのロバート・グリーンリーフ博士によって提唱されたリーダーシップ哲学である「サーバント・リーダーシップ」は、前述のとおり、上司から部下へというトップダウンの指揮命令系統に基づく従来型の組織運営ではなく、組織内におけるリーダーとメンバーの互恵関係に価値を見出してチームとしてのゴールを目指す点に特徴がある。これは、例えば従業員が「失敗」をしたときの、リーダーやマネージャーの対応方法において、リーダーシップの発揮方法やその根源となる考えに、大きな違いが表れる。

一般に、従業員が仕事で何らかの失敗をしたとき、その如何にかかわらず伝統的なリーダーシップではこれを「業務上過失」として扱い、訓戒や減俸、または最悪の場合懲戒処分を下すことで、「過ちを戒める」ことに重きを置く。しかし、サーバント・リーダーシップが主たる組織では、メンバー個々が働くにあたってのモチベーション維持やエンゲージメント向上を重視するため、たとえ従業員が失敗したとしても、それを「学びに転換できる」マインドや環境づくりを整えることを目指す傾向がある。

このように、部下に命令して動かす存在から、ともに高めあって成長するパートナーとして捉えなおすことを通じて組織全体の運営方法にすら影響を与えるサーバント・リーダーシップだが、果たしてその役割と特徴とは何なのか。従来存在する「支配型」との違いから、「支援型」リーダーシップのあり方について、より細かく考察してみよう。

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サーバント・リーダーの特徴と役割

前項では、支配型との対比を交えながら、サーバント・リーダーシップの特徴を大づかみに解説したが、ここでその役割について、より明確に見ていこう。

サーバント・リーダーシップでは、その語に「サーバント(servant)」という単語を含むことから、どうしても「奉仕する優しい人」という印象を与えてしまいかねないが、リーダーシップという語が後に付随することからも分かるように、決してただの優しい存在として機能するわけではない。

リーダーシップにおける支援型である姿勢とは、あくまで組織としての目標、たとえば企業体ならば営利目標を達成することを通じて社会への価値創出を行うための手段として、組織のメンバーである従業員を支えているということだ。そのため、サーバント・リーダーシップには以下のような特徴を有しつつも、同時に後ほど挙げるとおり、サーバント・リーダーシップが向かない状況というものも生じてくる。

まずは、サーバント・リーダーシップの細かな特徴を、特定非営利活動法人 日本サーバント・リーダーシップ協会の挙げる10の属性※を基に紹介しよう。

1. 傾聴(listening)
大事な人達の望むことを意図的に聞き出すことに強く関わる。同時に自分の内なる声にも耳を傾け、自分の存在意義をその両面から考えることができる。

2. 共感(empathy)
傾聴するためには、相手の立場に立って、何をしてほしいかが共感的にわからなくてはならない。他の人々の気持ちを理解し、共感することができる。

3. 癒し(healing)
集団や組織を大変革し統合させる大きな力となるのは、人を癒すことを学習する事だ。欠けているもの、傷ついているところを見つけ、全体性を探し求める。

4. 気づき(awareness)
一般的に意識を高めることが大事だが、とくに自分への気づきがサーバント・リーダーを強化する。自分と自らが責任を持つ部門をよく知ること。このことは、倫理観や価値観とも関わる。

5. 説得(persuasion)
職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要することなく、他人の人々を説得できる。

6. 概念化(conceptualization)
大きな夢を見る能力を育てたいと願う。日常の業務上の目標を超えて、自分の志向をストレッチして広げる。制度に対するビジョナリーな概念をもたらす。

7. 予見力(foresight)
概念化の力と関わるが、今の状況がもたらす帰結をあらかじめ見ることができなくても、それを見定めようとする。それが見えたときに、はっきりと気づく。過去の教訓、現在の現実、将来のための決定のありそうな帰結を理解できる。

8. 執事役(stewardship)
執事役とは、大切な物を任せても信頼できると思われるような人を指す。より大きな社会的価値のために、その組織や制度を、その人になら信託できると信じられる人物であること。

9. 人々の成長に関わる(commitment to the growth of people)
人々には、働き手としての目に見える貢献を超えて、その存在をそのものに内在的価値があると信じる。自分の制度の中のひとりひとりの、そしてみんなの成長に深くコミットできる。

10. コミュニティづくり(building community)
歴史のなかで、地域のコミュニティから大規模な制度に活動母体が移ったのは最近のことだが、同じ制度の中で仕事をする(奉仕する)人たちの間に、コミュニティを創り出す。

※参考:NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会

これらの特徴をもって、組織内でサーバント・リーダーシップが発揮されることは、理想的で無欠の存在だといえる場合もある。しかし、次のような場合、組織においてサーバント・リーダーシップが推奨されるとはいえないため、注意が必要だ。

1.  業務経験の浅いメンバーと接するとき
自律的な働きを支援することを通じて組織目標を達成することを目指すサーバント・リーダーシップだが、業務知識が少なく仕事での経験がまだ十分でないメンバーは自律的な働き方ができない可能性が大きい。また、新人教育段階からサーバント・リーダーシップを実践して接してしまうと、場合によってはメンバーが仕事上の判断で困惑してしまうかもしれない。そのため、新人の教育などのケースでは、支配型リーダーシップとまでいかなくとも、ある程度の教育者的姿勢が求められるといえよう。

2. 短期間で事業を成長させなければならないとき
事業の立ち上げや、企業における創業期から成長期にかけては、実に短期間で多様な困難に遭いつつも不断の経営判断と意思決定とを求められる。このような場合において、指導する立場にある者がサーバント・リーダーシップを用いていると、リーダーとメンバーの意見が不一致である場合、意見のすり合わせに時間を要し、重要な商機を逃す可能性がある。短期間で事業成果を出さなければならない、または事業自体が短期で結果を出すことを求められる場合は、ある程度の支配型リーダーシップが力を発揮するといえよう。

支配型との違いで読み解くサーバント・リーダーシップ

VUCA(「Volatility=変動性」「Uncertainty=不確実性」「Complexity=複雑性」「Ambiguity=曖昧性」から、それぞれの頭文字をとった造語)という言葉に象徴されるように、ますます変化が激しさを増し、物事の予測が難しくなっていくビジネス環境となっている現代では、何事においても「絶対的な解」を見出すことは不可能に近いといえる。これは組織においてのリーダーシップのあり方も同様で、支配型リーダーシップとサーバント・リーダーシップのどちらが良いのかは、さまざまな環境と働くメンバーによって左右されてくるだろう。そのため、リーダーシップのあり方において、どちらか一方が優れていて良い、どちらが劣っているから悪いということはない。

しかし、前述のとおりの時代背景を考え合わせると、働き方改革がより一層進んでいくこれからは、従業員の自律性を重んじつつ、エンゲージメント向上に重点を置く働き方が増えていくと考えられるため、サーバント・リーダーシップが組織に求められるケースが増えていくといえよう。

ではなぜ、サーバント・リーダーシップが選ばれるリーダーシップのあり方となりつつあるのか。ここでは、支配型リーダーシップと比較しながら、具体的な例を挙げつつ、サーバント・リーダーシップのメリットについて考えていく。

1. トップダウン型からボトムアップ型へのシフト
支配型リーダーシップでは、「上意下達」という言葉に代表されるように、業務での指揮命令を組織運営の基本としている。これは、トップダウンでの迅速な意思決定が可能であり、機動性に優れることから、素早い経営判断を組織全体に行き渡らせる場合、たとえば創業期や事業の立ち上げ期などでは一定の効果を発揮するものだ。しかし、スマートフォンの普及やユーザー発信型メディアが台頭する中で、消費者のニーズは過去になく多様化している現代において、消費者と接するフロント部門から一番距離の遠いところで行われる意思決定は、時として本当に顧客のニーズに応えられているのかという課題を生むこととなる。

対して、サーバント・リーダーシップでは、自社の顧客と最も近くで接している現場の意見を汲み取るボトムアップの支援型リーダーシップとなるため、顧客やフロント部門の声が経営判断に反映されやすいメリットを有している。組織における新しいかたちのリーダーシップでは、必ずしも組織をけん引する存在を求めているわけではなく、むしろ正しくメンバーの声を拾い上げ、組織目標の達成のために反映させていくといった、「傾聴」と「共感」に基づいたマネジメント能力が問われているといえよう。

2. 従業員への「問いかけ」からはじまる多様化へのシフト
モノを作れば売れるといわれた時代はとうの昔、今では消費活動も多様化、細分化しており、均一な品質のプロダクトを大量生産して世に送り出す時代ではなくなっている。そのため、日々企業は多様化していく消費者のニーズと向き合っているわけだが、これはマーケティング部門のみが行っているわけではなく、社内的にみた場合でも同様のことがいえよう。働く個人は今までになく多様化しており、さまざまなバックグラウンドを持つ多様な人が協働していく時代だ。

そのため、支配型リーダーシップの下に集まる従業員に継続的な組織へのエンゲージメント向上を期待することは難しくなっているといえる。求められる素質は、従業員への問いかけがあるリーダーシップ、そして従業員と対話することができるリーダーシップだ。そのため、メンバーの自発的な意見や考えを尊重しつつ、命令というかたちを最小化できるサーバント・リーダーシップは、従業員の当事者意識の向上を実現しつつ、複雑で多様化する現代における組織運営において、変化に強く、他社との差別化を図る上での新たな競争力を生むこととなるだろう。

まとめ

・日本企業の力強い成長を支えた伝統的なリーダーシップが転換点を迎えている。社会はより不確実性が増し、予測できない変化の激しい環境へと突入しており、上長が部下を管理し命令することで、組織の運営を取り仕切り、強い意志と組織のリーダーの考えや価値観を貫くことで部下をけん引していくといった組織運営には限界値が見え隠れする。新たに注目される「理想の上司」像は、従業員に「奉仕するリーダー」であり、部下の話に耳を傾け、能力を肯定し、協力しながら組織としての目標達成を促していくサーバント・リーダーシップだ。

・上司から部下へ「上意下達」するトップダウン型の指揮命令系統に基づく組織運営ではなく、組織内でのリーダーと、メンバーとの互恵関係に価値を見出しつつ、チームとしての目標を目指す点に、サーバント・リーダーシップの特徴がある。たとえば、サーバント・リーダーシップでは、従業員が失敗した際に「過失」として処理するよりも、その失敗から何が学べるのか、どのように学びへと昇華させていくことができるかという点に重きを置いており、徹底的に組織に寄り添い、働く個人のモチベーション向上に着目する点を重要視する。

・サーバント・リーダーシップでは確かに奉仕する姿勢を重要視するが、決して「ただの優しいリーダー」ではなく、あくまで組織として目標達成の手段として傾聴する姿勢を用いるに過ぎない。サーバント・リーダーシップでは提唱者によって次にあげる10の特徴があるとされる。1. 傾聴する力 2. 共感する力 3. 癒す力 4. 気づく力 5. 説得する力 6. 概念化する力 7. 予見する力 8. 執事役に徹すること 9. 人々の成長に関わること 10. コミュニティづくりができること

・多くのメリットがあるサーバント・リーダーシップだが、組織運営においてこれが適さない場合もある。例えば、新人教育段階では、業務知識や経験が浅いため、いきなりサーバント・リーダーシップを実践すると、従業員は困惑を覚えかねない。このような場合、むしろ啓蒙する姿勢や教育的なアプローチなど、より従来型のリーダーシップに近い姿勢がリーダーには求められるだろう。また、短期間で事業を急成長させる必要のある創業フェーズにある企業体などは、より迅速な意思決定のため、ワンマン経営に近い支配的なリーダーシップが向いていることがある。

・命令や指揮に基づく従来の支配型リーダーシップは確かに高度経済成長を支えた。しかし、自社のクライアントから最も遠い位置にいる経営陣がトップダウンで経営判断をするには、あまりにも不確実性や予測できない時代となりつつある。これからの時代に求められるリーダー像とは、自社のクライアントと最も近くで接しているフロント部門の声を汲み取りつつ、経営に反映させていくことができるサーバント・リーダーシップだ。

・複雑で多様化しつつ、予測することが難しくなっている現代におけるリーダーシップ像の「ベスト」を見出すことは難しい。しかし、自組織にとっての「ベター」を見つけることは実現可能だ。ビジネス環境、社会、そして自社の従業員がそれぞれ多様化している中で、もはや支配型リーダーシップは機能することが難しく、従業員のエンゲージメント向上を目指すことができるリーダーが求められている。傾聴と共感をキーワードに、サーバント・リーダーシップは目まぐるしく変化する現代に求められるリーダー像だ。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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