福利厚生のひとつとして「団体保険」を導入する企業が増えてきた。団体保険は団体と保険会社で契約を交わし、その団体に所属する人を被保険者とする保険のことだ。団体保険ができた背景には、応募者が就職先に求めるものが変わってきたことが挙げられる。
業務内容や給与だけではなく、企業風土や福利厚生といった職場環境の充実度も重視する傾向になってきたのだ。団体保険は、保険料が割安になる以外にも、手続きの負担がかるくなるといったメリットが存在する。
この記事では、団体保険の概要や団体保険ができた経緯、団体保険の種類とともに、メリットとデメリットについて解説する。
目次
団体保険とは
団体保険とは、企業や組織といった団体と保険会社で契約を交わし、その団体に所属する人を被保険者とする保険のことだ。福利厚生の充実を目的として多くの企業で利用されている。
保険の種類も医療保険や死亡保障、所得補償など、自由に選択できるものが多く、個人契約の保険では加入できない設計をした団体保険も存在する。
通常の保険では、保険会社が行う年末調整の手続きをはじめとした保険手続き業務を、団体が一部代行することにより、個人で加入する保険と比べて、保険料が割安となる仕組みだ。従業員の家族も加入できるため、家族で利用する従業員も多い。
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団体保険ができた経緯
団体保険ができた経緯として、福利厚生の充実が求められたことが挙げられる。近年の採用市場は「売り手市場」となっており、企業が応募者に選ばれる立場となっている。
応募者が、就職先を選ぶ基準も変化しており、業務内容や給与だけではなく、企業風土や福利厚生といった職場環境の充実度を重視する人材が増えてきたのだ。そのため、企業は採用や定着率向上といった人材確保戦略のひとつとして、福利厚生の充実に力を入れるようになった。
しかし、福利厚生の予算には上限があるのも事実だ。団体保険は、企業のコストを抑えたうえで提供できる福利厚生として注目を集めている。
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団体保険の種類
団体保険は、以下の2つに分類される。
● 保険料を従業員が任意で支払う保険
● 保険料の全額を会社が支払う保険
ここでは、それぞれの種類について解説する。
保険料を従業員が任意で支払う保険
このタイプの団体保険は、勤務している会社を通じて従業員が保険料を支払う仕組みになっている。「任意加入型団体定期保険」や「自助努力型団体定期保険等」と呼ばれている。
この団体保険は、保険料自体は従業員が負担するものの、個人向けの保険と比べて料金が安いことが特徴だ。保険料に応じて保障内容も変更できるため、個人向けの保険に近いイメージで契約できる。
また、支払った保険料は生命保険料控除扱いになるため、所得控除の対象だ。節税効果がある点は、このタイプのメリットといえるだろう。
保険料の全額を会社が支払う保険
このタイプの団体保険は、勤務している会社が、保険料を全額支払う仕組みになっている。そのため、従業員の負担がない保険といえる。
定期保険であれば、多くの保険会社が保険金額を約500万円に設定しているため、従業員が任意で支払う保険や、個人向けの保険のように保障内容を選べるものではない。保障内容を選ぶ自由はないものの、金額面ではメリットが大きい保険といえる。
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団体保険のメリットとデメリット
団体保険のメリットとして、以下のものが挙げられる。
● 保険料が割安
● 契約しやすい
● 手続きの負担が軽減される
● 配当金が受け取れる可能性がある
ただし、団体保険にはデメリットも存在する。主なデメリットは以下の3つだ。
● 退職後は保険を継続できない
● 退職後に保険料が上がる
● 支払方法を選べない
ここでは、それぞれのメリットとデメリットについて解説する。
メリット①保険料が割安
団体保険のメリットとして挙げられるのは、保険料が割安になることだ。保険会社が実施する業務の一部を勤務先企業が行うことにより、保険会社の負担や経費を削減できるため、従業員が任意で支払う保険の場合でも、個人向けの保険と比べて割安に設定されている。
保険料の全額を会社が支払う保険であれば、従業員の支払いは発生しない。保険料の面では、個人向け保険と比べて圧倒的にメリットがあるといえる。
また、家族の保障もできるプランが選択できるケースもある。家族全体の保険料が割引になることもメリットだろう。
メリット②契約しやすい
契約しやすいことも団体保険のメリットだ。個人向けの保険の場合、健康状態を確認するため、持病の有無や過去の傷病歴の告知が義務づけられている。一般的に、過去3年または5年前までの傷病歴を告知しなければならない。
告知するために、健康状態について記載した書面や医師の質問回答が必要になる。告知の内容によっては、保険会社の判断次第で加入できないケースもあるだろう。
しかし、団体保険の場合は1年ごとに更新を行うため、正常に勤務していれば一括告知で加入申し込みができる。傷病歴も1年前までの告知で十分なケースが多く、過去に傷病歴がある人でも、保険に加入しやすい。更新のタイミングに合わせて1年ごとに契約内容の見直しもできることもメリットだ。
また、個人向けの保険の場合、保険料の支払い手続きをする必要があるが、団体保険の保険料は給与から天引きとなるのが一般的だ。
契約のしやすさや、契約内容の変更手続きが容易なことは、団体保険のメリットといえるだろう。
メリット③手続きの負担が軽減される
手続きの負担が軽減されることも団体保険のメリットだ。団体保険で加入する保険には、税金負担を軽減する生命保険料控除の対象となっているものが存在する。生命保険料控除を受ける場合、税務署に控除証明書を提出(提示)しなければならない。
個人向けの保険の場合、年末調整時に自宅に届いた控除証明書を会社に提出する必要がある。しかし、団体保険では勤務先の企業が保険会社から控除証明書を受け取り、代行して手続きをするため、従業員が手続きする必要がない。
ただし、すべての保障が保険料控除の対象とは限らない。毎月支払った保険料と保険料控除の金額が一致しないケースがあるため、注意が必要だ。会社や保険会社に連絡すれば、個別に控除証明書を発行してもらえるため、記録として保管することも可能だ。
個人向けの保険の場合と比べると、年末調整時の手続き負担は大幅に軽減されるだろう。
メリット④配当金が受け取れる可能性がある
配当金が受け取れる可能性があることも、団体保険のメリットだ。無配当特約を付加していないのであれば、毎年の収支計算にて余剰金があった場合、配当金が従業員に支払われる。
数十万円もの金額が戻ってくるわけではなく、配当金自体も必ずあるわけではないものの、配当されれば従業員にとっては臨時収入となる。
デメリット①退職後は保険を継続できない
団体保険のデメリットとしては、退職後は保険を継続できないことが挙げられる。団体保険は、勤務している会社を通じて契約を交わしており、福利厚生のひとつだ。そのため、退職した場合、原則として保険契約を継続できない。
ただし、保険料を従業員が任意で支払う保険の場合、契約者は従業員となるため、退職後も契約を継続できる。
デメリット②退職すると保険料が上がる
退職すると、保険料が上がることもデメリットだ。前述したとおり、保険料を従業員が任意で支払う保険の場合は、退職後も契約を継続できる。しかし、保険料金については、据え置きとはならない。
保険料は、勤務先の会社を通じて契約していたからこそ、団体割引されていた。そのため、退職した場合は団体割引は適用されず、保険料も上がるのだ。
デメリット③支払方法を選べない
支払い方法を選べないこともデメリットといえる。団体保険の場合、支払い方法は原則として給与から天引きとなるのが一般的だ。払い忘れがないという点ではメリットともいえるものの、引き落とし口座を申請しておけば、支払いを忘れる可能性は少ないだろう。
個人向けの保険の場合、支払い方法としてクレジットカードを選択できる。クレジットカードで支払えばポイントも付加されるため、実際にクレジットカードで支払う人も多い。ポイントを貯めたい人にとっては、クレジットカードで支払えないことはデメリットとなるだろう。
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まとめ
団体保険とは、企業をはじめとした団体と保険会社で契約を交わし、その団体に所属する人を被保険者とする保険を指す。保険会社が行う年末調整の手続きをはじめとした保険手続き業務を、団体が一部代行することにより、保険料が割安となる仕組みだ。
団体保険ができた背景には、応募者が就職先に求めるものが変わってきたことが挙げられる。業務内容や給与だけではなく、企業風土や福利厚生といった職場環境の充実度も重視する傾向になってきたのだ。
企業は採用や定着率向上といった人材確保戦略のひとつとして、福利厚生の充実に力を入れるようになり、その取り組みのひとつとして、団体保険を導入する企業が増えてきた。
団体保険は「保険料を従業員が任意で支払う保険」と「保険料の全額を会社が支払う保険」の2つに分類される。「保険料を従業員が任意で支払う保険」は、個人向けの保険に近いイメージだ。一方「保険料の全額を会社が支払う保険」は、勤務している会社が、保険料を全額支払う仕組みになっており、より金額面でのメリットが大きい保険といえる。
団体保険は「保険料が割安になる」「契約しやすい」「手続きの負担が軽減される」といったものだけでなく、配当金が受け取れる可能性があることもメリットだ。
ただし、退職後は契約できないことや、支払い方法を選べないことはデメリットといえるだろう。団体保険のメリットとデメリットを理解したうえで、自社の福利厚生への導入を検討しよう。