衛生委員会とは、常時50人以上の労働者を雇用する事業場で設置が義務付けられている組織で、労働者の健康を守るために設置されるものだ。要件に該当する事業場が衛生委員会を設置していない場合、労働安全衛生法違反で50万円以下の罰金が科せられる恐れがあるため、注意しなければならない。今回は、衛生委員会を設置する目的や役割、議題の例、委員会の効果や問題点などについて詳しく解説する。
目次
衛生委員会とは何か
衛生委員会とは、労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の労働者を雇用する事業場で設置が義務付けられている組織のことだ。設置しなかった場合は50万円以下の罰金が科せられる。
衛生委員会の設置は、労働者の健康障害や労働災害の防止、健康の保持増進、健康教育などを目的としている。委員会のメンバーは社内外から選ばれ、衛生に関連する議題について話し合う。
委員会は月1回以上開催しなければならない。「毎月第〇週の〇曜日」のように、開催時期を決めている企業もある。常時従業員が50人未満の事業場の場合は、衛生委員会を設置する義務はない。しかし、衛生に関する事柄を従業員に直接聞く機会を定期的に設けることが、厚生労働省によって推奨されている。
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安全委員会との違い
衛生委員会と似たものに安全委員会がある。安全委員会は、安全に関する規定や安全計画、安全教育など、労働者の安全について話し合う組織だ。衛生委員会は常時50人以上の労働者を使用する事業場が対象となるが、安全委員会は業種によって対象人数が異なる。
たとえば製造業の中でも木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業は、常時従業員が50人以上であれば安全委員会の設置義務がある。運送業の場合も、道路貨物運送業および港湾運送業は、常時従業員が50人以上であれば安全委員会の設置義務がある。それ以外の製造業や運送業は、常時従業員が100人以上であれば安全委員会の設置義務があるのだ。
安全委員会と衛生委員会の両委員会の設置が必要な場合は、両委員会を結合した「安全衛生委員会」の設置が可能である。安全委員会の設置対象となる業種は、各地の労働基準監督署で確認しよう。
参考サイト
・都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省
・労働安全衛生法 | e-Gov法令検索
衛生委員会が誕生した背景と経緯
衛生委員会の設置義務が定められた背景には、高度成長期(1955〜1973年)以降、労働者の健康被害や労働災害が多発したことが挙げられる。労働者の健康と安全を守るためには、企業が一方的に措置を施すのではなく、現場の意見を聞くことが重要であるという機運が高まっていた。
前身の工場法を経て、1972年6月に労働安全衛生法が公布されたことにより、安全衛生委員会の設置が義務付けられた。安全衛生委員会とは、先ほどの項目でも解説したように、安全委員会と衛生委員会の2つを統合したものである。安全衛生委員会の設置により、労使間で労働者の危険や健康障害について意見交換が行われるようになったのだ。
衛生委員会は、労使双方が参加することで、現場の実態に応じた効果的な対策を立案し、実施することができる。衛生委員会は労働災害を防ぎ、労働者の健康と安全を確保するために必要不可欠な取り組みである。
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衛生委員会で取り上げるテーマの候補例
衛生委員会の議題となるテーマには、次のようなものが挙げられる。
● 熱中症の予防と対策
● 花粉症の予防と対策
● がん検診の受け方
● 健康診断の結果を生活改善に活かす方法
● インフルエンザ・風邪・新型コロナ等の感染予防と対策
● 女性労働者の母性健康管理
● 食生活の改善
● 運動不足の解消
● 睡眠不足の解消
● 従業員の不調に気づく方法
● 長時間労働の問題改善
● ストレスマネジメント
● 新入社員の健康維持について
● ストレスをためないための気持ちの切り替え方
● 就業中にできるリラクゼーションの方法
それぞれの概要について詳しく解説する。
熱中症の予防と対策
昨今の日本列島では、35度を超える猛暑日が連続することも珍しくない。猛暑日が増えたことにより、熱中症による死亡事故が各地で発生している。とくに、野外の業務に携わる労働者は、十分な熱中症対策をする必要がある。適切な熱中症対策を実施するためにも、衛生委員会のテーマとして取り上げるといいだろう。
<衛生委員会の結論の例>
● 体調が悪いときは無理をしない
● 急な気温や湿度の上昇時にはとくに注意をする
● 猛暑はとくに水分・塩分の補給を意識する
● 涼しい場所でしっかり休憩をとる
● 熱中症の兆候が見られたら適切に処置する
● 普段から健康管理をしっかり行う
花粉症の予防と対策
春先は、スギやヒノキなどの花粉の飛散が増える時期だ。花粉症は国民病といわれるほど多くの日本人が経験する病気で、症状に悩まされている人も少なくない。とくに、鼻詰まりや目のかゆみなどの症状が出ると、集中力が低下して仕事に支障をきたすこともある。従業員の健康対策のひとつとして、花粉症を衛生委員会の議題に取り上げる企業も多い。
<衛生委員会の結論の例>
● 花粉の症状には個人差がある
● 風邪や鼻炎など、花粉症に似たほかの病気にも注意する
● マスクや花粉対策用のメガネなどを着用して、極力花粉を避ける努力をしよう
● 症状がひどい場合は専門家に相談する
がん検診の受け方
日本社会は高齢化が急激に進んでおり、がん患者も増加傾向にある。しかし、現代の医療の発達によって、がんは不治の病ではなくなった。早期発見や早期治療によって治る可能性の高い病気なのだ。従業員の健康対策として、衛生委員会で「がん検診の受け方」を議題とする企業もある。
<衛生委員会の結論の例>
● 胃がん検診の開始は50歳以上から(男女とも)。症状に合わせてX検査、内視鏡検査を選択
● 大腸がん検診開始は40歳以上から(男女とも)。便潜血検査で異状が見つかった場合は内視鏡検査を実施する
● 肺がん検診開始は40歳以上から(男女とも)。X検査のほか、喫煙者は喀痰細胞診検査などを併用
● 子宮頸がん検診開始は20歳以上から(女性のみ)。細胞診検査を実施
● 乳がん検診開始は40歳以上から(女性のみ)。マンモグラフィ検査や超音波検査などを併用
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健康診断の結果を生活改善に活かす方法
健康診断は、定期的に自身の健康状態を診断して病気の兆候がないかを調べるものだ。健康診断により、さまざまな病気の早期発見や治療、病気の予防、健康意識の向上などにもつなげられる。ただし、健康診断を受けるだけで満足してしまって、その後の健康管理や生活習慣の改善に活かせない従業員も多い。健康診断の本来の目的を達成するためにも、衛生委員会の議題に取り上げることをおすすめする。
<衛生委員会の結論の例>
● 異常所見があったら再検査や治療などを積極的に受けるようにする
● 普段から節制を意識し、より良い状態で健康診断を受ける
● 健康診断の数値だけに惑わされないようにする
● 診断結果のコメントや医師のアドバイスに従い、普段の生活でも健康の維持を意識する
インフルエンザ・風邪・新型コロナ等の感染予防と対策
毎年気温と湿度が下がる秋から冬にかけて、インフルエンザが流行する。免疫機能の働きが正常であれば、インフルエンザを発症しても1週間程度で治るといわれるが、高齢者や免疫が低下しやすい人は、肺炎を伴うなど重症になることもあるので、たかがインフルエンザと侮れない。
また、引き続き新型コロナウイルス感染対策にも取り組んでいく必要がある。シーズン前の秋から冬のどこかのタイミングで感染症対策について取り上げるといいだろう。
<衛生委員会の結論の例>
● インフルエンザは気温が低くなる11〜4月に発生しやすい
● 流行が始まる前に予防接種を受けておくといい
● 新型コロナウイルス感染対策も引き続き行う
● 手洗いやマスクなどで予防する
● 咳エチケットを心がける
● 早めの受診を心がける
● 普段から健康管理を行う
女性従業員の母性健康管理
女性従業員の中には、妊娠や出産を機に離職する人が少なくない。少子高齢化で労働人口が減少する昨今では、女性の社会進出や継続した就業が期待されている。企業としては、女性が妊娠や出産を経験しても、安心して働き続けられる環境を整えることが重要だ。女性が働きやすい環境を実現するために、衛生委員会では母性健康管理についても議論するといいだろう。
<衛生委員会の結論の例>
● 会社に相談できずに困っている女性従業員も多い
● 意見を挙げやすい環境づくりが求められる
● 母性健康管理指導事項連絡カードを活用する
● 妊娠時期に応じた対応が必要
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食生活の改善
食事をはじめとした生活習慣が乱れると、高血圧症や糖尿病などの発症リスクが高まるといわれる。とくに、内臓に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満は、心臓病や脳卒中につながるメタボリックシンドロームになるリスクがあるのだ。従業員の乱れた食生活を改善するために、食事指導について取り上げることをおすすめする。
<衛生委員会の結論の例>
● 食塩や脂肪の摂取は控えめにする
● 健やかな生活リズムを整える
● 献立は主食・主菜・副菜を基本に考える
● ごはんなどの穀類はしっかり取り入れる
● 野菜、肉、魚などをまんべんなく摂り、栄養バランスを考える
運動不足の解消
近年は、運動不足が原因で生活習慣病になる人が増えている。生活習慣病になると、脳梗塞や心筋梗塞、動脈硬化といったさまざまな病気を引き起こす原因になるので要注意だ。従業員に継続的に就業してもらうには、運動不足を解消して生活習慣病のリスクを下げることが求められる。衛生委員会では、効果的な運動を実施するための運動指導を議題として取り上げるといいだろう。
<衛生委員会の結論の例>
● 生活習慣病の予防には継続的な有酸素運動が有効
● 身体活動量はメッツ(運動強度の単位)で考える
睡眠不足の解消
睡眠には、脳の休息や疲労回復の効果があると考えられている。不足している状態が続くと疲れが取れず、日中に眠気に襲われることがある。寝不足が常態化すると業務の効率は下がり、仕事に支障をきたす可能性もあるだろう。また、心臓病や脳卒中などの生活習慣病のリスクも高まる。衛生委員会で、快適な睡眠のために従業員が取り組むべきことを議題として取り上げてみよう。
<衛生委員会の結論の例>
● 快適な睡眠のために生活を改善する
● リラックスできる方法を見つける
● 就寝前の飲酒は睡眠が浅くなるため逆効果
● 睡眠導入剤が必要なレベルの場合は病院で受診しよう
従業員の不調に気づく方法
労働者の約6割が、職業生活で何かしらのストレスを感じているといわれている。とくに、役職のない一般社員や、経験の浅い若い従業員は、上司や先輩社員との人間関係や業務量にストレスを抱えていることが多い。従業員の離職を防止するには、心身の不調を早期に発見して対応することが求められる。従業員の不調への気づき方をテーマにしてもいいだろう。
<衛生委員会の結論の例>
● ストレスの原因で多いものとして、人間関係や業務量、仕事での評価などが挙げられる
● 上司は部下が相談しやすい環境や関係を構築し、話しかけやすい雰囲気づくりを心がける
● 業務量や時間外労働の状態を把握する
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長時間労働の問題改善
残業時間が増えると睡眠時間が減少し、健康に影響が出るといわれている。睡眠不足が続くと睡眠障害を引き起こしやすくなり、ますます眠れなくなる悪循環に陥ることもある。心身ともに健康な状態を維持するには、睡眠の確保が重要だ。長時間労働の問題を改善するためには、どのような対策が必要かを衛生委員会の議題として挙げてみてもいいだろう。
<衛生委員会の結論の例>
● 時間外労働を削減する
● 従業員の休暇取得を促進する
● 労働時間の設定を工夫する
● 適正な人員配置を行う
● ノー残業デーを導入する
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ストレスマネジメント
ストレスマネジメントとは、ストレスとの上手な付き合い方を考え、適切に対処することである。労働者は、職場の人間関係や業務に関連したストレスを日常的に感じることが多い。ストレスが蓄積されると、うつ病などの病気につながるリスクも考えられる。従業員のストレスを解消するために、衛生委員会ではストレスマネジメントを議題として取り上げるのもいいだろう。
<衛生委員会の結論の例>
● ストレス反応を正しく理解する
● 定期的にセルフチェックを行う
● ストレス軽減のために生活習慣を整える
● ストレスを緩和する社会的支援を実施する
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新入社員の健康維持について
少子高齢化の加速にともない労働人口が減少したため、人材不足の課題を抱えている企業は多い。中でも新入社員の離職を防ぐことは急務といえるだろう。
新入社員に継続的に就業してもらうためには、健康を意識して生活を送ることが求められる。しかし、新入社員は仕事や人間関係に慣れるまでストレスを感じやすく、健康管理がおろそかになりがちである。そこで衛生委員会では、新入社員が健康に過ごすための組織づくりについても検討することをおすすめする。
<衛生委員会の結論の例>
● メンタルヘルスの啓蒙活動を行う
● 健康診断の受診を徹底
● 食習慣が乱れると肥満につながる恐れがある
● 心の不調は早めに気づくことが重要
ストレスをためないための気持ちの切り替え方
仕事で嫌なことが起こると、ネガティブな気持ちを引きずってしまうことがある。その結果モチベーションや注意力が落ち、業務効率の低下にもつながりやすい。ネガティブな気持ちのまま失敗が重なると、気分はますます憂鬱になり、ストレスがたまってしまうことも多い。そうした場合には、気持ちの切り替え方を身につけることで、ストレスをためないようにすることが大切である。
気持ちの切り替えとは、自分の感情や考え方をコントロールすることである。嫌なことが起こったら、その原因や解決策を冷静に分析することや、ポジティブな面を見つけることなどが、切り替えに役立つだろう。衛生委員会では、ストレスをためないための気持ちの切り替え方を議題に取り上げよう。
<衛生委員会の結論の例>
● 考え方が変われば気分が変わり、気分が変われば行動や結果も変わる
● ポジティブ思考が良くて、ネガティブ思考が悪いというわけではない
● 状況に応じて柔軟な考え方ができるのが理想である
関連記事:モチベーションとは?意味やアップさせる方法を分かりやすく解説
就業中にできるリラクゼーションの方法
人の集中力は、あまり長くは続かない。しかし、集中が途切れたときにリラックスする時間を挟むと、緊張状態から解放されて集中力を回復できる。とくに、集中力が求められる仕事では、意識的にリラックスした状態を作り出すことで、生産性や業務効率を上げられるのだ。衛生委員会でも、仕事中にできるリラクゼーション方法などを取り上げよう。
<衛生委員会の結論の例>
● 着衣をゆるめてアクセサリーやメガネを外す
● 空腹や尿意などを我慢している緊張状態が長引くのは避ける
● 自分に適したリラクセーション方法を見つける
● リラクゼーション中は電話などの邪魔が入らないように配慮する
衛生委員会のメンバーや構成
衛生委員会では有意義な話し合いを行うため、労働安全衛生法によって委員会の構成メンバーが定められている。衛生委員会は、職場の意見を多く拾い上げることで活性化されることが多い。順番に委員を担当してもらい、多くの従業員に委員を経験してもらうのが理想だ。
各委員の任期に決まりはないが、委員会の活性化を考え、2年で入れ替えるのが一般的である。また、各委員の人数は、議長以外に法的な定めはない。企業規模や作業実態などに応じて決定することが可能だ。衛生委員会の構成メンバーは、以下のとおりである。
● 議長(1名)
● 衛生管理者
● 産業医
● 衛生に関して経験を有する労働者
それぞれの概要について詳しく解説する。
参考サイト:Q 安全委員会、衛生委員会について教えてください。(厚生労働省公式サイト)
議長(1名)
衛生委員会の議長は、参加者の意見を促し、議論をまとめるリーダー的な役割を果たす。厚生労働省では「総括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者、もしくはこれに準ずる者」が議長に適任だとしている。
総括安全衛生管理者とは、事業を実質的に統括管理する者であり、衛生管理者を指揮して労働者の危険や健康障害を防止するための業務を統括管理する役割がある。社内にこの総括安全衛生管理者が存在しない場合は、総務部や人事部の部長、工場長などが議長に選ばれることが多い。議長は、委員会で審議した事項について方針を決定する権限と責任を持つ。衛生委員会では、議長の人数は1名に限られている。
衛生管理者
衛生管理者も衛生委員会において必要不可欠なメンバーだ。衛生管理者とは、労働安全衛生法に規定された国家資格を保有する者であり、作業環境の衛生管理や労働者の健康管理などの業務を行う。社内の衛生管理を担当している人を選任することで、衛生委員会としての活動を進めやすくなるメリットがある。
常時労働者が50人以上いる事業場では、従業員の健康障害防止のために衛生管理者を選任しなければいけない。また、同じ会社でも支店や店舗ごとに衛生管理者を選任する必要がある。選任する人数に定めはなく、企業規模や作業実態などに応じて決定する。衛生管理者は産業医との調整役になることが多いため、専門的な知識があり、社内事情に詳しい従業員を選出することが重要だ。
産業医
産業医は、使用者側のメンバーとして衛生委員会に参加する。産業医とは、医学の専門知識を活かして、労働者の健康管理を行う医師のことだ。病院の医師とは異なり、産業医は患者の診察や治療を行わない。しかし、従業員が健康に働けるようにサポートをするため、会社にとっては欠かせない存在なのだ。
衛生委員会における産業医は、専門的な立場から労働災害の原因や再発防止についてアドバイスする役割を果たす。産業医の参加によって、議題に対する議論が深まるだけでなく、メンバーの知識の向上も期待できる。衛生委員会で産業医の出席は義務ではないが、できるだけ参加してもらうことが望ましい。
衛生に関して経験を有する労働者
衛生に関して経験を有する労働者は、労働者側を代表するメンバーとして衛生委員会に参加する。参加人数に法的な規定はないが、衛生に関して一定の経験を持つ者が対象である。衛生委員会では、異なる立場からさまざまな意見が出されることが重要である。衛生委員会に参加する労働者は、部署や役職、性別など、多様な立場にある者たちから選ばれるべきである。
人数に規定はないが、人数が偶数だと多数決で決められない可能性がある。そのため、メンバーの総数が奇数になるようにすることが望ましい。また、衛生委員会に加わる労働者は、職場の意見を反映できる立場の人が適任だ。人数は1人以上含めるのがよい。
関連記事:健康経営アドバイザーとは?従業員の資格取得で企業が得られるメリットも解説
衛生委員会ができたことによるメリット・効果
衛生委員会の設立は、従業員や企業にさまざまな効果をもたらしている。
コミュニケーション向上のマニュアルを作成し、業務上のミスを軽減
たとえば、ある輸送用機械器具製造会社では、従業員同士のコミュニケーション不足が原因で、業務上のミスが多発していた。そこで衛生委員会で話し合った結果、コミュニケーションを円滑にする「話し方マニュアル」の作成が決まった。
さらに毎週月曜日の午前中や、午後の作業開始から1時間は会議を行わないなど、従業員同士でコミュニケーションを取る時間を設けた。その結果、従業員同士のコミュニケーションが改善され、業務上でのミスが減少したのである。業務上のミスが減ることで各従業員の業務効率は上がり、残業時間の削減にもつながった。
労働安全衛生改善に工場長が率先して取り組み、労働災害の減少に成功
ある食品製造会社では、頻発する労働災害を改善するために、工場長が率先して労働安全衛生の改善に取り組むことを決めた。社外の危険予知訓練研修に従業員を参加させたり、従業員全員に研修を実施したりしたのである。幅広い取り組みを行ったことで、労働災害の減少に成功した。
大型の計測器を小型に切り替え、熱中症を減少させることに成功
ある建設企業では、熱中症で倒れる従業員が多く悩んでいた。これまでは作業場などに設置された大型のWBGT計で暑さ指数を測定していたが、従業員が作業する場所はそれぞれ異なるため、一律の対策では効果が限られていた。そこで、衛生委員会で話し合った結果、持ち運びや設置が容易な小型WBGT計を各自に配布することにした。これにより、従業員は自分の作業環境に応じて熱中症対策を行えるようになり、熱中症で倒れる従業員が減少したという。
衛生委員会のデメリット・問題点
衛生委員会の問題点は、以下のとおりである。
● 議題のマンネリ化
● 毎回同じ人しか発言しない
● 委員の出席率が悪い
● 目に見える改善がない
● 産業医が出席してくれない
● 愚痴の言い合いで終わる
それぞれの問題点や改善策について解説する。
議題のマンネリ化
衛生委員会は毎月開催するが、季節的なテーマばかりの議題になるとマンネリ化しやすい。とくに、花粉症やインフルエンザ、熱中症といったテーマを取り上げると、同じ内容になって代わり映えのしない議論になりやすい。形骸化してしまっては、委員の時間を割いて衛生委員会を開催する意味がなくなってしまう。
衛生委員会を有意義なものにするには、議題のマンネリを解消することが重要だ。議題がマンネリ化する理由のひとつとして、同じ人が委員を務めていることが挙げられる。定期的に委員を交代させることで新たな議題が持ち上がりやすくなり、議題のマンネリ解消につながることもある。
また、良い議題が見つからないときは、現場の声を集めるアンケートを実施するのも有効だ。現場の声を拾い上げることで、衛生委員会で話し合うべき議題が見つかることも多い。
発言者が偏ってしまう
「衛生委員会で意見を交わすのは毎回同じ人ばかりだ」という問題が発生することもある。発言者が偏ると、衛生委員会の目的である「幅広い意見の集約」が難しくなる。性別や年齢などが異なる立場の委員からも発言してもらうことが重要だ。しかし、一般社員などの立場が弱い委員は、衛生委員会で積極的に発言しにくいことも多い。
このような問題を解決をするためには、衛生委員会で発言しやすい環境を作ることが大切だ。たとえば、各職場の意見を事前に集めてから出席し、代表者として発言するようにする、一人ずつ発言する時間を設ける、委員長は最後に発言するなど、工夫の方法はいろいろある。
委員の出席率が悪い
衛生委員会には、毎回欠席者が出がちという問題もよく起こる。繁忙期と衛生委員会の日程が重なると、出席できない場合もあるかもしれない。しかし、欠席者が多いと、衛生委員会の目的である幅広い意見の集約ができなくなる恐れがある。出席率を改善するには、日程の決め方や開催方法を見直す必要があるだろう。
衛生委員会の日程を決めるときは、委員が出席しやすい日時を設定することが重要だ。また、早めに出席の調整ができるように「第〇週の〇曜日」のように日程を固定化したり、数ヶ月先の予定まで決めたりするのも有効である。どうしても委員が出席できない場合は、代理人が代わりに出席する規定を設けるのも一つの方法だ。
2020年8月からは、オンラインによる衛生委員会の開催が厚生労働省から許可されている。オンライン開催なら、出席率を改善できるかもしれない。ただし、オンラインで衛生委員会を開催する場合でも、録画ではなく、議事録の作成が必要である。通常の衛生委員会と同じように、議事録を適切に保管する義務があるため注意が必要だ。
参考サイト:情報通信機器を用いた労働安全衛生法第 17 条、第 18 条及び第 19 条 の規定に基づく安全委員会等の開催について(厚生労働省)
目に見える改善・成果がない
衛生委員会は、法令によって月1回の開催が求められているが、単に開催することに満足してしまうと、目に見える改善や成果は得られづらくなってしまう。そのため、衛生委員会で議論された内容を具体的な改善策として実際に取り入れていくことが望まれる。衛生委員会が有意義なものになるためには、委員会自体が主導で改善策を進めていくことが重要である。
同時に、実行の権限を持つ関係者を巻き込みながら、委員会で出された意見やアイデアを積極的に実行に移すことも大切だ。小さな改善を積み重ねることで、これまでは見落としていた新たな問題点が浮かび上がることもある。それが新しい議題となり、さらに有意義な衛生委員会の開催につながる場合もあるだろう。
産業医が出席してくれない
産業医は衛生委員会の出席が任意であるため、衛生委員会に参加してくれない場合がある。産業医の出席に法的な義務はないものの、労働安全衛生法第18条では、委員会の構成員として産業医の設置が義務づけられている。衛生委員会のメンバーとして選出されている以上、産業医が衛生委員会に必要な存在であることは間違いない。
衛生委員会では、できるだけ産業医に参加してもらうことが望ましい。産業医の欠席が常態化すると、労働安全衛生法違反が発生する恐れがあるのだ。産業医の参加を促す方法として、まず産業医が衛生委員会に必要な人材であることを理解してもらうことが重要だ。産業医が出席しやすい日時を設定するのも有効だろう。
愚痴の言い合いで終わってしまう
衛生委員会は職場環境の改善に向けて話し合う場であるが、愚痴の言い合いで終わってしまう恐れもある。愚痴に終始してしまうと、現状の問題点を洗い出しただけで職場環境の改善につながることは少ない。従業員が働きやすい快適な職場を作るという衛生委員会の本来の目的は達成できないだろう。衛生委員会を有意義なものにするには、委員の構成に問題がないかどうかを確認することも重要だ。
メンバーに決定権のある人がいない場合は、愚痴だけで終わることが多くなるため、決定権のある人を入れて改善を図るのが望ましい。さらに「なぜ問題の改善が進まないのか」「何が課題なのか」について深く掘り下げて議論しよう。そうすることで問題の洗い出しから改善策の提案まで進められるため、有意義な話し合いができるだろう。
衛生委員会の目的や重要性を理解し、有意義なものにしよう
衛生委員会は、労働者の健康や安全を守るために開催する組織である。熱中症対策や花粉症対策のほか、ストレスをためない方法や、気分の切り替え方など、さまざまな議題が話し合われる。
しかし、衛生委員会には、議題のマンネリ化や出席率の低下、話し合う内容の希薄化など、課題を抱えることも多い。衛生委員会を有意義なものにするには、参加するメンバーが委員会の目的や重要性を理解し、積極的に関わることが重要だ。