ハラスメント(Harassment)は「嫌がらせ」や「いじめ」を指す言葉だが、セクシャルハラスメント(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)をはじめ、時代の流れとともに次々と新しいハラスメントが登場している。今回は、主なハラスメントを25個取り上げ、ハラスメントの詳細やパワハラの類型のほか、パワハラが職場で起こる理由や企業への影響などについて解説する。
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目次
ハラスメントとは
ハラスメントとは、他者への「嫌がらせ」「いじめ」と呼ばれる迷惑行為によって、相手に不利益や不愉快を与える行為である。慢性化したハラスメントは被害者の心身へダメージを与え続ける行為となるが、ダメージの程度はケースによってさまざまだ。ハラスメントと感じるかどうかは被害者によって個人差があるが、人格権が尊重されるべきという立場からは、被害者が「不快」「つらい」「意に反する」と感じるならば、何らかの対策を必要とするハラスメントが発生している状態とみなされる。
ハラスメントの種類とは
女性の社会進出が進んだ弊害として「マタハラ」、リモートワークが普及したために「リモハラ」といったハラスメントが注目されるようになった。時代の流れとともに次々と新しいハラスメントが生まれているため、ハラスメントが何種類あるかと定義するのは容易ではない。重要なのはハラスメントの種類ではなく、どのような状況や行為がハラスメントになるかという知識を習得する意識作りである。
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ハラスメントの種類と定義の一覧表
まずは、昨今注目される主な25のハラスメントの名称(略称)と、具体的な説明をまとめていく。
名称 | 略称 | 説明 |
パワーハラスメント | パワハラ | 上司や先輩が優越的関係に基づき、同じ職場で働く従業員に対し、業務上適正範囲を超えて精神的、身体的苦痛を与える行為。 |
セクシャルハラスメント | セクハラ | 職場において行われる、労働者の意に反した性的な言動に対する労働者の対応によって、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境に悪影響が及ぼされたりする行為※。 |
モラルハラスメント | モラハラ | モラル(現実社会で守られるべき規範)に反する精神的な暴力行為。理由の有無を問わず、相手を無視したり暴言を吐いたりするなどの行為を指す。 |
リストラハラスメント | リスハラ | リストラ(人員削減)したい従業員に対して、人事権を持つ者が中心となって嫌がらせ行為を行い、自主退職を促すハラスメント。 企業側からの解雇規制を回避する意図から自主退職を求めるケースもある。 |
リモートハラスメント | リモハラ | リモートワークやテレワーク環境下で行われるハラスメント行為。リモハラはさらにパワハラとセクハラに分類される。 |
時短ハラスメント | ジタハラ | 時間短縮ハラスメントのことで、定時退社を企業が従業員に過度に求める行為などを指す。働き方改革が進められるなか浸透したハラスメント。 |
テクノロジーハラスメント | テクハラ | テクノロジー(IT関連機器)への知識が乏しい従業員に対する嫌がらせ行為。テクノロジー要素を含むパワハラの1種ともされる。 |
マタニティハラスメント | マタハラ | マタニティは「妊娠中、母らしさ」を指し、妊娠や出産を予定する女性従業員に対する職場での肉体的、精神的な嫌がらせ行為。 |
パタニティハラスメント | パタハラ | パタニティは「父性」を指し、男性従業員が育児目的の休暇制度を利用する場合における嫌がらせや阻害行為。 |
ケアハラスメント | ケアハラ | 働きながら介護を行う人(ケアラー)に対する嫌がらせや不利益を与える行為。介護を理由とした休業時などに人事評価を下げる、介護休暇取得の阻害などが挙げられる。 |
就活ハラスメント | 就ハラ | 応募先企業や採用担当者が就活生に対して行う、優越的立場を利用したセクハラやパワハラ行為。 |
就活終われハラスメント | オワハラ | 就職活動で内々定が出た学生に対し、採用を出した企業側が内定の交換条件に就職活動を終えるよう要求したり、長期間拘束したりする行為など。 |
ジェンダーハラスメント | ジェンハラ | ジェンダー(男女の役割の違いという思想から形成された性別)という性区別の固定観念に基づく、職場での嫌がらせや差別行為。必ずしも、性的言動とは限らないのが特徴。 |
エイジハラスメント | エイハラ | エイジ(Age)すなわち年齢や世代の違いに基づく差別や嫌がらせ行為。年齢を理由とした仕事内容の制限や、相手の気持ちを尊重せずにプライベートな話題を持ち掛ける行為など。 |
カスタマーハラスメント | カスハラ | 企業に対する顧客からの理不尽なクレームや言動を指す。事実無根な言動や法的根拠のない要求、暴力的・精神的攻撃性を含む方法による要求行為が中心。 |
ソーシャルハラスメント | ソーハラ | ソーシャルメディアハラスメントの略。Facebookなどのソーシャルメディア上に、業務時間外まで職場での人間関係を持ち込むなどの嫌がらせ行為。 |
ロジカルハラスメント | ロジハラ | 正論(ロジカル)を強く主張しすぎた結果相手を追い詰める行為。会議での意見対立や部下への指導など、議論や叱責状況下で起こりやすいのが特徴。 |
スメルハラスメント | スメハラ | 自らが発するスメル(香りや悪臭)により周囲に不快感を与える行為。臭いの原因は体臭や香水、たばこや疾患に基づくものなどさまざま。 |
スモークハラスメント | スモハラ | 喫煙者(スモーカー)が非喫煙者に対し喫煙を強要したり、意識的にたばこの煙を吸わせたりする(受動喫煙をさせる)などの行為。近年の労務問題における課題の1つにもなっている。 |
アルコールハラスメント | アルハラ | 職場やサークル活動において、上下関係があるなか個人や集団が対象となる人に飲酒や一気飲みを強要する行為。 |
音ハラスメント | 音ハラ | 耳にした人が耳障りと受け取るような音を出し続ける行為全般。音を発生させている本人は無自覚なケースもあるのが特徴。 |
コロナハラスメント | コロハラ | 新型コロナウイルス感染症に関するハラスメント行為で、コロナ陽性者や感染が疑われた人、感染リスクが高いとされる人への差別的言動。 |
ワクチンハラスメント | ワクハラ | 職場にいる新型コロナウイルスワクチン未接種者に対する配慮を欠いた嫌がらせ行為。 |
セカンドハラスメント | セカハラ | セクハラやパワハラを訴えた本人を責めたり、事実を広めたりなど嫌がらせを行う行為。 |
ハラスメントハラスメント | ハラハラ | ハラスメントの加害者とみなされた人に対する被害者からの過剰反応や、ハラスメントを口実とした嫌がらせ行為全般。 |
※参考:あかるい職場応援団(厚生労働省)
ハラスメントの種類についてさらに詳しく解説
ここからは、先ほどご紹介した25のハラスメントの意味についてさらに詳しく解説する。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワハラとは、職場において行われる「優越的な関係を背景とした言動」で、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「労働者の就業環境が害される」行為である※。パワハラは、この3つの要件を満たす場合に認められる。パワハラには後述の6つの類型があるが、そのいずれかに該当する行為がパワハラとなる。パワハラによる精神的苦痛はうつ病や自殺のリスクとなるため、早急に何らかの対策を必要とする。
※参考:あかるい職場応援団(厚生労働省)
セクシャルハラスメント(セクハラ)
セクハラとは、職場において行われる労働者の意に反した性的な言動を指す※。セクハラには身体に直接触れる行為だけでなく、性的な連想をさせる行為も該当する。被害者の拒否や抵抗により、被害者に直接不利益を与える「対価型」と、直接不利益はないが、性的な言動で就業環境を悪化させる支障を与える「環境型」に分類される。なお、男性やLGBTの人への性的言動もセクハラに含まれる。
※参考:あかるい職場応援団(厚生労働省)
モラルハラスメント(モラハラ)
モラハラとは、悪意や理由、優越的な背景の有無によらず、優越だと自覚する加害者が劣等者とみなした被害者に対する嫌がらせ行為(中傷や付きまとい行為など)のことである。モラハラに該当するかどうかの判断には個人差がある。被害を受けたという認識があるならば、相談窓口などを利用し、第三者からの判断を受けるのが望ましい。
リストラハラスメント(リスハラ)
リスハラとは、自主退職させたい従業員(被害者)と、企業側(加害者)間でのハラスメント行為を指す。上司と部下という優越的関係が背景にあるため、パワハラの要素も含まれる。対象となる従業員に対する不当な配置転換、劣悪な条件での勤務命令、過度な罵倒による精神的な攻撃行為などが中心である。
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リモートハラスメント(リモハラ)
リモハラとは、リモートワーク環境下で発生するハラスメントの総称である。業務内容の報告を過度に要求したり、ウェブカメラを常時つなげることを強要したりする行為のほか、オンライン会議でのセクハラ行為や映り込んだ室内に対する過度な詮索などが例となる。リモート下ではオフィスワークとは異なる配慮が必要となるため、導入時はそのための研修などが有効である。
時短ハラスメント(ジタハラ)
働き方改革により残業時間削減に向けた取り組みが行われ、業務量や状況に応じた削減が原則となった。ジタハラとは、この長時間労働の制限によって発生するハラスメントである。長時間の残業は好ましくないものの、業務量によっては必要な時もあるだろう。業務量に対して労働時間が足りない状況である場合は、サービス残業やしわ寄せといったジタハラが起きていると言える。また、限られた時間のなかでの労働は、早く仕事を終わらせなければならないというプレッシャーがかかるため、生産性低下や離職につながる可能性がある。
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テクノロジーハラスメント(テクハラ)
テクハラは、業務におけるITツールの導入が浸透してきたことで生まれたと言える。ITツールの導入時は、使いこなすためのスキルを新たに習得しなければならない。レクチャーをせずに業務を強要したり、ITへの苦手意識が強い人をターゲットに意図的な嫌がらせをしたりなど、ITツールを活用できる人(加害者)が未習得の人(被害者)への優越性を利用した行為はテクハラとみなされる。
マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠中に起こるつわりは、体調に大きく影響する。また、妊娠4~5ヶ月頃からはおなかが大きくなり、行動も制限されてくる。マタハラとは、このような妊娠中の女性に対し、普段通りの業務量を求めたり、妊娠中であることを非難したりする言動、また、つわりを理由に自主退職することを要求したりするような配慮のない行為を指す。
パタニティハラスメント(パタハラ)
昨今は、男性も育児休暇や育児休業取得制度を利用するケースが徐々に浸透してきた。しかし、未だに男性の育児参加への理解が少ないのも事実である。企業側からしても、人手不足は避けたいだろう。育児を必要とする子どもを持つ父親の父性、「パタニティ」に嫌がらせをする行為はパタハラになる。マタハラが女性に向けられるものであるのに対し、パタハラはこの男性版のハラスメントとされる。
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ケアハラスメント(ケアハラ)
ケアハラとは、働きながら介護を行っている人へのハラスメント行為のことである。介護休暇を申請した人の役職を奪ったり、何らかの契約を打ち切ったりする行為や、休業を理由に自主退職を求める行為、また本人の休業がほかの人に迷惑がかかることを責めるような言動などがその例となる。介護を理由とした離職が社会問題とされるなかで、ケアハラはこの社会問題に拍車をかけるものとなっている。
就活ハラスメント(就ハラ)
就ハラとは、インターンシップで知り合った従業員や、面接・企業説明会の担当者から就活生が受けるハラスメントのことである。就ハラは被害者にダメージを与えるだけではない。採用市場に悪評が広まる要因となり、企業側の採用活動が難化する恐れもある。あらゆる被害を防ぐにためは、就ハラに対する正しい知識を身に付ける必要がある。
就活終われハラスメント(オワハラ)
オワハラとは、内々定を出した学生に対し、内定を交換条件に過度な圧力をかける行為を指す。オワハラには、「内々定を出す代わりに就職活動を終わらせてほしい」という企業側の行き過ぎた思いが前提にある。オワハラ傾向がある企業の場合、内定を出した学生に就活を終わらせる意思表明を求めたり、他社面接を受けないように要求したりする。しかし、最終的にどの企業に就職するかという判断は、学生本人の意思に基づくものでなければならない。
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ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
男らしさ、女らしさという思想が前提にあるなかで、相手に差別的な言動を浴びせたり、偏った思想に基づく行動を要求したりするケースをジェンハラという。例えば、相手の名前を呼ぶ場合、どのような相手にも「さん」という敬称が望ましく、「ちゃん」という表現は不適切になりかねない。セクハラとは異なり、このように必ずしも性的な言動とは限らないのが特徴である。
エイジハラスメント(エイハラ)
現在は、シニア世代と呼ばれる人々も個々のペースで働き続けられる社会になりつつある。しかし、雇用先の企業や同僚から、本人の意向に反した不当な勤務を命じられたり差別行為が行われたりするケースも発生している。エイハラは年齢や世代を口実とした迷惑行為を指すため、必ずしも職場だけとは限らず、価値観の違いから誰でも加害者になりうるのである。
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カスタマーハラスメント(カスハラ)
カスハラとは、顧客やユーザーからの問い合わせを受けるカスタマーセンターの担当者と、顧客やユーザーの間にある「お客様」という上下関係を悪用したハラスメント行為である。特に電話などでは相手の顔が見えないため、無謀とも言える理不尽な要求を行いやすいことも関係する。正当な要求との線引きが容易ではないため、事前の対応マニュアルの整備が有効である。
ソーシャルハラスメント(ソーハラ)
SNSは本人の自由意思に基づき利用されるものだが、職場での人間関係をSNSに持ち込み、就業時間を問わず職場のような人付き合いをSNS上に持ち込む行為は問題である。ソーハラは、上司や先輩からの友達申請の承諾や「いいね!」評価、コメントの強要といったケースが典型的で、過度なコミュニケーションの要求によりプライバシーが侵害されていると言える。
ロジカルハラスメント(ロジハラ)
ロジハラとは、「君の考えは間違っている」というような発言をし、必要以上の正論で相手を追い詰める行為のことである。しかし、正論が必ずしも間違いというわけではないため、正論とロジハラには明確な基準はない。また、多様性が尊重される近年において、間接的なニュアンスでは相手に伝わりにくくなったことも、ロジハラが起こりやすくなった理由と言えるだろう。
スメルハラスメント(スメハラ)
スメハラとは、臭いによるハラスメントのことである。臭いの感じ方には個人差もあることから、発生源とされる人へ指摘がしにくい。職場に限定した場合、「スメハラ解消月間」を社内で行うことや、マナー研修などが有効とされる。特定の個人への指摘より、職場全体での意識作りを中心とした取り組みが推奨される。
スモークハラスメント(スモハラ)
スモハラは、健康増進法の改正による、企業の受動喫煙対策が浸透したことで注目されるようになったハラスメントである。一般的には、喫煙者が非喫煙者に対して不快を与える行為を指す。スモハラ対策は受動喫煙対策とも言えるため、職場環境が整っていない場合、健康増進法に則り勧告もしくは罰金の対象となるほか、訴訟にまで発展することもある。また、スモハラは職場だけでなく、マンションなどの集合住宅でも起こり得る。
アルコールハラスメント(アルハラ)
アルハラに該当する行為は、以下の5つが典型的な例である。過去には急性アルコール中毒による死亡事件が発生していることからも、アルハラ行為への対策は急務といえる。
1.飲酒の強要
2.イッキ飲ませ
3.意図的な酔いつぶし
4.飲めない人への配慮を欠くこと
5.酔ったうえでの迷惑行為
音ハラスメント(音ハラ)
音ハラは、耳にした人が耳障りと受け取るような音によって不快感を与える行為全般をいう。例としては、「頻繁な咳や舌打ち」「目立つ音を出しながら鼻をすすったり呼吸したりする」「クチャクチャと音を出しながらの食事」「貧乏ゆすり」「大きな音を出してキーボードを打つ」などが挙げられる。
コロナハラスメント(コロハラ)
コロハラとなりうるのは、職場で咳をした従業員への過剰反応や、新型コロナウイルス感染症の陽性者となった従業員の解雇などだ。また、特定の個人を対象としたハラスメント行為だけでなく、自粛しない店舗に対する無言電話といった迷惑行為などの例もコロハラに含まれる。
ワクチンハラスメント(ワクハラ)
ワクハラとは、新型コロナウイルス感染症のワクチン未接種者に対する暴言などといった行為を指す。特に2020年以降、新型コロナウイルスが世界的に流行したことで、日本国内でも社会活動の自粛や行動制限が求められ、ワクチン接種を推奨する動きが続いた。一部の企業では、ワクチン接種に関して従業員に接種を強要した事例があるが、このような強要行為もハラスメントに該当する。
セカンドハラスメント(セカハラ)
セカハラとは、ハラスメントが起きているなか、意を決してハラスメント行為を相談した人に対して二次的な被害を与える行為を指す。加害者側に悪意がなくとも、知識不足や認識の甘さによって相談者に精神的な苦痛、被害を与えることがある。またセカハラは、企業やセクハラ相談窓口の担当者が加害者になるケースも存在する。
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ハラスメントハラスメント(ハラハラ)
ハラハラとは、「ハラスメント行為はコンプライアンス上許されない」という認識を逆手に取り、ハラスメント事案であると立証する目的で、加害者とみなされた方の言動に過剰反応する行為などを指す。ハラスメントと訴えられるリスクに萎縮した結果、従業員教育の機会を失うリスクがある。
職場におけるパワーハラスメント
前述のとおり、パワーハラスメントとして客観的に認められるのは、以下3つの要素を満たすものである。
・優越的な関係を背景とした言動
・業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
・労働者の就業環境が害されるもの
これらについてより詳しく見ていこう。
パワーハラスメントの3つの要素
まずは、厚生労働省が発表している「パワーハラスメントの定義について」から事例を引用しつつ、各要素の詳細について解説する。
優越的な関係を背景とした言動であること
「優越的な関係を背景とした⾔動」とは、上司や先輩など、職場における地位や優越性を利用した言動を指す。社歴の長さで判断されるわけではないため、業務上必要なスキルを有している同僚や後輩の協力なしに仕事が進まない場合も、その同僚や後輩には優越性があると言える。
<主な具体例>
・職務上の地位が上位の者による行為
・同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、社会通念上、明らかに業務とは必要性がない言動を指す。その言動が業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうかは、言動の目的や言動を受けるに至る経緯、従業員の勤務状況、業種など、さまざまな要因から判断する。
<主な具体例>
・業務の目的を大きく逸脱した行為
・業務を遂行するための手段として不適当な行為
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為
就業環境が害されるものであること
「就業環境が害されるもの」とは、暴力や人格、名誉を傷つけるに相当しうる言動によって精神的苦痛を負わせ、対象となった従業員の就労意欲を低下させる行為を指す。この判断には、「平均的な労働者の感じ方」が関係しており、社会一般の労働者に当てはめた場合に就業上看過できない程度の支障があるかどうかが基準となる。
<主な具体例>
・著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
・何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為
・長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を低下させる行為
パワーハラスメントの6つの類型
次に、パワーハラスメントの類型について解説する。パワーハラスメントとみなされる言動は、厚生労働省の「ハラスメントの類型と種類」において、以下6つの類型に分けられる。
なお、この6つの内容は限定されるものではなく、状況に応じて判断が異なるケースもある。また、いずれの背景にも、優越的関係が認められる状況で行われた行為であることが前提となる。
身体的な攻撃
「身体的な攻撃」とは、加害者から被害者への以下のような意図的な暴行や傷害行為を指す。身体的な攻撃はパワハラの主軸と言えるが、社会からの監視が強まっているため、公に横行しているケースは減ってきているようだ。
<主な具体例>
・殴打する
・足で蹴る
・相手を突き飛ばす
・物を投げつける
精神的な攻撃
「精神的な攻撃」とは、脅迫や名誉毀損、侮辱、過度な暴言を指す。主に以下のような行為が挙げられるが、「本人を傷つけるもの」と「周囲の労働者の面前で行われるもの」の2パターンに分けられる。
<主な具体例>
・人格を否定するような言動
・性的指向や性自認に関する侮辱的な言動
・必要以上に長時間厳しい叱責を繰り返し行う
・他の労働者の面前で、大声かつ威圧的な叱責を繰り返し行う
・能力の否定や罵倒する主旨の電子メールなどを他の労働者も含めたうえで送信する
・必要十分な指導を怠り、放置する
人間関係からの切り離し
「人間関係からの切り離し」とは、隔離や仲間外れ、無視を含むもので、主に以下のような行為を指す。
<主な具体例>
・特定の労働者を上司の個人的な嫌悪から仕事から外し、長期間別室に隔離したり自宅研修を命じたりする
・特定の労働者を他の従業員が集団で無視を行い、職場で孤立させる
人間関係からの切り離しにはさまざまなケースがあるが、なかには被害者側の業務に関わる能力が、「基準に達していない」こと、または、「相対的に見て未熟であること」という要素が関係することがある。
前者が背景にある場合、業務遂行上必要な能力的基準が明確であるのにもかかわらず、被害者とされる人の能力がそれに達していないということがパワハラの理由となる。後者が背景にある場合は、ほかの同僚などと比べ、相対的に見て被害者が「仕事ができない」と判断されたことがパワハラの理由となりやすい。
過大な要求
「過大な要求」とは、遂行不可能な要求を強制するもので、明らかに不要な業務や遂行不可能な内容を要求することを指す。過大な要求には、加害者側に悪意がない場合でも、実際の要求がハラスメントに該当する恐れがある。
<主な具体例>
・長時間、勤務とは直接関係しない肉体的な苦痛を伴う作業を過酷な環境下で命ずる
・本人の能力に対し到底見合わない困難な目標を課し、達成できない場合に厳しく叱責する
・業務と直結しない私的な雑用処理を強制する
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過小な要求
「過小な要求」に関して、厚生労働省は、「業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えないパワハラ※」と明示している。過小な要求は、業務内容の軽減理由が加害者側の主観的な意思に基づくものであることが背景にある。
<主な具体例>
・退職に追い込むために管理職の労働者にコピー取りのような雑務のみを命ずる
・個人的な嫌悪から嫌がらせ目的で仕事を与えない
※出典:あかるい職場応援団(厚生労働省)
個の侵害
「個の侵害」とは個人のプライベートなことに過度に立ち入ることを指す。就業上、企業側と共有すべきと判断される内容や状況であっても、センシティブな個人情報は厳重に保護されなければならない。
<主な具体例>
・就業時間を超え、職場外でも継続的に監視する
・私物の写真撮影
・性的指向や性自認、病歴などのセンシティブな個人情報を本人の了承なしにほかの従業員と共有する
ハラスメントが発生する理由
ハラスメントが起きてしまう理由は必ずしも1つではない。ハラスメント全般において、主に次のような理由や状況下で起こりやすいとされる。また、往々にして加害者側と意識のずれが生じていることが予想されるため、加害者側の是正を基本とした対応が必要となる。
・ コミュニケーション不足
・ 個人の価値観の違い
・ アンコンシャス・バイアス
・ 性別役割分担意識
・ 組織風土や職場環境
・ 業務量の配分が不適切
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職場でハラスメントが発生することによる企業への影響
ハラスメントによる影響の程度はケースバイケースではあるが、職場でハラスメントが発生すれば、具体的には以下のような影響が企業側に生じる可能性がある。企業はそれぞれの状況に応じた適切な対応に努めなければならない。
・損害賠償責任
・刑事責任
・懲戒処分
・労災認定手続きへの関与
・世間からのイメージ低下
企業が取り組むべきハラスメント対策
職種や規模によらず、企業側には職場でのハラスメントを防止する対策が不可欠と言える。有効とされる対策は複数あり、各企業によって実際の対応は異なる。ここでは具体的な対策を2つ取り上げる。
相談窓口を設置する
2020年6月1日にパワハラ防止法が施行され、大企業には「パワハラ防止のための措置」を講じることが義務化された。2022年4月からは中小企業も義務化され、厚生労働省が示す「職場におけるハラスメント関係指針」のガイドラインでは、窓口(相談窓口)の設置規定が定められている。相談内容がハラスメントに該当するかどうか曖昧な場合であっても、窓口担当者は相談に対し、真摯かつ適切な対応を行われなければならない。人事部門やパワハラ、マタハラの相談窓口などとも一体化し、組織として広く相談を受け付ける体制作りが求められている。
研修を実施する
職場でのハラスメントを未然に防ぐには、従業員へのハラスメント研修も有効だ。また、厚生労働省による「あかるい職場応援団」の「ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置」においても、事業主側が講ずべき措置の一部として、下記が示されている。
事業主が講ずべき措置(一部)
・ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発
・行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発 など
ハラスメントに関連する法律
ハラスメントは、主に下記の3つの法律と密接に関係している。なお、この3つのほかにも、刑法(暴行罪や名誉毀損罪)や民法(不法行為に基づく損害賠償)などにも抵触する恐れがあることを覚えておこう。
労働施策総合推進法(パワハラ防止対策関連法、パワハラ防止法)
「労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)」は、「パワハラ防止法」とも呼ばれ、パワハラに関連した相談件数の増加を受け、2019年5月にパワハラの防止措置の法制化(大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月から義務化)に至った背景がある。職場におけるパワハラ対策の強化が目的であり、事業主に対してパワハラの防止と対策の責務を定めている。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法では、「セクハラ」「パワハラ」の発生防止とその対応に関する事業主の責務を定めている。セクハラやマタハラにも、パワハラ同様、指針内容に沿った措置が講じられていなければならない。具体的な措置内容は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」で示されており、事業主にハラスメントに対する適切かつ有効な措置を求めている。
育児・介護休業法
一定期間の離職、就業時間の短縮が想定される育児や介護は、時として労働者の就業環境を著しく縮小させるだろう。妊娠から育児を行う女性、育児休業を取得した男性従業員に対する不当降格や不当解雇は実際に起きており、これらに違法性がある行為なのは明らかである。そのため、育児・介護休業法では、「育児休業」に伴うマタハラやパワハラ、「介護休業」に伴うケアハラそれぞれに、事業主に対し発生防止および対応を定めている。
厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」も参考に
ハラスメントの発生を未然に防ぎ、かつ撲滅するためには、ハラスメントに対する知識を持つことも有益だ。厚生労働省は「あかるい職場応援団」というポータルサイトを立ち上げており、ハラスメントのない社会づくりや啓蒙活動を行っている。自己防衛のためだけでなく、職場環境や周囲の人をハラスメントから守るためにも、このWebサイトなどを参考にしてハラスメントに対する正しい知識を備えておこう。
まとめ
今回は昨今注目されているハラスメントを25個取り上げ、ハラスメントとして認められる要件や発生する理由、規制する関連法規などについて解説してきた。従業員を雇用する組織の立場からも、今後も成長し続ける企業であるためには、ハラスメントが発生する状況は避けなければならない。今回の記事を参考に、まずは自社の職場の現状を見直し、世代や役職を問わずすべての人が心身ともに良好な状態で働ける組織づくりに取り組んでいこう。